人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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晴明「そうか、頼光母君の屋敷に行ったか。ならある意味好都合だな」

香子「えぇ。ほぼ真正面…御近所ですものね」

「一日が激動すぎて私の屋敷を使えばという暇すら無かった。濃厚な一日だよ全く。…となると、彷徨える征夷大将軍殿を屋敷に迎えるしかないな」

香子「坂上田村麻呂殿!蝦夷を平定し、鈴鹿御前様を娶りし京の守護者!流石は晴明様、そのような方までお招きに!」

晴明「うむ、どうやら伝承の正史はハッピーエンドどうやら悲恋では終わらなかった様、なのだが…」

香子「と、申されますと?」

「私にもさっぱりだ。痴話喧嘩は嫁さんと仲人に頼むとする。──私は疑問を解消しに行きたいから、リッカ殿を借りたいんだが…」

香子「晴明様に、わからないことが?」

晴明「あぁ。何故道満はリンボになるのか。直接、聞かせてもらわなければならないだろうさ──」

〜屋敷

金時「……大丈夫かよ、頼光サンにリッカは…」

桃子「お部屋に連れ込まれてしまいましたね(もぐもぐ)」

マシュ「あわわ…先輩はバブみを感じてオギャってしまうのでしょうか!?」

段蔵「防音せねば!」

幼女「大丈夫。頼光はお話をしたいだけだもの。未来の、自分の娘とね。信じてあげて、頼光を。あなたの妹を」

金時「嬢ちゃん…」

「うふふっ。家族は心が、一緒でしょう?」


晴明屋敷

田村麻呂「この屋敷使っていいとかマジか!ただいまー!征夷大将軍が帰ったぞと!鈴鹿!お前にするぜー!!」

温羅「残念、鈴鹿じゃないんだなこれが!」

田村麻呂「!!う、温羅殿!?なんでここに!?」

温羅「まぁまぁ落ち着きなって。とりあえず、なんでそんな荒れてるのか話してみなよ。な?」

田村麻呂「お、おう!いやぁ今のはちげぇんだ、聞かなかった事にしてくれぇ!」

温羅「ホント、鈴鹿がいないとダメなくらい骨抜きなのになんだってフラフラしてるんだお前様は…」


源氏面談・親子編

「………」

 

『金時のサーヴァントにお話があります。他言無用、侵入不可侵にて待つように。これは厳令です』

 

そう伝えられるなり、一人別室に連れられ一人正座して待つリッカ。生前の頼光…母性の塊の側面だけではない、正真正銘の源氏の棟梁。京を、平安を守護する役割と使命を担った存在が今、自身に面会しようとしている。その事実が、リッカの背筋を正しく伸ばしている。

 

『だ、大丈夫だよねリッカちゃん?バーサーカーじゃないとはいえ、相手は怪異を千は殺した日本最高クラスの神秘殺しだ。流石にバーサーカーよりは話が通じるはずだけど、だからこそ読めない!どうなっちゃうんだ、今回のお話…!』

 

霊体化してサーヴァントを、という事もしていない。かの棟梁ならば、即座に見抜くと確信したが故に。そして、未来の母に不義理を働く行いを、リッカは選ばなかった。金時も、全てを察して送り出したのだから。

 

──親子水入らずで、腹割ってこい。待ってるからよ。

 

(ありがとう、金時兄ぃ。──)

 

そして、来たる。ピリッと張り詰めた空気の領域が目前に来たる。その来訪に、気圧されぬよう全霊にて気を張り、襖が開く。

 

「───…」

 

現れたるは、古今無双の女武者。討ち取った怪異の首を数珠繋ぎにしたならば、千も足りぬ程の武勇と力を有せし源氏の棟梁にして四天王の総大将。源頼光…影法師なるサーヴァントではない生前の彼女が現れる。

 

(母上…)

 

その振る舞いは、自身に無限に愛を注いでくれる楽園の母の一面とは掛け離れた怜悧なまでの威厳に満ちていた。無礼と、否と解かれば即座に斬り捨てる。それ程に研ぎ澄まされた覇気がリッカに伝わる。まさに、四天王らの頂点。生半である筈がない。見たことも、触れたことも少ない母の剣呑な姿に、リッカは生唾を飲み込む。無理もない。サーヴァントは側面、ならばいま目の前の存在はバーサーカー以外の側面を有した頼光なのだから。

