人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
召喚場
?「ここですね。噂の楽園の入り口と言うのは。よい、しょ」
「…………」
「ここを妖精郷の入り口とします(どーん)」
「あ、あの…」
「貴様は?」
「ようやく、○を…」
「通りなさい」
「は、はい」
(……城でも建てましょうか)
「さて、随分と間を開けた気もするが、我の本来の戦いを始めるとするか。そろそろ不本意な敗北の歴史にも終止符を打たねばならぬからな」
本日は戦いに次ぐ戦いのマスター達を呼ばず、ゆるい雰囲気にて召喚室に設立された玉座に座る我等が御機嫌王。その奮闘を労い、労りつつも自身の戦いを投げたりはしない。カルデア全体に向けられたものではない、ひっそりとした召喚だ。
──平安京等からのお引越しめいた来訪も含めれば、改築に関する労力も決して馬鹿にはできませんからね。今日は今までの特異点にて会いつつも出会っていない皆様を招くのは如何でしょう?
エアの言葉に、それで良かろうと了承を行い指を鳴らす。召喚室には二人と一匹しかおらぬ静けさを保った物珍しい様相の召喚だ。
(リッカちゃんらは里帰りの計画を立ててるんだっけ。もうすぐ休暇の一年も半分に差し掛かるし、頃合いの季節なのかもね)
《無論、半分を過ぎた際にはさらなるイベントが目白押しであるからな。夏のサマーゴージャスフェスティバル、秋のハロウィンその他諸々…そして冬、年の瀬にはいよいよ歴史の覇者を決する戦いが幕を開けるのだ》
そう、計画と予想が狂っておらねば今年の末、別世界のカルデアに襲い掛かった人類史濾過現象、即ち異星の神の侵攻が幕を開ける。其処から許される戦いの時間は3ヶ月。想定されている異聞帯の数は7つ。特異点化し、異聞帯から汎人類史へと移行させる手段を含めれば14もの世界にその期間で勝利せねばならない。人理焼却を巡る戦いも壮絶ではあったが、楽園を以てしてもその戦いは死闘を極める事だろう。
「我等が積み重ね、積み上げてきたものすべてが試される戦いだ。一度始まれば、外界の者共には完全勝利の暁にしか再会は叶わぬ。中学の亡者共はどうでも良いが、高校の知己には挨拶の一つも許してやらねばなるまいよ」
そう、年の瀬を境に汎人類史は活動の一切を停止する。空想樹が開花するのを防ぐため、先んじて地球の地脈を完全掌握し動きを止めるのだ。そのまま養育を阻み、異聞帯の定着と人理の漂白を防ぐ。まさに地球の存亡を掛けた決戦であるのだ。
「使徒、同盟者となるであろう因子の処理も第二カルデアに任せてはいる。人事を尽くして天命を待つ…というのは我の柄では無いが、物事には我等の勝利を除いて絶対は無いものよ。油断、慢心はせずに事を運ばねばな」
──その為の召喚、その為の改築、その為の娯楽ですものね。まさに万全盤石の様相を整えて事に挑んで参りましょう、王!
エアの言葉に頷き、いよいよ以て召喚サークルを回し始めるギル。そう、戦力の拡張と充実に終わりは決してない。全人類の叡智と歴史を結集させるという意味でも、楽園の完成は未だ遥か先なのだ。
(増やして、招いて、そして地盤を固めて…オマエの戦いって派手か地味かのどっちかだよな)
《今更であろう。戦士や軍は血を流し屍を積み上げるが仕事であり、地盤を固める役割は担えぬ。こうした民や国を豊かにする責務もまた、王の特権だ。無闇に増やすも雑種の温床を招くが、こと我が楽園に至って、貧困や差別などのくだらぬ罪過など認めはせぬし発しはさせぬ。衣食を足りて礼節を知るというヤツよな》
──はい。そしていつかこの召喚が用を成さなくなったその日こそが…
《我等の勝利にして、カルデアの意義を宇宙に拡める日取りであろうよ。その頃にはセイバーも我が妃として傍らにいよう。ふはは、報奨が確約された努力など努力とは言わぬと言うに!我ながら揺るぎなき王道を歩んでいると言うものよ!》
──…………
(………)
《待て、何故そこで黙るか。勝ちは決まっているものだ、そうであろう?我様大勝利は見えているであろう?》
──ウルトラの星の遠さ、くらいには…
(セイバーにも相手を選ぶ権利はあるし、ヒロインX憤慨案件なんだよなぁ…)
辛辣か!王の叫びをよそに召喚サークルの回転は収まらない。招くべき存在を招くが為に、光り輝き回転を続ける。その光がいつか、セイバーを招き導く光となることを信じて。
「さて、如何なる輩が楽園に足を踏み入れるのやら。招いておらぬ最古の縁は何者だ?」
───えーと、遥かオルレアンに遡ります。バーサーク・アサシンと反応を同じくする…
その言葉と同時に、召喚が遂行される。光り輝くその光景の下、姿を現せしは噂をすればの人物。
「…シャルル・アンリ・サンソンと申します。遅参、誠に御容赦を。医療スタッフの一員としてお使いください」
コートに身を包んだ、憂いを帯びた青年。医者にして処刑人、シャルル・アンリ・サンソン。苦悩の時代に生き、王妃の首を落とした人物がフランス以来の来訪と再会を果たした。
「ほう、世紀の発明と卓越した医療技術を併せ持つ有望株が姿を現したものよな」
「お戯れを。こんなにも長く、時間がかかってしまった。フランスの騒動では大変な御無礼を。その不始末、この手でつける事を誓います」
──マリーもきっと喜びますよ!サンソンはいついらっしゃるのかと心待ちにしておりましたから!
