人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「───!!」

桃子「大丈夫ですか?リッカねぇ。ぼーっとしていましたが…」

マシュ「立ちくらみでしょうか!?」

リッカ「う、うぅん。なんでもない!…」

(…土足で人の心に入るの、良くないよ。私)

頼光「呆けてはなりませんよ、リッカ」

「!」

「サーヴァントとして、あなたに出来ることを成すのです。意を通すのなら。通したいのならば」

リッカ「──はいっ!!」

イザナミ『ど、どっちが勝つのタケちゃん!?どっちも勝ちじゃダメなのかな!?』
ツクヨミ『運動会じゃないです…』
カグツチ『決め手は…想い』

タケちゃん『心の在り様、覚悟の形。それを自覚しているか、だ。金時に気付かせる事ができるか…だが。さて』

将門公『決着。間近也』
アマテラス『ワフ!』

イヌヌワン(豪華面子すぎる…)
アンク(日本の重鎮しかいないのよね…)
フワイサム(どこでも神無月)


黄金の決意・紅蓮の意地

「クソっ…押し切れねぇ…!」

 

マサカリを叩き付け、剛力を発揮しておきながらも綱を押し返せずあろうことか真っ向で拮抗される自分の不甲斐なさに歯噛みする金時。怪力無双で知られた自分がなんたる失態、なんたる醜態。自身で自分が許せぬと地面に頭を叩き付けたい気分だが、今は悔やむ時ではない。負けてはならぬ理由があるのだ。しかし今、自身は綱に負けている。技術ではなく気合、魂の話だ。

 

(京を護る、平安をもたらす誓いは同じと踏んではいたがよ。きっとそうじゃねぇんだ。同じなら、卜部のおっさんに碓井の兄貴が遅れを取る筈がねぇ)

 

そう、それ以外。自身に足りず、綱にあるもの。魂の芯、根っこがきっとこの差を産み出している。自身の不甲斐なさは、まだそれが足りないからだ。リッカの力になるとの想いが、綱が懐く何かに足りないからだ。

 

(オレには何が足りねぇ?技術は元からねぇ、頭もそれほど良くはねぇ。オレにあるものはなんだ?何を想えば、何を馳せれば届く!?)

 

それが何かわからない。リッカの為、平安の為、そして誰かのために振るう力に迷いはない。全身全霊で懸けるべきものたちを総動員している今の結果がこれなら、自分に足りないものが必ずあるのだ。

 

(とは言っても──これ以上、何の為に戦えばいいのやら!皆目見当もつきやしねぇ!護りたいもの全部、背負ってきたつもりだがよ…!)

 

マサカリの一部一部から、スパークが起き始める。許容量限界を越えた雷電エネルギーが、マサカリの部分から溢れ始めたのだ。拮抗の終焉が、近い。

 

(分からねぇ…!オレには、何が足りねぇ…!)

 

誰かのために戦うのか。平和の為に戦うのか。平安の為に、なんの為に?誰の為に?想いを巡る度、答えは堂々巡りに戻りくる。

 

(オレぁ…どうすりゃあいい…!)

 

「終わりか──金時!!」

 

火焔、紅蓮迸る綱の髭切が拮抗を進める。あと一押しにて、マサカリごと金時を断ち切れる必殺の間合いに至る。

 

「くっそぉお…ッ!!」

 

悔恨と苛立ちに、金時が無念の咆哮をあげる。見ていた源氏郎党、誰もが確信する。綱の勝利を。源氏会議の終焉を。

 

「金時兄ィーーーーッ!!!」

 

──否。まだ終わっていない。まだ決まってはいない。ここに来て、ここに至って彼の勝利を信じている者は一人。どちらの無事を願うは一人。

 

「リッカ…!」

 

金時に魔力ブーストをかけ、拮抗させる。リッカは彼のサーヴァント。だからこそ、何よりも彼の勝利を信じるもの。だからこそ、彼に贈る言葉が…想いがある。

 

「誰かのためじゃない!!」

 

リッカは叫んだ。金時に足りないもの。最期の力の気迫を出し切る、丹田から力を放り出す気合の秘訣。

 

「自分の望みを信じて戦って───!!!」

 

「──!」

 

自分の望み。リッカに伝えられた想いと言葉は、金時の魂に火を入れる。

 

(誰かじゃなく、自分の為。自分の為かよ。そいつがオレに足りなかったものなのか?)