 

「──まずは、大変お疲れ様でした。遥か異郷、遠く遠くの未来から貴女はやって来たと、晴明様の式神がもたらした書、文にて聞き及んでおります」

 

晴明は式神…部員ネットにて募集した善意の協力者の総称にて、後ろからあれこれ根を回していた。リッカに対する認識も、サーヴァントでありながらサーヴァントでない未来から外道を討つためにやって来た者と説明を成されたのだ。

 

「あの娘からもお話を。優しい王と姫を乗せる女の子の龍は、あなたに会えることを楽しみにしている…私は、ろんどん?という異邦の地にて出会ったのだと。キャスターは言っておりました」

 

(!ロンドン、童話、物語…ナーサリー・ライム!)

 

真名の看破に至る。彼女はロンドン特異点にて自らの半身たるありすを求めて彷徨っていたサーヴァントで、ギルとエアの裁定にてありすと再会を果たし、退去を果たした子供達の英雄。その記憶を座に持ち帰っただけでなく、座に刻むほどの記録に果たしたのだとすればその記憶を有すのは不可能ではない。彼女もまた、王の愉悦に拾い上げられた稚児なのだ。

 

「そして、金時ととても仲の良い…とても仲の良い兄妹の様な振る舞い。勝手ながら、私は確信しております。あなたは決して、敵ではないと。もしかしたら…その、本当に。私が未来にて授かった、待ちに待った、望むべくもなかった、子。『娘』であるのだと。信じて、良いのですね?」

 

その言葉に、万の言葉も弁明も無用としリッカは差し出した。自身の大切な宝物。母より賜りし護り刀、童子切安綱を。

 

「この刀を、私に託してくれました。縁になるように、ずっとずっと傍にいられるように。優しい優しい、私の魂のお母さんに」

 

「まぁ…」

 

頼光はそれを受け取り、まざまざと見つめる。手を添え、握る部分がリッカ専用に色づけられ、刀飾りが母と母が誅する鬼の意匠となった彼女だけの刀。傷一つ、刃こぼれ一つない手入れの行き届いたその刀身が、どれほど大切に扱われていたかを何より如実に語っている。

 

「此は紛れもなく我が愛刀、童子切安綱。荒ぶる棟梁としての全てを、私はあなたに託し守護とした。それなら、もしや──」

 

【えぇ。その刀に宿りし半身、リッカの魂に私は寄り添っておりますよ。源頼光。親は選べなかった貴女が、漸く、漸く思い描いていた理想の『娘』を手に入れたのです。裏切らず、離れず、注いでも注いでも足りぬ愛の求め手。私だけの、私だけの愛娘──】

 

刃に映る頼光の顔をした丑御前が頼光に語り掛ける。最早語るに及ばず。自身の目の前にいる人物は愛されている。自身と、自身が最も忌む側面たる丑御前に。それでいて狂乱もしない、自身が求めていた理想の愛娘──

 

「…金時とは、男女の関係では無いのですね?」

 

「はい。兄の様な…いいえ、魂の兄妹。ゴールデン兄貴です」

 

「そうですか。そうなのですね。あと…あなたの側にいた、立派な陣羽織の女武者は…」

 

「桃子。桃太郎の名で日本に伝わる事になる最強の鬼殺し。私の妹で、家族です」

 

娘が二人!その事実に飛び上がりそうになりながらも、頼光は律し質問を続ける。そして、最後の問を投げる。

 

「では…教えていただけますか?あなたが何故、私を母と呼んでくださるようになったのか。あなたとの間に、どのような愛の芽生えがあったのか」

 

リッカは頷き、語り始めた。出逢いの始まり、自身に触れてくれた愛、注いでくれた愛情。世には、無償の愛があるのだと優しく抱いてくれた唯一無二の存在。

 

「そして私は…そんなにも大好きだった母を、穢されたんです。その元凶を倒すために、この場へとやって来ました」

 

黒縄地獄。彼女が生涯忘れることが無いであろう母の躯。それらが人を殺める前に、屍を積み上げる前に自身が止めを刺したことも、リッカは震える声で母に告げる。その果てに、剣の極みに至る事も出来たのだと。

