晴明『そうか。となると、酒天や茨木も味方に引き入れるつもりの様だな。流石の縁結びぶりだ。縁結びのキャスターかな?となると…』
温羅「そんなにか。そんなに自分以外に花嫁姿を晒した事がショックだったか」
田村麻呂「それもありますが…よりにもよって大嶽丸を温羅の姐さんに任せきりにしちまった…なさけねぇ、情けなさすぎて…あと、あとやっぱり花嫁姿は俺が最初に見たかったんすよ…俺が温羅の姐さんと酒盛りしたの、何が気に入らなかったってんだ…」
晴明「…こちらは更にリッカ殿と鈴鹿さんがいなくては駄目なようだ。綱殿は金時がいれば問題ない。…となると…」
ロマン『どうするつもりだい?君は。…いや、君にしかできないこと、あるんじゃないのかな?』
晴明「…そうか。それは、確かにそうだ。よし、香子」
『は、はい!』
「少し、知人にあってくる。ちょっと待っていてくれ」
香子『は、はい…?』
「ンンン…ンンンン…」
京の一角、中央にして内裏。そこは京の要たる帝、左大臣のおわす尊き場所。其処に在り、京の為に尽力する事こそ喜び、そして使命。それを理解し、人々は日々を生きる。そしてそれは勿論例外なく自身も同じ。──そう考え、歩みを進めながら陰陽師…蘆屋道満は悩み、苦悩と苦悶を漏らしていた。
(晴明殿が疑う外道の存在、そして京を迷わす賊の正体。それらは眉唾と言う他無かれど、この胸中をどうしようもなく掻き乱すのは如何なる理由か)
あの晴明が、2枚目の式文にてしたためた衝撃の内容。この聖杯戦争は、平穏ではなく混沌をもたらすものであること。それを一蹴するのは容易かれど、何よりも誰よりも晴明の手腕と偉大さを知る道満は戯言と切り捨てることは叶わなかった。
(晴明殿が戯れに左大臣殿を騙し、欺く事ある筈無し。彼は、自身を重用するかの御仁を裏切る愚か者ではない。必ず、必ずや何かある。…そして…)
そして、何故自身は姿を表さないのか。京の危機において、何故姿を見せないのか。何故、…自分で片を付けるのではなく、自分などに京の陰陽師の統率なぞをやらせているのか。道満は、どうしても理解が及ばなかった。
(晴明殿…実に、実に戯れが過ぎますぞ…)
晴明…安倍晴明。かの陰陽師こそ平安きっての大法師。内裏に在る陰陽師を束にして競ったとしても、けして敵うはずの無い超絶の領域に在る御仁。道満は、その背中どころか、影すらも踏めぬほどに実力の隔たりを痛感していた。それは、決して受け止められぬ程に絶望的かつ、明確極まる差だ。次元が違う、という言葉の正しい使い道がこれであると言わんばかりの、おぞましいまでの天才。それが安倍晴明だ。本来ならば、彼の代わりなぞ誰も務まらない。自分はただ、晴明を除いた『それ以外』の中でマシだっただけ。かろうじて晴明のいない空間を紛らわせる『まし』な存在であったから、こうして内裏にて晴明の立場に甘んじているだけ。
彼は天才だ。真に才気あふれる者とは、真に天に選ばれたる者とは彼の事を言うのだと、幾度幾度挑む中で思い知らされた。
並の陰陽師が、一生涯を掛け命を代償に身に着ける大秘術を半日、一時にて片手間で行い。
落ち延び、怨の一文字懐いた郎党の京を、日本を脅かす大魔縁の呪いをあくび混じりに事も無さげに祓ってみせる。
都抱えの陰陽師十名あまりが展開し、並の怪異を追い払うが精々の薄氷が如き結界を、ただの一人で百鬼も魍魎も寄せ付けぬ盤石のものへと変化せしめ。
…武士の影にて細工を擁する臆病者と詰られる陰陽師でありながら、人々を導き、愛され、共に歩み、慕われてみせる。
(それこそが安倍晴明。時代に愛されし寵児にして日本の宝、生ける伝説。嗚呼、まさに誉れ高き大陰陽師!)
道満は何度も何度も勝負を挑んだ。山に籠もり、命を削り、邪法寸前の術を身に着け、人々を豊かに、或いは破滅させるも自在な術を会得し、体得し、何度も何度も決着を付けんと息巻き挑んだ。
だが──才能、出自、実力、才覚。それらすべてが隔絶し、絶望的な迄に離れていることを勝負する度に、敗北の辛酸と共に叩きつける。
何故、自身が魂を喰われる代償を覚悟してまで会得した術を事もなさげに再現してみせる?
何故、自身が修行に修行を重ねた術を一度見て、自身が到達できなかった領域にまで昇華できる?
何故、二手や三手どころか十手の数まで先の手立てを読み切り、こちらの手の内を見透かしてみせる?
