人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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夏草市・噴水公園エリア

カーマ(…今のところ、致命的に狂った様な感覚も、特異点の反応もありません。手入れの行き届いた、真面目で誠実な都市です)

アジーカ『ププププ(シャボン玉)』

アンリマユ【一年やそこらで変わるもんだねぇ…高度成長期ってのは千葉だけに来るもんなのか?】

カーマ「そんなワケないじゃないですか。この都市のおかしいことを上げるなら、まさに発展を極めた都市そのものです。一年やそこらで、こんなに発展するなんてあり得ないでしょう?ビルとかは人が手にするものなんですから。アジーカちゃん、何か掴めましたか?」

『…満ちている想いは、わかる』

「想い?」

『労りと、ねぎらい。あと…浄化と、清澄』

カーマ「…悪いものではない、ですか?」

アジーカ『うん。あと、強い想い。『穢れは引き受ける』って、揺るぎない決意』

アンリマユ【なんだそりゃ?】

アジーカ『さぁ。あと…』

?「──見ぬ顔だな、お前達」

カーマ「!?」

ラオウ「私は、内海羅王。何れ町となるこの夏草の市長だ。──少しばかり、話をしたいが構わぬか?」

二メートルは優に超える鋼の大巨漢が、カーマ達の前へと立ち塞がる──

ラオウ「これは私の名刺」

カーマ「あ、ご丁寧に…」


新生!昇陽英傑学園!

駅から歩み、徒歩5分。ルルとゆかな、スザクの案内と先導のままに歩き、排気ガスや騒音が不気味なまでに少ない車通り、ゴミ分別や清潔が行き届いた綺麗な町並みを歩む。当然ながら、リッカが見慣れた夏草の風景はどこにもないほどに発展、進化した様相。そこにかつて住みながら、まるで異国、異世界に来たような困惑と高揚を抱かせてくれる夏草の町。

 

(楽園でもちらほら見る町並みデザインとか、ホントどうなってるワケ?技術というか納期はどうやってもごまかせないでしょうに…)

 

(カーマ殿が調査中です。経過を待ちましょうぞ)

 

(自分が幻想郷上がりの田舎っぺになった気分です!実際そうなんですが!)

 

「この景観、新しいだろう?榊原が言うには、『帰郷する人達に新鮮な感傷を届けたい』という市長の理念から来ているそうだ。いつかは夏草市から町へ、町から県へ…などという理由から、町長や市長でもいいと宣うトップの意向らしいがな」

 

「ラオウ町長…市長さんだっけ?」

 

「これと言って何もなかった夏草に変革を望み、住むものに幸福と発展を授けるのが理念の傑物だよ。都市のことを考え、いや…都市の発展しか頭にないレベルの凄い人だ。俺達の通う昇陽…正確には昇陽英傑学園も、そんな彼の理念に後押しされ生まれ変わった」

 

ゆかな、ルルの言葉には感嘆と、畏敬と、そこはかとない困惑があった。あまりにも快進撃が凄まじい、恐るべき手腕だと。

 

「人材も、建築も、有用ならばなんだろうと登用した。逆らうもの、従わないものはあらゆる手段で納得、時には説き伏せ、時には叩き潰す事で夏草を絢爛なものへと変えた。その凄まじい手腕を讃えるものは沢山いる。僕達だってそうだ。だけど…」

 

「誰も分かっていないのさ。何故、そこまで夏草の拡大と発展に拘るのかという理由、理屈がな。私達高校生のガキには、大人のビジョンは見えないという事だろう。榊原の思惑の一つも、私達は乗り越えられない程度なのだからな」

 

スザク、ゆかなの評を聞くに傑物である事は間違いない。だが、その発展の理屈がどのようなものかは…未だに誰にも、解らぬものだという。

 

「…お前たち。リッカは頭を悩ませにここに来たんじゃない。慰安、羽休めの為だ。下らん陰謀論に彼女らを巻き込むな」

 

優等生ルル、解らぬ事は解らぬと即決する。彼は童貞ではあるが紛れもなく秀才、有能の男。無用な悩みは頭を悩ませ、楽しいイベントに水を差すと嗜める。

 

「すまないな、リッカ。市長はいつでも市民の声を聞きたがっている。気になるなら、榊原先生と一緒に行ってみるといい」

 

「うん!ありがとね、3人とも!」

 

「どういたしまして。さぁ…あそこが俺達の学舎、昇陽学園改め…昇陽英傑学園だ!」

 

通学路を歩き、ルルが指差すその学園…──リッカと早苗がかつて通っていた、クラシックな校舎の風景…とは一線を画す、未来を担う子供たちの大切な施設が変わり果てた姿にて皆を迎え入れる。

 

「「めっちゃおっきくなってるー!?」」

 

グラウンド一つ程度だった敷地は、武道館、体育館、テニスコート、バスケットコート、サッカーエリア、温水プール、屋外プール、トレーニングエリア等といった無数の施設が配置されており、運動部の部室はなんと全員個室持ちの施設分けがされている。

 

本校、分校、そして工学エリア、文芸エリア、裏庭、裏山といった一年前には無かった異常膨張とすら形容できる程の拡大と変容を見せる学園敷地内。本校舎はモダンな白ペンキ塗りから強化ガラスと清潔なスカイブルーカラーにて彩られ、4階建てに食堂、東校、西校と分けられている。テラスや食事エリア、避難用ホールなどを回るだけで有に3日はかかりそうな程の超大規模だ。陽光を反射し、校舎のガラスには空と雲が映しこまれている。

 

「「「───(絶句)」」」

 

