必ずや源氏の世。転覆せんが為に
『許せ、■■。私は、お前が解らんのだ』
……………兄上。───何故。
──平安京、東端。五条大路果ての郊外にて。洛中から些か離れた鴨川の向こう。常であれば賑わいから縁遠い其処に人が集う。
声の一切を発さずに包囲の輪を狭めてゆく。こと怪異殺しに手慣れた源氏武者の集団。包囲対象は一騎。…正しくは、大型の土蜘蛛に騎乗する人型の魔。
【……囲まれたか。成程成程、身の丈三丈を越す大土蜘蛛相手にし、怯えもせぬ。逃げもせぬ、叫びもせぬ。誰一人として毛ほども顔色変わらず太刀を握る。ならば貴様ら、無辜の衆生ではあるまいぞ】
その発言に、威風を以って返す武者達。
「然り、我等源氏武者!世の平安護るべくして左大臣殿に侍る武士、源頼光様の郎党である!大土蜘蛛を駆る魔のモノよ、名乗れ!」
【…源氏。源氏か。この地にも源氏あり。ならば喜べ玖賀耳之笠。我等は共に京にて本懐を為すぞ】
その発破に応えるかのように、声を上げ叫ぶ巨大土蜘蛛。それもまた、大いなる怪異にて人の世に仇為す魔性のもの。ならばそれを駆る者も然らば。
【源氏よ聞け。源氏よ聞け。儂は毒。儂は刃。儂は貴様ら源氏を殺すもの。我が身は怨の一文字。是なる歳破神・大土蜘蛛とともに、平安京に現界果たせし英霊の躯なる──】
──否。否であると躯は否定した。生者であろうが、亡者であろうが。けして消え去らぬものは此処にこそある。
【──躯となりても怨は消えず!我が名、歳刑神・平景清。推参。これより、景清は源氏鏖殺を開始する。源氏──死に候え】
「平の某、平氏武者か!未来にて守護者に帰依せぬ怨霊ならば、祓うまで──」
瞬間。刃が振るった。反応すら、身動ぎすら赦さぬ程の絶技。一撃にて、首を跳ね飛ばす鏖殺の号令。
【鏖殺開始せり】
その言の葉に偽りなく。第三の将神であるという大怪異を駆り、怒涛が如き土蜘蛛の群れを以て京を蹂躙する、魔。第四の将神、歳刑神・平景清。その歩みの跡には源氏生くる手立てなし。ただ、死に果てるのみ。
一歩歩けば源氏が死ぬ。
腕を振れば源氏が死ぬ。
なにをしても死ぬるのみ。最早京に源氏の生くる場所無し。
【之は宿痾である。源氏があれば、儂は殺す。故にそう吠えてくれるな。許せ。源氏ならざる敵が前に立ったならば貴様の出番よ。存分に喰らい殺せ】
歳破神、即ち蜘蛛の怪異にてそう語る景清。その言葉に呼応するかのように、それは現れる。
【そら、言った矢先に獲物が来たるぞ。仕留めてやらねばなるまいよ】
立ち上る霧。立ち込める蒸気。そしてそこから現れたるは、鋼鉄の鎧纏いし機械兵士達。
【源氏、預かり知らぬ玩具。かの聖杯戦争にて生き延びたキャスター辺りの術式ではあろうな。しかしこの霧、見えぬが心地良い。微塵たりとも源氏の匂いは起こり得ぬ】
瞬間、蒸気の中にて放たれる一斉掃射。歳破神たる眷属の土蜘蛛らを駆除せんと放たれる、制圧射撃。歳破神の周囲にある土蜘蛛が討ち滅ぼされ、行進を阻む。
【斯様に賢しき術を振るってみせる。しかし無駄、無駄な事。我等はけして止まりはせぬ。鏖殺果たすその日まで。鏖殺果たすその日まで】
歳破神・大土蜘蛛が苛立たしげに刃を振るう。その一振りにて、ヘルタースケルター達は吹き飛び、破壊され、無念にも道行きを阻むこと能わず塊に成り果てる。そして更に。景清は感知する。
【匂う匂う。臭うてたまらぬ。そこなる者等、姿を見せるが良い。源氏に連なるであろう者共よ】
その言葉は隔絶した探知があり、隠遁を極めた忍を炙り出す。其処に在りしは、二人。
「この声、その似姿は…覚えがある」
「貴女の、名をお尋ねしても?」
其処に在りしは風魔小太郎、並びに加藤段蔵。楽園が地に仕えし、二つの影が現れ問う。