 

「あなたが…頼光様がいてくれたから、今の私があります。血が繋がっていなくても、生まれた時期が違っていても関係無い。貴女は私のお母さんです。源頼光様。私は…そんな貴女や兄の時代を護りたくてやって来ました」

 

「───」

 

話を聞いてみれば、なんと壮絶な経歴に頼光は正座の上の拳を握っていた。小刻みに揺れているのは怒りではない。母性の発露を律しているのだ。今すぐ抱いて頭を撫でてやりたい。そんな想いを封じ、心を鬼にして語る。

 

「あなたの想いは解りました。しかし、もしあなたの戦う理由が私怨ならば、認める訳には参りません。鬼を宿して怪異を討たば、心にまた鬼が宿る。人の世は、理性で生きねばならないのです。それが例え、私の仇としても」

 

【あはははははは!どの口が言うのやら!私を封じ殺さんとしておいて子に頼っておきながら!】

(大丈夫、御前ママ。任せて)

 

即座に引っ込む丑御前。ママはクリティカルワードである。

 

「戦う理由は、一つです。私はとっくに、憎悪や怨みで戦う怖さや虚しさ、恐ろしさを知っています」

 

「では?」

 

そう、その問いの答えは決まっている。それは、彼女が聞いた母の願い。

 

「母と子が…おかあさんとその子供が笑い合い、日々を過ごせる今や未来を護る。その為に、絶対に世界を滅ぼさせない。外道に好き勝手をさせない。未来に繋がる今を護る。それが私の、戦う理由です。お母さん」

 

「───…」

 

それは、自身が夢見た世界。もしも、願いが叶うのならば真っ先に願うだろう平和と平穏の想い。誰に告げることなく、誰に言うこともなく胸にしまっていた理想と夢──。

 

「──あぁ」

 

それが遥か未来に、未来を生きる命に受け継がれたと言うならば。魔性の自分も、理性の自分も受け入れたとあったならば。

 

「あなたは、私の──娘。なのですね。どうかもう一度、お名前を教えていただけますか?」

 

「藤丸、龍華。皆が望んでくれた、今に繋がる未来を生きる女の子です!」

 

晴れやかに笑うリッカ。その言葉を以て、頼光は彼女を娘と本心より合点する。彼女こそ、自身が望んだ『無限の愛を注げる子』であるのだと。

 

「──天覧武者として戦う理由が、ますます無くなってしまいましたね」

 

彼女の願いはすぐに叶う。ナーサリー・ライムの言葉に頷く頼光。娘とは、天より授かりしものであるのだと彼女は涙を流して受け入れるのだった──。

 

 

 

 




頼光「では、此度の聖杯戦争はその外道の企てであり、リッカはそれを止めたいと。そうなのですね?」

リッカ「はい。倒された英霊の魂はリンボに渡り、恐ろしい儀式の燃料に使われてしまいます。そうなる前に金時兄が全ての天覧武者に勝って、疑いの意を総意として道長様に伝えることが出来れば」

頼光「外道の企みは破算となる。解りました。我等陣営、リッカと金時の願いを聞き、味方となりましょう」

リッカ「お母さん…!!」

「ふふ、母が娘の願いを無下にするとでも?こちらの屋敷を拠点となさい。歓迎致します。寝床は私の部屋になさい。歓迎致します。致しますね?」

リッカ「はい!(やったね、マッマ!)」
丑御前【えぇ…。自ら選んだ子の願いを無下にする程愚かではありませんでしたね】

頼光「…ですが、残るは綱に、あの羽虫。策はおありですか?綱はともかく、羽虫はリッカが望むならば大江に飛び、即座に皆殺しも叶いますが…」

リッカ「さ、流石母上…!でも大丈夫です。綱さんは兄ぃが…酒呑童子は、私がなんとかします!」

頼光「…と、言うと?危ないことではないですね?」

「大丈夫。私には頼れる仲間がざっと1万以上はいますから!やってみせます!」

(…私の事、本気で心配してくれたもんね。酒呑)

彼女が思う思案の先には、成人した暁に使用しようと飾り立ててある盃。そう、彼女は討ち果たす怪異ではなく。力を借りるべき人生の先達なのだから──。

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