人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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フォウ(準備はいいよ!いつでも行ける!)

ギル《図らずとも、異聞帯の命運を左右する実験を行う事になった訳だが…逸ってはおらぬか?エアよ》

──大丈夫です、ギル。ワタシの胸には今、めらめらと燃える決意があります。

《ほう?》

──リッカちゃん達の頑張りを、ギルの威光を知りながらも決して他力本願に走らず懸命に駆け抜けたその気高さを、完全無欠の結末を穢させない。王を信じながらも、決して自身らの研鑽を投げ捨てなかった誇り高き魂たちを、離別の涙で濡らしはしないと!

フォウ(エアが、燃えてる!)

ギル《フッ、影響を受けしはマスターばかりではない、か。──ならばかの時間神殿が如くに謳え、エア!完全無欠の結末、画竜点睛を涙ではなく笑顔へと変える一助を成せ!》

──はいっ!!行きましょう、最後の総仕上げを!

エアは手に取り、それを放つ。魂に懐いた真理にして、彼女が掴んだ永遠の答え。

──至尊を謳う。縁は出逢い、紡がれ──

其処こそは、リンボが根降ろさせた空想樹の天空。真紅から虹色の暴風を放つ乖離剣が、エアの手により掲げられ、フォウが周囲を回遊し…

──歴史を織り上げ、死を越える…───!!

満ち溢れた至尊の輝きが、虹のオーロラとなり京の全空へと満ち溢れる──!


閉幕〜まだ見ぬ未来へ、源氏進軍!!〜

「──では、行ってしまうのですね。これからの戦いへ。あなた達の未来へ、駆け抜けるべき戦場へ」

 

一日通しで最盛を極めた源氏の宴。神も人をも巻き込み戦い抜いた者達を癒やし、そして賑わい、勝利を祝った時間は終わりを告げる。リッカと桃子、そしてマシュは早朝にて出立の準備を済ませ、金時、綱、そして頼光の見送りを受けカルデアへと帰還せんとしていた。

 

「本当に、本当にお世話になりました。母上、金時兄ぃ、綱さん。皆と一緒に戦えて、京の平和を護れて。本当に良かった」

 

「日本の英霊、その中でも凄まじい力と意志を持つ源氏の武者達。その気概、その奮起、忘れません」

 

「(精一杯逞しい武者の気迫を出そうとしている)」

 

「あー…その、だな。リッカ。そりゃあ、残念なこたぁ残念だがよ」

 

金時達に、リッカは話した。特異点の戦いは、是正されれば無かった事となる。未来の棟梁として皆と戦ったことも、晴明と道満が認めあった事も。全員が力を合わせ大魔縁を鎮めた事も、全てが正しき流れとなる。…楽園という歴史の湖に叩き込まれた隕石は、影のように消え去るのみなのだ。

 

「ううん、残念なんかじゃないよ。私達は一緒に戦って、一緒に正しい歴史を守った。その成果が、人理がこれからも前に進んでいくことこそが私達にとっての最高の報酬だから」

 

記録としてしか残らないもの、交流は消えてしまい、縁しか残らぬとしてもリッカは悲しみに暮れはしない。過去に懸命に生きた皆の歴史が、正しい方向へ向かう。形なき歴史の正しいうねり。それこそが、楽園が手にするべき報酬なのだからと覚悟を決めているから。

 

「甘え下手め」

 

「ふぁっ!?」

 

綱がその決意に満ちた態度を、ニヒルに一刀両断する。それは受け止めこそすれ、慣れるものではないと告げるのだ。

 

「綱の言う通りです。…この場だけ、この場だけは棟梁ではなく、母としてあなたに伝えましょう。──あなたを忘れてしまうなど、半身を裂かれるような苦しみと哀しみです。リッカ」

 

愁眉に歪む頼光の顔は、慈愛と悲嘆に満ちていて。それは、辛いのは忘れられる側だけではないことを告げている。金時も上を向き、目頭を懸命に抑えている。

 

「…──母上」

 

