人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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この回の為に所長がカルデアス入浴するマテリアル5回は見た


倒壊

「良かった、ギル……本当に良かった……!」

 

無事、とは言えないものの。なんとかセイバーを下し、皆と勝利の余韻を分かち合う 

 

 

「なんだその顔は。もしや本当に我が土を舐めると思っていたのか?」

 

「思ってないけど……なかったけど!」

 

「なら涙なぞ流すな。そら、手拭きを貸してやろう。顔が崩れているぞ」

 

 

「うん、ちーん」

 

波紋に手を伸ばし取り出した絹のハンカチが、涙と鼻水でびちゃびちゃになる

 

「……そうではないわ、バカめ……」

 

「はい、ありがとう……」

 

「……いや、気が変わった。くれてやる」

 

「いいの?」

 

せめて、洗ってから返せとだけ伝え、頭を撫でる

 

「……すまんな。心配をかけた」

 

 

「うん、こっちこそ。取り乱してゴメン。マスターとして、しっかりしなきゃね」

 

「あーあ、やっぱ慣れねぇな。てめえが素直に詫び入れるなんざ。俺としちゃぁコイツが一番の特異点ってヤツだ」

 

「何を言うか、家臣に健在を伝えるのは王の……む?」

 

ふと見ると、キャスターの足の先から霊基がほどけ、粒子へと還元されている事に気付く

 

「……流れ弾に当たったか?まさかキャスターなのに死んだのか?」

 

「死んでねぇよ!――ここでの俺の役目が終わったってんで、座に戻されんだよ」

 

役目が終わった――それはつまり。この特異点を攻略し、消滅させたと言う事

 

特異点が消失すれば、更に言えば特異点を作り上げていた原因に招かれていた英霊は現世との繋がりを失い、現世より退場する

 

勝者として、聖杯に顕現を願わぬ限り、サーヴァントという名の影法師の、根なし草の運命だ

 

「……負けてないのに、消えちゃうんだ……」

 

『残念だけど、それがサーヴァントとしての限界だ。聖杯に招かれた英霊は、聖杯を回収すれば消滅する』

 

「根なし草の悲哀よな。まぁ、犬にふさわしい誘導と案内ではあったな」

 

「おう、ま。後はあんたらの仕事だ。精々上手くやってくれ」

 

『マシュ、何か一言は言っておいた方がいいんじゃないかい?ほら、御世話になったんだろう?』

 

「貴様のいない間にな。猛省せよ」 

 

『悪かったってば!』

 

「あ、あの……ありがとうございました。クー・フーリンさん!」

 

「頑張んな、嬢ちゃん。戦ってりゃ、また巡り合わせがよけりゃ、肩を並べて戦えるだろうさ」

 

「それと、そこにいる金ぴか」

 

「なんだ。ようやく数々の無礼を懺悔する気になったか」

 

……この器、クー・フーリンという英霊を大層気に入っているようだ

 

からかい甲斐のある悪友、といった印象を、無銘の自分は受けるのだが、どうなのだろうか

 

「ちげぇよ。……あー、なんだ」

 

ポリポリと頭をかき、ばつの悪そうに言い澱む

 

「退去が近いぞ、さっさと申せ」

 

「わーったよ。……頼んだぜ、嬢ちゃん達の事」

 

……最後に言い残す言葉は、世話焼きの兄貴分としての印象を完全に残し、

 

「まぁ、どんな顛末になるか。最後まで付き合うさ。安心して失せるがよい」

 

「――けっ、最後まで可愛いげのねぇヤツだ」

 

その言葉と、僅かな粒子の残り香を漂わせ

 

導く者、キャスター。クー・フーリンは、英霊の座へと還っていった

 

 

「ではな、忠犬。次は槍を構えてくるがいい」

 

 

(……貴方の教え、無駄にはしません。ありがとうございました)

 

 

「……さて。ファーストオーダーとやらはこれで完了であろう。行くぞ」

 

『待った待った!そこに聖杯、特異点の原因がある筈だ。回収してくれるかい?』

 

「聖杯……」

 

「……グランドオーダー……あのサーヴァントが、何故その単語を……」

 

見ると、オルガマリーが腕を組み、何やら考え事をしている

 

一応、彼女が探索隊のリーダーのようなものだ。指示を仰ごう

 

「小娘。一行の旗持ちは貴様だろうが。呆けていないで務めを果たせ」

 

 

「えっ?あ、はい……皆、お疲れさま。不明な点はありますが、これにてファーストオーダーは終了とします。聖杯を回収して、カルデアに帰還しましょう」

 

「はーい!」

 

「疲れた……我は帰るぞ」

 

 

――その時。高台の奥から、声が響き渡った

 

「まさかここまでやるとはね。計画の想定外。そして私の忍耐の許容外だよ」

 

 

「?」

 

――全身に警戒体勢を敷くべきと電流が走る

 

「マシュ、マスターとオルガマリーを庇え」

 

