人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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リッカ「どこ向かってるの?あんまり見ない場所だけど…」

ロマン「ふふ、言うなれば知る人ぞ知る老舗ってところさ。あ、念の為聞いておきたいんだけど…鶴の恩返しは好きかい?」

リッカ「もちろん!哀しいけど、切ないけど…恩返しや崇高な想いっていいよね…いろは(鶴のセイバー)ちゃんと見て泣きながら抱き合ったりもしたよ!それがどったの?」

ロマン「君の幻想を壊してしまうかもしれない…」

リッカ「どういう事!?」

ロマン「わ、悪い人じゃないからね!大丈夫だよ、美しさはイメージ通りだから!でも、まぁ…残念な美人では、あるけど…」

リッカ(一体、何が待っているのか…怖くもあるし楽しみでもある!一体誰が!?)

ロマン「くれぐれも言っておくよ…鶴の恩返しのイメージはいろはちゃんが正しいからね!がっかり…はするかもだけど!」

リッカ「がっかりはするんだ!?」

ロマン「でも大丈夫!合言葉は…!」

リッカ&ロマン「「絶対に…見ないでください…!」」

厨房

いろは「くしゅっ!」

ブーディカ「あら、風邪?」

いろは「ちゅ、厨房を預かる身でありながら体調不管理…いけません!体調管理の為、滝に打たれてきます!」

ブーディカ「もっとだめじゃないかなぁ!?」


尊死の死骸、お一つどうです?

「おぉお…舞踏会の式場…!」

 

ロマンに促され、扉を開き足を踏み入れたリッカを迎えた空間、それは月明かりに照らされ幻想的な雰囲気を醸し出す洋館のテラス、或いはダンスホール。着飾りし令嬢達が、或いは仮面の貴賓達がダンスを踊る場所そのものの景観が広がっていたのだ。感嘆するリッカに、ロマンが胸を張る。

 

「驚いたかい?ここは旧カルデアの様々なものを置いておいたり思い出したりする『ロストルーム』をボクの力でちょちょいと微小特異点に変化させたその名もズバリ『ムーンライト』!ここはギルの改築も関与していない、凄くレアでシークレットな場所なのさ。凄いでしょ?」

 

「またロマン厄介事抱え込んだりしてたの?世界崩壊ネタ?」

 

酷くない!?そう嘆くロマンに冗談だよとリッカが笑う。もう抱え込んだりしないのは解っている。彼はもう一人では無いのだから。その時──

 

『──彼は行き場なく彷徨っていた私を匿ってくださり、このカルデアに一時的な居場所を作ってくださったのです。あれよあれよと言う間に大御殿もかくやな出来栄えとなっていきましたが、存在は申告してあるのでご安心ください』

 

理知的、かつ清澄な声が響き渡る。清廉かつ美しい声音に顔を上げて見れば、エントランス二階のステンドグラスの前に人影が一つ。

 

『セイバーの私、即ち鶴の片割れがお世話になっております。此度は里帰りと聞き、一念発起し沈黙を破らんとしお顔を晒させて戴きたく決起しました次第にて。お初にお目にかかります、リッカた、えふん!──藤丸龍華様』

 

「ん?」

 

リッカの捉えた違和感、しかし敢えてスルーする事により邂逅を促す。すらりとした173の長身、壮麗な白い着物、ツバの大きい帽子、オリエンタルとフランス辺りのトレンディを完全に調和させた、麗しき橙色の長髪を持つ女性が、月明かりに照らされて現れる。

 

「改めましてご挨拶を。私はキャスター。真名を鶴女の君。楽園の皆様の服や衣装の仕立、機織り、総監督を行わせていただいております。以後、お見知りおきを。ご挨拶の日、心待ちにしておりました。言いにくければ、ミス・クレーン等でも結構です」

 

鶴女の君。セイバーではなくキャスターの側面として顕現したサーヴァント。日本童話における鶴の恩返しを出典とするサーヴァントであると、彼女は名乗りを上げた。

 

「や…大和撫子…!」

 

その流麗な所作に、リッカは目を奪われる。誰が見ても美しいという評価以外を下せぬような超絶日本美人。絵画に描けば美人画が枕につくような麗しの存在が現れたのだ、無理もない。

 

「アフっ…ハァハァ…生、生リッカたん…!おっ、ヤッベっ、てぇてぇ、存在そのものがてぇてぇの化身…ヤバっ力強い眼差しで溶ける、アーイキソ、アッ…」

 

(???)

 

…なんだか途端にハァハァし始めた、キャラクター的に暴走しているようなそうでもないような、見慣れたようなテンションになる目の前の美人に情報処理が鈍るリッカ。なんでロイヤルズクラスの美人がくろひーみたいな言動してるんだろ…

 

「ほらほら、クレーン?リッカ君に渡したいものがあるんだろう?脱線してちゃあ駄目だぞぅ」

 

「はっ!そうでしたロマン様!私としたことが推しを蔑ろにする万死行為!死ぬのはやることを果たしてから!…こほん!では、リッカ様。改めてこちらを、どうぞ」

 

咳払いし、背筋を正しリッカに向き直る。リッカが少し上向きになるくらいの長身に見据えられ、美人の顔立ちに見据えられる。

 

((顔近ッッッ!!))

