人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「こんなとこ、かな?」

『荷車台車』

桃子「いっぱい買いましたねぇ〜。お供たちと温羅の宝を運んだ昔を思い出します」

リッカ「マシュー?ボディーガードよろしくね!」

マシュ「お任せください!バッチリ護ってみせます!」

温羅「おっ。大江山に行くんだな?懐かしいなぁ。あそこはアタシも世話になったんだよ」

リッカ「酒呑や茨木と顔見知りなんだっけ?」

温羅「そうそう。神秘勇退の話をした時意気投合して古巣なわけだ。まさか生前のあいつらにリッカ達が会いにいくとはな。アタシの事覚えてっかなぁ…」

桃子「忘れられるような薄さ、してないでしょ」

温羅「ははっ、そっか!──あ、そうだ!じゃあ、こいつらを持って行け!助けになるぜ!」

そうして温羅はリッカに、自身の持ち物をいくつか託し、送り出す──


対話調伏開始!〜茨木編〜

「あら、まぁ。随分と可愛らしい、そんで意外なお客さんがやってきたもんやねぇ、茨木?」

 

山道を登り、漂う酒気や血生臭さに顔をしかめながら登山を終えた頂点に構えられし館、或いは御殿。茨木と酒呑が居を構える大江山の総本山。そこにリッカ、桃子、そしてボディーガードのマシュの布陣で乗り込んできた源氏陣営に、酒呑童子は愉快げに手を叩く。満月に照らされ笑う酒呑の姿は、艶やかで儚げでとても美しい。紛れもない鬼の理想にして権化の姿に、リッカは息を呑みつつも見つめ返す。

 

「えぇ目、しとるんやね。小僧の髪色みたいな金色の目…あぁ、それくらいの宝石を見繕うんは大変やわぁ。欲しくなってしまうさかい、そない見つめんといて?」

 

これに激昂を返すは茨木童子。敬愛する酒呑に、射竦めるような眼差しを送り立つリッカを牽制し、吠える。

 

「気安く酒呑を見るな、人間!何をしにきたのかはしらぬがよくぞその面を見せられたもの!特にそこの豪奢な武者!幾度も幾度も吾を虚仮にしてくれたなァ…!!」

 

右手を上げると共に、鬼達が湧き出一同を取り囲む。彼女の忍耐は限界に達しようとしている。幾度も鎧袖一触で追い払われ、ぬけぬけとこうして姿を晒してみせる。ここで決着をつけるが主題と見ればそれも違う。

 

「怒るのも当然ですイバラギン。私が贈りたい意図と、あなたが受け取った意図は全く違うもの…それを失念していました。深く謝罪致します」

 

「なにぃ…!?」

 

戦う意思すら見せず、桃子は頭を下げる。そして彼女は、謝罪の意志とともに差し出す。お詫びと誠意の品を。

 

「ですので…まずは、こちらを。私と綱様があなたから断ち切った、イバラギンの腕にてございます」

 

そっと、差し出される茨木の切り落とされた腕。桃子が示す、誠意による返還の品。

 

「あ、吾の腕…なんだ、多少は話が解るではないか。取り返す手間が省けたぞ!」

 

「なんだ茨木様腕斬られてたの本当だったのかよ」

「懲りねぇ奴だな全く。何回追い払われて仕切り直したい?数え切れねぇよなぁ」

 

黙れ!!ひそひそ騒ぎ立てる鬼どもを一括し茨木は桃子より腕を受け取る。

 

「…毒手などにはしておらぬだろうな?」

 

「私達が切り落とした時のままです。イバラギンの腕を切り落とした時のそのまま、桃の中で大切に保管し」

 

「切り落とした部分を連呼するな!えぇい、怪しげな陰陽師の式神に気を良くしていれば!気を乱すやつだ全く!」

 

(部員さんを式神と銘打って色々手伝って貰ってるんだ、晴明さん…)

 

既に各種方面に話を、手を回している晴明の手際の良さに感心しながら、やや剣呑な雰囲気が薄れた事を感じ取り、リッカは口を開く。

 

「まずは贈り物を。マシュ、引いてきて」

 

「はい!お供のみなさ~ん!」

 

号令と共に引き寄せしは、京選りすぐりの菓子に酒の積荷台。見上げるほどに積み上げられたお近付きの品が、鬼達の視線を釘付けにする。

 

「おぉお…!京の菓子に酒!反物まであるぞ!」

「気の利くわっぱどもじゃねぇか…!」

「特に菓子は好きだからなぁ、茨木様は」

 

