人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
シオン「逢魔が時、とも言われます。数多の情報ではここからが恐ろしい時間となるそうですが…」
ゴルドルフ「同じ都市なのだろう?しかし日本は法治国家だ、いきなりガラリと無法地帯に変わるなんて、そんな事あるかね?」
オルガマリー「……………」
シオン「確かに不自然ではありますが、実際に起きている事は受け入れなくては。しかも、あの凄まじい警官も対処しきれないという正真正銘のデッドゾーン。一体何が待っているのか。デスク側ではやや手詰まり…ん?」
オルガマリー「………昼の繁栄、夕方と夜の無法地帯…」
シオン「おや?」
オルガマリー「…一致団結には、共通の敵が必要…発展には、競合が必要…」
シオン「…何か、思いつきましたか?我等が所長?」
「ホワイダニットは掴めないけど…仕組みは、ぼんやりとね」
(となれば、その仕組みは…何を、核にしているの?)
ゴルドルフ「しょ、所長!」
「どうしました?」
「夏草の地に、なんだか不穏な影が増えてきていないかね!?」
「なんですって…!?」
「さーてと…お、やってるやってる。みんなー、楽しんでるー?」
思い思いのプラモデルを夢中になって制作する高校生とポニーテールおじさん、そして邪神に声をかける優しげな雰囲気の女性。スーツを完璧に着こなす、女傑にしてプラモデルロボットバトルの覇者である女帝。
「榊原せんせー!!お久しぶりでございますー!!」
リッカが我先にと抱き着く。親愛の証たる生ける人龍となった彼女のタックルを抱き寄せ数回転で勢いを殺しながら、優しく頭を撫でる。
「久しぶり、リッカ。やっぱり私の見込んだ通り、立派で可愛く、素敵になって帰ってきたね」
「はい!皆も凄く立派で、夏草もいい意味で見る影もないくらいに立派で!もう私、驚きっぱなしです!」
恩師と生徒…或いは、気心知れた姉妹の様な距離感の二人。榊原はリッカのカウンセリングを行い、担当していた。今にして思えば、それはリッカの内にあるものとズレを細かに補整していたのだろう。彼女にはリッカも無防備に懐いているのがその証拠だ。
「早苗も心配してたんだからね?何があったかは聞かないけどさ、連絡くらいよこしなさい」
「ごめんなさいハマーン様!」
「別人だからそれ、俗物っていうのはよく使うけどさ。そちらがロマニさんが仰っていた、マシュちゃんね?」
「はい!!空前絶後にして絶対不壊、白亜のクリエイターにして最高最愛の後輩は私の事!その名もぉー!マシュ!キリエ!ライトですっ!!(ドッヤァ)」
「うん。──あれ?そちらは…」
「シッダールタでござるよ。榊原先生、リッカ殿に良くしていただき、大変ありがとうございます。心からの感謝を」
「──────こちらこそ。リッカを、ありがとうございました」
一人一人に挨拶をかわし、握手をしていく榊原。物腰は柔らかく、桃色の髪が靡く様はまさに麗しき女傑が如しだ。改めて顔を合わせるのは初めてであり、それでいて、年下であろうと丁寧さは失われない。
「遅かったですね、榊原先生。あなたにしては珍しい」
「ごめんね、実はリッカ達のお帰りパーティーをしようって声をかけて回ってたんだ。それをこなしていたら遅くなっちゃって。もう夕方だから、早く家に帰りましょう?」
「先生!私はあなたにプラモデルバトルを挑みたいのですが!」
そんな中、サラが手早く手を上げる。彼女の手にはいつの間にか、フルスクラッチジャスティスガンダムが握られていた。
「あー、そっか。そんな事言ってね。ヴァルキュリアガンダムに挑みたい…だっけ」
「はい!最強の相手に挑戦して、私は闘志を核爆発させたいんです!!」
「何言ってるんですかアンタは…残念ですけど、もう閉店時間ですよ。ほら、ホタルノヒカリが流れてる」
「アスカ!!閉店時間を延長させる!!」
「無理に決まってるだろ!何言ってるんだアンタは!夕方からの夏草はとんでもないって知ってるだろ!」
サラとアスカのドツキ漫才を笑顔でスルーする大和が、皆にゴールドカードを配る。刻の涙の会員カードだ。
「本日はご来店、ありがとうございました。どうかこれからも、刻の涙夏草店をよろしくお願いしま…」
「アスカ!!!ロボットバトルは遊びじゃない!!邪魔をするなこのバカ野郎!!」
「バカはあんただ!キチンと時間を守らないと迷惑だろ!錯乱も大概にしろよアンタは!」
「ふざけるな!!私は錯乱などしていない!!」
取っ組み合いのキャットファイトに発展する二人を止めようとするルルがぶっ飛ばされるのを尻目に、ピザキャンディーを口に放り魔女がつぶやく。
「お前が遅刻したせいでアレの収まりがつかなそうだぞ?どうするんだ、『女帝』?」
