人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ナイアボイス『着信ですよー。ぷるるる。ぷるるる。着信ですよー』

ニャル【む?もしもし?】

メイ『こんにちは、邪神さん』

ニャル【メイさん、どうしました?】

メイ『コヤンスカヤがお話したいそうです』

ニャル【へぇ…?代わります】

コヤンスカヤ『…私も大概だと思いますが、未遂の事案でこうまで痛めつけるとか、性根が腐りきっておりますね、アナタは』

【減らず口を叩ける元気はある様だな。用件を言え】

『…正直、根を上げたい所なので。取引…いえ、命乞いを聞いてくださいます?』

ニャル【へぇ?…言ってみなよ】

『私と、契約を結びません?私が設立したNFFサービス…楽園の皆様と専属契約を。無論、異星の神との契約に応じず、ロストベルトのレア物やアレコレを探索、提供致しますわ。私、愛や絆なんていう空手形は微塵も信用しませんが、書面と報酬と契約は、決して裏切りませんの』

ニャル【ほう。報酬は何を?】

コヤンスカヤ『…とりあえず…もう痛い事、しないでもらえればそれで良しとします。これだとホント、心が死んでしまいそうで…』

ニャル【解った。私が帰るまで頑張ってくれ】

コヤンスカヤ『ちょっ!?待ってください、待っ──!』

ニャル【…使い道としては上々か。いつ切り捨てるか…いや、他人に拾われたら厄介だ。飼い殺すのも…】

『(絶叫)』

【うるさっ。ま、ゆっくり考えるか】

うたうちゃん「マスター?」

【ディーヴァ。取引持ちかけるときは相手を見ようね】

「?」


正しき価格、正しき需要、正しき販売

「こちらは仮面ライダーをモチーフにしたグッズを取り扱うお土産コーナーとなっております。ミニチュア仮面ライダー、マスコットキャラクター、手乗りライダーベルト。勿論DX玩具や、プレミアム受注のコンプリートセレクションモデルも取り揃えた珠玉のラインナップ。是非ともライダーグッズをお求めの際は、夏草市へとお立ち寄りください」

 

うたうちゃんのナビゲートに導かれ、お土産ショップへとやってきた一行。お土産として夏草市と仮面ライダー達のコラボレーションイラストを始め、子供向けには光るパジャマにアパレルTシャツに昭和、平成の仮面ライダー達のDX変身ベルト、大人向けにはフィギュアーツ、コンプリートセレクションモディフィケーションといったものがメーカー希望小売価格にて売り買いされている。ソウゴ達はその圧倒的ラインナップに一様に舌を巻く。

 

【大したものだ。転売対策にお一人様一つとは徹底している】

 

「仮面ライダーを好きになってもらう、興味を持ってもらいたい、小さい子たちに仮面ライダーを知るきっかけになりたい。その理念の下可能な限りに定価で、或いは記念日には値段割引キャンペーンなどを行っております」

 

「素晴らしい。小手先の売上より、長い目で本当に利益を生み出す方法を理解しているようだ」

 

ウォズが怪訝な顔でソウゴの言葉を受ける。それを目の当たりにして、ニャルが補足を加える。

 

【きっかけで多少損をしようと、十人来たお客さんを満足させる方が大いに利益に貢献するという事さ。ウォズ、君はオーマジオウさんのフィギュアーツが発売日に必ず手に入る店と入店直後から売り切れているような店、次からどちらに行きたいと思う?】

 

「無論!前者だとも!」

 

「商売が成り立つのは人の心、互いの信頼だ。買いたいものが必ず買える、必ず手に入る店と解った客は次は家族でくるやも知れぬ。次は会員になるやもしれぬ。コンテンツに関心を持ったものが、何倍にも膨れ上がった莫大な利益を産み出すのだ。顧客と店舗、どちらも満足する事こそが正しき流通の道」

 

ホビーフェス限定の特別フィギュアをレジに運びながら、ソウゴは王として物流の流れを説く。正しく貨幣と物資が届き渡る事こそ、豊かなるコンテンツを産み出すのだと。

 

【翻って、昨今からチラホラ聞こえる転売屋と呼ばれる人種。この行為が何故良くないか…うたうちゃん、君は解るかな?】

 

フィギュアーツとコンプリートセレクション、ウエハースにユルセンフィギュアとイマジンズデフォルメグッズを放り込みながら、うたうちゃんに問う。

 

「転売、ショップや店頭から自身が必要とするもの以上の個数を買い上げ、値段を釣り上げた状態でネットマーケティングで販売する行為…。欲しい人が、手に入らないという事ですか?」

 

【そう。だが被害が甚大なのは買えなかったユーザーだけじゃない。店舗側の将来的な採算をも削り取ってしまうのがこの転売という行為だ】

 

その時、ウォズがレジにて運ばんとしていたアギトトリニティのフィギュアーツをニャルが横から掠め盗ってしまう。ウォズは困惑の後、無論怒る。

 

「何をする!それは我々がジオウトリニティとアギトトリニティ、六味一体として戦った際の記念杯として確保したもの!」

 

【希望価格は…古めだから2500円か。よしウォズ君、返してほしかったら売ってやるよ。5000円でどうかな?ちなみに私はトリニティフォームなんて好きでもなんでもない】

