人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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時間神殿にて

アンドロマリウス『申し訳無い事をした…我等の愚行、心より謝罪する。レメゲトン、並びに藤丸立香よ。我等もまた、悲劇を生む側に堕していたのだ…』

──いいんです。過ちを気に病むよりも、こうして悔いる心が芽生えた喜びをワタシは共に分かち合いたいのです、アンドロマリウス。

アンドロマリウス『おぉ、おぉ…!レメゲトンよ、至尊の君よ。かの雄々しき少女よ、世界の美徳よ。穢されないでくれ、消えないでくれ。いつまでも美しくあってくれ。私が、醜悪を連れて行く。だからどうか──償いをさせてくれ。私が穢したこの美徳へ』

──では、あなたの成したい事はワタシ達が見届けます。ずっと、目を逸らさずに。

『ありがとう、レメゲトン。君よ、世界よ、永遠に美しくあれ──』

アンドロマリウス 整頓 


教会

マルコシアス『レメゲトン、アスタロト、皆…私はお前達を護る力になりたい。正義を成す力の一助となりたい。レメゲトンの昇華を受け取る刹那でいい、誰かこの願いを聞き届けてほしい…』

ゆかな『──迷える魂、その嘆き。私などで良ければ聞き届けましょう』

マルコシアス『!』

『私は魂を癒やす使命を持つ者。どうか悩みがあるならば告げてください。懺悔あらば聞かせてください。あなたの魂を、癒やしたいのです』

マルコシアス『──レメゲトンの昇華を、私は受け入れる。だがこの力は、正義は。次代の何者かの力として欲しいのだ──』


触〜廃棄術式・アンドロマリウス〜

──その始まりは、塔の真上に空いた【孔】だった。かつて世界を焼いた光帯、それらと見た目を同じくしながらもまさに空に空いた【孔】としか言い様の無い不気味かつ悍ましい風穴。遥か虚のように、遥か奈落に続くかのように、赤に染まった雲海を飲み込むように、星々を呑み込むように轟々と存在を示す。

 

しかし、その悍ましい光景を一部の民を除いた夏草に住むものは見ることが無い。ここは夏草でありながら、夏草でない場所。魔神がもたらした贖罪の地であり、かの少女の魂の澱みを廃棄する空間、世界、魔術師における固有結界に連なるものだからだ。

 

「お、おい!なんだここは!」

 

「無慙は、どうなった?俺達は確かに今…」

 

そこにいるのは、夏草を踏み荒らす狼藉者共。夕方から夜にかけて湧き出て来た、愚かしくも魔神の善意に集らんとする邪悪なる者共。言うなれば表の夏草から連れ込まれた、夏草に非ぬ者達。訳もわからず、陥った廃棄口の周囲を見渡す。都市に点在する者達──それらは、たった今を以て。

 

【廃棄術式・アンドロマリウス。遂行開始】

 

──かの少女の贖罪として。かの残骸と共に【破棄】されるのである。その瞬間は、訪れた。

 

「なん、だ?人影?二つ、三つ…どんどん、増えてないか?」

 

咎人が見つけた人影、それはシャドウサーヴァントと呼ばれる影。サーヴァントになれなかった者、消滅の際、漂う霊子に結びついたもの。倒された残骸。

 

「お、おい…どれだけ、どれだけ増えるんだよ、おい!」

 

十、二十、三十…あっという間に都市を塗りつぶし、覆い尽くす程の群れとなったシャドウサーヴァント達が溢れ、空には骸骨の竜や鳥、不気味なる者全てが覆い尽くす。それらは際限無く際限無く現れ、召喚され、数を増やし、数を増やし、数を増やし。

 

「ひ、ひっ…」

 

増やして、増やして、増やして。

 

「な、なんだよおい…あ、あいつら…」

 

増やして、増やして、増やして、増やして。

 

「こっちを、こっちを見てる…!?」

 

増やして、増やして、増やして、増やして。

 

