人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カグツチ『大江山はどうなってるのかな』

茨木童子『水鬼、風鬼、隠形鬼の術にかかっているな。地滑りに土砂崩れ…指揮系統はバラバラであろう。チッ、小賢しい。カグツチ、そなたどうやって…』

『焼く』

『は?』

『レア風味で焼く。ばらきー、これが最新の手段。まさに…汚物は消毒』

『過激だな汝!?やりすぎるなよ!?』

『大丈夫。九割大丈夫』

『一割しくじったら世界が終わるのだぞー!?』


情けは鬼の為ならず

「羅生門!!大怨起ーーーーーッ!!!」

 

【グォ…──】

 

大江山。雨と風が逆巻く鬼の本拠地にて、茨木童子の渾身の秘技が金鬼の顔面を掴み、叩き潰す。鬼の盟約に従い、リッカ達に加勢に向かわんとした矢先の四鬼の奇襲。出鼻を挫かれ懸命に体制を立て直す茨木の姿がそこにあった。

 

「随分と器用な鬼もいるもんやねぇ。ここらじゃ見かけん顔やさかい、知り合いではなさそうやけど」

 

「アルターエゴ・リンボがよこした式神であり、思考をしてはいないようです。あれはいつぞやに朝廷を襲う鬼…悪鬼という訳ではないようですが」

 

酒吞は大木や河の流れを是正し、鬼達の救助に邁進している。見つけ次第に治療もそこそこに都に飛ばす鬼畜リクルートではあるが、水鬼と風鬼が巻き起こした嵐にて、指揮系統と進軍はメチャクチャになってしまっているが故の措置である。

 

「晴明が式神はよき囮となった!が、これでようやく一匹か。これでは盟約を果たせぬ…!」

 

「隠形鬼により、山全体に迷いの術がかけられています。そしてこの暴風雨…地滑り、土砂崩れが頻発していては流石の鬼と言えど進軍は難しいでしょう」

 

したり顔で説明するパラケルススに若干苛立ちながらも、茨木は冷静に状況を見据える。手下の鬼共はそれぞれ下山しているか食われたか。大江山がこの有り様では流石に本拠地としては機能しないだろう。

 

(しかし、この鬼どもが京になだれ込めば人間どもは殊更手を焼くであろう。星熊たちも奮起してはいるが、全滅は時間の問題…このままでは消耗戦にしかならぬか。ならば──)

 

「しゃーないなぁ。うち、ちょこっと荒ぶって道開くさかい、茨木は京に行きや?大丈夫。あれくらいなら朝飯前で…」

 

「いいや、酒吞。──鬼とは、約束を違えぬものだ。…キャスター!」

 

茨木の言葉、即ち首魁の号令にパラケルススは頷く。そして先に晴明と仕掛けていた、万一の為のギミックを発動する。

 

「…茨木?キャスターはん?なにしてはるん?」

 

「すみません、マスター。茨木殿と話をしておりました。もし大江山が落ちることあらば、『マスターと生き残りの味方陣営を京に送る』と」

 

その狙いは殿であり、相手の戦力の引き受けだ。ここでかの鬼達を食い止め、そして盟約を酒吞に果たしてもらう。味方は晴明の式神と、酒吞しか残っていないかもしれない。だが、茨木にはそれで良かった。

 

「元々鬼など一人で良いのだ。温羅の様に他の追随を赦さぬ無双の在り方も、酒吞のような天衣無縫の在り方も吾には出来ぬ。そなたら二人が鬼としてあれば、鬼種の本懐は果たされるのだと吾は信じている」

 

「何言うてはるん茨木。あかんよ。そない捨て鉢なんてあんたらしくもない。お仕置きされたいん?今すぐ止めんと…」

 

「すまぬ、酒吞。…吾にはそなたのような気儘さも、温羅のような強さもない半端な鬼だ。だからこそ…」

 

だからこそ、この義理を通す事と、嘘を付かないことだけは貫き通したい。それが自身の、母より『鬼であれ』と教え込まれた自身の矜持であるのだから。

 

「茨木!」

 

「吾等鬼が何処に行くのかは解らぬ。解らぬが…願わくば酒吞、そなたはそなたの行きたい場所に行ってくれ。それで、吾は救われるのだ。───キャスター!!」

 

「転移します。──ご無事で、茨木殿」

 

酒吞、パラケルスス、式神、生き残りの鬼が大江山より離脱する。転移し、京へと向かったのだ。此処に残りしは、茨木と三騎の鬼のみ。

 

「無事か。無茶を言ってくれるものだ。まぁ温羅程の力持つ鬼などあり得まいが、天変地異起こせし鬼に妖術操る鬼。何故無事でいられようか」

 

