人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
金時「あぁ。この平安京の平和は、坂上田村麻呂殿を始め数多無数の武人が力を尽くし、味方も敵も数えられない血を流して勝ち取ったんだ。勝ったやつがいれば、負けたやつもいる。負けて敗れ、野に下って一族郎党、末代に至るまで怨の一文字抱くに至る。死ねば祟り、生きたまま鬼やら土蜘蛛に変じちまってもおかしくねぇさ」
リッカ「……」
香子「だからこそ、リッカ殿の存在は我等が希望なのです。我らの未来に、あなた様のような真っ直ぐで愛らしい、強く優しい方が生まれてくださる」
リッカ(虹色魔力生成)
金時「そういうこった。負けた奴等の怨念は未来に繋がらず、俺達の戦いはお前に繋がってる。ソイツが今、迷ってた俺に力をくれるんだぜ、リッカ。お前の存在が、俺達の戦いを正しいものにしてくれるのさ」
リッカ(キャパオーバー寸前)
金時「なぁに、任せとけ。俺が何をおいても、必ず護ってみせるからよ!」
香子「完成した源氏物語…どうか多彩な色恋を、あなた様の人生の糧にしていただければ幸いです」
リッカ「ありがとうございます──人生の先輩方!」
ロマン『強いなぁ…日本…』
内裏──。
京の帝おわす平安の心臓にして、左大臣、その子ら、宮廷仕えの陰陽師が介し京を支える尊き場所。平民凡民が足を踏み入れる事は終ぞない、まさに天命受けた者の至極の地。そここそが、四天王と棟梁が仕えるべき者達の集う神聖なる場所。
(…先に、左大臣道長様に旨を伝えました。天覧聖杯戦争に対する晴明様の筆があること。芦屋道満様に用向きがある事。早朝なりし訪問にて来訪ですが、晴明様の再びの直筆とならば改めぬ訳にはいかぬと、首を縦に)
(香子さん大胆…!)
(無理を通した物言いです。金時様も、リッカ様もどうか振る舞い、物言いに無礼無きように。無礼あらば即座に首が飛びます。けして、けして食い入るような物言いはなさらず…)
(おう!…じゃ、ねぇや。承知!)
(承知!)
リッカ、金時共に頷く。此処は礼節と礼儀が首を繋ぐ楔なれば、何人たりとも目上の者に無礼は許されない。無礼討ちが決して大げさでない世界であるのだ。
(御安心を。万が一とあればこの桃子に段蔵ちゃんが追手の武者を蹴散らし退路を拓きましょう)
(お任せあれ。マスターにおきましてはいつもと変わらぬ振る舞いを行っていただければ)
二人の頼もしい物言いに頷くリッカ。決して一人ではない安堵を胸に宿しながら、かの来訪を待つ。
「──見ぬ顔を連れたものだ、怪童丸。剛力にして怪力乱神たる貴様が連れるには、やや愛らしさに寄った顔立ちよ」
…来る。三人の真正面より来たりし、偉位の装いにて物言いを投げかける、ひりつくような威厳と風格の持ち主。その声の主こそが、かの内裏における立場と統率を行うものに疑い無く。
「だが、その身に宿す覇気に闘志、決心に意志──ただの女性では有り得ぬな」
「…左大臣殿においては、御機嫌麗しく」
金時の言葉を以て確信を有する。彼こそ左大臣、藤原道長。京の今と明日を守護せし左大臣。そしてその傍らには。
「拙僧を名指しで目通りがしたいなど、物珍しい方がいたものです。晴明殿に比べれば、特にどうということもなき陰陽師の私に目通りとは…」
そしてそこには、キャスター・リンボと外見を同じくする陰陽師…芦屋道満が傍らに控える。その姿を目の当たりにした一行には、衝撃と思案が吹き荒れる。
(どうだいコイツは!悪辣極まるリンボか、否か!)
(見た目は同じ…!だけどあの、粘りつくような悪意と邪悪さが感じられない…!)