「娘を忘れろと言われ、すぐさま割り切れる母がおりましょうか。どうか、忘れることも忘れられる事にも慣れてはなりません。幾多の別れの悲しみを感じる心を、決して…、………」

 

…綱が、母の背をそっと押す。その所作は、怪異を殺せし神秘殺しにはあり得ぬほどに、隙だらけで。

 

「……こんな哀しみ、堪えられません。身を裂く程の鬼の爪牙、呪詛巻く妖怪など及びもつきません。我が愛娘を、忘れろだなどと…」

 

「母上…お母さん…」

 

「…ツナ君、等と気安く呼んでもらえた事は初めてでな。対等の友の記憶も無くなるとは、無常に過ぎる」

「ツナ君…」

 

「きんどぎざぁあぁあぁん!!」

「バカ野郎泣くんじゃねぇマシュ!泣くんじゃ…うぉおゴールデンに愁嘆じゃねぇかよぉおぉ!!」

 

思い思いに抱き合い、惜しみ合い、哀しみあう縁達。今までずっとそうやってきた。今まで、沢山の笑顔に満ちた別れをしてきた。

 

しかし──肉親とまで、朋友とまでに結んだ絆を奪われる事を受け入れられるほど、源氏の武者の心は鉄に非ず。それほどまでに、互いの心は近付き過ぎたのだ 。

 

「引き止めることなど出来ないのはわかっています。でも、それでも。あり得ざる娘がいた事を忘れて振る舞う明日の自分を受け入れるには、時間が足りないのです、リッカ。ごめんなさい、このように別れを長引かせるは、愚行の極みでありながら…」

 

「……そんな母だから、私は大好きなんです。私を座に刻み付けてまで想ってくれたあなたが…」

 

涙を流し抱き寄せる母の胸の中で、リッカの声が震える。悪意には断固たる処断で返し、尊重や美徳にはなすがままに討ち果たされる。ならば、悲嘆の感情は。

 

「……ごめんなさい…笑顔で、笑顔で戻るって決めてたのに…本当は、別れを惜しみ過ぎたらダメなのに…!」

 

…彼女にとって、母は、兄は、武者は特別だ。特別であるからこそ。

 

「──母上に…忘れられたくない…ずっと私の事を、覚えていてほしいってワガママ、言っちゃうよ…!お母さん…!」

「あぁ、リッカ…!」

 

抱き合う龍と、母。彼女にとって、母との別離はグドーシ以来の拠り所の喪失だ。楽園の母は決してどこにも行かぬからこそ、勝利の勇退の重みが違う。

 

「でも、でも…!それが私の、皆の戦いだから…!私のワガママで、在るべきものを歪めちゃダメだから…!」

「リッカ…」

 

「だから母上、金時兄ぃや四天王の皆を、沢山愛してあげてください。血の繋がりなんて関係ない。あなたの時代を共に生きた皆は、母上の本当の家族だから…!」

 

だからこそ、リッカは願うのだ。正しい歴史で、正しい方向に向かうこと。そこに、自分がいなくても。

 

「どうか、皆と…生き抜いて、駆け抜けてください。皆の人生を、ずっと!」

 

そこに、自分がいないのが当たり前であるからこそ──護られた歴史に、意味があると信じて。そうリッカが、泣き腫らした母上を見つめたその時──

 

「──なんだこの湿りきった別れの場は?別れというのは笑顔で、痛快で、ゴージャスに再会を誓いながら拳を上げて行うものだぞ?我等が楽園の龍も、流石に肉親の情には勝てぬと見えるな」

 

黄金に満ちた言霊。黄金の着物。白金と虹色の扇子を舞わせる黄金の将軍が如き男が、リッカの頭に手を置く。誰かなど、問う事こそが無知蒙昧。

 

「ギル!?」

 

「我だよ!ふはは本来なら美しきものが流す涙を舐めとるが我が愉悦だが、あいも変わらず口に合わぬわ!もそっと痛快に送り出すが楽園流!完全なる勝者を曇らせる要因など、我等が消し飛ばさずにいる筈も無かろうが!」

