人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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〜かつての星雲にて…

あの星は?なんと言うのでしょう?

あれはペリカン座です。ふふ、あの星々が嘴みたいでしょう?

すみません、私の娘が…

ふふ、よろしいのです。素敵な娘さんですね。あなたのお子さんですか?

あぁ、いえ…血は繋がっていないのですが…

気にする事はありません。親子に必要なのは、心の繋がり。星座のような…ふふ、お父さんは好きかしら?

はい。私はお父さんが、誰よりも大好きです!

そう。お父さんも、あなたがきっと大好きよ。大切に、大切にね?

…ありがとうございます。麗しい御方。

──メーテルです。メーテル。よろしくお願いします。あなたの名は?

ナイア、です。

…■■■です。またお会いしましょう。


リクエスト〜邪神と乱されぬダイヤ〜

「いやはやまさか、あなたが家族を持とうとは。実にびっくり、いや驚きでしたよ。しかも御家族との仲もご良好とは更に驚きの重ねがけ」

 

楽園の一角。特殊に作られた特設カフェ。あらゆる場所でお茶会が繰り広げられる中、特注の休憩ティータイムを行う影がある。

 

「くそ真面目と言われてる私、久方ぶりに休息を取りました。その説は大変大変、お世話になりました。貴方様の名前を出せば、ダイヤの運行は保証されたようなものでまことに、まことに…」

 

【ははは、悪名も使いようです。こんなどうしようもないネームバリューで良ければ好きなだけ使い倒してください、車掌さん】

 

車掌。その名の通り彼は電車の運行を守り続ける真面目な職員である。彼の乗る列車、或いは宇宙、或いは銀河を駆け抜けていく鉄道…

 

「本当にありがとうございます。いつでもご利用下さい、ニャルラトホテプ様。銀河鉄道…いつでも定時刻を順守し乱れぬダイヤを抱いてみせましょう」

 

聞いたことはあるだろう。機械の身体を手にするためにとある少年が乗り込んだ列車。物語の名前は──銀河鉄道999。その車掌こそが、彼。実はお忍びで楽園のチケットを手に入れており、こうして内緒でお茶をしているのである。その相手はもちろん、銀河下種野郎ナイアルラトテップである。つまるところニャルなのである。

 

【常日頃から利用させていただいていますとも。ドリームランドとか、クソ痴呆爺にビードログルメレース聞かせに行く時とかに、あと小さい頃、ナイアと何度も乗りましたな。アンドロメダ星雲をキラキラした目で見るナイアの顔は実に素晴らしいものでした】

 

彼とは古い付き合いだ。ニャルはかの銀河鉄道を昔から利用し、気に入っている。景観、真面目、そしてサービス。ナイアが小さい頃、毎週の様に乗っていたのだ。

 

「娘さんですか。彼女はお元気ですか?彼女も随分と見ておりません。仕事に忙殺され、ようやくまとまった休みを取れたのがつい先日で。随分と日にちが経ってしまったものです」

 

【えぇ、お陰様で。今では沢山の…一万を超える友人が出来ました。不肖このニャルラトホテプ、子に更に妻も出来まして】

 

「それはなんともめでたい事です!御祝儀の一つも用意することもできず、重ね重ね申し訳ない…」

 

ナイアが子供である頃、狩りをし始めた頃。狩り場に行く際、休みの際、何度も何度も利用した為車掌は彼とナイアの事も知っている。だからこそ、その報告は彼にとってまさに青天の霹靂だ。時の流れが凄まじい事をその身で痛感せざるを得ない車掌は肩を落とす。

 

「実は最近、撮り鉄に悩まされていまして…御存知ですか?撮り鉄という迷惑かつ悪質な連中を。まぁもちろん善良な撮り鉄はいるとは思いますが、未だに出会った事はありませんな」

 

【そちらにも出没するものなのですなぁ。地球にもいますよ。電車を撮るために人の田んぼに勝手に水張ったり、勝手に立入禁止区域に入ったり…】

 

「こちらもそのようなものです。撮りやすい惑星を掌握したり、惑星の配列を勝手に変えたり…銀河鉄道内でも非常に問題になっているテロリスト集団です。嘆かわしい…世の中には自分の事しか考えられない者がいるのです。しかも悪事を働いている自覚がないため警告もうまく聞き入れて貰えず…彼女も嘆いております。時代の流れとは恐ろしい。こうして悪質さも大きさを増していくのですから」

 

彼女、というのはニャルにも覚えがある。幼きナイアに、列車の中で様々な話や、星の名前などを教えてくれたかの女性。ミステリアスな、金髪の女性。

 

【メーテルさんも変わらず美しいままですか。喜ばしい事だ】

 

「おや、解るのですか?最近は列車を利用しておらず、ナイアさんの顔を見れず寂しげにしておりましたが…」

 

メーテル。車掌と並ぶ列車の顔とも言える絶世の美女。かつての列車にて、細やかな一時を過ごした人。決して知らぬ中でもない方の様子を、ニャルは見抜く。

 

【悪行に心を痛め、嘆く。その心が何よりも美しい。一昔前はその美貌にばかりに目が行っていたが…世帯と安息の地を以て、私も随分と変わったみたいな様で】

 

「誰ですかあなた!?」

 

【邪神です。頭がプレシャスに多少なりとも…いや骨の髄まで犯された、ね】

 

「人は変わりますなぁ…」

 

【邪神です】

 

そう。自分は変わったと邪神は言う。以前ならば、自分が行っていた蛮行に、多少なりとも不愉快な気分を懐いているのが明白だからだ。

 

【貴方と運行されている銀河鉄道は、我々の小さき頃の思い出だ。それを穢そうとする輩に慈悲などくれてはやりはせぬとも】

 