【躯に名は不要。…というのが正しい将神であろうが儂は違う。儂は景清なれば、躯なろうが景清也】
「景清?しかし…」
【左様。儂は景清。怨の一文字背負いし黒色な刃。歳刑神・平景清である】
瞬間、大土蜘蛛が吠えた。獲物を見定めた矢筈の横槍に対する激憤の咆哮。しかし、それは景清もまた同じ事。
【はは!許せ!斯様なまでに源氏の匂い漂わせる絡繰なれば、之もまた景清が獲物!ははははははは!!】
そして斬りかかりし景清。素早く散開し、苦無と兵装にて迎え撃つ二人。その激突、交差の中で頭領たる小太郎の頭には仮説が浮かぶ。
(あの髪色、あの声音──)
【死ね──!】
(執拗なる首が一撃!この特徴、あの方に似ている。酷似している!背丈は違うが、これは正しく…)
そう、その姿形には覚えがあるのだ。楽園にて在る、かつてバビロニアにて招かれし武者。その在り方は似通っている。
「小太郎殿!この周囲、怪しげな術と空間が仕切られている模様!源氏に対する特効術が類か!」
「段蔵殿!」
その言葉通り、源氏に連なる者を鈍らせ、劣らせ、弱らせる術式を段蔵はセンサーにて感知した事を告げる。先の武者が鏖殺を見てもそれは明白。いや、正確には──
「ならば、此処は退きましょう。この情報、なんとしてもリッカ殿らに届けなくては!」
「承知!撤退にてございますれば!」
【逃がすと思うか、源氏共!】
尚も猛追する景清、しかし蒸気の霧はますますと濃くなり、景清らの視界と動きを強く強く鈍らせる。
「全員出るぞ!『不死身の混沌旅団』!!」
「『絡繰忍法・呑牛』!」
二人が宝具の開帳。現れし風魔の郎党が蒸気を火炎の渦に変え、その火炎を段蔵の巻き起こした風が炎の嵐として叩き付ける。
【ぬぅっ、小賢しき真似を…!】
景清は容易くかわしてみせるも、巨体にて鈍重な歳破神は直撃、少なくない手傷を刻まれる。しかしそれはあくまで薄皮一枚。命と核が脅かされるには遠く。
【逃げ果せようと無駄なこと。源氏、必ずや仕留める。それは儂がいる限り定まりし因果なれば。我等の歩み、断じて止まることはあり得ぬぞ】
二人が忍を有して、辺りの露払いを行うに留まる景清の一派。それらの原動力、正しく怨の一文字なれば。
【源氏は殺す。全てを殺す。待っているが良い、源氏が頭領よ。我等の怨、必ずや仇為し本懐を果たそうぞ】
再びの進軍を開始する源氏殺し、平景清。その歩みはまさに、平安と平穏守護せし源氏達の絶対が死に他ならず。通してはならぬ、無策にて挑むは必死が必定なる難敵なれば。その対策は、必須と言えるものである──。
鴨川・五条大橋
景清【……此処は…なんだ?橋。ただの橋と言うに】
(動かぬ。この躯の身。動かぬは何故であるのか)
「──それは源氏殺しの景清ではなく、その躯の方に思う所があるからだよ、景清くん。いや…景清『たち』とでも言った方が良かったかな?」
瞬間、目線をやれば其処には幼子。札…ではなく電子電光を放つ未来の端末に札を有する、ぶかぶかな陰陽服を着やる謎の少女。
【何者か、貴様。生者の気配がまるでせんが】
「最先端の技術は劣化する肉体を捨て機械に宿るがトレンドさ、向こう三百年の子孫さん。平景清、並びに──源義経」
その飄々とした態度ながら、断じて譲らぬ岐路にて語る。
「我が名は晴明、安倍の女郎。私の協力者たちはほぼ源氏、メタられては困るのだ。故に」
【…?】
「その不細工な蜘蛛と術、ここの橋で消えてもらう為に来た訳さ。理解したか?怨霊の皆様」
安倍晴明が今、源氏殺しが前に出陣を果たす──
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