黒に染まりし陽は、元の輝きを取り戻し。空もまた同じく。
呪詛に聳えし妖樹も、其処から生まれし黒龍も、真紅の大武者も、夫婦の神も、大明神たちも消えていった。
恋に生き、愛に焦がれた獣も霧散したという。
妖樹に囚われていた貴人たちも、源頼光と四天王らに助け出され、安倍晴明と蘆屋道満の両者に祓いを受けた。
左大臣藤原道長殿はこれを大層お喜びになり、帝へ自らの家司たる源氏をおいて他になしと語ったとか。
転んでもただでは起きぬ御方。そしてそれは、かの戦いを生き抜いた者達もまた──
平穏取り戻せし、京。太陽はぽかぽかと輝き、空は澄み渡る。そう、リンボの悪逆果て、大魔縁は鎮まり天下泰平の景色を取り戻した景観。
民たちもまた、逞しく。空が元の姿を取り戻してすぐに市が開かれこの上ない賑わいが続いていた。
左大臣の采配、帝の威光あればこそ、此度の大怪異は調伏されたのだと人々は喜んだ。
そしてその影、奮闘の裏の立役者達も思い思いの時間を過ごし──
〜
尊子「これはこれは左大臣殿。お顔の色も良いようで。帝も案じておられました。『内裏を牛耳る望月が、よもや欠けたるなどありえないよなぁ』などと。大丈夫?左大臣止めます?などても?」
道長「フッ。帝の身の無事あればこそ。左大臣の変わりはいても帝の代わりなどはあり得ぬならば」
尊子「おっしゃいますねぇ。魑魅魍魎が権謀術数に明け暮れる宮中にて高みに上り詰められた狸だけの事がおありで」
道長「はは。狐にそうも褒められては立つ瀬がない」
尊子「ぶっふっ!」
道長「?狐と例えたのはまずかったか?」
尊子「いえいえ、狸と例えたのはこちらですし?ふふ、ふふふふ」
道長「はははははは」
尊子「ふふふふふふふふ」
一条天皇『何を化かし合っているのか。狐に狸が揃いも揃って…』
(…しかし、良き歌をお読みになられる。これは私も、帝の業務などやってる場合ではないなぁ!む、降りてきたやも!)
〜
なぎこ「いやー!詠った詠った!すっごい良くて胸に迫る歌もあったもんだね!天晴天晴崇徳院さま!ってね!」
道満「えぇ。人は悪心のみでは決してないように、かの大魔縁殿もまた然り。そこには風靡が、愛が、願いが満ちておられた。感受性の豊かさが、そのまま怨の深さとなられた。…強き事、道理なれば」
なぎこ「…どーまん、大丈夫?」
道満「えぇ。この様に無様で愚かな男を欲した方々がおられますれば。決して投げ出すわけにも参りません。より一層、民草に寄り添い、人心を把握する陰陽師として精進せねば」
なぎこ「…ん!晴明様よりどーまんの方が人気だしね!」
道満「ふふ。…きっとあなたも、それを拙僧に求めたのでありましょう。晴明殿──」
〜
伊吹【ん〜〜……】
酒吞「ん〜……」
「【ぷはっ!】」
桃子「いい飲みっぷり。御見事です」
酒吞「やっぱえぇわぁ、温羅はんの桃源酒仙…身体がぽかぽかして、ふわあっとして、夢心地やわぁ…ええねぇ、この感じ…」
【うん。うまい】
温羅「酒吞は瓢箪直飲み、イブキは樽三つ。よく飲むよなぁ…名前は体を表すってヤツだなマジに」
桃子「温羅、負けてられないよ。鬼神としてガブガブ、ガブガブっと言ってほら」
温羅「なんで桃子が対抗意識燃やしてるんだって。しかしまぁ、大した状況だな。桃太郎と鬼が向かい合って昼間から酒飲むとはよ」
酒吞「しかも源氏の屋敷の上で。うっふふふふ、後世にどんな形で伝わるんやろね?」
伊吹【とびきりのゆかいは、いつまでも、だ。きっと面白おかしく、語られるぞ】
茨木(温羅、温羅!吾は生きた心地がせぬ!鬼殺しに酒吞にその分け御魂!いつ無茶振りをされるか否かの危惧ばかりだ!)