「お招きいただき、本当に感謝しております。…それでは、これにて」
「うむ、下がってよいぞ。挨拶回りをしてくるがよい。見知った顔には困らぬが故な」
恭しく一礼し、召喚室を後にするサンソン。…そして、彼を待ち望んでいたのは、マリー王妃だけではない。いや、正確にはもう一人の…
〜
「サンソン?」
「!マリー!?」
忘れもしないその声に振り向けば、其処には冷酷な笑みを湛えた絶世のスタイルの美貌の淑女が立っていた。はちきれんばかりの胸の下で手を組む、冷厳なるマリー・アントワネット。
「ようやくいらっしゃったのね。えぇ、ずっと待っていたわ。いらっしゃい、優しい優しい処刑人さん。あなたの優しい刃、忘れてはいませんことよ」
「…マリー王妃…」
「これからは仲間ですもの。確執を持ち込まず、共に歩んで参りましょう。加害者も被害者も、ここではあの王の名の下に平等です。ね?サンソン」
にこり、と挨拶を告げ、左手で握手を要求するマリー。シャルルはその手を取り…
「──ぐっ!?」
足に鋭い痛みを感じ、顔を歪める。見ればマリーのハイヒールが、ぐりぃと音を立てる程の勢いで脚を踏み躙っていた。
「あら、ごめんなさいね。──わざとでは無いのよ、本当よ?」
「ぐっ、ぅ…」
踏みにじりながら、憎悪に満ちた眼差しでサンソンを見据えるマリーオルタ。握手も親愛などとは程遠く、手を握り潰すばかりの怪力にて締め上げている。
(…王妃…)
確信する。彼女は王妃だ。この狂おしい、フランス全てに向けられた憎悪…それは、首を落とした自身、いやフランスのかつての体制全てに向いている。
「これからよろしくね、サンソン。──ふん」
「ぐはっ…!」
手を離し、邪魔だとばかりに突き飛ばすマリーオルタ。苛烈極まる憎悪の王妃は、フランスにまつわるものには微塵も容赦がない。だが同時に…
「…どんなに憎くても、誰よりも先に挨拶しに来てくれた。そんな君は、間違いなくかのフランスの王妃だよ。マリー…」
憎いからこそ無視をしない、憎いからこそ蔑ろにしない。かつて犯した過ちを、自身への仕打ちを忘れない。…一介の処刑人ごときにすらも意識を割いてくれる。
そんな彼女なりの向き合い方に、シャルルは深い納得と複雑な想いを抱くのであった…。
後日
マリーオルタ「という事が昨日あったの。ムカついたから思い切り靴を踏んでやりました。オマージュ?リスペクト?パロディと言うのかしら?」
じゃんぬ「わざわざやりに行ったの?なんというか性格まで悪くなったりしてない?」
マリーオルタ「しょうがないじゃない、腹が立ったんだもの。八つ裂きがだめなら嫌がらせをすればいいじゃない」
じゃんぬ「小学生か!別に何しようが勝手だけど、楽園の雰囲気を悪くするのはやめなさいよね。はい、パフェおまちどー」
マリー「ふん。それくらい解っています。──サンソン!ナプキン!」
じゃんぬ「は?」
サンソン「マリー!こちらに!」
マリー「馴れ馴れしく名前を口にしないでくださる!?」
「申し訳ない、マリー!水を持ってきます!」
じゃんぬ「執事代わりにしてんじゃないのよアンタ!?」
マリー「ふふん。私はリッカの国にて大好きな言葉があります。教えてあげましょうか?」
じゃんぬ「…えぇ」
──それはそれ、これはこれ。よ──
──あぁ、そう…──
この後、楽園にはいつも傍らに処刑人を侍らせる不機嫌な王妃様が散見されるようになりましたとさ──