(リッカ殿と意見が同じとなりました。かの芦屋道満なる者は、リンボではない…!)
(アルターエゴは一側面、誇大化した一面であると聞きます。フワイサムから送られた予測によれば、今の彼はリンボである自側面を認識していない芦屋道満であるのやも知れぬ、と)
つまり、今の彼は癌に侵されておらぬ健常者、或いは初期段階の患者である。故にこそ晴明は道満とリンボを同一視していなかったのだ。アルターエゴである悪心を、この道満は自覚していない。
「其処の女、顔を見せろ」
そしてその思案を切り裂くように、道長はリッカを指す。その問いに、リッカは恐怖も動揺もない澄み切った青空のような真っ直ぐさで真正面より見据える。
「ほう、やはり左大臣を前に怖じ気付かぬ。それにその背筋、所作、勇猛さを懐いた堂々たる有り様…まるで『頼光の生き写し』の様ではないか」
「………」
リッカは静かに道長を見据える。ただ所作にて、自身が何者であるかを左大臣に示す。かの誉れも高き棟梁を当てはめたその慧眼に、感謝を見せる。
「あかしが浮かび、煮えきらぬ振る舞いをしていたと聞いたが…ようやく貴様にも風変わりな術者が訪れたか?怪童丸。そして貴様は晴明の手紙を持ち参じたと聞く。まくし立てるような故と用向き、明快な他ならぬ貴様の言の葉だ。聞き及ぶに異論は無い」
さぁ、見せてみろ。そう告げる道長に顔を上げる金時。問われたならば返さなくてはならない。だが、その為に有した全てを以て──
「ならば──!天覧聖杯戦争なる大仕掛け!京の平安一千年を招くモノであるとはこれ、偽り!偽りにて候!!」
「!?」
「ほう…」
道満が衝撃を顕にし、そして道長は頷く。金時はまともに、ろくに嘘など覚え吐いた試し無し。その言葉は、たしかに受け入れられた。
「その正体こそは邪悪の渦!京の平安乱す凶賊の企てとの疑あり!こちらが晴明殿のしたためた、天覧聖杯戦争に潜む黒幕にして元凶を指す書物なれば!御改を、左大臣!」
「晴明殿の、再びにして直筆の書物…かの御方は何をなさっているのか…!」
道満の憤りを余所に、金時は懐より文を託す。晴明が残した、直筆の文面である。
「道満」
「は。──間違いありませぬ。これなるは晴明様の筆運び。その言の申し立てるは──異境異界より訪れし邪悪の企て!」
この文が示すは、正しい聖杯戦争が立ち行かなくなったとの達し。この術式を考えたのは晴明ならば、今再びそれに疑をまくし立てるもまた晴明。
「『ならば真実であろう』。稀代の陰陽師、安倍晴明が伝えゆく言葉に、儀式に邪悪の影ありと告げるならば。それは確かに邪悪が噛むことに疑いは無い。あぁ、無いとも」
「それじゃ、左大臣の旦那!」
「口の利き方に気をつけろよ、怪童丸。しかし、私は晴明殿のこの文面にも同意しよう。「京に蔓延る数多無数の怪異、それらを収め平穏を得るは我等の悲願。如何なる場合であれ、この儀を取りやめるは千年の安寧を逃すも同意」。ならばこそ。半端な形で辞めることはまかりならぬ…とな」
だが、晴明の書いた内容は『例え邪悪あれど、聖杯戦争は平穏をもたらす儀式。取り止めは惜しい』という文面を含んでいた。──その言葉の意味を、道長は捉える。
「そしてかの陰陽師はこうも言っている。『天覧武者たる坂田金時、並びにその相棒が京の安寧を取り戻し、並びに全ての天覧武者の『意』を勝ち取るだろう』と。この意味が解るか、怪童丸」
「…いえ。陰陽師の物言いの看破、不得手にて」
