人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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市長室

小柄な男「ですから再三申し上げた通り、あのAIを我々に寄贈していただきたいという意図は申し上げた筈で…」

内海「くどい。うたうちゃんは我が夏草の民。一つの命であり市民票を持つれっきとした一人である。物として扱うならば交わす言葉はない」

男「あなたは理解していない!全国各地を見渡してみても、あれ程の技術と性能、外観を有したAIは存在していないのだ!十年二十年、いや百年先のAIのカタチであることを理解するべきだ!こんな都市一つの奉仕AIに甘んじていい存在ではない!」

内海「それで、彼女を手にし何を望むのだ」

「人類の発展に決まっているでしょう!アレのノウハウを各種ロボット、AI分野にもたらすことが出来れば日本、ひいては世界の貢献に大いに役立つ!いずれ人類が労働より解放される未来も…」

「ふ、ふははは。ははははははははは!!」

「!?」

内海「つまり、夏草は今…少なくとも日本内では最も優れたAI、ロボット分野技術を有しているということになるのだな」

「…そ、それは…まぁ…」

内海「ならば媚びるな。追いついてみせよ。乞うのではなく、彼女と我が夏草に追従するのだな」

「……発展を阻害する者として、国が黙っておりませぬやも知れませんぞ…」

「構わぬ。夏草の民を護るためなら国であろうと戦うまで!!話は終わりだ。去ねぃ!!」




「おのれあの筋肉ダルマめ…!AIなどは人類に奉仕させるプラスチックの塊、それを対等に扱うなどどうかしている…!このままでは、アレを手土産に上質なポストに就く私の出世プランが…!」

(…仕方あるまい…貴様が悪いのだ内海。人類の発展を邪魔する者を裁くのだ、私は正義の筈だ!)

「…私だ。部隊を数人回してくれ。夜にAIを確保する。多少壊しても構わん。頭部が残ればそれでいい」

(都市を私物化する俗物め…思い知らせてやるぞ…!)



内海「……」

『夏草卒業生・卒業作品〜完全自律型AI・うたうちゃん〜』

「…お前達の産み出した新たなる命。私はなんとしても守り抜かねばならぬのだ」



智慧の王の見解

「夏草…リッカ君の故郷かぁ。僕が一度日本に来た時は慌ただしかったから、こういう風にゆっくりすることは出来なかったんだよね」

 

そんな呑気な声をあげながら、夏草の空を見上げるオレンジ髪の男が一人。ロマニ・アーキマンが夏草市へと降り立っていたのだ。皆が活動しているのとは全く別の、彼のみに任された案件を確認する為である。

 

『マリスビリーとの聖杯戦争を一回と数えるなら、確かにそれはのんびりできないだろうさ。何せ殺し合いの為に招かれたんだから。奇しくもその時の舞台は冬木。夏草と対になる地名だね』

 

「この夏草が、あんな事にならないように頑張らなくちゃね。それじゃあレオナルド。地質と霊脈調査を始めるよ」

 

そう、彼は魔術的な細工や仕掛けを見据え、発見するための目としてカルデアから瞬間転移にてやってきた。オルガマリー、そしてギルの懸念における疑惑を解消する為の派遣である。

 

『どうかお気をつけください、あなた!異国では外国人を見つけあの手この手で高いお金をふんだくるのがならわしなので…!私もたまーにカモっちゃおうかな〜とか考えたりしますから間違いありません!』

 

「あっはは、気をつけなくちゃね。でもシバ、思うだけにしておいてほしい。ホント、君が本気で騙そうと考えると抵抗できる人なんているのかどうか…」

 

念の為、やってきたのはロマン一人。安全が確保されたなら、職員の皆への転移の足掛かりを作るつもりだ。オルガマリーは先んじて、捜査にかこつけて現地に彼を送り込んだのである。無論それは…

 

「楽しんでくるよ、マリー。すぐに皆も呼べるようにするからね!」

 