 

お互いダメージを受け合ったのは気の所為ではない。そしてリッカは、数多の服装を受け取る。

 

「これ…!」

 

それは、リッカの高校時代の制服と、カルデアスの紋章を背中に刺繍した白いロングコート…即ち、グランドマスター専用の新規制服(白)。そして、外出用の夏服、冬服。どれもが、今の自分のボディサイズににぴったりというオーダーメイドの極みたる服装セット。生半可な腕前では到達できない、まさに職人の神業だ。

 

「故郷に錦を飾る、と言います。リッカたんの凱旋帰郷、そして旧友の皆様への再会。ロマン様からの依頼を受け着手しておりました。それが完成しましたので…今。リッカたんに託したいと思います」

 

(もうリッカたんって憚らなくなった…)

 

それはともかく、リッカのこの新規衣装を依頼したのは他ならぬロマンだという。彼は照れくさそうに、申し訳なさそうに告げる。

 

「いきなりごめんよ、リッカ君。ボディのフィットはレオナルドや女性職員に頼んだからボクは関与してないから安心してほしい!アジーカちゃんやアンリマユにも協力してもらって、漕ぎ着けたんだ。ほら、今の君はあらゆる意味で、カルデアに来る前と後じゃ比べ物にならないくらい強く、立派に、可愛く、素敵になった」

 

「うぐぅっ!!」

 

「出たーーー!!てぇてぇ4倍ダメージ!!虹色粒子キタコレ!!」

 

「や、やるじゃないロマン…」

 

「いやいや瀕死にならないで!?…だからさ、今までの服装じゃキツかったり、サイズが合ったりしなかったりするかもだからさ。こうして改めて、日頃の感謝を込めて。君にプレゼントしたかったんだ。彼女も紹介したかったしね」

 

ロマンの気遣いが、こうして形となったとミス・クレーンが床絨毯になりながらサムズアップにて告げる。そしてそれは、彼の感謝を込めた逸品でもあった。

 

「自信を以て行っておいで。君はもう、野菜ジュースとカロリーメイトだけあれば平気だなんて言っていた性別リッカじゃない。何処へ出しても、何処へ行っても恥ずかしくない、魅力的で素敵な女の子だよ」

 

「ロマン…自分だって、年齢一桁なくせに…」

 

「あはは。そうだね。でも…ボクは今幸せの中にいる。それは、皆が作ってくれた幸せだから。リッカちゃんや、皆が作ってくれた幸せ…人間としての幸せだ。それをボクも、受け取るばかりではいたくない。同じ仲間として、家族のような存在として…君達を思っているから」

 

ロマンの言葉は優しく、暖かい。ともすれば、リッカとロマンは似ているのかもしれない。人の心を持たず、王としてしか生きれなかったロマン。未知の理の獣として羽化するやもしれなかったリッカ。二人共、人の心に救われた経験を持つ。

 

「胸を張って、行ってらっしゃい。君の故郷へ。でもわがままを言わせてもらうなら…どうかまた、ここに。楽園に…カルデアに帰ってきてくれるかい?ボク達は、君を待っているからね。かけがえのない君を、ね」

 

ロマンの問いは優しくも、やっぱりロマンらしいデリカシーの無さで。リッカは思わず、笑ってしまって。

 

「──もう。戻って来ない訳無いでしょ?楽園だとか、人類最悪のマスターだとか関係なく私はここが大好きだから。楽園の皆が、皆と過ごす日々が大好きだから」

 

皆、心配してくれた。皆、自分の幸せを祈ってくれた。楽園を出る時も、任務など関係なく付いてきてくれる。そんな素敵な人達が集まる場所が、ここだから。

 

だから、必ず帰ってくる。もう、自分の故郷は一つではないから。ここはもう、自分にとっての…

 

「楽園は、私にとっての帰る場所!大切な、心の故郷だから!」

 

「──嬉しいよ。オルガマリーや皆と、待っているからね!」

 

ロマンと頷き合い、約束を交わす。杞憂をふっ飛ばし、約束を果たすために。

 

「行ってきます!ロマン、クレーンさん!」

 

「うん、行ってらっしゃい。リッカ君。気をつけてね!…あれ?クレーン?」

 

返事のないクレーンを、二人が見やると…

 

「⊂⌒~⊃。Д。)⊃」

 

「「し、死んでる…」」

 

安らかな表情にて腹を見せる鶴の死骸が、出来上がっていたのでした──




ヴィマーナ・日本海上空

リッカ「………ふへへ…」

ギル「緩みきった顔をしおって。ロマニめの餞別がそれほど気に入ったか?」

リッカ「うん!これでもう性別リッカだなんて皆には言わせないからね!」

───一年という期間で、リッカちゃんは見違えるように魅力的になりました。これなら必ずいけます!全世界リッカちゃんファンクラブ計画!

フォウ(全人類規模はリッカちゃんがもたないよきっと!?)

ギル《ふはは!夢は巨大に壮大であるものよ!我のセイバー招きのようにな!さて、そろそろ夏草の上空に付けるわけだが…》

リッカ「うん!…うん?」

その時、リッカは自身の目を疑った。何度も地理を確認し、地名を確認し、マップを確認した。

ギル「……リッカ、本当にここなのだな?ここだな?」

リッカ「ここ、ここ…なんだよ、ね?」

ギル「何故疑問系なのだ…」

眼下に広がるは、首都東京に勝るとも劣らぬビル群、輝きの夜景、響き渡る喧騒、飛び回る飛行船、消費文明の極致とも言うべき発展と文化のパラダイス…

リッカ「わ───私の知ってる夏草じゃないんだけどーーーーー!!?」

精々やや都会気味な程度な故郷が発展の極みへと至った事で、夜空にリッカの咆哮が木霊したのだった──

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