「一々囀るな!…ふん。態々用意し、この大江山を態々登りきったその労力は労ってやらんでもないぞ。…本当に、良いのだな?」

 

「どうぞどうぞ。鬼の皆様と食べちゃって下さい!そのために持ってきたんですから!」

 

「これを以て、無礼の非礼とさせていただきたく思います。…許してくれますか?イバラギン」

 

手を叩き笑う酒呑、けして本心を見抜かれないように大仰に手を叩くも、視線が釘付けとなる茨木。その貢物に、茨木は決を下す。

 

「どないするん?話、聞いてあげるのん?」

 

「う、う、うむ。無礼を詫び、正直諦めていた腕を持ち、これ程の貢物を持参してきたのだ。これは大江山の首魁として度量を見せ、会話と交渉の席を設けてやらんでも…ないぞ?」

 

(よし!)

 

小さくガッツポーズを取るリッカ。彼女は人間の部位やそのものをどういう訳か好まない。今回の交渉…片割れである茨木『のみ』を狙い澄ました供物は大いに功を奏したようだ。マシュと桃子と、後ろ下手にてハイタッチを行う。

 

「で、なんだ?汝らは我等鬼に何を訪ねに来たのだ?源氏に与する輩が誅伐で無いという事は異常事態ではないか?吾等大丈夫か?」

 

「「「「判断が遅い」」」」

 

「黙れ!!」

 

律儀に恨みつらみはひとまず水に流し、耳を傾ける器の広さを示す真面目ぶりを見せる茨木。リッカ達は頷き、本意と目的を示す。

 

「実は──鬼である皆様の力を、聖杯戦争の黒幕…リンボを仕留める為に!」

 

「聖杯戦争…黒幕?む!もしやそれは今京が催している、酒呑すら巻き込んだ下らん人の儀式の通称か!」

 

茨木からして立腹を見せる。彼女は聖杯戦争というものが非常に気に食わなかったのだ。崇拝、畏敬している酒呑童子を、了承もなく天覧武者などに選んだ無礼さと不躾さが。

 

「その黒幕…そう言ったのだな?黒幕とはつまり!この儀式を目論んだ輩!そういう事なのだな!?」

 

「そうなるよ。酒呑童子を利用した輩…そして茨木や鬼の皆様の縄張りを滅ぼし荒らそうとしている輩。それがアルターエゴ・リンボ。その目論見をぶっ潰す為に、皆の力を合わせたいの!力を貸してくれる?茨木?」

 

ふむ、と頷く茨木童子。気に食わなかった。この儀式を考案した輩が。酒呑を一方的に巻き込んだこの儀式が。それを、叩き潰せるというのなら──

 

「うちの答えは後。茨木、あんたはどないするん?うちの事は気にせんと、好きなようにやるとええよ」

 

酒呑童子は是も非も口にせず、なすがままの展開に任せている。不思議な事に、供物には全く手を付けない。意図を理解しているのだろう。誰に向けたものなのか。誰に向けられて与えたられたものなのか。

 

「…。汝らの言い分は理解した。敵の敵は味方。吾と貴様らの敵は同じなようだ」

 

「!それでは協力していただけるのですか!?」

 

湧くマシュとお供たち。怒らせなかった、良かったと胸を撫で下ろす桃子。拒絶や否定ではなく、理解を示した茨木。これで──

 

「喜ぶのはまだ早いよ、二人とも」

 

リッカが素早く静止する。そう。この交渉にはまだ、続きがある。素直に善意で協力する気狂いの鬼は、世に3人とはいない。無論茨木は、鬼らしき鬼。

 

「よく理解しているな。そうだ。吾等は貴様らと肩を並べる理由が無い。黒幕の存在を知った今、京の全てを血に染めた後そやつを仕留めれば良いのだからな!」

 

「つまり?」

 

リッカの問いに、茨木…いや、鬼の郎党は素早く行動で応える。それらは即ち──

 

「馬鹿め!人間如きが鬼と肩を並べようなどとは言語道断!黒幕の情報、並びに供物!それらをいただき貴様らは殺す!!」

 

そう──鬼はけして、弱者に阿る事はしない。強く、そして暴虐である。生前の茨木は、何よりも強き『鬼であれ』という自負。それが、あまりにも強いのだ。

 

「あらら…根に持っとったん?腕切られたの。茨木小さいわぁ…がっかりやわぁ」

 