増やして、増やして。増やして、増やして。増やして。増やして、増やして、増やして、増やして、増やして。増やして、増やして、増やして、増やして。

 

やがてそれが、いっぱいになったとき。咎人達を押し潰さんばかりにいっぱいになった刻。それらが、廃棄口に溜まりきったとき。

 

【【【【【【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■】】】】】】

 

それらは──英雄に討ち果たされたもの、無念にも殺されたもの、名前を残せなかったもの。英雄達が捨てていったものが廃棄口でいっぱいになったとき。それらは一斉に──

 

暖かい血肉を、見つけた。

 

「う、うわっ!うわぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」

 

堰を切ったように叫ぶ咎人達。逃げ惑う悲鳴と怒号が、夏草であった地へと残響し響き渡る。それらは夏草の都市に伝播し、夏草全体に反響し、夏草の地を流れる血で潤した。

 

残骸達は廃棄口に放られたゴミを小さく小さくする役割を与えられている。空中の孔が吸い込みやすくなるように、小さく、小さく。

 

身体に腕があったら嵩張るので、引きちぎって。

 

身体に脚があったらじゃまなので、もぎとって。

 

身体に首があったら重たいので、毟り取って。

 

廃棄口に落ちてきたゴミ達を、丹念に丹念に解体する。それらは残骸達を効率よく召喚するための触媒であり、生贄であった。絶叫、断末魔、慟哭。それらが絶え間なく残響する、廃棄口としての夏草。夏草に寄ってきた虫を擂り潰す為の、少女の穢れを清める為の術式。

 

アンドロマリウスは心からの贖罪を懐いた。あの少女の魂に安らぎを。夏草と、彼女に繁栄と安寧を。その魂に宿る澱みと穢れを引き受けた。そして同時に、彼女の穢れと、彼女の悪縁を廃棄する役割を引き受けた。他の魔神達の感情と命題を、利用されないように。汚されないように。汚れるのは自分だけでいいのだと。

 

やがて、その残骸達も天の孔…廃棄口に吸い込まれていく。少女の澱みと穢れが捨てられていくのだ。破棄されていくのだ。表の民のいくらかが、そしてうたうちゃんや内海が調査していた廃棄口の正体がこれだった。

 

夏草に祝福あれ。少女の魂に贖罪を捧げん。その為に──

 

【夏草を脅かす全てを、破棄する己であれ】

 

少女が夏草に来たことにより、その術式は万全であった。夏草の悪徳は喰らわれ、その術式の精度を高めるために術式は拡がっていく。悪徳を喰らわれた都市が合併を望むのはこの為だ。

 

足りない。少女への贖罪にはまだ足りない。

 

足りない。彼女の故郷を護りたい。

 

足りない。彼女の魂の破綻を防ぎたい。

 

アジーカが【気遣いの化身】と呟いたのも必然だった。そこには、アスタロトと同じくしながらも異なる命題『贖罪』があった。

 

足りない。彼女にもたらした苦痛の贖いには。

 

足りない。彼女が縁を結ぶたびに投げ込まれる魂の澱みの受け皿には。

 

足りない。健やかな夏草を護るためには全てが。

 

夏草を脅かしに来た哀れな生贄達の魂は、廃棄口に残骸ごと捨てられていく。阿鼻叫喚の地獄絵図…生きたまま八つ裂きにされていく、廃棄される魂のビーコン達に呼応し、効率を上げていく廃棄術式。

 

本来ならば、榊原が慎ましく廃棄口を開き、リッカの魂から澱みを抜き取るだけで可能な術式だった。しかし夏草に寄せられた悪意の渦が、アンドロマリウスの遺した術式に拡大の是非をもたらした。それは彼等が見た哀しみ、悲劇の再演。

 

こんな悪意をレメゲトンにこれ以上見せたくない。

 

こんな悪意をかの少女の故郷に残すわけには行かない。

 

同志達の命題を、汚されるわけにはいかない。

 