温羅(まぁそう固くなりなさんな。ここにいる鬼らに格の違いはねぇ。気楽に飲めばそれが適解よ。しゃんとしな、大江山の大将)
茨木(そうは言うがな…)
酒吞「茨木?こそこそせんと飲みや。あと、うちに酌せなあかんやろ?気を利かせてくれんと困るわぁ」
伊吹【うら。飲め。おまえとの語らいのために、ここに我はやってきたのだから】
茨木「わわ、わかった!任せろ、酒吞!」
温羅「へいへい。樽を一気飲みしてやらぁな」
桃子「ふふ、仲良しなんだね。鬼も」
酒吞「そりゃあね?強いもんは振る舞い方も選べるし、死んでも悔いがあらへんの。だから鬼は細かい事を気にせぇへんの」
温羅「無慙無愧、弱肉強食。悔いない、恥じない、強きが喰らう理…まぁ、鬼の美徳はそれだからな」
桃子「じゃあ、温羅は違うね。悔いるし、恥じるし、弱きを喰らわない。だから、鬼の神様って名乗れる」
酒吞「ふふっ。懐かれとるやないの」
温羅「へへ…ありがとな、桃子。さて、これからの宴の前哨と景気付けに!まだまだ飲むぜ!」
イヌヌワン『最早適性アルコールを突破して久しい!』
フワイサム『皆様は』
アンク『お酒は二十歳になってから!』
茨木「何者だ汝ら!?」
〜
ナーサリー「お疲れ様、頼光。本当はすぐにでも、娘の下に行きたいのにね?」
頼光「ふふ、そのとおり。しかし私は母である前に源氏の棟梁。リッカと同じくらい、京の皆様が大切なのです。また悪しき種が無いよう、見回るのも大切なお仕事。リッカにつながる未来が、決して絶たれないように」
ナーサリー「真面目な文殊丸。もし、もしもよ?あなたが好きなだけ子供を、愛する子を愛していいよと言われたら。そんな自分は想像できる?」
頼光「──えぇ。金時や綱、何よりリッカを愛して、愛して、愛していいと言われたならば。刀を捨て、鎧を捨て、ご飯を作り、お湯を沸かして、帰りを待ち…共に過ごし、世界を敵に回しても子を護る。そんな母として、振る舞うだろうと想像できてしまいますね」
ナーサリー「ふふっ。えぇ。あなたはそれでいいの。それはもしかしたら、子供を離したくないとわがままを言う母かもしれないけれど…」
頼光「…?」
ナーサリー「そんな深い、深い愛で助かる子供は必ずいるわ。だからその優しい心と深い愛を忘れないで。本当は、妖怪や鬼とも仲良くなりたいと願っていた優しい優しい文殊丸?」
頼光「…はい。ありがとう、私の未熟な願いに寄り添ってくれた、私の友。ナーサリー…」
〜
綱「美味だな」
メディア「はい、綱様。これが、勝利の美酒です」
…………
綱「何故だキャスター。お前は如何なる理由で戦った。聖杯戦争亡き後も。俺と…」
メディア「それは、英霊の宿命です。サーヴァントとは、そのようなものなのです」
……………
綱「因果なものだ」
メディア「はい。ですが私は、あなたの力となれたことを誇りに思います。血にまみれ、裏切りに満ちた私が。信念と信義のもとに戦い抜けた。望外の喜びです」
綱「そうか」
……………
綱「…俺と別れた後も、健やかであれ。キャスター」
メディア「綱様ったら。まだ宴があるのですよ?」
綱「先んじて、だ。お前の献身、けして忘れん。…イアソン殿と、仲良くな。キャスター」
メディア「…はい。ありがとう。綱様」
……………
〜