『適度に気は引き締めておきなさいね、ロマニ。いくつかの報告で、普通の都市ではないことは明白なのだから』

 

オルガマリーの心配を受け、ロマンは歩き出す。そう、今回の調査とは…

 

「──無いとは、思いたい。お前達の結論は、今も僕の手に確かに残っているのだから」

 

──この都市における『魔神柱出現』の可能性である。その可能性を確かめるため、かつて彼等の王であったロマンが重い腰を上げたのだから──

 

 

『ロマニ・アーキマンさん。或いは、魔術の王ソロモン。アトラスに関わるものとして質問をよろしいでしょうか?』

 

「あっ!?あぁー…!も、勿論だとも!僕に答えられる事ならなんでもどうぞ、シオン君」

 

ゲームセンターで、シバ似のネコミミキャラクターに三千円吸われたロマンが、シオンの言葉に耳を傾ける。彼は今両替機に足を運んでいる。

 

『魔神柱、翻ってソロモン七十二の魔神。バアルより始まるこれらの魔神ですが、十の指輪を有する今の貴方が召喚する事は可能なのでしょうか?理屈的には、再び使用が可能でもおかしくはないのですが…』

 

「いい質問だね。確かに僕の指にはかつての十の指輪が揃っている。これは誇張抜きに全ての魔術を支配下に置き、これらを手中に収める神からの太鼓判の様なものだ。僕が第一宝具を発動しないかぎり、僕の手から消え去ることはない」

 

両替した千円を全部溶かし、再び財布を開くロマン。

 

「だが、ただ一つの制限、或いは彼等は死ではない領域へと旅立ったのか。今の僕にはゲーティア、魔神に連なる魔術、召喚術は使用不可能になっているんだ。僕はただの一柱も、彼等を使役することは叶わない。まぁ仕方ないよなぁ。あいつら、僕のコト凄く嫌いだったみたいだし…」

 

再びコインを投入し、クレーンを睨む。的確に掴むための、過去と未来を見通す千里眼の使い所だ。

 

「でもこれを僕は、僕への叛意としては考えない。これはエアちゃんと出逢い、その意志と答えを以て彼等の命は『完了』したとの認定なのだと思うよ」

 

『完了、ですか?生命の死でも、魔術式の停止でもなく?』

 

「あぁ。彼等はエアちゃんとの対話、リッカ君との対峙を得て『命題への答え』と『人の生の意味』を知った。我々の命は終わる際、どんなに完璧にやったつもりでもやり残しを発生させる。それが次代に続く生命の輪となるのだけど、彼等は時間神殿の戦いの中で、自身の生の完全なる解答を得た」

 

即ち、尊き生命を謳う旅。即ち、有限ながらも強固な生きる意志。それらを以て、魔術式は自身らの命題を完璧に終えたとロマンは推測する。

 

「そこへは未だ、誰も至った事の無い『無』。あれほど死と、終わりを憎み嫌っていたゲーティアが、そこへ至る事を良しとした結論。僕は一部始終を見れたわけじゃないし、彼と対話し、彼の偉業をただ一人労ったのは姫であり、龍である彼女達だから、どんな感慨を懐いたのは分からないけれど。けれど間違いなく、彼等にとっては救いであり、福音だった筈だと僕は思う。ただの一柱も、再起動の兆しを見せないというのはきっとそういう事なんだ」

 

瞬く間に追加の三千円を失い、ガックリとうなだれるロマンであった…

 

 

「デカ盛りカレー定食一つください」

 

『となると、アレかね?平行世界の頑張り屋の藤丸くんの世界はともかく、こちらの世界では魔神たちは現れないと?』

 

ゴルドルフの言葉に頷くロマン。職員共通ラインにて写真撮影の待機中だ。

 

「少なくとも、ビーストとして…やり残しといった負債を残しはしない筈です、副所長。だからこそ、彼等は僕すらも解らない遠く、皮肉にもゼロの極点へと旅立った」

 

