人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ロマン『何処に行ったんだいあの征夷大将軍は!?』

晴明「う、うむ。サーヴァントとしての気配を消している。探知にはややかかる…かもだ故にどうしたものか…」

マシュ「秘密裏に探索致しますか!」

フワイサム『虱潰しに探すほかないか』

安倍晴明「…いや。あれ程の大英雄、てこでも動きはしないだろう。彼はひとまず、なすがままにしておこう」

アンク『放任ってわけ?』

安倍晴明「うむ…信じる他ない。京のピンチには立ち上がってくれると」

ロマン『…君もしかして、イレギュラーには弱いのかな?』

「し、失敬な、ちょっと対処に困るだけだ。…大丈夫、たぶん…」

マシュ(よ、ようやく人間らしい一面を見れた気がします!)

安倍晴明(これもまた、人助けの醍醐味…そういう事にしておこう。冷静だ、私は冷静…)


縁の集結・兄貴が罷り通る!

「やったなリッカ!左大臣の言質を頂いた!これで俺らが他の天覧武者を制して説得すりゃあ、晴れてリンボの企みは御破算!平安の平穏が戻ってくるって寸法一丁上がりだぜ!」

 

左大臣との面談を終え、帰路につくリッカと金時一行。そう、かのリンボと道満の改も含めた真正面からの申し立ては大成功に終わった。後は自らの奮闘、奮起によってこの平安京の未来が左右されることとなる。

 

「未来の母上の娘…サーヴァント扱いとしての言葉も良かったのか、無事信じてもらえたね!というかこれ、道長さんに親子だよって太鼓判押してもらった様なものだよね…!凄いことだよ!」

 

「おうとも!帰ったら報告してやんな、頼光サンに胸張ってよ!頼光サンソックリの生き写しなんてお言葉、気絶しちまうほどに有頂天になるのも無理ねぇや!」

 

『絶対お祭り騒ぎになるんだろうなぁ…桃子ちゃんに段蔵さんもお疲れ様。丁度張り詰めた気を解すのも兼ねて、京の茶屋にでも寄って御覧よ。レイシフトで当時の文化に触れられるのも、醍醐味だからね!』

 

「承知致しました。それでは皆様と一息…ブレイクタイムにございます」

「美味しいお団子やお酒があれば、土産として温羅や皆様に買いゆくのもよろしいですね」

 

一同は団子屋に立ち寄るこれは争い、長い戦いとなる前の平穏の一時──。

 

 

「おぉ…!流石京!賑わいは楽しくてお茶は美味しくおやつも美味!すごいなぁ、日本の賑わい!」

 

リッカが感嘆を示す程に、絢爛華やかな京の道行きは壮観にして団子の味は痛快な程に美味であった。当時日本の中でも最先端にして最高の繁栄を魅せる都の往来にやんごとなき方が舌鼓を打つ菓子屋は、まさに極上の甘味の品を振る舞ってくれた。

 

「まさかこんな美味ぇ菓子屋に茶屋があるとは、四天王一生の不覚ってやつだ!遠征で帰った際の行きつけにしてもいいくらいだよなぁ!」

 

「段蔵はカラクリなので摂取はしませんが、皆様の笑顔にて満腹を感じまする。こうして見ると、見た目は違えどまさに…」

 

「はい。金太郎を兄、桃太郎を妹に、そして源氏の棟梁を母に持つ可愛らしい女の子にしか見えません。リッカねぇは苦労したぶん、いっぱいいっぱい笑顔であるべきです」

 

段蔵、桃子が感慨深げに頷く。彼女を知れば、彼女が笑顔で日々を送ることの意義を深く知れるというものである。そんな一息を、一行がついていると…

 

「…あー、くっそ。入ったはいいが路銀の一つもねぇの忘れてた…征夷大将軍、弱くてニューゲームじゃねぇかこりゃ…図らず冷やかしとかこいつぁ無礼千万なことしちまった…」

 

京の着物に身を包み、目の覚めるような黒髪の青年が机に突っ伏しているのをリッカは見やる。その風貌、その声音、どこかで──

 

(…!鈴鹿の心で会った、田村麻呂さん!?)

 

衝撃に団子の甘味が吹っ飛ぶ程にリッカは動揺する。もし彼が本当に田村麻呂本人だとすれば何故ここに?何故無一文にてうなだれているのか?召喚者は誰なのか?何故現れたのか?様々な疑問は浮かべど──。

 

「…すみません、店員さん。お代はこちらで持つので、あちらの方にお団子とお茶を用意してもらえますか?」

 

どうやら気付いているのは自分だけなようなので、こっそり店員さんに指示し代金を肩代わりしつつ振る舞ってもらうことにしたリッカ。少なくとも今、自身らに話し掛けてこないということは味方ではなく、征夷大将軍が京に仇なす理由はないと確信できるが故敵ではないのだろう。

 

(お店側のサービス、という事にしておいてください!)

