タケル『そうか』
カグツチ『私、ばらきーを助ける』
ツクヨミ『いってらっしゃい…』
イザナミ『聞いてたもー!?リンボにて歪められし魂!私なら元に戻せます!そう!!この!イザナミおばあちゃんのおにぎりにて!!』
タケル『…そう言えば、この側面のそなたの飯は浄化の側面があったか』
ツクヨミ『食べさせれば、元に?』
イザナミ『えぇ!みませりこの立ち上る神気!ほかほか〜。きっと必ず気に入ってもらえまする!』
タケル『食べるか?…イザナミの飯を』
ツクヨミ『私は…パス…』
カグツチ『黄泉永住は…いやかも』
イザナミ『アナヤァー!?』
アマテラス『ワフ!(私が説明しますので!)』
イザナミ『アマヤァー!!(ひしっ)』
アマテラス『グギュ…』
タケル『…ならば、封ぜねば意味はない。まずは初手だ。やってみせよ、大将軍…』
【はぁあぁあぁあっ!!】
「…っ」
大通連、小通連。神通力の宝刀と、征夷大将軍のみが振るう黒き大太刀、坂上宝剣が鎬を削り合う。それはかつて一度だけ繰り広げられた、二人の戦い。出逢う前、出逢った後に結ばれた刹那のみに繰り広げられた、たった一度の殺し合い。それがいま、京の一角であらん事か再現されている。片や征夷大将軍、片や天魔の姫…ならぬ、豹尾神として歪み果てた姿にて。
凶猛にして怒濤の刃は、徹底的に田村麻呂を打ち据える。類まれなる神通力により浮遊する三つの刃は、躯となった鈴鹿の意志に応え暴れ狂う。その猛威は、最優クラスのセイバーを名乗るに何ら不足なきものだ。本来の彼女であったなら、相手が田村麻呂で無かったら。勝負は一瞬にてついていたことだろう。しかし──
【流石だね、マロ。やるじゃん】
征夷大将軍、即ち武者をも越える日本の窮極。彼のみが懐いたその名と武勇、決して偽りではなく。不規則自由に乱れ舞う三つの宝刀、足捌きと僅かな太刀筋にてずらしかわして捌いてみせる。その身に傷一つつかぬ絶技、まさしく日本の武者の頂点が武勇。
「……」
しかし、田村麻呂は語らない。話さない。静かに悲哀の籠もった目を豹尾神に向け、悲しげに口を結ぶのみ。黒き峰、紅き刃の絶刀は、ただの一度も豹尾神を打ち据えない。
『田村麻呂、アンタ…』
鈴鹿は解っている。信じている。本気を出した田村麻呂の前に太刀打ちできるものはだれもいない。閻魔、地獄にすら怒鳴り込み自身を奪還してみせた超弩級の快男児にして大将軍。それがよもや魔に落ちた妻になど苦戦する様子など有り得もしない。しかし今、田村麻呂は一度もその太刀を振るわない。
【…まさか、手加減とか考えてないよね、マロ】
「…」
まさか、取り戻す、元に戻すなどといった答えに期待しているのか。そんな甘い見通しを、豹尾神は真っ向から否定する。
【無理だし、無駄。あの時とは状況が違うの。アタシは生前じゃない、サーヴァントって影法師。この身はとっくに死んじゃって、マロが愛してくれた鈴鹿じゃないの。割り切って】
「……」
【でないと、殺しちゃう。京の皆を、京の明日を、京の未来を。アタシが、貴方が愛した京を全部、全部。アタシがこの手で…】
…田村麻呂は見た。血の涙を流す豹尾神を見た。死体は喋らない。死体は笑わない。死体は泣かない。となれば彼女の魂には残っている。誇りが、だ。
【お願い。そんな事させないでよ。アンタが、あなたが私を止めてよ。頼むからさ…あんたがいてくれて、どれだけアタシが安心したか解る?アタシ、誰も殺さなくていい。アンタが私を止めてくれるって…】
「……」
【辛いことさせちゃうよ。解ってる。苦しいけどさ、こっちも情けなくて、申し訳ないけどさ…武士の情けって、あるじゃん。止めてもらえるならアンタがいいんだよ。大好きなアンタがいい。だから、お願い…】
『…田村麻呂。アタシからも。これ以上、あの私を辱めさせとくの、ナシでいたいじゃん』
「……」
『……田村麻呂?』
此処に至って、田村麻呂は何も告げない。話さない。流石におかしい、まさか茫然自失で我を失ったか?そう至った矢先──。
「…いや、今気付いたんだけどよ…」
田村麻呂は言葉を発する。それは、彼らしくも破天荒極まる物言いにして状況を破壊する言葉。
「言うてオレ、出番もらったばっかの言っちまえばポッと出だからさ…こんな一話とか丸々使ってもらっていいのか今になって怖くなってきたんだわ…」
『そっち!?んで今更!?』
「や、そりゃあ格とか色々は劣らないとは思うんだがよ。だからといって源氏の皆やあのウラネキいちおしのマスターちゃんの活躍を奪ってまでオレの活躍見たいもんか?と考えたら怖くなっちまってな…大丈夫かな…皆に不快な想いさせてねぇかな…」
【……そういう奴だもんねあんたは!ちょっと愁嘆見せて損したわ!マジ死ね!ホント死ね!】
豹尾神、一転して刃を天に掲げ展開するは250の大通連。神器たる宝剣を空中全域に展開し、下界の全てを貫き雀刺す必殺の宝具。
【草子、枕を紐解けば。音に聴こえし大通連。いらかの如く八雲立ち、群がる悪鬼を雀刺し…!】
「誰か悪鬼じゃボケェ!!イケメン田村と言い直せ鈴鹿!はいやり直し!やり直し!」
『あーもう!なんでこんな迸る馬鹿なワケコイツ!?全然治ってないし!全然変わってないしー!』
【文殊智剣大神刀──!!……恋愛発破!【天鬼雨】!!】
瞬間、放たれる無数怒涛の刃の奔流。詠唱の通りに叩き込まれる大通連の大瀑布。一刺し刺されば即座に百舌鳥の早贄の出来上がりな凶猛凶刃の嵐。田村麻呂を最愛の刃が襲う──!