 

王は自慢気に笑い、傍らの姫が頷く。その姿は、確かにリッカには見えていた。白金の、姫の姿が。

 

──全てはこの時代に生きる人達の頑張り次第だけどね、リッカちゃん。この特異点は、ワタシの宝具で可能性が芽生えたの。覚えてるかな?魔法少女の世界の事を。

 

(は、はい。確か、姫様が宝具を使って…)

 

《アレと同じく宝具をエアに任せた。エアの宝具はその世界の在り方を尊重するもの。50年、或いは100年大きな袋小路に入らなければ、その世界は新たに編纂される。即ち──今の時代の輩が奮闘すれば、貴様らが奮闘したこの世界は泡沫ではなく、平行世界として編纂されるのだ》

 

リッカは驚愕に息を呑む。それこそがエアの宝具『人理を照らす開闢の星』。世界そのものに作用し、消え去る世界を確かなものへ、紡いだ全てを王の下へ、世界の全てを良しと頷く対界宝具。あらゆる運命の理不尽を排し、その世界に委ねる尊重の極地。

 

《無論、滅びるか行き止まりに果てればそれは即座に是正される。我等は数多の結末の道を示すのみ。泡沫の夢を現実に出来るかどうかは、そこに生きる者次第よ》

 

無論、それらは繁栄を確約するものではない。僅かでも道がずれれば特異点として処理され、行き止まりに至れば不要と裁定される。姫の尊重と王の裁定は、等しく同じである。

 

──ですが、きっと大丈夫。だってリッカちゃんや皆が、誰よりも頑張ったのですから!

 

それを、決して違えないと信じるからこそエアは宝具を開帳した。決して、滅びもしないし間違えもしない。

 

何故なら──その時代の皆の胸に、誰よりも鮮烈に輝いた楽園の者達がいるのだから。その絆が光となって正しき歴史に辿り着くだろう。星に導かれるかのように。

 

──人理を照らす星とは、最早王と姫だけではないのだから。




リッカ(王様、…姫様…!)

ギル《良き顔になったな。やはり貴様には笑顔が相応しいと言うもの、それが我の舌に合う愉悦よ。さぁ示してやるがいい。発破の時だ、より一層守護に気合を入れよとな。我等に立ちふさがる特異点に成り果てたならば、次に絶たれるは貴様らとも伝えておけ》

──無闇に脅してはダメです王よっ。ワタシ達にできるのは、皆様の絆を信じて後押しするだけ。平行世界になるか、是正されるかは金時さん達次第。でも──

(うん!大丈夫!ギルと姫様の想い、絶対無駄にしない人達だから!)

──うん!じゃあ改めて、お別れは笑顔で!

(本当に、本当にありがとうございます!大好き!ギル!姫様っ!)

頼光「リッカ?一体…?」

リッカ「母上!皆も聞いて聞いて!もしかしたら、私達は忘れなくてもいいかもしれない!あのね、あのね!姫様とギルがね──!」

興奮冷めやらぬとばかりに語るリッカを見て、王と姫、獣は微笑み合う。

きっと京は、正しき歴史を護るだろう。

きっと武者達は、正しき明日を掴むだろう。

そしてきっと、『正しい歴史』でありながら、『少し違う歴史』に辿り着くだろう。

本来の歴史より、ほんのちょっぴり素晴らしい『もしも』へ

黄金の楽園が頑張りぬいた分のちょっぴり、幸せな歴史へ。

フォウ(──未来に向かって、源氏進軍!だぞ、皆!)

そんな歴史を夢見て、遥か未来の先で会う為に。王と姫は最後の涙を取り除き、リッカ達に言葉を授けたのだ。

それは、希望に満ちた別れの言葉、そう──

リッカ「皆ーー!!!」
マシュ「お世話になりましたーっ!!」
桃子「いつか必ず!」

頼光「えぇ、必ず!」
綱「我等の魂に誓って」
金時「あぁ、ゴールデンに──!!」


──また、会おうねと。

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