将門公『……』
源次郎等「た、平将門…!?かの、新皇の事か!?」
源次郎等「朝廷に反旗を翻した、恐ろしき逆賊…!100年も前なれど、その威風と悪名高き魔人!」
源氏郎党「おぉ、まさか…未来の棟梁は朝廷の敵すらも使役するに至ったか!げに、源氏の未来は明るい事だ…!」
将門公『やや、あうぇいなり』
リッカ(ご、ごめんなさい将門公!でも、信奉を誤魔化したくなくて…)
頼光「狼狽えることなき様。遥か過去では逆賊なれど、遥か未来にて敬われ、神に至りし事例もありましょう。我が娘たるリッカが敬いし姿、この社。さぞ手厚く祀られ、守護神として信奉を集め、和御魂としての側面を顕したと考えるが自然。余計な詮索、無用なれば。よろしいですね?」
郎党「「「「は、ははっ!」」」」
頼光(信じていますとも。あなたに力を貸す方が、怨霊悪霊でなど無いことを。ね、リッカ?)
リッカ(お母さん…!)
将門公『そなたの母、変わる事無く日ノ本随一の母神也』
(うんっ!)
通りすがりのイザナミ『これは郎党皆様!大変お疲れさまです!ささ、茶をどうぞ!アマや!桜餅を!』
通りすがりのアマテラス『ワフ!』
通りすがりのタケちゃん『ほう。武者の競り合いか。血気盛んな事だ』
通りすがりのツクヨミ(にゅっ)
通りすがりのカグツチ(チラッ)
郎党(彼等は一体…)
郎党(や、これは美味い!)
マシュ「しょ、正体は秘密にしておきましょう!」
桃子「温羅も来ればよかったのに…」
神田明神。即ち遥か未来における、神のおわす大神社。その御前にて繰り広げられし、互いの意を通さんがための正真正銘の真剣勝負。源氏の未来を、行末を担うであろうこの瞬間を決するための大一番。
「おぉおおぉお!!」
「はぁあぁっ!」
片や、黄金のマサカリを縦横無尽に振り回し黄金の竜巻旋風を巻き起こす剛力無双の坂田金時。片や、紅蓮の宝刀、髭切を以て衝撃波を発生させ、神威の神閃にて応える筆頭、渡辺綱。頼光四天王のぶつかり合い、武者の頂点にある互いの決闘は最早余人が立ち入る余地など何処にも無い正真正銘の大決戦。これこそが平安を守護し京の安寧を護る使命を帯びし武者の果たし合い。
「うぉらぁあぁあぁあ!!」
全体重を乗せ、マサカリを大上段から振り下ろす金時。それを髭切でマサカリの腹を叩き、軌道を逸らし無為にする技量の綱。
「──ふっ!」
そのまま持ち手を反転させ、威力の込めた態勢にて動けぬ金時の首めがけ紅蓮の刃を振り抜く綱。逃しはせぬとの必殺の軌跡。避けねば首が吹き飛ぶは自明の理。一切の容赦なく、比類なき剣技が金時に迫る。
「らぁっ!!」
しかし金時、引くで無し、屈むでなし。そのまま綱に渾身の頭突きを叩き込む。かわさぬならば前。かわせぬならば前。源氏の武者に後退無し。その意を何よりも忠実に果たすが足柄山の金時なれば、型破りにて窮地を脱す。
「ぐっ、──むんっ!」
「ぐおっ…!!」
鼻頭を抉られた綱、しかし刀は離さず峰にて金時の首の真後ろ、延髄を渾身の一撃にて打ち据える。金時の天性の肉体、筋肉の鎧は内臓延髄、神経へのダメージをもたらしはせず。しかし甚大な衝撃が金時の視界を明滅させる。前後不覚となる金時の心臓目掛け、真っ直ぐに刀を突き出す綱。
「なん、の!させねぇ!!」
しかし金時、即座に気付けにてマサカリの腹にて突きを無力化し、姿勢を低くしたタックルをかまし、綱に覆い被さる形になり拳を握る。マウントナックルの態勢にて技を封殺する心積もりだ。
「おぉおっ──!!」
綱もまた負けじと刀より熱を放出し、瞬時に蒸気を辺りに充満させる。金時の視界と気勢を削ぐための曲芸、しかしその効果は十二分。目を焼く程の熱さに堪らず金時は転げ落ちる。
「ぐっあ、熱ぃ!」
「せぇい!」
瞬時に体勢下手の金時に向け、髭切の突きを無数に繰り出す綱。一撃狙うは首、目、頭。必殺極まる無数の乱打を転げ回りにてかわす金時。そのままマサカリにもんどり打ちながらも辿り着き──
「うぉらぁあっ!!」
マサカリのカートリッジの内蔵部分を渾身の力にて蹴り飛ばし、数本を暴発させる。辺り一帯を覆う、魔力込められし雷撃の大暴発。雷神の息子たる金時以外は耐えられぬ、人の身体焼き切る迅雷の煌めき。
「ちぃ、っ…!」
堪らず綱も間合いを取らざるを得ないほどの破天荒なる戦法。素早くマサカリを担ぎ、間合いにて睨み合う。
「綱様!」
「金時兄ィ!」
メディア・リリィ、そしてリッカが互いに治癒魔術を披露する。神代の魔術師たるメディアの治癒は完璧に、サブマスター達の術式を束ねた治癒魔術は十全に互いを治す。
「まだまだ!行くぜぇえっ!!」
「おぉおっ──!!」
真正面から互いに組み合い、衝撃波にて境内に嵐が吹き荒れる。生身の人間、生前の存在でありながらもその戦いはサーヴァント同士の戦いとなんら遜色ない。
(これが、源氏武者の戦い…!かつて本当にあった、生きていた兄ィや仲間達の、本気の激突…!)