『あぁあもうダメ終わったじゃんこれマロのバカー!!』
思わず目を覆う鈴鹿。愛する者の串刺し刑など見たくないと半泣きで顔を覆い隠す。
───しかし。そんな妻の思惑すら、そんな躯の攻撃すらも。征夷大将軍は遥か上を言ったのだ。
「聖なるバリア!田村フォオォォオス!!」
田村麻呂、烈吼の気合と共に太刀を振るい大回転。遠心力と力任せに振るわれたそれは、魔力を担う大竜巻となりて辺り一帯を切り刻み巻き起こる。さすれば何が起こるのかは明白。
【なっ──!】
全て。大通連の全てが、田村麻呂の起こした竜巻に叩き落され、弾き飛ばされる。神通力、摩訶不思議な力に対抗する最適解それはパワー。そして力。それらを日本最高クラスの力でやってのけるは征夷大将軍が田村麻呂。
「征夷大将軍ジャンプ!矮矮矮矮っ府ゥ!!」
そしてそのまま、自らの脚力にて大地を割る勢いの大跳躍。天にある豹尾神への距離を一瞬にしてゼロにする。その速度はあまりにも速く、豹尾神が身動ぎすらできない神速、電光石火のもの。そして其処は、田村麻呂必殺の間合い──!
「必殺!!必ず殺すが鈴鹿はもうしんでるみてーなので鎮魂!!」
そして大太刀を上段に構え、必殺…いや介錯鎮魂の一撃を叩き落とす。まさに落雷、青天の霹靂が如き勢いの生ける神が如き技。その一撃の名は──!
「田村!!ダイナマイッッッ!!!!!」
【ッッッ、あ───】
目を覆いたくなるようななんとも言えぬ名称とは裏腹に、それは武蔵、リッカが辿り着いた【業】を断ち切る至高の一撃。既に極みに辿り着いているに等しき斬撃が、鈴鹿の躯に巣食う呪詛を切って捨てる。
「よっ、と!」
地面を割りながら着地し、力無く落ちる豹尾…否、鈴鹿を受け止める。彼はもとより一度しか刃を振るわぬと決めていた。愛する者への刃は。
「やっぱり目が赤くないほうがイケてるぜ、オレの鈴鹿よ!わりぃな、苦しめちまって!」
「ばか、なんで早くやんないのさ。もう少しで殺すとこだったじゃん…」
「当たり前だろが。躯躯言うから覚悟決めたのさ。何せ躯は丁重に扱うもんだろが。ましてやオレの嫁なら尚更だ!惚れ直したか鈴鹿よぅ!」
「あー…あーもう。惚れ直した惚れ直した。頭から爪先までもう夢中だってのバカ。ホント、バカなんだから…」
『んでもってさー…技名ダサすぎなんだけど!!シリアスもたないのアンタ!?』
田村麻呂の腕の中で安堵の涙を流す鈴鹿。緊張の糸が切れがなり立てる鈴鹿。両手に鈴鹿とか幸せもんだなわっはっは!!と笑う田村麻呂。
──征夷大将軍に、小賢しい目論見や悲劇などは存在しない。閻魔にすら殴り込んだド級の馬鹿なれば。彼に並ぶ猛者や武者など何処にも存在しないのだ──。
鈴鹿『でさー。倒しちゃマズい訳だから安倍っちが作った札で魂を固定するっていう話なんだけどさー』
田村麻呂(鈴鹿にディープキス中)
鈴鹿(豹尾)「んっ、ちょ、今、話し中だって、んっ…」
鈴鹿『あのさー!!見せつけないでほしいんだけどさー!!なんでアタシがそっち行かないか解ってるわけー!?』
田村麻呂「んー!やっぱ鈴鹿は鈴鹿だぜ!遺体とか躯とか関係ねえ!だから気に病むなよ。サーヴァント歴長けりゃ外道に招かれることもあらぁな!」
鈴鹿「……ありがと」
「おう!ま、リンボは殺すが。…っておい!?消えてねぇ!?」
『人の話聞けっての!!札!札付ける!』
「あーこれか!えい!」
「はう!」
『これでよし、なんだよね?』
「…色々ごめん。応援、してるから。今の時代の皆にさ、力貸してあげて?」
田村麻呂「おう!鈴鹿!」
「『何?』」
「カルデアの方な!…どうよ、マスター。いい感じか?」
『──サイッコーのマブダチ!ベストフレンズじゃん!』
「そっか!そうかー!なら──田村麻呂をゲットしてもらうかなぁ!!」
鈴鹿「ふふ、ガンバ。アンタならきっと…」
──そして、札に仕舞われる魂。豹尾は今、討ち果たされた。
「…お休みな。鈴鹿。さて!じゃあ援軍に…!」
鈴鹿『…!待って田村麻呂!海の方にまた、サーヴァント!これ…!』
「───アテルイじゃねーか!?」
波乱は続く。かつて討ち果たしてしまった盟友が、まつろわぬ者として、更に八幡神が一角として──。
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