 

リッカの言葉を受け入れ、思案する──いや、理解する金時。そう、綱も。綱の兄貴もそうなのかと。

 

(アンタもそうなのか?譲れねぇもんの為に戦ってるのか?誰かのためは脇に置いて、てめえの為だけに今、刀を振ってるのか?)

 

大将に知られたなら大目玉な真実。しかし金時──彼は、上等と微笑んでみせる。

 

(へへっ──成程な。そりゃあオレは勝てねぇ。負けるわけだぜ。懸ける気合もノリも違うんだからよ。完敗ってやつだ!)

 

そう──自分の願いの為とは、好きなようにやるということだ。自由気ままに、自分の全力を出すという事だ。碓井、卜部が勝てなかったのはこれが理由だ。

 

(てめえの譲れねぇもんの為に戦う漢、不退転は自明の理!そいつぁそうだ、そうだった!)

 

誰より自分の為。足柄山にいた時も、ブチのめした悪党もだから強かった。てめえの魂に通す筋金、そいつこそが願いであり想い。あるやつが無いやつを蹴散らす魂の在処。

 

(だからこそアンタは強い!アンタは今、てめえだけの為に戦ってるんだな!んでもって──)

 

それでいて、自分もまたそれに勝つには自分の意志を貫かなくてはならない。自分だけの願いなくば綱には勝てない。それを見つけねば──

 

「──いいや!探す必要はねぇ!『どう』なのかがわかりゃ、『どう』やるかはみえてるってもんよ!!」

 

瞬間──金時の気迫が段違いに上昇する。烈吼、激昂、奮起、奮迅。その威容、まさに雷神が如くに立ち上がる。

 

「うぉおぉおぉぉおぉぉおぉぉおぉぉおぉ!!!」

「なに、っ…!」

 

『あなや押し返し!?』

『スサノオみたい…』

『ワフン!』

 

神すら驚愕する程の底力、馬鹿力。火事場の力を捻り出せしは坂田金時。迷いは振り払ったとばかりに綱を見据え、啖呵を切る。

 

「オレの大切なサーヴァントが教えてくれたぜ!綱の兄ィ、今アンタはてめえの喧嘩をやってやがる!責任そこのけと手前勝手な戦いだ!そうだろ!」

「それがどうした…!」

 

「どうもしねぇさ!ただアンタの強さが解ったってだけだ!だから──『俺もそうするまで』の事よ!!」

 

片膝を立てた金時、なんと決まりの態勢から五分へと持ち直す。マサカリが、黄金の閃光が紅蓮の炎を押し返す。

 

「綱さま!支援魔術を!」

「金時兄ィ!」

 

同時に付加される強化魔術。神代の魔術に対し、リッカ自身の魔術は自己強化、汚染特化。その出来映えはサポートに不得手。しかし──彼女には、カルデアの全てがバックアップに付いている。総動員すれば、神代の魔術にすらも拮抗してみせるのだ。

 

「この、力は…!」

 

「オレは誰かのために戦うのが好きなのさ、兄ィ。あくせく働く親父、家庭を支えるお袋。無邪気に遊ぶガキ…迷いなく、平和が続くと信じられる明日を護りたいが為に戦ってるのさ」

 

そう、彼は助けを求められれば助ける。平穏の願いを以てマサカリを振るう。──だが、その戦いにて大切な事を理解した。

 

「誰かのため、ってだけじゃあ腰砕けよ。イヤイヤやってちゃ意味ねぇし、疑問を持つんじゃそりゃウソっぱちだ。折れねぇ、曲げねぇ為にはその戦いにもひとつ、てめえの意地を通さにゃならねぇ!」

 

金時に叶えたい願いはない。いや、無いと思っていた。──リッカの言葉で、見つけたのだ。自身の願い、自身だけの戦う理由を。

 

「オレの願いは──あいつらの平和を護ることだ!そんでオレたちの未来に繋がるリッカを護り抜く事だ!そいつらは、オレが好きな奴等だから護るのさ!譲れないから戦うのさ!失いたくねぇからマサカリ振るって踏ん張るのさ!」

 

そう!平和に生きる者たち全てが好きだ。そして何よりも、遥か未来からやってきた妹分が好きだ。未来に繋がる今が好きだ。だから護る。だから負けない。だから勝つ!

