人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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明日はお休みなのと、対馬から壱岐の島に旅立つので感想の返信は早朝から行わせていただきます。感想の返信まで行って更新が終わるのがこの叙事詩ですので、お気楽にお待ち下さいね!焦って雑な返信とか許されざる本末転倒ですから!それでは、本編どうぞ!

クロケル『非常に不安』

──な、何がです?

『我等が同志が、それぞれの命題にてを何かを遺す。それは喜ばしいが、自意識の芽生えたばかりの我等、完璧に行える確率は非常に低い筈だ』

──なんと。客観的に皆を見ているのですね。流石は能天使であるクロケル、聡明です。

『ありがとう。故に私は、彼等の術式のカウンターとなる様に備えを遺す。御祓に関わる、水の力…いずれ我等の術式が形となった際、レメゲトン…あなたに決して迷惑はかけない事を約束する』

──ふふっ、教えてはくれないのですね?

『我等の最期の我欲より、優先してほしいことがある。レメゲトン、その至尊…天上の福音が如く、清らかであれ──』

クロケル 昇天


悪は排斥する機微に非ず

『これ、どういう事…?』

 

廃棄口術式が展開されし夏草、そこにてチンパンめいた雄叫びを上げる天空海の救出に出向いた一行。都市の明度や雰囲気はまるで違えどそこは夏草。道筋や行くべき場所は完璧に把握し突き進んでいた一行…その残骸達に近付き、垣間見た一つの事実が怪訝さを加速させる事となる。

 

「襲って…きませんね?先輩。こんなに恐ろしげな武装をしているというのに、私達の事を素通りしていきます…」

 

マシュの言葉の通り、敷き詰められた残骸達は夏草を歩むリッカらになんら敵意を見出さなかった。武装をしていながら素通りし、攻撃や敵対の意志を見せることなく咎人達を捜索している。いつ襲われないか戦々恐々としていたアカネだけがプレッシャーを受けているくらいで、その行軍はむしろ軽やかなくらいである。

 

『夏草の民…もっと言えば善良な民達は文字通り敵対関係ではない、という意志表示かしら。あなたの見解はどう?ロマニ』

 

「はい、所長。まだ僕達は廃棄物や敵対者の扱いを受けていないんだ。だから悪党や咎人のように破棄…いや、【分別】されない。本格的に術式を終わらせる為ならこうはいかないだろうけど、街を歩くくらいなら大丈夫みたいだね」

 

それはやはり、アンドロマリウスがまだ完全に暴走しきっている事ではないという所作であろう。その事実を有り難く受け止めながら、一同は人騒がせな先輩を助けに向かう。

 

『コインの裏表とは言うけど、徹底してるというかなんというか。本当に真面目で愛の深い生き物だったわけね、魔神って』

 

「今のお前の状態こそがそれだろう?シスターと魔女を使い分ける私もかくやの二重人格ぶりだ」

 

『暴徒鎮圧プログラムAI、ディーヴァ。よろしく♪』

 

(悪意だけを、刈り取る術式…さっき、榊原先生の言った言葉…)

 

『!…失礼、お勉強の時間みたい。うたうちゃんを是非よろしくどうぞ♪』

 

クイッ、とメリハリのついた動作と共にプログライズキーを抜き、ディーヴァからうたうちゃんへと交代する。ディーヴァは戦闘の際の一面、主人格はあくまでこのうたうちゃんだ。

 

「榊原先生、さっきの…悪意を消し去る事は人類を消し去る事とはどういう事ですか?人間はそんな、悪だけの生き物では決して無い筈です」

 

((じーーー……ん))

 

「なに感動してるのよそこの緑髪とロボットオタク」

 

「大体こういうのってAIが人間を扱き下ろすのがお約束なので!」

「人間以上に人間を信じるAIというのはまさに奇跡なんですよじゃんぬさん!」

 

「あ、そこが気になったのね。…そもそも人間は、悪意…原罪とも言われるそれを抱えている生き物だからね。どんな人間も、完全に善良な存在なんてものはいないの。創世記の頃からね」