 

「え、えっ……!?」

 

――どうやら出てくるモノは、まともな人ではないらしい

 

 

「れ、レフ……!?」

 

 

「――やぁ、オルガ。まさか君がここにいるとはね」

 

「あ、毛虫みたいな毛の人……!」

 

「二人とも、私の傍から離れないでください……!あのレフ教授は、私達の知る教授じゃありません……!」

 

――マシュの見解は正しい

 

アレは外面こそ取り繕ってはいるものの、本質は人間とはあまりにかけ離れた肉の塊、おぞましき柱であることを器は見抜く

 

 

そうか、あれが⬛⬛⬛⬛に巣くった⬛⬛⬛。⬛⬛⬛⬛が使役する⬛⬛⬛の⬛⬛⬛なのか

 

ノイズが激しく、読み取れなかったが。どうやら器はあの正体を看破したらしい

 

……何故か、無銘の魂には開示されない。これは、何かの阻害を受けているのだろうか?

 

問題は……アレを見ていると

 

――無性に、沸き上がる感情がある

 

苛立ちとは違う。不快感とも違う

 

これは――怒り、なのだろうか

 

 

「48人目のマスター。素養のない少女として見逃してしまったのは私のミスだ」

 

『ちょっと待って!レフ教授だって!?レフ教授がそこにいるのかい!?』

 

「その声はロマニか。医務室に来いと行ったのに、その様子では従わなかった様だね――全く――」

 

その時だった。端整に取り繕っていた外面が剥がれ、醜悪な本性を露にし呪詛を吐き出し始める

 

「どいつもこいつも統率の取れていないクズばかり。こうも勝手に動かれると吐き気が止まらないな」

 

「貴様の存在程ではあるまい。『フラウロス』とやら」

 

「――ほう。これはこれは英雄王ギルガメッシュ。君のような英霊が何故そんなクズ共の肩を持つのかな?」

 

「――雑種が。我の赦し無くして誰に問いを投げ掛けている」

 

――ここまで器が怒りを露にするのは初めての事だった。

 

それほどまでに英雄王を激させる存在とは、あの紳士は何者なのだ

 

「サーヴァントの分際で背伸びした物言いだな。まるで英雄本人気取りか、滑稽だな」

 

「何、道化の質では貴様には及ばんよ。貴様が見逃したと取り繕うそのマスターに、特異点一つを潰されたのだ。貴様の失態は王とやらにどう詫びる?」

 

「――――」

 

「レフ……」

 

 

「……ん?――やあ、オルガ。君も生きていたんだね」

 

「レフ、なのね。やっぱり」

 

――そうか。ヤツは気づいている

 

いや。違う。オルガマリーが肉体を喪ったのはヤツの差し金だ

 

カルデアに、爆発事故が起こったという。レイシフト室にいた所長、47人もろとも半死半生の憂き目に遭ったとか

 

「どうして、ここにいるの、レフ。いいえ、今まで何処にいたの……?」

 

 

「――あぁ、オルガ。心配をかけて悪かったね、随分と怖い思いをさせてしまった。さぁ、おいで。いつものように、私が君を助けてあげよう」

 

「その前に答えて!あなたはレフなの!?本当にあのレフなの!?」

 

「もちろんだとも。私は」

 

「じゃあなんで!なんで『ゴミを見るような目』で私を見るの!?」

 

「決まっているじゃないか。君は正しくゴミだからだよ」

 

 

「――え」

 

 

「見せてあげよう。君が渇望していたカルデアスの惨状を」

 

 

言葉と共に空間が裂け、空間の向こう、先にカルデアスが目の当たりになる

 

――その中心部は、燃え盛るような紅蓮に染まっていた

 

「あれ、が……カルデアス?嘘でしょう?なんで、真っ赤なの?」

 

あれが、人理を観測する天文台、カルデアス……

 

オルガマリーの憔悴からして、相当の異常事態が起きているのは読み取れる

 

「人類の存続の証したる青色は一片も無く、焼却が成された紅蓮のみ。貴様ら人間は塵くずのように焼け落ち、滅び去ったのさ」

 

――その言葉で

 

 

言葉だけで理解する

 

人理焼却――歴史の終わり。焼け落ちた未来、人類の滅亡

 

 

それは防げるものではなく、既に為された事

 

――もう、人類は滅びているのか

 

 

奴に、奴等に

 

 

人類は滅ぼされていたというのか――!