カレー定食の到着と共に、写真を撮るロマン。『たまには辛党で攻めるぞぅ!』とコメント付きにてライン送信する。

 

「本来なら、僕が第一宝具を使い果たす筈だった、ソロモン王の完全消滅。あいつらに限ってそれは絶対無いだろうけれど、図らずとも、僕の代わりにそこへと辿り着いたんだ。ゲーティアは」

 

『…ロマンらしい見解ね。でも、その指輪で唯一使えない術、というだけで説得力は十分だわ』

 

二辛で頼んだのに想像以上に辛いと水をガブ飲むロマン。ひぃひぃ言いながらカレーをかっこむ。

 

「再顕現の可能性はほぼゼロだと僕は思う…!だけどもし魔神達が何かをもたらすのだとしたら、それは彼ら一人一人が残した『感情』の残滓だと僕は推測する…!」

 

『感情?』

 

「ひぃ、ひぃ…エアちゃんの宝具により、全体の術式だったゲーティアは七十二の魔神として一人一人自我を得た。あの神殿からは、レメゲトンという祈りを以て誰一人逃げはしなかったけれど。最期に彼等が抱いた感情が、現世に何かをもたらす可能性はある。焼き付いた最後の願いとして、受け取った誰かがその意志の下に行動を起こしているのなら、或いは」

 

『それはつまり、魔神の意志を継ぐ何者かが現れると言うことかい?』

 

口元を拭き、会計に立ち上がるロマン。会計の際小銭が一円足りずガッカリした気分になった。

 

「といっても、エアちゃんに託したレメゲトンという祈りを穢し、利用することだけはしなかった彼等の事だ。悪意や再起の準備でないことは確信していいと思う。そこで彼女の尊重を裏切ったら、彼等が見てきた悲劇を自分達が再演する事になる。仮にも同じ玉座に座った仲だ、そんなにも愚かじゃないことは解ってるつもりだよ。ただ…」

 

『ただ?』

 

「もし、その残滓が悪意でなく善意だったなら、リッカ君には少しだけ厄介かもしれない。ほら、彼女善意にはからきしだろう?負ける筈はなくとも、その驚異的な探知にはマイナスがかかっちゃうかもだ。時に怖いのは…となりのおばちゃんのあんまり好きじゃないおかずの差し入れみたいな、善意だからね」

 

レシートを持って空を見上げるロマン。ヒリヒリした口元を抑え、やっぱ僕は甘いものしか勝たないなと痛感するのであった…




うたうちゃん・自宅前

ロマン「だが僕は、この夏草の発展は異常だと考えている。それは単純な発展スピードの話だ。一人の市長がなんとかできるレベルに、どうしたって収まらない」

うたうちゃんのポストには、夏草市民の感謝の手紙がパンパンに詰まっている。

「魔神達は本来、召喚したものに知識や叡智、あるいは力や富を授けるものだ。これを残滓として残したのならば…魔神達の介入として認めるには、十分だ」

ロマンは先に買ったうたうちゃんの便箋に、『いつかマギ☆マリとコラボしてください!』と書き、そっとポストに入れる。

『魔神達の何者かが、純粋にリッカさんのふるさとの発展を願った、ですか?なんの為に?』

「それは僕にもわからない。魔神柱の誰かの結論か、集まった皆の協力か。もう彼等に聞く手段はないからね。ただ──それが、悪いものではないとの確信は持っているよ。だって…」

だって、こんなにもたくさんの優しさが集まっているから。自身とは違う存在にも、優しくできる民たちが集まっているから。

「厄介な事になるのだとしたら、それは…まだ人の心を得たばかりで疎かったが故の、二次災害なのだと僕は思うよ。だったら僕達で、それをなんとかしなくちゃならない。…エアちゃんとリッカ君、そして、ゲーティアの為にもね」

深くお辞儀し、ロマンは土産屋へ歩き出す。お土産にうたうちゃんグッズを買わんとする彼の目の決意は、硬いものだった──

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