「証を立て、貴様が勝ち抜けとの仰せだ。天覧聖杯は京の平安をもたらすもの。ならば貴様が全ての乱、千変万化の災厄を終わらせるが良い。貴様と、貴様の術者はそれが出来ると告げている。そして更に、残る天覧武者全てが天覧聖杯戦争に『否』を告げれば、この儀式は立ち行かぬと晴明はしたためているのだ。そうだな、道満」
「…はい。そうなれば、最早儀式は立ち行きませぬ…」
「この平安招く儀式を悪と告げるならば金時、貴様が都の守護たる『源氏の総意』として、天覧聖杯戦争は悪なりと私に告げてみせるが良い。元より帝おわす都の守護は地上の何より尊き務めなれば、それを司る源氏、並びにその郎党、総意にて天覧の死合いに背を背け、都の守護にこそ勤しむ。そう云われては、私も異論を挟む余地はない」
即ち。金時は相棒…即ちサーヴァントと共に残る全ての天覧武者に打ち克ち、この儀式は無意味であること、京の平穏は自らの手で護れることを証明して見せろと言うことだ。天覧聖杯戦争など不要、守護は自らの気炎にて相担う。総意を勝ち取り、それを道長に伝えし時。天覧聖杯戦争は取り止めると晴明と道長は判断したのだ。
(京の怪異、即ち鬼に妖怪悪鬼。それらを楽園が処理、退治することにより信義と平穏の獲得。更に──)
(天覧聖杯戦争のマスター全てに勝つことで、名実共にリンボの考案した儀式を完全に破綻させる!なんという合理的にして、なんという悪辣な提案であるのか晴明殿!)
都の不穏分子、並びに聖杯戦争の終結を全て楽園に担わせるも同義のこの提案。しかし金時にリッカは微塵も臆する事はない。
「やります。必ず京に住む皆さんの平穏を護ってみせる!」
「話が分かるじゃねぇか!任せとけよ、道長サン!」
「…口の利き方に気をつけろよ、怪童丸」
「あわわ、リッカ様!金時様ー!」
力強く決意を固めるその傍ら、左大臣に対するあまりの無礼講に肝を潰しっぱなしの香子であった──。
渡辺綱「──話は聞いた。いや耳に届いた。失礼」
金時「綱の兄ィ!?」
桃子(ツナ君…!)
段蔵(距離感近し!桃子殿!)
「しかし、あり得ぬ話だ左大臣殿。何故ならば俺がいる。天覧武者にして源氏であるこの俺が。故に、どちらの条件も不成立は必定。天覧聖杯戦争…必ずや成し遂げてみせよう」
道長「おぉ、綱!天下の宝刀髭切を佩く武者よ!金時、之は中々険しい道となったのではないか!?」
金時「──いいや、左大臣様に綱の兄ィ。今の俺は昨日までの俺とはちげぇ。何故なら──」
真正面からの威圧を受け止め、金時はリッカの背中を押し、猛る。
「俺には万の味方に勝る相棒を授かったのさ!何を隠そう、此処に在りしは未来の術者にして『我等が守護の結実の証』!未来の源氏の棟梁たる総大将、源頼光が生き写し──」
リッカ「(!?!?!?!?)」
「そう!!俺のサーヴァント!!藤丸龍華なんだからな!!」
金時の突然の推薦紹介に、半ばヤケクソになりながらリッカはその証を立てる。
綱「──その、刀は」
道長「おぉ…!それこそは棟梁の証、童子切安綱!綱よ、貴様の快進撃も此処で終わりか?金時は今、未来の源氏が棟梁をサーヴァントに迎え入れたのだ!先が読めぬ戦の行方、見事至ってみせよ、武者共よ!はははははははは!」
火花散る陣営同士の睨み合いに大笑する道長。都の守護は、この二人に委ねられる。
リッカ(当たり前のように受け入れてる道長様、器広いなぁ…)
よりによって未来の棟梁扱いされたリッカは、心中にて遠い空を見上げるのであった──。