 

リッカの言葉に承知し、軈て青年の前に菓子と茶が振る舞われる。その様相に仰天しながらも、青年は感極まりながらそれらを口にする。

 

「あったけぇ…京あったけぇ…!人を見捨てぬ情けあり、渡来の伝は慈悲にあり!見てっか鈴鹿、アテルイ…!京はすっげぇあったけぇぞおぉぉ!(パクパクムシャムシャ)」

 

「…なんだありゃ?」

 

涙を流しながら団子を頬張る美青年は否が応でも衆目を引く。その様子を怪訝に見る金時に、小さな影が近寄り語りかける。

 

「ねぇ、あなた?あなたは頼光の金時でしょう?」

 

「ん?…お、おぉ?」

 

突如目の前に現れた幼女に、金時は面食らう。着物で、長髪の見慣れぬ年端もいかぬ女の子。深い色をした宝石の様な目が、彼を真っ直ぐ見つめている。

 

「頼光はとても心配しているわ。そして、あなたのサーヴァント…とても気になっている様なの。文書、お手紙を渡してもらった頼光は、あなたとサーヴァントの顔が見たくて見たくてたまらないそうよ?」

 

「…何者だい、お嬢ちゃん。近場のガキ共にも見ない顔ぶれだ。しかし悪い奴に見えねぇ、敵の筈もねぇ」

 

「うふふ。お友達よ。頼光…いいえ、文殊丸のお友達。遠く、それでいて確かな縁で結ばれた…あなたの母の、お友達」

 

それを告げ、金時の団子を掠めぱくりと一口食べきる幼女。その様子は、儚げなか弱き女の子であること、なんら疑う余地はなく。

 

「いつまでも家出をしていてはいけないわ。あなたを待つ人、あなたを信じている人、あなたを思う人を哀しませては駄目よ、金時。少しでも早く、頼光にお顔を見せてあげて?」

 

「あ、おい!お嬢ちゃん!」

 

「約束よ、約束。あなたとサーヴァントさんを見れば、きっと頼光は力になってくれるわ。子供の為に頑張るのは、親の特権なんだもの。うふふ。ふふ──」

 

そうして、霞のように少女は立ち去り消えてしまう。頼光をよく知り、自らに言葉をかけ、去っていく幼女。

 

(…サーヴァントにおける独特な雰囲気は伝わらなかったが…頼光サンの事を深く知る物言い、それに大柄な俺を微塵も恐れねぇガキ離れした胆力。…ひょっとすると…)

 

その予感を考え、金時は静かに茶を啜る。もし彼女が考えている存在だとするならば──。

 

(天覧武者…アンタなのかい、頼光サン。この京にて力を持つものといやぁ、アンタを除く理由はねぇが…)

 

その可能性に思い至り、静かに茶を飲み干す金時。どういう訳か微笑ましげにかの青年を見守るリッカに目線を落とす。

 

(俺は悩んでた。山から降りてきてこっち、帝や頼光サンの言う戦う理由だか使命だにピンとこねぇで、迷子みてぇにフラフラしてた。戦う為の芯が無かったんだ。──だが今は、ちげぇ。そうさ、ちげぇのさ)

 

左大臣のお墨付き、太鼓判を押された未来の棟梁。そして自身の妹分にしてサーヴァントたる相棒の愛くるしい笑顔を見やり、金時は確信する。

 

(リッカの未来につながる今を護りてぇ。誰にそうあれと言われたでなく、てめぇで決めててめぇで信じたこの道を貫きてぇのさ。京を守護する四天王でありながら、誰か独りを護りたいだなんぞ笑われるか諌められるかも解らねぇ。だがよ──)

 

「おいひぃ…団子おいひ…マシュやグドーシにお土産、じゃんぬには味のヒントに持ち帰ろうっと!」

 

(未来の頼光サンの娘さんになるようなすげぇ子を、外道なんかにくれてやるわけにゃいかねぇな。相棒の、頼光サンの娘たるなら尚更よ!そうさ、俺ァ──)

 

武士としてでなく、個人的な想いとして。男として、彼女を傷一つつけずに護る決意を固める。そうだ、頼光の娘だと言うならば。

 

(俺にとっての妹で、相棒でもあるんだからよ!待っててくれ頼光サン、今リッカと顔見せに行くからな!)

 

そう──兄としての決意、想いを胸に宿した金時。その想いは種火となりて彼の魂を熱く滾らせる。

 

「?どったの、金時兄ぃ」

「いいや、ヘヘッ。なんでもねぇよ!」

 

秘めた武勇と気風に似合わず隙だらけな妹分の背中を、優しく景気よく叩く笑顔の金時であった──。

 




──そして、同時刻。リッカが謎の青年に、金時が幼女と話していた頃合い、団子屋の屋根。

?「小僧ったら、新しく招いたサーヴァントやらなんやらに鼻の下伸ばしっきりで…つまらんわぁ。おもんないわぁ…そやろ?茨木?」

?「団子…」

?「はぁ、色気より食い気。一番美味いもんがそこにあるのに…子供やねぇ。ふふふ」

桃子(キャスター)「其処で何をしているのです」

日向の中で蠢く──鬼の魔性二匹に向かう、術者となった桃子。辺りには声も音もせぬ空間を作る。

段蔵「酒呑童子、並びに茨木童子…!大江山最強の鬼二人!」

茨木「ぬぉ!?何処から来た!?」

酒呑「んん?知り合い?初対面やよねぇ?なんとなしに頼光に似た感じがするけれど。まぁ…知らんわぁ」

警戒の気迫をするりと受け流し、酒呑童子は盃を煽る。戦う意志は、見せていない。

茨木「ふん、呆けた面で団子を食べるも今日が最後よ。我等は夜──攻め入るのだ!」

段蔵(!晴明殿の結界をすり抜けたというのならば──)

桃子「………」

酒呑童子「いい子、いい子。今やりあったらこの団子屋も、下の人らもみんなぺっちゃんこ。優しいんやねぇ。桃みたいに甘いんやねぇ」

桃子「…!」

酒呑「偉い子にはご褒美。小僧に見せるつもりやけんど、伝えてくれはる?うち──」

しゅるりと左手を魅せる酒呑。そこには──真紅の令呪。

「天覧武者言うんに選ばれたんで、よろしゅうな、って。ご挨拶、大事やろ?うふふふ…」

桃子「…!」

平穏を勝ち取る障害に、酒呑童子が名乗りを上げた瞬間であった──。

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