善意が、使命感が術式に自己進化をもたらした。より多く、よりたくさんの残骸の破棄を。夏草を穢すものの排除を。

 

やがて魂の澱と穢れは、夏草へやってきた咎人を破棄するように指向性を持つ。術式を阻む者、或いは夏草を害する者総てを分割し、区別し、破棄する。夏草を汚さんとする者をも廃棄するとアンドロマリウスの術式は結論づけた。

 

生きながら五体を割かれる組長がいた。身体を余すことなく区分けにされる下っ端がいた。武器で砕かれ、炎で焼かれる半グレがいた。目の前で胴体が寸断されるのを見た不良グループがいた。それら全員が、夏草にて狼藉を働いた者達だった。そんな彼等を解体し、分別し、分割した残骸達も絶え間なく空に吸収されていく。

 

無際限に吸収されていく残骸達。深夜に夏草に足を踏み入れた、咎人達。人間の尊厳を捨て、ただの廃棄物へと成り下がる咎人たち。

 

やがて、目の当たりにした者は見るだろう。夏草ウラヌスタワー、天より聳えるその塔の外観がまるで、肉の柱の様に蠕き変化する様を。あれこそが夏草へ、少女へと贖罪を決心した魔神の廃棄口、咎人を、そして穢と澱みを廃棄する天空の孔にして街の中心を、深夜に彩る完全起動した術式。今まで小規模だったものが、完全にアクティブとなったもの。

 

「た、助け──!」

「いでぇよ、お母ちゃ──!」

 

「ごめんなさい!心を入れ替えます!悪い事はもうしませんから──ぎゃあぁあぁあぁ!!」

 

「誰か助けてくれぇ!殺されるぅうぅ!!」

 

悪逆には報いを。罪には贖罪を。人への行いに、正しい報いを。やがてそれらは、総てが等しく破棄される。

 

【さらなる効率化を図るため──夏草に当たる土地を増やす事を検討する】

 

これこそが、夏草を護り少女への贖罪に自らを作り変えた魔神の決意にして都市の守護術式…

 

──廃棄術式・アンドロマリウス。夏草へ投棄された悪徳と廃棄品を回収する、贖罪の術式である。

 




リッカ『(啞然)』

マシュ「(絶句)」

じゃんぬ「(驚愕)」

カーマ「(ドン引き)」

グドーシ「(大悟)」

早苗「リッちゃん…御風呂には入りましょう!」

リッカ『違うの!これ身体の汚れとかの話じゃないの!こんな徹底した廃棄ってある!?』

カーマ「夏草がそれは綺麗な訳です。徹底的に穢れを引き受けているんですから」

ロマン「いやいや、でも無茶だ!いくらアンドロマリウスが自身を変えた術式だからって限界がある筈!むしろなんで今まで…」

榊原「それは、私が弁を調整していたからです。あくまで夏草が受け止められるものだけを祓っていた。アンドロマリウスも、少しずつ、すこしだけの浄化から行っていた。しかし…」

ルル「現代社会の悪意は、魔神の想定を越えていた…」

榊原「そう。ここ一ヶ月で、アンドロマリウスは拡張を始めた。悪意やバグに、術式が壊されないように。悪徳というエラーに贖罪が壊れぬように。それらは、千葉の合併という結果に繋がるほどに拡大した」

グドーシ「それではつまり、アンドロマリウス殿を止めなくては…」

榊原「彼は…夏草で総てを飲み込む。悪意を全て破棄する事は、人間全てを破棄する事に他ならないから」

リッカ『な…夏草人類補完計画…!?』

黒神「なんと純粋かつ敬虔なことか!しかし暴走と言う他ない術式、いかに止める!?」

榊原「それには──」

ディーヴァ『!音声通信受信。チャンネルをオンにするわ』

天空海『誰か助けてーーーー!!?』

瞬間、重苦しい雰囲気を一瞬で蹴散らすやかましくも安心感のある声が響き渡る──

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