人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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バベッジ『カオルコ、行けるな』

香子「…はい。天覧武者の端くれとして。香子、参ります」

和子「まー私も歌うから気にしない!一緒なら大丈夫大丈夫!ね?」

香子「はい!」

?「ほう、ではその手前をチョチョイと後押ししましょうか?」

香子「!た、尊子様!?」

「おほほほ、そう驚かず。断じてあの安倍のヤロウの弱みを握るために来たとか、おほほほ。まぁそれはともかく!覚悟は、よろしいですね?」

和子「もちろん!」

「……あの御方が今度こそ、穏やかに眠れるように。参りましょうか──」


鎮め 鎮め 大魔の縁や 明星輝く衆生を見やれ

【おぉおあぁあぁあぁおぉおあぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁ】

 

リンボは消え、空想樹はリッカの糧となり伐採霧散する。しかし、かの大魔縁の消滅は未だ始まらない。それどころか天を仰ぎ、怨恨の咆哮を高々と上げ続けている。

 

『怨恨極めて大魔縁に至った魂、最早一人じゃ成仏も叶わねぇって事か…なんとかしてやりたいのは山々だがよぉ!』

 

田村麻呂、鈴鹿瀬織津姫の両者が京以外のいずれも飛ばぬ様に目を光らせてはいるものの、今すぐにでも再起動を果たさん要相だ。一刻も早く鎮魂して鎮めるべきであるが──

 

『待たせたね、夫婦神。これよりかの大魔縁の鎮魂、成仏へと移る。これを完遂して漸く万事解決だ』

 

晴明の言葉に顔を見合わせ笑う二人。これで大魔縁の調伏が叶う。無限の怨恨より、彼を解き放つのだ。

 

【うぉおう おぉおあぁあぁあぁおぉお】

 

『リンボの持っていた聖杯、式神の皆様が取り返した霊脈。忍びの皆様が打ち込んだ霊験の札。それらを全て使い、大魔縁たるかの御方の魂を慰める。──伊吹様!』

 

【うん、いいぞ】

 

先の金時の手により返された草那芸之大刀を、都市の中央に刺し地脈を励起させる。蒼き光が柱の様に打ち立ち、京は輝きを以て大魔縁を包む。

 

【お おぉおあぁあ 】

 

その輝きこそ、大魔縁を神として鎮める様相。怨霊、荒御魂としての側面を慰め、鎮め、在るべき場所へと戻るように願う儀式。それをなす他に、大魔縁を制する方法は無し。力押しでは、決して敵わぬ偉霊であれば、礼節懐きし対応をする他に道は無い。

 

『もうアンタ様は十分ほどに苦しんだ。あんた程の御方がクソ野郎にいい様にされるのは終わったんだ。だからどうか、静まってくださりませんか。大魔縁サマ』

 

田村麻呂とて、その者が誰かは理解している。なればこそ、彼なりの誠心誠意を込めて語りかける大将軍。

 

『うん。──貴方様は最初から日ノ本の転覆や魔道への回向を企てていた訳じゃ無いはず。だから、もうお休みになってください』

 

鈴鹿もまた、かの魂を慰め労る。それこそ、自身の来歴よりとても立派な方である。何故なら──。

 

【おぉおあぁあぁあぁおぉお うぉあぁあぁあぁうぅう】

 

『何ッ!?』

 

彼の魂が暴れ始める。彼の意志、思考というよりそれは暴走であり宿命なのだ。大魔縁たる者は、生きている限り日本に災いもたらす大化性。3大怨霊ともあれば、それは日本を転覆させる生ける呪詛。かの大魔縁は、そういうモノに成り果ててしまっているのだ。

 

【沈めや 沈めや 日ノ本の全て 絶えや 絶えや 子々孫々】

 

『チィ!またこの歌か!もう止めてくれ大魔縁様よォ!子々孫々への呪いなんて歌うもんじゃあねぇぜ!』

『田村麻呂!もう、あの御方の意思は…』

 

そう。彼は止められない。大魔縁の中には、最早憎しみしか残っていない。彼自身すら、止める術を持たない。

 

『くっそぉ…!本当に、本当に恨みつらみしか残ってねぇのかよぉ!!』

 

ならば、こうなれば道連れにしてでも。そう田村麻呂が宝剣を構えし──その時。

 

 

〜春くれば 雪げの沢に 袖たれて まだうらわかき 若葉をぞつむ 〜

 

『『!?』』

 

【お───】

 

瞬間、京に響いた声に、歌に一同が停止する。それは確かに和歌であり、歌である。春になり、雪解け水の溜まった沢に袖を垂れ、まだ萌え出たばかりで瑞々しい若菜を摘むという歌。

 

『コイツは…』

 

『和歌だ。大魔縁…いや、崇徳天皇陛下が読み上げた歌。彼の歌は人気が高く、百人一首にも数えられるほど。それに私と道満が浄めの魔力を込め、香子と和子に歌わせている』

 

そう。崇徳院が残したモノは呪詛や魔道写本だけに非ず。彼の風流な感性と風靡さは、確かに残っているのだ。

 