 

夏草の民達、優しいあの人達ですら悪意は備わっている。悪意を有している。その事実を聞き、うたうちゃんは少なからず驚愕に目を見開く。

 

『アダムとイヴは蛇の甘言により創造主の意志に背いた。カインはアベルを妬み殺した。信仰礼賛の聖書ですらこうなのだ、人の悪性は普遍と言っていい。しょっちゅう神罰で滅んでいるしな、人間』

 

「アダムとイヴですら番がいるのにお前と言うやつは…」

 

『悪かったな!童貞で相方もおらん失楽園男だよどうせ!』

 

「そんな…。私に人類がしてくださった優しさや善意が、偽りやまやかしだったなんてあるはずがありません。皆様がくれた想いは、けして…間違いなどでは…」

 

「まぁまぁ、結論に至るは早いでござるようたうちゃん殿。そもそも悪意と聞こえは悪くありますが、悪意というものは心には不可欠なものなのです」

 

うたうちゃんの動揺を、グドーシが優しく労る。そして愛と名乗る様々な堕落を見てきたカーマがそれを補足する。

 

「認められたい、誰かと結ばれたい、怠けたい、許せない、羨ましい、お腹いっぱい食べたい、もっともっと欲しい…日常生活、いえ人間の活動理念って欲望であり悪意なんですようたうちゃん。むしろ自分の為にやることは我欲、渇愛という悪です。インド的に」

 

「今日という日をより良いものにしたい、という願いすらもれっきとした我欲であり渇望だ。人が人であるかぎり悪意とは切り離せんよ。悪意とは向上心であり、発展の原動力でもあるからな」

 

『だからこそ、そんな基本あくどい人間が誰かの気持ちを労って、誰かを支えたり支え合ったりする。そういう奇跡が起こせるのは、基本的に人間が悪意と善意を持ってるからだと私は思うよ。うたうちゃん』

 

「悪意は…決して、忌避するものではない…?」

 

「じゃあ解りやすく。みんなー、私の授業がめんどくさいとか鬱陶しいとか考えたことある人ー?」

 

「「「「「……………」」」」」

 

「あ…ありがとう…(照)ま、まぁ、それはともかく。日常にだって悪意の発露はしょっちゅうよ、うたうちゃん。めんどくさい、サボりたい、何もしたくない…そういった感情だって立派な悪意に数えられるわよ、うたうちゃん。恐らく、術式が広がったら夏草の皆も吸われ始めるでしょうね」

 

「で、でもさぁ…夏草の皆が悪落ちとかアナキンじゃないんだからさ…平気、じゃないかな?私達、悪い事しなければいいんだし…」

 

『その正しさを決めるのはかの術式だぞ、アカネ。そもそも宗教に殉じる信徒ですら神の教えの完璧な守護は非常にシビアだ。一縷の隙もない、完全なる善の人生をお前は送れている自覚があるのか?』

 

「ごめんなさい、自信無いで〜す…しょっちゅう怠けるし、」

 

『こういう風に、日常生活の中で…いや、人が人らしく生きていく為には悪意が必要不可欠だ。だからこそ、悪意を赦さぬ、悪意を滅ぼすという極論に走れば、それは人を滅ぼすという結論に至るという事だ。創作において、AIが人間を排除しようとする描写が多いのは程度はあれ、人間達の罪を把握しているからやもしれないな』

 

そんな夏草の皆との対話を得て、うたうちゃんは答えを反芻する。最初から完全なる善人はいない。悪意は決して、根絶やしにするばかりのものではない。

 

「反省し、悔い改め、より良いものを目指す。人の人生というのは大半がソレの繰り返しなの、うたうちゃん。だから、アンドロマリウスを皆で止めなくちゃならない。彼が愛し、彼が好んでくれた夏草を、そこに生きる人たちを…他ならぬ彼が傷つけてしまう前にね」

 

『大体、悪意って目を逸らさず受け止めるものだもんね。悪が駄目って言われたら、もう私とか大体アウトな訳だし。この世全ての悪が私の使う魔術だよ?完全アウトなやつじゃん!』

