人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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おぉ、義経や。涙するな。

我等がいる。我等がある。

お前を一人にはさせぬ。させぬとも。お前を一人にて逝かせはせぬ。

我等がおるぞ、義経。お前の無念、お前の怨恨。頼朝捨てたもうお前を我等は見捨てぬ。

我等がいるぞ、義経や。共に怨嗟となりて鏖殺を果たさん。

故に泣くな。涙するな義経よ。

我等がいる。我等が──

景清が傍におるのだ──


盛者必衰・黄金一貫

【はぁあぁあっ!!】

 

「ぐぅ、おっ───!!」

 

あちらと思えばこちら、こちらと思えばまたあちら。迅速果断、疾風怒濤。牛若丸伝説に連なりし根源が武将、源義経の刃が金時を打ち、切り刻む。薄く脆き日本刀を、速度と一閃束ね必殺とする。捉えることすら難儀な太刀の旋風。

 

「強えなぁ!だがまだまだァ!俺っちもリッカも、首も五体も繋がったままだぜ!源義経!!」

 

金時の剛力、決して不足に非ず。轟雷轟く一撃がリッカの魔力バックアップを受け、遥か彼方まで届かん威力の黄金の暴威。当たれば、即座に終わる。

 

【首だ、首を寄越せ!義経は、ただただ義経は頼朝の首が欲しい!叶わぬならば貴様の首を!差し出すがよい!それすら叶わぬならば!鏖殺奉るのみ!】

 

首を求めしは東国武者の傚いか。それを求める姿はやはり、リッカには覚えがある。山の翁、豊久、そして──

 

「ならば一つ!坂田金時が己が首かけてアンタに尋ねる!アンタが勝ったらオレの首、刎ねやがれ!だがその前に答えてもらう!源義経、牛若丸!明日に生まれ既に死んだ子孫殿!」

 

(兄ィ、聞きたいことって…?)

 

それを問わねば、と。それを知らねばと金時は仕切りに言う。何を問い、何を知り、彼女に何を聞くのか。リッカは黙し、促す。そして──

 

「───アンタはなぜ、戦った?」

 

【───────?】

 

金時の問いは、戦いの意味。根幹、根源を問うた。なぜ殺せる。なぜ奪える。生きるための話にあらず。それは鬼や、獣の宿痾。英霊となるまでに戦い抜き。悲劇の果てに至った存在、源義経。その理由、その信念とはいかなるものか。

 

「英雄になった、アンタに尋ねてぇ。どんな理由がありゃ百を殺し、千を殺せる?位でも、政でもねぇ。戦で英雄に至ったアンタにこそオレは問う。──何故、戦った?」

 

英雄。その戦いの理由はなんたるか。その理屈はなんたるか。本来の怨念なれば意味のわからぬ問であろう。景清ならば知らぬやも知れぬ。しかし──

 

【──────…呆れました、坂田金時。そこまで、そこまで人の域を越えた力を持ち、それでも正しく、人の側に立たんとしておきながら。そんなことも解らずにいたのですか。ふふっ。とんだ怪童もいたもので】

 

義経。そう、押しも押されもせぬ義経ならば。その問いには意味がある。坂田金時の、僅かな疑問すらも風のように切って捨てる。

 

【なぜ戦うのか。それは全て同じく、全て等しく。私も、其処にある娘も。すなわちは。『己が想いを貫くためにこそ』、我等は己が総身を捧ぐ。それこそが、我ら栄えある源氏武者と知れ】

 

「───!!」

 

同じ。英雄として生きるもの、戦う理由は同じ。それらすべてが人を越え、はたまた神威に至らんが領域にまで己の意志を貫く。

 

すなわちは。『想いの競り合い』。これこそ、武者の戦いの本懐にして中枢。

 

「合点!!なら、今のオレは負けねぇな!オレが勝つ!誰にも負けねぇ!!」

 

【ふふっ、抜かせ!その首貰うぞ、坂田金時!!】

 

そして、二人の想いの競り合いは此処に。片や、怨恨漲る鏖殺の化身。

 

【宝具開帳───!!】

 

瞬間、怨念が義経に集う。彼女を取り込み──。否、支えるか、護るか、寄り添うかのように

 

「リッカ!!オレとお前で勝つ!勝って笑顔で帰ろうぜ!!笑顔が満ちるオレらの世界へ!!」

 

「勿論!!令呪起動、サブマスターサポート全開!!」

 

リッカの令呪、サブマスター達の術式、魔力バックアップ。それら全てを束ね金時が跳ぶ。それこそは、全身全霊が必殺の一撃。

 

【諸行無常!盛者必衰!!】

「ゴォオォオォルデン!!スパァアァアァク!!!」

 

地より放たれる怨嗟の刃。天より叩きつけられる黄金の裁断。それらが真っ向からぶつかり、波動と余波となりて辺りを蹴散らし吹き飛ばす。

 

「くっ…!」

 

リッカは僅かに身動ぐも、微塵も下がらない。見届けるのだ。この戦い、意地と怨嗟の果てを。

 

「うぉおぉおらぁあぁあぁあぁ!!」

【ぬぅうぅうぅうぅう!!】

 

烈吼、叫ぶ両者。互いの魔力は拮抗し、一瞬を何分、何千にも引き伸ばす。しかし───。

 

【く、っ…!】

 

しかし、僅かながら確かに。金時が、義経を圧し始める。それは確かに、着実な差となって彼女を制す。恨みの刃を。怨嗟の具現を。

 

【おぉ、おぉおぉおぉおぉおぉおぉ…!!】

 