田村麻呂「終わったよ。アテルイ。アイヌの皆。お前さんら皆、まつろわぬ民なんかじゃねぇ。大切な大切な…日本の民だ。こいつは田村麻呂チョイスの酒だ。供養に使わせてくれな」
(話したいこと、いっぱいあったんだよ。アテルイ。こんな状況じゃなきゃ、京の街の色んなところをお前に見せてやりたかった。お前ともっともっと、ウコチャヌプコロしてオチウしたかったよ)
「…またな、青髪銀眼の君よ。我等は影法師。またいずれ現世にて会えるだろうさ。待ってるからな、アテルイ。…そんで…」
『豹尾神・鈴鹿鎮魂社』
「ヘェエェエェエィィィィィィィィィィ!!!あぁんまりだぁあぁあぁあぁぁ!!俺の鈴鹿がぁあぁあぁあぁあぁ!!アヒィアヒィアヒィ!!うぉほぉぉおぉおぉん!!エフッ!エフッ!エヘヒィイヒャアハァアァアァハイィィィィィィ!!」
鈴鹿「うるっさい!!なんでそんな泣くわけ!?アテルイちゃんと全然違うじゃん!?」
「俺の鈴鹿が!!ズキュンドキュンしちまったんだよ!!泣くだろこんなん!!……サーヴァントは召喚される度に別人として呼ばれんだ。リンボクソ野郎に豹尾神にされた鈴鹿の躯は、お前とは違う鈴鹿なんだよ。でも、俺にとっちゃ鈴鹿に変わりはねぇ。だから弔うんだよ。鈴鹿は俺の女だからな」
鈴鹿「……バカ。そーいう惚れ直す事ばっかりするから、カレシ探しが全然進まないんじゃん」
田村麻呂「オレで良くね?」
鈴鹿「女子力向上の修行なんだっての!魅力的な女子に…アンタに相応しい女になるためにも、さ…やらなきゃじゃん?」
田村麻呂「そうかぁ?女子力が高かろうが低かろうが、鈴鹿の全部が大好きなんだがなぁ。ずっとずっとな」
鈴鹿「…アテルイちゃんの前で、弁えろっての。バカ」
田村麻呂「はは、わりぃわりぃ」
鈴鹿「……大好き、マロ」
田村麻呂「知ってる。明日はもっと好きにさせてやるからな!」
「…ん」
アテルイ『ふふっ──』
高天原
晴明「宴は早いですが、まずはこちらへ崇徳院様。こちらです」
崇徳院『なに?なに?』
リッカ「あ、おーい!崇徳天皇陛下!メイちゃーん!」
崇徳院『あ…』
リッカ「まずは、この写本。本当にありがとうございました」
『魔道回向写本』
崇徳院『う、うん…。…返す?』
リッカ「いいえ、奉納しましょう!とびきりの方に!」
『奉納?』
「はい!おばあちゃん!タケちゃん!グドーシ!」
イザナミ『はいでました!おばばでたも!わぁ!可愛らしい!崇徳院ちゃん私わかる?おばあちゃん!』
タケル『可愛らしき天皇よ。大儀であった』
崇徳院『あ…』
リッカ「グドーシ。これ、崇徳院様の写本だよ!受け取ってあげて?」
グドーシ「ふむ、どれどれ?…ほうほう、これは…」
晴明「彼は──」
崇徳院『…!!』
「えぇ、素晴らしき写本にござる。込められし哀しみ、痛み、そして願い。確かに受け取りました。素晴らしき信仰の心…感服の至りにござるよ」
リッカ「今度こそ、今度こそ…!確かに奉納、奉りました!崇徳天皇陛下!」
晴明「確かに、貴方様の仏心は認められたのです。誉れ高き、天皇陛下よ」
崇徳天皇『うん!みんな、みんな…!ありがとう──!』
宴の舞台たる高天原にて、崇徳院は咲き誇る華のような笑顔を浮かべるのだった──
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