マシュ、じゃんぬ、そして流石のグドーシさえも絶句、並行する規模。ギルやエアもここまで行うには多少の手間がかかるような進歩を、一年足らずで成し遂げている事実に驚愕せざるを得ない。当然、リッカから聞いていた『ザ・普通』なる校舎などとは似ても似つかない。回るには車かヘリで一望する手段が必要だろう。それほどまでに目の前の学園は凄まじい

 

「夏草は初めてか?驚くだろうそうだろう。私達も持て余すレベルの施設の充実ぶりだ。下手な名門校、お嬢様学校など目がない箱庭に、一般感性を持つ高校生。認識の齟齬は生まれるともさ」

 

「何故人の善意を素直に受け取ろうとしないんだお前は。これも内海市長のたゆまぬ投資と改築の賜物…俺達は前途ある若者として、期待に応えねばならん。夜の治安維持もいずれ…いや、それは後でいい」

 

「夜の治安維持…?」

 

リッカがルルの気になるワードを訪ねようとした、その時。背筋に電流が走るような感覚がリッカにもたらされる。

 

(この感覚!)

 

「──3人とも、案内お疲れ様。やっぱり夏草で一番変わった、と言えるのはここだもんね。見せるならここ、英傑学園から。うん、私のプランを基にしてくれたんだね」

 

まぁ、いずれ被ったりしないようにと市長が思いつきで名前変えたんだけど。真面目ながら固すぎない声音、その持ち主、二人には誰か即座に理解できる。

 

「「榊原先生!お久しぶりでございます!」」

 

「ん。いい挨拶大変結構。リッカも早苗も、よく帰ってきた。会いたかったよ」

 

桃色の長髪を纏め上げ、無駄のないしなやかな雌豹の如き肉体をピッチリと生真面目なロングスカートとスーツで包んだ職務に生きる女傑の装い、しかしその表情は柔和にて優しく微笑む女神の如き女性が、早苗とリッカをそっと抱き寄せる。彼女こそは夏草の女傑にして教頭…榊原処凛その人だ。

 

「ジャンヌちゃんに、マシュちゃん。シッダールタくんもようこそ、夏草へ。これは滞在中の学園内身分証明書と、市長からの夏草で使えるクレジットカード。市長から引き落とされるから好きに使ってね」

 

そして早急に見学と滞在の話をつけ、全員に夏草内での自由を約束する。その無駄のなき手腕は、二十後半ながらも教頭の地位に就く理由が実力である事を否応なしに痛感させる。

 

「先生!あの…!」

 

沢山話したいことがある。沢山紹介したいものがある。そんなリッカと早苗の逸る気持ちを見透かすように、そっと二人の唇に人差し指を当てる。

 

 

「まぁまぁ、先生は後回しでいいの。今日は休みだけど、あなた達を迎えるためにこの学園に皆登校して待ち構えているから、順に顔を出してあげて。スマホにアプリ、インストールしておいたから」

 

「いつの間に!?」

 

「ある程度回ったら、いつもの場所…保健室で待ってる。しっかり挨拶してきなさいね。あなたをあなたにしてくれた皆に。あなたを忘れなかった皆に」

 

ウインクを贈り、榊原は学園へと消えていく。そのビューティーぶりに、一同は呆気にとられていた。今までの女性とは、大きく毛色が異なるタイプであるが故に。

 

「先に言っておくぞ。年齢であの人を弄るのはやめておけ。年齢を聞く失礼さより、人を貶める性根を俗物扱いされ矯正コースだ」

 

「矯正コース!?怖っ!何よそれ!?」

 

「揺るぎない自負と、暖かな包容力。それがあれ程のレベルで両立するものなのですなぁ…」

 

「桃色の髪の毛は校則ではセーフなのですか!」

 

「…流石は先生。俺の説明を無用にしてくれる。聞いての通り、君の知るクラスメート達は今学園それぞれの場所で君を待ち受けている。一年の時を経てパワーアップした君の学友の全力の歓迎…君は、受け止めることができるかな?」

 

ルルの試すような、心配しているような声音と視線…そして待ち受ける個性に満ちた学友達のおもてなしを思い…

 

「ごくり…!」

 

「唾飲む音って割と響きますよね!」

 

リッカは身構え、早苗はいつも通りなのであった──。

 

 




生徒会室前

ルル「まずは会長…黒神に挨拶しようか。彼女なら大抵の学園の疑問や不便は解消してくれるからね」

ジャンヌ「黒神?あぁ、あのパンフにいた?」

ゆかな「ドのつく正しさ…いや、正しくあろうとする輩だよ。ちなみにあいつも、リッカに歪みを正してもらった口。つまりリッカは恩人だ」

リッカ「いつも我が恩人!って気にかけてくれて、サナちゃんの転校でガチ凹みしてた娘だよ!皆と仲良くなれる、ううん…『仲良くなるしかなくなる』と思うな!」

マシュ「学園の、大ボスですね…!」

スザク「まぁ、そんなところだね…失礼します!」

一行が足を踏み入れた先、そこには二人の女子生徒が介在していた。ソファにて捲れたスカートとパンツ丸出しで寝ている水色髪の美少女…

雨宮天空海(あくあ)「くかー…宝くじ、4億…」

リッカ「あくあ先輩また寝てる…」

?「度重なる演芸で疲れているのだ、寝かせてやれ。そしてよくぞ来た我が大恩の朋友リッカ!待っていたぞ!」

凛とした振る舞い、声音、そして威風堂々。生徒会長腕章が煌めくその女性は高らかに叫ぶ。

「ご友人にははじめまして!私は黒神愛生!誰かを幸せにする為に今を生きる、どこにでもいる生徒会長だ!!」

そう、彼女もまた。リッカとの触れ合いにて救われ再会を待ち侘びていた者の一人である──。

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