リッカ『!ここは…!?』
アジーカ『ここは、彼の心の形。私達は、人の心を喰らい精神活動における絶対優先権を持つ』
リッカ『初めて自分の意志で使ったかも…!アンリマユは!?』
アジーカ『アンリは泥、物理的な力の担当。こっちは私。人類愛になった私は、おあずけができる』
リッカ『おあずけ』
アジーカ『おあずけ。…つまり、自由に見れる。でも、干渉してはいけない。あくまで、見るだけ。干渉すると…』
リッカ『ど、どうなるの?』
『おあずけが終わる』
『見に徹します!!』
(綱さんの想い、見極めないと勝利はない!金時兄ィになくて綱さんにあるものを見極めるんだ!兄ィの、サーヴァントとして…!)
『始まる(…ぐぅ)』
『ひぃ!?』
『大丈夫』
『本当に!?』
俺は、あの日の無念を晴らすのだ。俺は俺自身の悔恨を今こそ拭う。
八幡神よ、我が無様を嗤え。己が無力により導かれた惨事を、俺は否定する。
…血華で散った命を。護るべきであった命を。俺は二度と失わぬ為にこそこの髭切を振るうのだ。
〜
『あなたは、とても真っ直ぐなおかた』
憧れていた。…ずっと、眩しく想いながら見ていた。幼き頃から知った相手。貴人の娘。穏やかで、微笑みの麗しき佳人だった。身分違いの俺にさえ、笑いかけるような。
『あなたの様に真っ直ぐ、生きることができたなら。それはどれほど素晴らしいでしょう』
その心を映すかのように、羽化登仙するかの如く、その娘は輝く女となった。もしもお上の目に留まる事あれば、或いは中宮となるやもしれぬとすら謳われた。
…けれど。あの人は、いやあの御方は。誰と結ばれる事なく。いつしか父君にあてがわれた屋敷に籠もった。
『二度と見られぬ姿へと変わる病に罹ったのだ』
『何かの罪を犯して蟄居の身となったのだ』
『狂を発し、言の葉を失ってしまったのだ』
『さる貴人の子を…』
…俺は…
『声を聞きたい。せめて、その横顔を』
俺はいつまで、いつ頃まで顔を出していただろうか。月に一度と言わず、月に数度も顔を出して。
『いつ見ても、いつまでも。美しい』
あの笑顔、穏やかな天女の如き横顔を目にして、何がなんだかわからずただ首を傾げて。
病であるものか。罪など犯すはずはない。
狂を発しているものか。子については、よく分からなかったが。
…それから、暫く後。
『貴人の女に、男が逢いにいくなど言語道断』
そのあたりの分別が付くようになる頃。俺は、太刀を握る日々を迎えた。武辺者ならば、得物を選ぶなと言われながらも。
『鬼を、怪異を斬るのが人の生き様ならばそうしよう』
太刀を振るい続け…
『鬼が右手を出せば右手を斬り、左手を出せば左手を斬る。まだ息あらば首を、胴体を以て止めを刺す』
気付けば、幾百幾千の怪異を討ち果たし。
『あなたの太刀、武勇。この源氏が棟梁の下にて活かしてはみませんか?鬼を斬り、平穏を護る武者となるのです』
かの頼光様に目を掛けられ。宝刀、髭切を預かった。そして京の鎮護に慣熟せんが為、一度は検非違使庁にて学ぶべし。新たな修練をただちに終えた俺は、まことの検非違使と同等の御役目を与えられた。左京の、とある一角の守護。
…其処で俺は、目にした。
『───こ、れは』
…鬼による、惨事の有り様を。
〜
…全て、死んでいた。
主人も、家人も、全て諸共に、死んでいた。そこは、そこはあの御方の屋敷。かつて、自身が足繁く通いし天女が如きあの御方の屋敷。
『………何故』
あの御方も、死んでいた。喉を破られて伏した、あの御方の亡骸。大輪の紅華を咲かせていた。…血溜まりの、その有り様にて。死を確信させるほどの血の海。
『…この、足跡は』
其処を走り回ったらしき…小さな足跡を。俺は見た。
足跡は、屋敷のあちこちにあり。辿って行った先々には家人の亡骸が転がっていた。足跡の主は、誰も生かさなかった。