ゆかなの挑発的な物言いに、困った様に頭をかく榊原。本来ならすぐにでも店を出て、家に帰らなくてはならないのだが…
「…遅刻したのはこっちだし、ワガママを聞くのも大人の役目だしね。いいわ、サラ。やりましょうか。再展示している暇は無いから、休憩中に組み終わったキュベレイで良ければ」
「あ!カルチャーショップで買ったやつですね!」
ロマニの言葉にウインクする榊原に、サラは頷く。どちらかといえば、バトルしたくてたまらないといった様子のサラが即座に機器に飛び込む。
「石田サラ、ジャスティス出る!!」
「あはは…まぁ、こうなると思ってましたよ。榊原さん、準備は出来ています。お願いします」
「ごめんね、大和。皆様もすみません、すぐ終わらせますのでお付き合いをお願いできますか?」
真摯に頭を下げる榊原に、一同は頷いた。悪気は無かった事は理解しているし、何よりも…
「見てみたいです!先生の腕前!」
「素組みということは生の実力を剥き出しにするという事ですね!どうか見せてもらいましょう!プラモデルバトルの女帝の実力を!」
「このマシュ・キリエライト!エルさんが崇拝する榊原さんの腕前を拝見したく思います!」
「崇拝って…解った。じゃあ、見ていてね」
時間は17時55分、閉店5分前。二人はバーチャル筐体に乗り込み、そしてバトルを開始する。そして──
〜
「終わりにするか、続けるか。どうする?」
「わ、私は…」
…時間にして2分。3分以下の対決にて勝敗は決した。ファトゥムを破壊され、四肢をもぎ取られ、コクピットにビームサーベルを突き付けられるサラに無傷のキュベレイ。勝敗は、誰から見ても明らかだった。
「……あ、圧倒的過ぎるよ……」
リッカが戦慄と共に漏らした言葉の通り、そのバーチャルダイブ技術とバトル技術は他の追随を赦さない程に隔絶していた。絶えずキュベレイのファンネルを使いジャスティスを自身の思うままに動かし、格闘を全ていなし、捌く。ビームライフルの撃ち合いにおいてはサラが構えに入った瞬間には回避行動に入っている有様。距離を離して弾幕を張れば、真正面から安全地帯を無理矢理ねじ込み最短距離にて対処してくる。キュベレイという大柄のモビルスーツでありながら、キズやダメージ一つ与えられていないという凄まじい戦果が、彼女の実力を如実に示していた。
「これは…!先輩!あの動きはアムロさんです!エル君に見せてもらった映画のガンダムが、あんな動きをしていました!」
「バーチャル空間では全盛期アムロばりの強さって事!?」
「えぇい!夏草の教師陣は化け物ですか!?」
三人の感嘆と戦慄を受け、榊原がサラに握手を求める。どれだけ強くても、彼女は相手へのリスペクトを忘れない。
「距離を詰めるのは良いけれど、近接の択がまだまだ甘いよ。自分の距離に持ち込んだらそこで決める。戦いで絶好のチャンスを逃したら、そこにあるのはピンチなんだからね」
「はい…」
(サラさんが大人しく頷いた…!)
(バレンタインのお母さんの誕生日ぐらいだよ、あんなの)
その実力を示した後、時計を見て慌てて榊原は手を叩く。
「ほら、急ぐよ。夕方からの夏草は何が起こってもおかしくないんだからね。うたうちゃんのお家でパーティー、解った?」
「「「「はーい!!」」」」
(いや本当、夜の夏草には一体何が起こるって言うんだ…?)
(私の故郷、一体どうしちゃったんだろ?)
少なくとも、リッカがいた頃には夕方から魔境であったなどと言う記憶はない。それは短期滞在しかしていなかった早苗も同様だ。果たして夏草には何があり、何が待っていると言うのか?
……その、伏魔にして逢魔が時の意味をたった今、彼女達は知る事となる──。
リッカ「へ…?」
プラモデル屋を一歩踏み出したリッカの目に映る、夕暮れの夏草。そこには、昼の頃とはまるで違う顔を見せる夏草があった。
ブレザーの生徒「オラ出せよ、持ってんだろ?」
おじさん「か、勘弁してくれ…!」
女性「ひったくりよ!誰かー!捕まえてー!!」
珍走団「「「「ひゃーっはっはっは!!」」」」
裏路地にて横行する恐喝、歩道にて横行するひったくり、道路にて現れる珍走団。夏草のあちこちから、悪逆の嬌声が響き渡る。あらゆる無道が行われる腐乱し燃え盛る果実のような悪辣が、夏草や周囲に轟いている。
リッカ「何これ…」
ゆかな「毎日毎日、飽きないな。これが今の夏草のもう一つの姿だよ」
榊原「…まだこんなの、序の口だけどね」
アスカ「なんだって夏草ばっかりこんな事になるんでしょうね…」
サラ「富めるものや輝けるものを見て、感銘を受けるものばかりではないという事だ」
大和「……」
マシュ「これが、日常なんですか…!?」
其処は最早、リッカ達の知る夏草ではない。魔境たる夏草へ、リッカ達は脚を踏み入れたのだ──