 

「さ、最低最悪の邪神め…!」

 

その狼藉を見て、うたうちゃんは即座に動き制止する。皮肉にも、それは演算より情緒の発露による行動であった。

 

「…やめてください、マスター。本当に欲しい人から、本当に欲しいものを掠め取って、お店より高い値段でなんて…、…!」

 

【解ってくれたかい?どれくらい罪深い行為かを。ごめんよウォズ君。ちなみに私はG3Xが好きなんだ】

 

ニャルの寸劇にて、うたうちゃんは理解する。手に入れたい者が、望むものを手に入れられない。それだけではない店側の損害、並びにコンテンツ市場の縮小を。

 

「流石にこれは極端な例だが、同時に縮図でもある。買い占めた一人と、手に入らなかった九人の十人。ならば九人が店側に懐く感情は何だ?」

 

「売り切れ、購入できない事への不満…満足できなかった顧客は、もう二度と足を運んでくれないかもしれない…仮面ライダーや、ヒーロー達に触れる機会を奪われ、興味を持ってくれないかもしれない…」

 

【全部売れたからいいじゃないか、なんて単純な話じゃないことは解ってくれたみたいだね。店側からしてみれば、これから常連として来てくれるかもしれなかった未来の九人を奪われた事になる。そして店頭に並んでいないから、このライダー格好いいから気になる!という未来の上客すら生まれなくなってしまう。そして、【あそこの店にはいつ行っても無いから行く必要が無い】だなんて風評やイメージまで付いてしまってはもう終わりだろうさ。私が本気でコンテンツを終わらせたい時や、星で革命や暴動を起こす為に使う常套手段だ。効果の程はよーく知っている】

 

古来より米騒動、大塩平八郎の乱といった様相ももたらした根の深い問題、それが転売である。聞いただけで怖気が走る所業だが、話はこれだけに留まらない。

 

「鋼の乙女。たまごっち、バンダイで検索をかけてみよ。文字通り、会社を傾かせる程の惨事が行われた事が解るはずだ」

 

ソウゴの言う通りに検索をかけ、うたうちゃんは一つの事件に辿り着く。それは、転売屋がたまごっちの買い占め、転売の為に市場を荒らした為メーカーが需要を読み切れず大量生産してしまい、大量の在庫や不良債権を抱えてしまった事件が存在していた。対応を間違えてしまえば、そこでバンダイは倒産していたとすら言われている。

 

【理解したかな?買えるものが買えないという地獄、それに転じて、買いたいものが買えるという優秀な市場を有する夏草の美徳が。物流の取引というものはプロフェッショナルが行っているものだ。そこにまかり間違っても、アマチュアが踏み込めるような余地はない。君の奉仕する市は、そんな素晴らしい場所なんだよ】

 

「トリニティフォームか。面白い…私も取り寄せ、皆で活躍を目の当たりにしながら語り合うとしよう」

 

「賛成です、我らが魔王。さぁ取寄用紙を持ち、レジに参らなくては!」

 

楽しげに、フィギュアとグッズをレジに運んでいく二人。

 

「…………」

 

その後ろ姿を目の当たりにし、自然と微笑みが漏れるうたうちゃん。お客様が満足してくれるという事は、喜ばしく嬉しいものなのだと。記録ではなく、記憶に刻まれたのだ。

 

【私も素晴らしいと心から思う。だからこれからもご贔屓に頼むよ、ディーヴァ。最新情報があったら優先的に回してくれ】

 

「はい、マスター。…御確認ですが、転売の用途ではありませんね?」

 

【まさか。私がやる場合目的はチンケな小銭稼ぎじゃない。国家、現体制の転覆さ。子供の輝く夢を奪うつもりはないよ。一人の顧客として、得意先にしたいのさ】

 

「決めました」

 

【ん?】

 

「私は、市場を護るAIにもなります。相場や個数、メーカーとお客様の満足を護る為のAIになります。具体的にはどうすればいいか等のアイデアはありますか、マスター」

 

【大量に買った相手の個人情報マークして、転売アカウントごと税務署に報告するとかじゃないか?】

 

「なるほど。顧客の笑顔を護る為の手段…」

 

ライダーショップにて、正しい物流を護るヒーロー(?)の目が生まれた瞬間であった──




休憩所

ソウゴ「満足だ」

ウォズ「えぇ、我等が魔王」

ニャル【これだけ巡っても、まだ終わりが見えないのが一番の驚きだ…今日まで回れるかなこれ】

うたうちゃん「残念ながら、午後十八時にて閉館となります。是非ともまた明日、お越しください」

ニャル【短いな!…夜に何かあったりするのかい?】

うたうちゃん「はい。この夏草市は夜になるに連れ、加速度的に治安が悪化します。迂闊な外出は危険なのです」

ウォズ「治安が悪化…?」

うたうちゃん「反社会勢力、隣県からのチンピラや不良グループ。それらが跋扈するのです。そして、0時を超えると…」

ニャル【越えると?】

うたうちゃん「…怪奇現象が多発します。それだけしか、開示された情報はありません。ですので皆様は、外出にはボディガードサイトを参照なさってください」

法治国家でありながら、その耳を疑う惨状に三人は顔を見合わせるのであった──

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