茨木の前に現れし、その鬼達。水鬼、風鬼、隠形鬼。獲物が残り一人であることを認め、現れたのだ。

 

【【【………】】】

 

「しかし───盟約は果たすもの。大将は最後まで戦い抜く事こそが肝要なのだ。酒吞のようにそれをやり。温羅のように己を貫く。果たして我に出来るか否か…」

 

だが、茨木は恐怖など感じていない。それは首魁として決めた覚悟と矜持が、彼女の自負として立たせているが故。

 

「やって見せて考えればよかろう!もとより鬼が小賢しく考えなんとする!思うまま、破壊のままに振る舞うが鬼の在り方よ!」

 

【【【!!】】】

 

「よくも吾と酒吞、…並びに温羅の宿を壊してくれたな!同じ胞と言えど、無礼千万な畜生共に掛ける情けなどない!」

 

そして茨木は奮起する。時間を稼ぎ、あわよくば道連れにしてでもこやつらを仕留める。それこそ、一度盟約を結んだ人間への礼儀。鬼は決して逃げぬ。嘘をつかぬ。これが、鬼の矜持。

 

「来るがいい!!異界の鬼が何するものぞ!大江山の茨木童子、貴様らに討たれる程軟では無いと思い知らせてくれる!!」

 

【【【!!!!!】】】

 

瞬間、ぶつかり合う鬼達。あわや激突し、互いの命が千切れ合い血が凍り肉が竦む戦いが起こる──。

 

その、刹那。

 

「──む?」

 

茨木はその視界に、何かを見た。鬼らが起こす嵐にて晒される今、見る筈の無いもの。見える筈もないもの。

 

「…──焔…?」

 

そう。揺れる焔、燃える火が飛ばす火の粉。何故今、この状態にて焔燃ゆるか。茨木だけでなく、鬼らも疑問にて空白を産む。

 

──その、次の瞬間。驚天動地の神威が山を、天を灼き尽くした。

 

【【【─────!!!!!???】】】

 

「う、うぉおぉおぉおぉおぉお熱い!熱い!?熱いぃいぃい!?」

 

豪炎、業火、篝火、神火。そうとしか言い様のない黒と緋緋色の火柱が山を全て覆い尽くし、その火柱は暗雲と雨を一瞬で蒸発させ、曇天を貫き天之柱と見紛う程の輝きを屹立させる。意味も解らず、身を焼く業火に悶え苦しむ鬼達。いや…

 

「む…?あつく、ない?」

 

茨木の身を、炎は焼いていなかった。屹立する火焔の柱、それは邪悪なる鬼を焼き払い、呪詛を浄めるだけにとどまり、それどころか茨木の、そして大江山の傷を再生、元通りにすらしている神威を顕している。

 

「な、なんだこれは?何が起きている…?」

 

無論、その業火は辺りにいた鬼達に慈悲はもたらさない。術ごと、肉体ごと瞬時に蒸発し、それでなお焔は燃え猛る。山の全てを薪として、燃料として。夜空を灼熱に染める超巨大な火柱。煌々と燃え盛り続ける。

 

…やがてそれが何れ程続いたのか。焔は勢いを保ったまま、即座に吹き消されたかのように消え失せる。山火事の極地の惨状を見せながら、大江山自体は何事も無かったかのように静まり返っている。

 

「吾に…味方したのか?あの焔は…」

 

そうとしか思えぬ現状。鬼は塵すら残さず消え果てた。自身はただ、呆然と立ち尽くすのみの無様を晒す。何が何やら全く解らぬと空を仰げば──

 

「…?」

 

其処に、火の神衣を纏いし幼子が、天へと登る様を見る茨木。何者なるや、敵か味方か。遠すぎて面すらも解らぬが…

 

「…汝の仕業か?ならばいずれ、借りは返すぞ…」

 

精一杯…あの焔がもし自身を焼く羽目になったなら。その戦慄の末路に武者震いを起こしながら、茨木は空を睨む。

 

『────』

 

その時。茨木にはその謎の神衣纏いし幼子が……

 

「……?」

 

───にっこりと笑い。手を振ったかのように。茨木の目に映ったのだった──。




カグツチ『良かったね、ばらきー。無事で』

楽園茨木『無茶をしたものだ…それが汝の全力か?』

カグツチ『ちょっぴり息を吐いたくらいの、全力』

『うむ、想像したくないな。汝の本気など…』

カグツチ『これで大丈夫…ん?』

──その時。カグツチは、天にそれを見る。

茨木『む、どうした!?』

カグツチ『…来る…』

来る。その名の通りに──

神【…………畏れよ。崇めよ………】

草薙の太刀を佩く、神の柱が天より来る──。

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