 

「意地を張るのはなんの為!人を護るはなんの為!なんのことぁねぇ──オレが!!そうしたいってだけの事よ!!」

 

最早迷いは無い。金時の心は澄み渡り、剛力は荒れ狂う。誰かの為ではない。誰かのためは、最早誰かのためでではない。

 

「だからこそ──!」

 

だからこそ、だ。負けて哀しませる訳にはいかない。負けて希望を消すわけにはいかない。理由は単純明快──

 

護りたい者達が、曇ってしまうから!笑ってほしい奴等が、泣いてしまうから──だからこそ。だからこそ──!

 

「負けたくねぇから!負けねぇんだよぉおぉおっ!!!」

 

自分の為に、負けられないのだ。それが彼が見つけた、黄金の決意(ゴールデン・デターミネーション)──!!

 

「行けぇーーーッ!!!金時兄ィーーーッ!!」

 

瞬間──或いは。かの鬼は、これを見越していたのか。ただの偶然であったのか否か。

 

「行くぜ!!必殺───!!」

 

リッカの意志に呼応し、酒呑童子から受け取りしあかし、即ち令呪のすべてが金時に力を与え、そして──!

 

「ゴォオォルデン!スパァアァアァク────!!!!」

 

残りのカートリッジ全てを注ぎ込んだ渾身の一撃、雷神の鉄槌が如き一撃が、綱と辺り一帯を破壊し消し飛ばす──!

 

「く、っ──!!」

 

リッカすらも吹き飛ばされんとする大衝撃を、頼光と神々がそっと支える。神田明神の天空に走る青天の霹靂。勝者はどちらと、固唾を呑む源氏郎党。

 

「───……」

 

そこには──

 

「く、っ……」

 

仁王立つ金時と、メディアを庇い、膝を付く綱の姿。勝敗は此処に決した。神田明神の陽が、傾いてゆく──。




綱「……俺も。未熟に過ぎる。よりにもよって、力比べをお前に挑もうとはな」

金時「技だの手先よりかは好きだぜ、俺ぁ」

「フッ。…何よりの未熟は、だ」

「あ?」

「…死した者は生き返ってはならない。死したものを呼び戻してはならない。創世の頃より決まる戒律を、お前の雷撃にて漸く思い出した事に他ならん」

メディア「綱様…」

金時「間違ってる、とは言わねぇさ。願いを叶えるってんなら、ワガママは押し通すもんだ」

綱「それでも、だ。…俺が望んだあの方が、かつてのあの方と同じ筈がない。俺の想いは、誰ともなく消えたものなのだ。血と肉を集めたところで、人にはならぬように。…夢は、夢のままなのだ」

金時「兄ィ…」

綱「だが。…だがな金時。気持ちのいいものだぞ。己の為だけに、力を振るうというのもな」

金時「…あぁ。久々に、山にいた頃を思い出したぜ」

リッカ「兄ィ!綱さん…!」

綱「未来の棟梁。…強いな、お前は。何より、心が」

リッカ「ううん。皆がいてくれるから私は強くなれただけ。それより、ごめんなさい。私はあなたの、願いを見ました。心を覗き見て…」

綱「願いを?…そうか」

「…無礼討ちを、覚悟の上です」

「いや。…確かに、虚しい願いであったが…」

リッカ「!」

「恥ずべき願いではない。見られて恥ずかしいものでなし。気にするな、棟梁の娘よ」

リッカ「…誓います。あなたに。もうこの手段は、使わないと」

綱「あぁ。自分を苦しめる兵法は止めたほうがいい」

そして綱は、メディアに支えられ立つ。最早その顔に、決意の仏頂面はなく。ただ静かな微笑みがあった。

将門公『雌雄、決したり』
アマテラス『ワォーン!!』
ツクヨミ『スサノオリスペクト…』
カグツチ『殴り合い重点』
タケちゃん『青いな。だが、悪くない』
イザナミ『ほっ…無事で良かった…!』

桃子「頼光マッマ」

頼光「えぇ。──我等源氏郎党!天覧聖杯戦争に大悪の疑いありと総意を以て左大臣に奉る!これにて!源氏会議を終えるものとする!!」

金時とリッカの勝利により、遂に天覧聖杯戦争は終結を迎える。

メイ『……』

そして、特異点の戦いは終焉に向けた局面へと移る──。

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