「そ、そう言うな酒呑!聞けばこやつは金時の術者!ならば首を抜き身体を送り返してやれば金時、並びに頼光のとびきりの顔が見れそうではないか!」

 

だからこそ、リッカは見抜いていた。鬼に対する最適のコミュニケーション。それは単純明快…力で上回ること。ならばこそ、わざわざこうして殴り込んだのだ。

 

「さぁ──如何にする!この鬼の群れ!大江山の鬼どもの精強さ!存分に味わっていけ!!」

 

「───」

「先輩!」

 

桃子が神剣の鯉口を指で弾き、マシュが盾を構える。しかし、リッカはそれを制する。

 

「大丈夫。これは戦いじゃなくて、交渉。ここは任せて」

 

鬼に囲まれながら微塵も揺らがぬリッカ。彼女には、数多無数の日本の加護がついている。それらが彼女に勇気をくれる。だからこそ──

 

「力を見せれば、納得するんだね?」

 

「あぁするとも!無理であろうがなぁ!!」

 

言質を取った。リッカは静かに、鋭く辺りを睥睨する──。




鬼「オラオラァ!テメェらオラァ!いい加減にオラァ!!」
鬼「オラァアァア!!」

イヌヌワン『脅し方が実に単調だ。流石はテンプレ鬼』
フワイサム『やはり頭脳、指揮系統は茨木童子。酒呑童子は名誉チャンピオンな立場なのだろう』

鬼「出すモン出したら認めてやるってんだよ!それともストリップでもしてみせるかい?」

鬼「エッチもラッキョウも大好物だぜぇ!!」

リッカ「出すもの──ね」

それを聞いたリッカは静かに腕を掲げ、この為に託された──鬼達を戦慄させるために託された『それ』を振るう。

「「「「「「────!!!??」」」」」」

茨木「なっ──」

──鬼達は、一同に戦慄し硬直した。茨木すらも息を呑んだ。リッカが出した『力』は、想像をあまりにも隔絶していたからだ。

リッカ「さっ──出したよ。あなた達が一番解りやすい力をね」

リッカが握っているもの…それは『金棒』。それも普通の金棒ではない。それは、鬼たちの遺伝子に、本能に刻み込まれた強者の証。

鬼「あ、あれは、あれは…!!『温羅の姉貴』の金棒じゃねぇか!?」
鬼「馬鹿言うな!そんな、そんな筈はねぇ!温羅の姉貴が俺たちを…!?」

リッカ「私の言葉はともかく、温羅の力を疑うの?なら──」

コン、と。軽く先を地面に触れさせる。それだけの行為にて…

茨木「う、うぉおぉおぉお!?」

巻き起こる地震、地響き、天雷、恐慌。なんとなしに振るうだけの金棒が、力の奔流が一端を巻き起こす。金棒に、ほんのちょっぴり込められた、隠し芸用の『脅かし』。それを振るっただけ。──しかし、それにて理解する。

「う、温羅の姉貴だ…姉貴の力だ!」
「まさかあのガキ、源氏と姉貴の縁者か!?」
「ありえねぇ!どんな化け物だよ!」

リッカ「───(スゥッ)」



いいかリッカ。鬼なんて本能で動いてるだけだ。理屈並べても自我は曲げん。ならどうすっか?

──わからせろ。言ってわからんやつにはガツンとだ!例えばこんなカンジだな!



リッカ「鬼共ォ!!!」

「「「「!!!」」」」

「協力するか!この場でブチ殺されるか!!どちらか選べぇい!!!

温羅リスペクトのリッカの叫びが、大江山を激震させる。その姿を見て、鬼は魂で理解した。彼女は知っている。温羅を、鬼神を知っている──!

鬼「「「「──ははぁっ…!」」」」

鬼達は──示された力を認め、理解した。彼女は今、鬼の頂点の意志を有していると。

茨木「…協力する。お前たちの力を理解した。協力するが故に…大江山の鬼共の命は勘弁してくれ…」

己が浅薄さを悔いながら、頭を下げる茨木。鬼達は規律正しく、リッカの金棒に平伏す。

そんな中──

酒呑「あはははは!随分と懐かしいもん見せてもろうたねぇ!うらはん、知ってるん?」

リッカ「凄く、ね」

「なら─ちょっと、お話しよか?」

リッカは油断なく見やる。この威嚇に微動だにせぬ鬼
──温羅と同格たる、酒呑童子。交渉の本題たる相手。鬼種の体現者たる存在を──

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