「あなた娘さん以外に向ける慈悲なんて持っていたんですね…」

 

【このお祝いの日に足を運んでくださったあなたに感謝を。いくつかの目星はついていますか?私が殲滅させて差し上げよう】

 

本当ですか、と車掌が身を乗り出す。そう、彼が娘以外の誰かの為に何かをする等、彼の以前を知っている車掌からすればまさに驚天動地の異常事態である。

 

「変なものでも食べました?ご精神の状態は問題ありませんか?無理はしていませんか?実は銀河鉄道の掌握を狙っていたり?いつ裏切るんです?私にだけこっそり教えて下さい逃げますから」

 

【はっはっは。ネームバリュー利用するだけしといてそれは酷くないですか。いやなに…単に、非常に楽しくてですね。自身の大切なものの為に命を懸け、大切なものを護る自身。以前なら考えられなかったこの表情が…】

 

私は、楽しく嬉しいと車掌に語る。楽園だけの顔、今だけの貌。これを貫く事に、なんら憂いは無いのだと。そして同時に、彼は告げる。

 

【撮り鉄連中は私が宇宙から根絶致しましょう。その代わり、条件を一つ】

 

「ほら来た。生贄ですか?魂ですか?報酬ですか?すみませんがお金はありませんよ。割と安月給なんですよ車掌って」

 

【人をなんだとwwそうではなく。…メーテルさんと旅をした、機械の身体を求めた少年の話を聞かせてやってほしいのです。楽園の皆様に、ね】

 

目を白黒させる車掌に、ニャルは告げる。彼は人の身でありながら、郷愁と地球の重力を振り切った一人の勇気ある…楽園の目指す道の先駆者の話を。

 

「ニャルさん…」

 

【あと、娘の友人達の定期券みたいなのもくれると嬉しいです。ランドルフ・カーターを御存知ですか?あの監査下の少女を二人ほど預かっていまして。彼女らにも見せてあげようと思いまして。あの──】

 

そう、あの大アンドロメダの景色を。情緒定まらぬ子供の目に、遥か彼方の銀河はどう映るのかを彼は思う。それは憧憬か、感嘆か、はたまた案外大したことないとの拍子抜けか…。

 

【娘がかつて見た景色、それを見せるのが楽しみです。という訳で、座標をお聞かせ願いますかな車掌さん】

 

「ナイアルラトホテップさん…」

 

車掌はその言葉を聞き及び、静かに頷いた後…邪神に告げる。

 

「それじゃ願いは2つになりますが…」

 

【まけて…くれません?】

 

「仕方ありません、今回だけですよ?これからも銀河鉄道を御贔屓に…」

 

車掌と邪神、気のおけない旧友の二人は笑い合い、よっこらせと腰を上げるのであった──

 




とある宙域

エボルドライバー【レディー・ゴー!!ブラックホール・フィニッシュ!!】

ニャル【チャオ】

撮り鉄組織の屯する星、それらに向けてブラックホールを叩き込む邪神。かつての友の力は、こういった宇宙の掃除にはうってつけだ。宙域のゴミ掃除を眺めつつ、振り返る。

ニャル【やはり知的生命体は、一定以上のレベルには達するのは稀か。惑星エス・テランの御使い共もそうだったからな。至高神ソルには同情する】

感慨も無く、真化の道はまだ遠いと鼻を鳴らし踵を返す。──しかし。

ニャル【ん?】

見れば、いくつかの宇宙艇が見える。どうやら各宙域からやってきた、撮り鉄の仲間であるようだ。帰ってきた、という事だろう。散々迷惑をかけてだ。

【……………】

邪神は思う。ゴミの処理は徹底的にと。そして丁度、試してみたい道具も出来た。

【性能実験と行くか】

先程、剣士たちより拝借したデータを元に作り上げた…

【凝視深淵剣・混沌!】

刃王剣を血染めの赤と黒に彩りし形状の魔剣。

【魔剣トラペゾドライバー】

ライドブックを差し込むドライバー…

【エンシェントルーラークトゥルフライドブック】

分厚きライドブックを、片手で開く。

【エンシェントルーラークトゥルフ!白痴の神が微睡む世の深淵、蠢く神々が平和と正気を奪い去る…!】

【我が宝を汚す者は、この宇宙に存在を赦さん】

ライドブックを閉じ、ベルトに装填。そして──剣を引き抜く

【変身】

【混沌、這出。おぉ歓喜の絶叫を爪弾け(ニャル・シャガナ・ニャル・シャガンナ)!遍く全ては我が玩弄物(オモチャ)(原初の恐怖を此処に!)!嘲笑え!滑稽極まる無様な夢を!(シャメッシュ!シャメッシュ!)仮面ライダー…!トラペゾ!ヘドロン…!!(クトゥルフ・フタグン──)】

デモンベインを人型に、そして黒と紅蓮に彩ったフォルムのアーマーを纏いし邪悪極まる無貌の剣士が、動き出す。

──そして、数多の超新星爆発、ブラックホールの生成、暗黒天体創造、グレート・アトラクターといった宇宙の暴虐が吹き荒れた後、銀河鉄道に仇なす存在は因果地平の果てへと消えた。

【これで少しは静かになるだろう】

一仕事終えたと、邪神が変身を解いた時、眼前より駆ける列車がある。それはかつて乗った、銀河鉄道。

その窓より──

【──お久しぶりです。麗しき方よ】

『そちらも、変わることなく…いえ、変わったかしら。素敵な方にね』

邪神の目に、過去と変わらぬ壮麗さで。銀河鉄道は駆け抜けるのであった──。

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