怨嗟は強い。確かに強い。しかして、かつて黄金の王が言った。【怨嗟はいずれ薄れるもの】。使い、燃やし、目的果たすか或いは抱いた者を焼き殺すか。終わりは来る。必ず来る。かつて復讐の英雄譚を描いた巌窟王ですらもそうだった。この想いの競り合い、質はけして優劣なくば。あるのはただ、量の差。

 

「ぜえぇえぇぇえあぁあぁあぁっ!!」

 

負けない。負けられない。未来は繋がっている。守るべきものが、守りたいものが後ろに、背中にある。金時は幸運だった。本来想いとは、願いとは、心の内にのみ形があるもの。

 

「いっけぇー!!金時兄ィーッ!!」

 

しかし、こうして。後ろには自分のサーヴァント。自分の未来、これからの明日を生きる者がいる。その存在が、彼を無限に無尽蔵に強くする。願いが力を、力が願いを何処までも強くする。

 

彼女が──未来がその歩みの果にあると信ずる幸福を噛み締め、金時は戦うのだ。故に負けない。故に勝つ。なぜならば──。

 

「オレは──!リッカの!兄貴だからなぁ───!!」

 

武者として、英雄として。何よりも兄貴として。カッコいい背中を見せてやりたい。腹いっぱい食べれる未来を歩ませてやりたい。その願いが力となり、遂に──

 

 

「こいつがオレの!!想いってヤツだ───!!!!」

 

【…………………!!】

 

憎悪、怨念。怨嗟。過去にのみ湧き上がるその想いを真っ二つに轟雷一閃。未来を臨むその刃が、義経を、景清を、宿業を断ち切る──!

 

「っあぁあぁあ!?」

 

更に凄まじい地響き、稲光。最早目を開けること叶わぬ程の閃光と轟音が辺りを席巻、砕き散らし──。

 

 

 

……ふふ、ふふふっ。なんともはや、猪突猛進な武者がいたものです。なる程、見事な戦いぶり。

 

しかし御先祖殿。かの源氏への毒、その源こそは私の存在。源氏鏖殺の復讐者。我が一撃も、我が吐息も。あなたには決して良きものではない。それでも貴方は、戦いを曲げない。変えない。なんと、なんと真っ直ぐな御方か。

 

「────」

 

あの娘を護りたい…いえ、違いますね。勇姿を見せたい。カッコいいところを見てほしい。なんという意地。なんという無我の猛進。それを信じたあの娘共々、天晴!

 

「…義経殿」

 

…ならば。坂田金時殿。その命或る限り進みなさい。貴方は幸福な御方だ。人は皆、先行きの見えぬ未来を駆ける。それが破滅と知らず、悲劇と知らずひた走る。それが自らを殺すまでひたすらに。

 

あなたは違う。あなたの歩みは、素敵な未来に繋がっている。あなたを見上げ、あなたを見守り、あなたを信じ、あなたを労る方がいる未来へと。あの娘の未来に。天下泰平に繋がっている。

 

…それの、なんと素晴らしい事か。なんと、羨ましい事か。疾走の果てに、平和と愛する者が待つなど。ならばこそ、あなたはそのまま走りなさい。

 

止まってはならない。迷うのはいい。けれど、前を向けば必ずあなたの道には光がある。八百万の曙光が如き未来が。走りなさい。走りきりなさい。全身全霊で。そうするだけで、あなたは為せる。多くに勝てる。

 

僭越ながら、この私が──保証します。

 

「──感謝を。誉れも高き、九郎判官義経。我等が未来に生きた英雄よ」

 

ふふふ。我が言の葉!ゆめ忘れることなかれ、です!

 

【─────義経、義経や】

 

──ありがとうございました、景清殿。我等が怨嗟、我等が縁。消えることなくば…

 

お付き合い致します。いつかの未来でお逢いしましょう。義経と、景清。怨嗟と悲劇をも受け止めてくれるような未来の舞台にて。

 

 

そう──そんな未来の果てにある、浄土の様な舞台にて…──

 

 

…光の中にて。義経と、景清達は静かに、晴明の寄越した封の中へと消えていった。

 

そう。景清は、義経を一人にせんと寄り添う様に。最期まで──




金時「……終わった、か」

リッカ「勝ったよ、あなたが。すごいよ金時兄ィ!」

金時「へへっ。リッカ、お前がいてくれたからさ。とんでもねぇ。ゴールデン解法だぜこりゃぁ!」

リッカ「?」

金時「護りたいもんが、ゴールにあるっていうのは…とんでもなく、すげぇことさ。とんでもなく、嬉しいことなんだぜ」

リッカ「──皆、いい人たちだよ。待ってくれてるんだ。未来で。だから私も、そんな未来に皆が行ってほしいから戦うの」

金時「…同じだな」
リッカ「うん。同じ」

金時「へへっ。じゃあ戻るか!まだ終わっちゃいねぇからな!」
リッカ「うんっ!あ、あとね」

金時「?」

リッカ「復讐って、情が深くないとできないんだ。景清さんは源氏を憎んで憎んでいたけれど。それと同じくらい…義経さんを想っていた」

金時「…そうかもな。あの強さ、怨念が絡繰にしてちゃ出なかった力だ。間違いなく、景清は力を貸していた」

「…きっと、また会うよ。景清さんにも、義経さんにも。だって、アヴェンジャーは素敵なクラスだからね!」

金時「そうか。…そうかぁ?」


勝利を静かに噛みしめる二人を───


神【…ふふ、ゆかいなものだな。みているか、うら…】

天空にて、睥睨する。神なる者──

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