全て、殺した。喰らわずに、ただ噛みつき、引きちぎって殺していた。
『喰らわなかった』のか、『喰らえなかった』のか。
……晴明殿の結界を越えて、京に入り込んだ小鬼の仕業であろうと検非違使庁は断じた。
あの時、血の華を見つめながら俺はようやく知った。
嗚呼、俺は。俺はずっと……
『………貴女を。慕っていたのだ』
〜
「………小鬼の…足跡…」
過去を垣間見、戦いの本懐に触れたリッカの脳裏に、一つの帰結が導かれた。
人を喰らわぬ鬼。人を喰らえぬ鬼。母に、厳しく躾けられた鬼。鬼でありながら、何処か人らしさを捨てきれぬ鬼。
『これは、彼が懐いている想い。けれど、誰にも届くことの無かった心の残滓』
アジーカの告げる通り、ここには誰にも伝わる事もない想い。彼の胸に、彼だけの胸にあるやるせない虚しさのみがあって。
『彼は、迷っている』
彼は分かっている。理解している。死者は蘇らないし、よみがえってはならない。天然自然の理を、覆してはならない。
しかし。…しかし。彼は今、夢を見て、その夢を叶えるために刃を振るっている。今度こそ、今度こそ…
今度こそ、誰かを護り抜き。そしてその果てに、ついぞ叶うことの無かった…あの、追憶の彼方に在るあの人の笑顔を取り戻す夢を。
「それが…綱さんの、天覧聖杯戦争に懸ける夢。懸ける、願い」
それは絢爛にして、眩き夢。それが例え、悪鬼外道に用意された、甘い言にして罠なのだとしても。その胸に秘めた夢を懸ける事により、奇跡を起こすことが叶うならば。彼は、思わずにはいられないのだろう。
『…でも、彼の願いを汲み取る盃は、濁っている』
アジーカの言葉に頷くリッカ。今回の聖杯戦争は、リンボの仕掛けた罠。恐らく、聖杯の行く末は既にリンボの手にあり、彼の願いは、きっとどこにも行く事は無いのだ。
「…止めなきゃ。彼を止めなきゃいけないよ。アジーカ」
リッカはその願いを見た。思い出の中で輝くあの人が、何もできずに抱えた、強さにて何も護ることが出来なかった虚しさが本物、本心である事を理解した。
だからこそ…その願いを、リンボに託すわけにはいかない。リンボの願いの糧、礎にする訳にはいかない。こんな、悪辣な儀式に懸けていい願いではないことを、心から理解し、把握したのだ。
『どうやって?それでも、彼は見ている。聖杯の輝きを。奇跡を信じ、願いを込めて』
「ううん。綱さんの願いを利用して、目を曇らせて、殺し合わせてる。奇跡なんかじゃない。皆の願いを喰らい、誘う呪詛だよ、これは…!」
彼を惑わし、幻を見せてみせる。この願いで聖杯が蘇らせるのは、人間の形成物で出来た何かであるのだろう。少なくとも、リンボの手にある聖杯である限り。
「リンボを倒して、聖杯を取り返して…その上で、綱さんに聞いてみよう。本当に願いを告げたいのかって。本当に…あの日の大切な人が帰ってくるのかを、改めて」
『うん。──でも、あの人がどんな形であれ、遺したものは全て、無に帰してはいないから』
「うん!まだ…。…それが、あの人が残したいものかどうか、残したかったものかは分からないけど」
それでも。彼の…彼の愛した人が遺したものは確かにそれはあるのだ。…そして、彼が願いを叶えたとして──否定されるものがあるから。
「──どんな事があっても!生まれてきた事を否定なんてさせないから!」
今を、そして未来に繋がる命。その存在を──リッカは護ると決めたのだ。
茨木「カグツチめ。一体何処に行ったのだ…?」
どんな理由があろうとも。存在を否定されていい者などいないのだ。
そう──例え、その生誕が、どれ程忌み嫌われていたのだとしても。
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