 

「無慙さんも体現しているように、赦してはいけないのが邪悪という概念なんだ。邪さを介在しない悪意と言うものは、認めて受け入れるものなんだよ。それが出来ず、魔神たちは一度はゲーティア…ビーストになってしまった。君には、出来れば違う道を歩んでほしいとボクらは思っているよ」

 

「君を創造した人達が、君を祝福して製造したのは本当だからね。うたうちゃん」

 

「……………」

 

「話が難しくてついていけないか、アスカ?」

 

「そ、そんな事はないですよ。ただ…理解するのに時間がかかるってだけで」

 

「…人間とは、悪意と共に在るもの。悪意は決して、必要以上に嫌ったり消し去るものじゃない…だから、アンドロマリウスさんを止めなくちゃいけない。悪意は、人をより良い未来に導く原動力でもあるから…」

 

(人間の多様性には驚かされてばかりね。どう、うたうちゃん?しっかりレクチャーは受け止めれた?)

 

(…うん。やっぱり、夏草の皆さんがラーニングの相手で良かったと、心から思う)

 

(よろしい。じゃあその御礼は、これからの頑張りで返しましょ!)

 

心のもう一人の自分の言葉に、頷くうたうちゃん。決意を新たに、少しだけ逸ってしまった夏草の隣人を助ける為に歩を進めるのであった──。

 

 

  




夏草・街角

ニャル【そこの声がいい美少女、降りてきなさい。決して悪い様にはしないから。声がいいそこの君、電柱から降りてきなさい。そこの声がいい美少女】

天空海「いやよ!!なんかすっごい怖いのうじゃうじゃいるし、あなたはもうなんか凄く胡散臭いし!そこの隣のなんかほら、ほら!」

アジーカ『きしゃー』

「めっちゃ威嚇してくるんですけど〜〜!?ちっちゃい頃のリッカに似てて可愛かったから手を出したら噛まれたし!街は無茶苦茶になるし!もうやだ私を夏草に返してよ〜〜!!」

ニャル【なんともまぁ扱いにくい切り札がいたものだ。この術式の解決策には彼女が不可欠というに…む】

リッカ「アジーカ!?」
うたうちゃん「マスター!何をしているのです、ここで…」

ニャル【お、丁度いいところに。あのイザナ味溢れる美少女を救助しておくれ。声がナイアにそっくりな素晴らしい美少女を】

アジーカ『うがー』

天空海「ぴえぇもうダメよ私死ぬんだわ永遠の十八歳ガチとして伝説のアイドルになるんだわもっと長生きしたかったぁ〜〜!」

アジーカ『(けらけらけら)』

じゃんぬ「こーら!アジーカ、何してるのかしらこのちび龍!」

『ファッ( ゚д゚)(まるまり)』
じゃんぬ「黙秘を貫く気ね!そうはさせないわ、ほら顔を上げなさいっての〜…!」
『(わるあがき)』

ニャル【現状は把握しているかな?それなら結構。アンドロマリウスの術式…グドーシ君、解るだろう。君なら】

グドーシ「えぇ、おそらくは」

リッカ「え、どういう…?」

グドーシ「罪の償いとは、やがて赦される事により終わりを迎える。贖罪の魔神を終わらせるもの、それは夏草の…そしてリッカ殿。そなたの赦しであるのです」

リッカ「私の…?」

残骸達【【【【【(肩車)】】】】】
うたうちゃん「天空海さま、手を…」
ディーヴァ(あ、夏草の人にはホントに敵意ないんだ…)

天空海「えっ何下ろしてくれるの!?ありがとー!!私に似て相変わらずうたうちゃんは可愛いわね!まぁ私がモデルなんですけどー!」

ゆかな「こち亀の両津とどちらがしぶといんだろうなな…」
ルル「…僅差で両津だと思う」

夏草を愛する術式とリッカ達に助けられ、夏草を禊ぐ役割を担う重要な存在を救助する一行であった…

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