儂は個ではなく群である。
儂は儂として形を得たときより平景清である。
景清は一人にあらず。少なくとも三十七の景清ありて頼朝を狙った。
景清死しても、景清は死なず。
必ず次の景清が現れ、源氏に仇為す。
やがて景清は、座に刻まれし儂に誰かが言った。
景清は源氏を殺す概念であると。
そして平安の都。亜種空想樹によって歪み果てつつある事象。
源氏を怨む概念・伝説の平景清は、
源氏を怨む概念・伝説の源義経を依代とした。
英霊義経・奥底に秘められし怨の一文字!
即ち兄、頼朝への憎悪!
儂は景清であり、義経である。
義経であり、景清である。
源氏死すべし。源氏死すべし。
──だからこそ。なればこそ。
〜
──何故ですか。兄上。どうして。何故、どうして…
〜
…お前の涙は、いつぞや晴れるのか。義経、いやさ牛若よ…
【些か…時を、捨てすぎた…!】
晴明の縛鎖、かの鬼の介入。放り捨てられてそのままにはや一時、歳破神すら打ち破られ、残るはこの身、この宿痾。無念に歯噛みし、慚愧に呻くは怨霊景清。
【この恨み、憎しみは力となる…!忘れぬ、忘れぬぞ安倍晴明…!この屈辱は貴様の結界内、すべての命の鏖殺にて贖ってくれる…!】
赦さぬと吠え、赦さぬと猛り、赦さぬと狂う。まさに一つの怨霊、狂える魂。すぐさま駆けると、跳ね起きて──
【…しかし、橋、か】
何故か、と景清は耽る。全く覚えはない。覚えは無いのだが…その橋から、目が離せぬ己がいる。
──覚えている。覚えているのだ。景清には、一切の見覚えがなき橋であっても。義経の、義経の躯が覚えている。義経の戦いは、此処にて始まったのだから。
〜
『むざむざとは通さぬぞ。ここを通りたくば…そうさな、腰の太刀をよこしてからにするがよい』
…弁慶。
〜
『牛若、牛若。お父上の無念を必ずや晴らし、あなたは兄君と共に平家一門を滅ぼすのです』
…母上。
〜
『はは、牛若丸。常磐によく似て麗しきこと。お前を死なせん。おまえを儂は護ってやろう。おまえは源氏が、平家一門に破れたる証なのだから。』
…平清盛。
〜
『天晴れ天晴れ!人の身でよう鍛え抜いたものぞ、遮那王!だがな。僕の六韜三略を盗み見たことは許さぬ』
…師匠。
〜
『ゆめ忘れるな、九郎判官。俺を討てば戦が終わると?否。頼朝殿の敵は平家と俺だけではないだろう。次は、おまえだ』
…義仲殿。
〜
『何処までもお供いたします、義経様。どうか最期まで、私をお側に於いてくださいね』
…静。
〜
『千歳丸殿は拙僧が御守り致します。まずはこの場を生き延びましょうぞ、義経様!』
…常陸坊。
〜
『許せ義経。私には、お前の事が解らぬのだ』
………兄上。
〜
【何を…】
何を逸る。何を想う。脳裏に溢れる、景清に思いもよらぬ記憶たち。郷愁たち。
【鏖殺たる躯に宿る記憶か?…ありえぬ。今更、今更なれば】
怨の一文字。源氏を憎む意志を持ち合一を果たした義経に景清。今更、今更以て何を耽る。何を想うと宣うのか。今更、何を以て…
「──────待たれよ」
【!】
然し。その迷いにか、はたまた否か。その身、鏖殺の化身が彼に声を掛ける者がある。それは、金髪碧眼の荒武者。
「──貴様、見るに只ひとにあらず。斯様な夜更け、太刀佩いて橋渡るとは、怪しき者。【むざむざとは通さん】。此通りたくば!拙僧に腰の太刀を寄越してからにするがいい!」
【……、………?】
現れし源氏郎党。遂に来る鏖殺の要。先の術にて、口惜しくも源氏殺しの呪詛は消えて果てたが、それとしても。
【なんとも妙な言の葉を告げてくる。なんのつもりか源氏郎党。儂は景清、如何なる言の葉も無意味】
「それはどうかな。あなたに覚えがなくても、確かに覚えはある筈。その躯が、その魂の誇りがきっと」
そして傍らに、橙の髪を有するが女。童子切安綱構えし、威風なる猛き様相もたらす女。紛れもなく、源氏郎党。
「弁慶の真似、ってのをやってみたんだが、どんくらい似てたかねぇ、源義経」