戦い方の殺意の高さ、一合武器が交わるごとの大気の振動、大地の崩落。神田明神で無くば5度は崩壊しきっている規模の戦いに、リッカは息を呑む。目の前にて行われている日ノ本の戦いに、先祖達の血の濃さにただただ圧倒される。
「…おかしいですね」
その様子を、源氏すらも目を奪われる紅蓮と黄金の嵐巻き起こる戦場を、数少なく正しく見ていた桃の武者、桃子が言葉を告げる。
「少なくとも膂力と剛力は、金時兄さまが上。しかし今、ツナ君は一切引けを取る事無く拮抗している。技だけで捌けるほど、金時兄様は生半可な腕力をしていません。まさに剛力無双、温羅と腕相撲ができる程でしょう」
『主には何か気がかりが?私などはもう、余波にて何が何やら…』
『サーヴァントより、生前が強いという理論の証明は成された事を確認』
「うん、何というか…『気迫』が違うと言うのかな。四天王なのだから、腕前自体はそう離れてはいない筈。しかし今、ツナ君は力と技で金時兄様を圧倒している」
桃子の言う通り、綱は刀にてマサカリを押し留めている。いや、僅かに押し返していると言ってもいい。信じがたいことに、力の勢いで金時に今、綱は勝っているのだ。刀を佩く武者でありながら、だ。桃子はそれを、静かに見抜く。
「おぉおぉ…!!」
「ぐう、っ…!」
「なんというか…底力と気迫の練りが違う。ツナ君の戦いへの覚悟、それが何よりも強いと私は感じます。リッカねぇ」
「戦いへの、覚悟…」
それらは即ち、聖杯に懸ける願いへの帰結。何を願い、何を想い、何の為に剣を振るうのか。それがそのまま、力に直結しているのだとしたら。
「はぁあぁあぁあぁ…っ!!」
「ぬ、ぉおぉおぉ…!!」
遂に拮抗が崩れる。なんと金時が片膝をついた。力負けしたのだ。綱の剣圧に。彼の剛力に。それは純然たる力の引き出し方の差。彼にあって、金時に薄いものだ。リッカはその根源にこそ、綱の強さがあると思考を巡らす。
(綱さんは何を思って剣を振ってるのか、そこに答えがある…!四天王としての使命?武者としての矜持?──確かにそれは、足柄山で過ごした兄ぃは一番じゃないかもしれない。でも…)
しかし、金時を上回る矜持だったとしても。卜部氏や碓井氏、二人の四天王をサーヴァントごと凌駕する程の気迫であるとは考え難い。かの剣技には、使命や義務以外の何かが宿っている。リッカにはそう思えてならなかったのだ。
(単純に考えて、想いの強さや大きさが勝るのは当たり前。でもそれだけじゃないから今綱さんはこんなにも強い。なんだろう…!都の守護よりも、平安よりも大切な想い…想い…。…!)
そしてリッカは思い至る。誰よりも心の機微、そして感情に敏い龍の心を持つ彼女なれば。もしや、もしや綱は。綱の戦いの理由とは。
(──自分の願いを叶えるため!他の武者や兄ィの半信半疑の所感と違って、綱さんは聖杯の奇跡を信じているんだ!聖杯で何か、叶えたい願いがあるんだ…!)
京の守護、都の平安。確かにそれは強く使命として在るだろう。しかし人とは、誰よりも何よりも自分の為にのみ力を発揮する生き物だ。かくいう自分も、心の底から誰かの幸せが見たいから、明日を生きていたいから戦う。誰かのためでなく自分の為に戦うからこそ、自分は世界を護る戦いにて誰よりも強いのだ。─そして、綱はリッカと全く同じ心境なのだ。
譲れない願いがある。
譲れない想いがある。
その為に、聖杯戦争を終わらせる訳にはいかない。その強烈な自我、あるいはエゴ。彼は今、誰でもない自分の為に剣を振っている。だから強い。だから負けない。義務や使命をかなぐり捨てた利己的な剣、故にこそ、それは聖杯戦争にて最強の剣。
聖杯を手にせんとする渇望。それこそが、聖杯戦争におけるマスターの強さなれば。綱は今、最強の剣士なのだ。このままでは、金時は──
(──突き止めるしかない!綱さんの想いの形を!そして兄ィにも、同じ形で示せたら──!)
リッカの瞳に、金色の瞳に人類愛たる証が浮かぶ。それはかつてのネガ・コミュニケーション。一目見ただけで、相手の本心、精神、性根を即座に把握する龍の権能。先の一時、綱とは目が合った。ならば、それを縁に手繰り寄せられる筈だ。
(アジーカ!お願い、綱さんの願いを感じ取って!あの人の想いがなんなのか!)
『解った。任せて』
力の核であるアジーカ・ウォフ・マナフに、綱の願いの本質を依頼する。他者の心、意思疎通をきっかけに触れ合うは龍たる彼女の領分。
『綱の願い…その胸中。私達の糧とする』
そしてアジーカは見つめる。金時の勝利の切っ掛けを掴むために、その心の本質を──。
…俺はもう、失わぬと決めたのだ。
今度こそ、護り抜くと決めたのだ。
都の守護。左大臣の沙汰。平安の安寧。
全て、どうでもいい。
俺は今度こそ──
『あの人』を、護り抜くと決めたのだ──。
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