何故、自身が出来なかったことを、しようとした事をそんなにも簡単にして見せる?此度の京の守護でさえ、晴明が健在ならばけして鉢は回って来なかった使命、役回りであることは自分が一番理解している。
『貴様に、晴明の代わりは無理だな』
左大臣殿がそう告げた時、自身は深き納得を覚えた事を把握している。自分は晴明の代わりになどなれない。いや、影すらも踏めない事は解っている。誰もが求めるは晴明。誰もが求めるはかの陰陽師。それは解っている。理解しているとも。それは、事実──。
(……何故)
何故、と。道満は意味もなく思い浮かべていた。それは間違いなく、そして紛れもなく…彼が見ないようにしていた【澱み】であった。
何故、何故晴明に勝つことができない?自身の努力が、研鑽が足りないというのか?それならばいい、自らの未熟であるならばいくらでも改め、努力し、奮起し、あがいてみせよう。
だが、晴明はそんなにも凡人に優しくはない。片目を閉じようと、妖狐を退け帝を守護する程の天賦の才に、これ以上何を捧げればいい?
(──いけませぬ。ならぬ、ならぬぞ道満)
どうして自分は、晴明の引き立て役にしかなれない?何故、晴明の影として振る舞う事をしなければならない?晴明の代わりなどありえない。存在しないというのに。何故、自分如きが京の守護を行う羽目になっている?
ふと、考えてしまった。それでいいと思っていた筈の思念が、未練が。堰を切ったように溢れ出す。それが、どうしようもなく醜い感情であると知りながら。
(ならぬ、ならぬ道満!疑問を抱いてはならぬ…!)
何故自分は晴明に及ばない?何故自分の努力は認められない?誰が認めない?何故認めない?
(我が術、我が想いは民のため、平安の為のもの…!私欲など断じて!)
自身を認めぬ愚か者達を何故護らねばならない?晴明などを持て囃す愚昧を何故、守護せねばならない?
(思ってはならぬ、考えてはならぬのだ道満!平静を、精神を律せよ…!)
何故か止まらない。隠していた本心が、膨れ上がって行くのを感じながらも止められない。晴明を意識した瞬間から、あの金時のキャスター…彼女を見てから、自らに湧き上がる想いが迸り止まらないのだ。
【何故、何故、何故何故何故!この道満は勝てないのか!拙僧こそ稀代の陰陽師!真なる平安の守護者!】
(違う、晴明殿こそが偉大なる京の…)
【ンンン勝てぬ、勝てぬ勝てぬ!晴明は見切っていた!晴明は企てた!この聖杯戦争の仕組みを!この聖杯戦争に潜む闇を!ならば、ならば貴様はどうだ道満?何を成した?何を企てた?何もない!晴明の考案は思い至らず、邪悪には思い至らず!実に滑稽、無様!屈辱の極みィ!】
(おぉ、おぉお…!)
自身の何かが吠え猛る。悪意が、一側面が煮え滾るかのように沸騰する。やがて自身の意志に関係なく、心に形が見やる。
【何故、何故何故何故誰も彼もが晴明ばかり!拙僧は劣っておらぬ!実力も!風靡も!願いも!何もかも!】
(その、ような事を…!我が内より去れ、邪悪!)
【邪悪と?拙僧は紛れもなく蘆屋道満!この心に在りしは紛れもなく道満が想い!すべて真実!すべて!すべて!すべて!】
(わ、我が…邪悪?我が想いがこのような…?)
【然り!然り然り然り!目を逸らそうと、目を背けようと無駄であるが故に自己の内面!蘆屋道満こそは晴明の影法師!晴明の替え玉!晴明のありあわせ!晴明の付属品!】
(そのような!そのような、否!否!否…!)
【いいえ事実真実そして客観的な確定事項!お前こそは無為なる無価値な存在!そう、今のままでは──】
部屋に駆け込み、発狂寸前になりながら頭を抱えもだえ苦しむ道満。その先は聞いてはいけない。耳を傾けてはいけない。
自身が自身でなくなる。己が悪心に、全てを支配されてしまう。だが、その言葉は決して的外れではなく──
【このままでは、お前はただの一度も晴明に──】
…このまま、自身ではない自身に任せたならば。かの眩き陰陽師に、冷や汗の一つもかかせられるだろうか。それならば、ただ生き恥を晒す自分よりも有意義な一時を、日の本に刻むことが出来るだろうか。
そう考え、道満は目を閉じ、耳を傾け──。
晴明「邪気、退散」
?【ギャァァァァァァアァ!!?お、おのれ!おのれおのれおのれおのれ!あと一歩の所をぉおぉおぉおぉおぉお!!】
道満「…?」
瞬間、自らの胸中が収まり、鎮まり。静寂か取り戻される。顔を上げる道満。其処には…
「やはりか。晴明は無視するが、道満をリンボと同一化させる事を水面下で企む…やはり、私が認めたクソ野郎だよ。君は」
其処には、道士服を着た小柄な少女が冷ややかに空を見つめ立っている。その術、その札は──
「そ、そなたは…?」
晴明「私だよ道満。安倍晴明だ。メイって呼んでね。話があってやって来たのだ──」
晴明を名乗る絡繰の少女は、見るものを嘲る笑みにて脚立より道満を見つめていた──
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