【…儂は源氏殺すもの。即ち景清。貴様は何も知らぬ。『貴様が弁慶を語るな』。源氏郎党、源氏に連なる命めが…】
「いいや知ってんぜ、牛若丸。いやさ九郎判官義経。オレたちの明日を生きた武者さんよ。オレのサーヴァントは何を隠そう、アンタのそのまた明日を生きた天下泰平の申し子!左大臣認める、未来が源氏の棟梁よ!」
「……ッ」
ちょっと身体の節々から昇華の証が漏れ出ているのを懸命に堪え、褒められ慣れる事は永遠に無かろうリッカは堪える。味方の善意、好意に耐性など永遠につかぬが故の強さ、宿命なのやも知れぬ。このマスターめっちゃ褒めてくる。アジーカ溶ける。
「一つ答えちゃくれねぇか。文句なく傑物なアンタ様。悲劇の華、リッカの時代にまで語り継がれる悲劇の武将。だから、だから聞きてぇ。源義経に直接聞きてぇんだ。牛若丸、いやさ義経。明日に生まれ既に死んだ子孫殿。アンタは、何故──」
【黙れ!!!】
景清が吼える。憎悪滾らせながら目にも掛けられぬ今、並びに晴明に土をかけられた屈辱。怨恨にて堪忍袋の緒は焼き払われんばかりなれば。
【儂は景清である!躯の真名なぞなんの意味があろう!立ちふさがる源氏ならば、速やかに鏖殺するが道理!ならばこそ対話は無意味!戦うがいい源氏ども!】
「金時兄ィ!」
「おうさ!──この橋、この道!通りたくば拙僧と刃交えてからにするがいい!──拙僧、千本の刃を集めんと誓いし破戒僧!名を武蔵坊弁慶と言う!」
【まだ続けるか、貴様…】
「──五条の橋は通さぬぞ」
【止めろ】
「──腰の太刀、名高き名剣と見たが如何に!」
【止めろ!】
「──この武蔵坊、千本目の太刀は貴様に決めたわ!童、いざ太刀を抜けぃ!」
『止めろ弁慶!!』
瞬間、絶叫と共に膨れ上がる魔力。躯でしかなき身体に、或いは残っていた何かが触れたのか。
『この、私は…景清!否、否!この私こそは九郎判官義経!この躯こそ、かつて遮那王にして牛若丸であったもの!驕るな弁慶もどき!貴様ごときに、何が解る!』
その言葉は景清、怨念ではない。目覚めたのだ。先の語り、かつての盟友の発破にて。躯に眠る、英霊の矜持。
〜
「猿真似や鸚鵡返しは人の神経を逆撫でする最高の手製だ。リッカ君、君ではなく金時にやらせなさい。真に迫らぬ大根役者であればあるほど、本物知る輩には耐え難い挑発になるだろう」
〜
(晴明さん、ニャルと仲良くできそう…)
屋敷に戻るなり、景清の場と対策を教え放り出した晴明。その合理ぶりが冴え渡る。敵にしないとリッカは誓い、目覚めた義経を見やる。
『戦い続けた果てに、得られたものは刃と炎。我が想いのすべて、兄上には届かず。紡ぐ言の葉全て焼き捨てられ。この恨み、忘れまい。この怨み、魂の欠片になろうとも』
「……」
『最早この足の先に光なく。明日もまたない!おのれ、おのれ頼朝、おのれ日の本…!おのれ源氏ィ!!郎党ごとき!弁慶騙るなど言語道断!!』
「金時兄ィ!!」
「おうともよ!!」
膨れ上がる、義経の憎しみ。義経の怨み。景清と合一すら果たしたその怨恨、金時が確かに受け止める。
「足の先に光がないだぁ?そりゃあ違うぜ!オレたちの明日にゃ!八百万の曙光が煌めく!!」
『怨の一文字!!その身で喰らえッ!!』
「黄金が如き未来の花道!!景清なんちゃらなんぞに阻ませやしねぇ!!」
刃とマサカリが同時にぶつかり閃く。リッカが見守る中火蓋は切って落とされる。
(源氏殺しの完全封印はできた!あとは私達次第!頼んだよ、兄ィ!)
いざ、京の瀬戸際にて武者同士の戦いが始まる──!
何故です。兄上、何故。兄上…何故──
…あぁ、そうだ。刃と炎、歌が天に還る最期の刹那。
儂は見た。儂は見たのだ。九郎判官義経。
天才たるお前が。疾走する風がごときお前が…
──炎の中で、涙する姿を。儂は、儂は見たのだ──
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