 

 

「残念だったね、アニムスフィアの末裔よ。これが貴様らの所業の末路だ」

 

 

「カルデアス、カルデアスが……そんな、私の、カルデアスが・・・」

 

 

「君の、ではないよ。全く――最後まで君は手間のかかる存在だったな」

 

刹那

 

 

「所長ッ!?」

 

 

「あ――うそ、私。カルデアスに、引き寄せられ……!?」 

 

「そこまでカルデアスに執心なら、是非全身で体験してみたまえ。君が初めて、カルデアスに触れた人間となるんだ」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!カルデアスよ!多重に重なった空間なのよ!?」

 

「あぁ、ブラックホールと何も変わらない。いや、太陽か。残った君の残留思念も分子レベルで分解してくれるだろうさ」 

 

「ざ、残留思念……?」

 

 

「どういう事!?」

 

「オルガはもう死んでいるのさ、当然だ。爆薬は彼女の足元に仕掛けていたからね。それが御丁寧にシバが残留思念を拾い上げてしまった。君に帰る場所なんて無い。肉体は滅んでいるのだから、カルデアに帰還できる筈も無いのさ」 

 

「い、いや……!いやいやいや!うそ、嘘でしょ!助けて!マシュ!リッカ!助けて!!」

 

 

「所長!!」

「今行きます、所長――!」

 

 

「たわけ!もろとも死ぬ気か!」

 

「だって、所長がっ!!」

 

 

「今は、今は嫌!!死にたくない!もっともっと生きていたい‼」

 

「だって、やっと褒めてもらったの!大儀であるって褒めてもらったの!初めて褒めてもらったのよ!?」

 

「――」

 

やはり、か。彼女はやはり 

 

『理解者』を欲していたんだ……

 

「やっと、やっと認めてもらえたのに!頑張って、認めてもらえることが嬉しいってやっと解ったのに!」

 

吸引が、続く

 

 

「友達だって出来た!リッカも、マシュも!私を対等に扱ってくれた!くだらなくても、一生懸命話を合わせてくれた!」

 

「私――マシュに謝ってない!リッカに任せきりでなにも返せてない!やりたいこと、やらなくちゃいけないこと、たくさんあるのに!できたのに!」

 

「所長――!」

「いや、いや……!所長ぉっ!!」

 

「やっと生きようと思えたのに!やっと自分なりに頑張ろうと思えたのに!こんな終わりかたなんて嫌ぁ!」

 

 

「末期の叫びとしては上質だ。では、次元の狭間に分解されたまえ」

 

 

「嫌ぁあぁあぁあ!!このまま――何もしないで――」

 

 

「無念が残るならば足掻け!」

 

 

絶望の重圧を、黄金の王が切り裂く

 

「ぎ、ギルガメッシュ……!」

 

 

「生き汚さが貴様ら人間の美徳であろうが!懺悔でも、呪詛でもなく、ただ『願え』!」

 

そうだ!それを救う器はもう、手にしているのだから!

 

「所長!」

 

「所長っ!行かないでっ!」

 

「マシュ、リッカ……!」

 

 

「私達――友達になったじゃないですか!!」

 

「そうだよ!また、一緒に……!アメを食べようよ!」 

 

 

「なにをしている!もっと魂から絞り出せ!」

 

 

「貴様の裁定の時は――今ではなかろう!」

 

 

 

「っ――!わ、私!」

 

全身全霊をかけて、オルガマリーが死の運命に抗い叫ぶ

 

「友達を残して――死にたくないぃいぃい!!!」

 

 

「――それでよい。上出来だ」

 

瞬間、レフの顔が疑問に歪んでゆく

 

「……この反応は……、馬鹿な」

 

 

瞬間、オルガマリーの身体をすっぽりと黄金の輝きが包み込む

 

 

「――フッ」

 

「馬鹿な……聖杯……!?何故それをオルガマリーが所持している……!?」

 

ぎろり。と視線がこちらに向けられる。

 

目論みが外れた憤慨と苛立ちの凝視を、さらりと流し煽りを入れる

 

「さてな、どこぞで拾ったのではないか?」

 

そのまま黄金の輝きは光を増して行き、カルデアスの死の吸引をついに振り切る

 

そのまま、マシュとマスターを包み込む。完全安全領域を展開させ、カルデアに帰還させる準備を完遂させる

 

 

「医師、カルデアに帰還するぞ」

 

『い、いいのかい!?』

 

「カルデアスに起きた異変。それだけで何が起きたかは悟れよう。解らなければ我が補足する」

 

「ここに、最早見るべきモノはあるまい。下らん出し物も御破算と相成ったようであるしな」

 

フン、と、鼻を鳴らす。

――今回ばかりは、器の尊大さに全力でガッツポーズを決めてやりたい気分だった

 

「英雄王――貴様……貴様ァ……!!」

 

 

転移が、始まる。

 

マシュと、リッカと

 

……死の運命から逃れた娘を連れて

 

 

「ではな、道化。精々次は見世物を吟味しておけ」

 

「――尤も。その時は我の赦し無くして視界に入った無礼」

 

「生命を以て贖ってもらうがな……!!」

 

 

視界が。暗転する

 

 

二人の少女と

 

 

二つの。反則を抱えて――天文台へと帰還して行く

 

 

――どうやら……賭けは、こちらの勝ちらしい

 

 




自分を黒幕と思っている節穴、フラウロス


兄貴と二人で節穴コンビ?

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