『二人共、しくじるなよ。これが最後の総仕上げ、画竜点睛なのだから』

 

『はい!香子は首に詳しくはありません。けれども、心ならば!』

『素敵な歌ならいくらでも詠んじゃうもんね!聞きなさいな、大魔の御方!』

 

そうして、浄めの歌は紡がれる。それは彼が想い、感じ、日ノ本に満ちる特色や季節を歌ったもの。

 

〜五月雨に 花橘のかをる夜は 月すむ秋も さもあらばあれ〜

 

梅雨どきの雨が降る中、橘の花が香る夜。こんな夜には、月が曇りなく輝く秋さえどうでもよいと思える。

 

〜 いつしかと 萩の葉むけの片よりに そそや秋とぞ 風も聞こゆる 〜

 

いつの間にか、萩の葉の向きが一斉に片寄るようになり。それによって、ほらほらもう秋だよと──風の音がそう聞こえるのだ。

 

〜 つららゐて みがける影の 見ゆるかな まことに今や 玉川の水 〜

 

氷が張って、つやつやと磨いた様な光が見えるよ。本当に今の有様が玉川の水なのだろう。

 

【───。─────】

 

その声音、その鎮魂の祝辞を受け、大魔縁は沈黙する。それは紛れもなく、彼が詠んだ歌なれば。

 

『へへっ、いくら呪詛の怨霊でも、自分の歌った歌は忘れないもんなんだな。あぁ、すっげぇいい歌ばっかだもんな!』

 

【おぉ、お…】

 

『あー、なんか恋の歌とか無いのかな?鈴鹿への想いを込めて!詠っちゃうんだけどなぁ!』

『バカ!』

 

『あるぞマロ!詠め!』

『あざっす姉さん!』

 

『温羅っち!?』

 

田村麻呂もまた詠む。敵であろうが味方であろうが、彼は自分のやりたい事をやる。日本で一番自由な者が、大将軍なのだ。

 

〜あー、こほん!恋ひしなばぁあぁ〜!鳥ともなりて君がすむぅう!宿の梢にねぐらさだめむぅー! 〜

 

恋い焦がれた果てに死んじまったら鳥にでもなって、鈴鹿の家に突撃すっぜ!みたいな曲だな!

 

 

『へへっ、とんでもねぇいい歌だ。春夏秋冬…余さず歌った崇徳院様よ。オレらはアンタ様を大魔縁だけとはおもっちゃいないぜ』

 

【…………】

 

『貴方様は写本を突き返されて怒ったけど、その理由は…多分、労られて然るべき相手を蔑ろにした者達への怒りだったのではないですか?慰めるべき魂を、つまらぬこだわりにて踏みにじった総てを怨み、憎んだ。だから──』

 

だからそれは、誰彼構わず憎むバーサーカーに非ず。大魔縁として、民を惑わした総てを憎んだ。故にこそその身はアヴェンジャーたり得ているのだと鈴鹿は告げる。

 

『こんな素敵な歌は、憎しみに凝り固まったヤツじゃ無理だ!アンタ様の本質は大魔縁なんかじゃねぇ!風流風靡な日本の象徴、崇徳天皇陛下様だ!違うかい!大魔縁…いいや!崇徳院様よ!!』

 

口にすれば呪われる名前を断言する田村麻呂。彼は逃げなかった。かの存在から。

 

【───────】

 

…大魔縁の口から、怨嗟の呻きが完全に止む。そして彼の憎悪が、夜明けと共に薄れ始めていく。

 

【───── 闇のうちに 和幣をかけし 神遊び】

 

『おん?』

 

薄まり、やがて鎮まり消えんとする最中…大魔縁は、歌を詠んだ。それは、彼が選んだ一首。

 

【明星よりや 明けそめにけむ──】

 

それを読み終わったと同時に──魔法陣が描かれる。五芒星描かれし、清廉の札。

 

『大魔縁殿。今こそ鎮魂仕る』

『どうか安らかに。遥かな未来、そなたを疎むお方はおりませねば…』

 

道満、晴明の術にも、打って変わって抵抗の意志を見せない大魔縁。そしてそのまま、聖杯に汲み取られた魂含め、魔力を総て開放し──

 

【おぉ─────】

 

最後は、そっと。静かに清澄に、その身を霧散させるのであった。天に登る大魔縁、朝焼けの空を見上げ、田村麻呂は云う。

 

『──最後のなんて意味だったんだろうな?』

『いやわかんなかったんかい!?』

 

テキトー極まる旦那への嘆息と、全てが終わった一同を照らす明けの明星が、頭上より輝く──。




──闇夜のうちに和幣を掛けて、奏し始めた神楽──


──明けの明星と共に、「明星」の歌によって。夜が明け始めたのだろうか──

〜高天原

イザナミ『きりきり 千歳栄 白衆等 聴説晨朝 清浄偈や あかぼしは明星は くはや 此処なりや 何しかも 今宵の月の ただ此処に坐ますや ただ此処に坐すや ──』

アマテラス『ウォオォオーーン……』

高天原にて、明星の歌を歌い舞うイザナミもまた、鎮魂を願い祈っているのだった──

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