人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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うたうちゃん『マスター、マスター。聞こえますか?』

ニャル【諦めちゃダメだよアカネちゃん。人生は詰んでからがほんば…、…ん?ディーヴァか。どうかしたかい?】

ディーヴァ(何をなさっているのですか…?)

【アレクシスエミュレータだよ、彼女をなんとか無力感からやる気にさせて…まぁそれはいい、秘匿通信で聞きたいことかな?】

うたうちゃん「───マスター。ディーヴァも聞いて。私は、アンドロマリウスさんに…」

ディーヴァ(──ちょ、はぁ!?)

ニャル【──面白い。自分の意志で、君はAIの領分を越えたいと言うのだね?】

「はい。──私は…私は」

その申し出は──

「私が、私が作った歌で。アンドロマリウスさんに…夏草の皆様に気持ちを伝えたいです」

彼女自身の、シンギュラリティの発露──


絆で舗装した道

「気持ち悪っ!!」

 

天空を駆ける巨大ドラゴン、アジ・ダハーカ・アンリマユの背に乗る天空海が開幕一番絶叫する。その嫌悪の対象は、これより向かっている夏草ウラヌスタワーの全容をひと目見た故だ。夏草を一望できる空間を…そんなコンセプトにて作られたそのタワーは、表の面影など微塵も無い。──肉壁が蠢き、無数の眼球が張り付いた異形の肉塊へと成り果てているからだ。リッカ達は、それがなんなのか即座に理解に至る。

 

「魔神柱…名実共に、アンドロマリウスの術式の中心はあそこだね」

 

「改めて、なんで受肉したらあんなにキモくなったのかしら。どうなのよ元主人」

 

『そうだよねぇ…本来ならもっとスマートに召喚!行使!終了!な術式だったんだ。でもゲーティアだった頃はデザインなんて遊びにこだわったりする緩みなんて容認するわけないよなぁ…』

 

「めっちゃ普通に話してるんだけど何!?あたしが空気読めて無いの!?だってウジュウジュしてヒクヒクしててめっさ生々しくてヤバいわよね!?私おかしくないわよねぇ!?」

 

「…!皆さん!何か来ます!」

 

ウラヌスタワー…魔神柱へと変化しているそれが、励起している様子をうたうちゃんは垣間見た。肉の柱からもたげし歓待は、夏草への贖罪を阻むものを妨害する術式の起動を意味している。

 

「うわわわわわわめっちゃくちゃ触手飛んで来てるぅうぅ!?私達別に戦いに来たわけじゃないのにぃいぃ!?」

 

アジ・ダハーカを阻む様に放たれる無数の触手、並びに術式を護る為に廻覧していた無数の残骸や様々なエネミー達が一斉に襲い来る。一体一体は脅威では無くとも、空を敷き詰められる勢いで徒党を組まれればそれは対処が困難な津波が如しだ。

 

【言っとくが、変態機動や高速飛行には期待すんなよ!火力と殲滅力、防御特化形態なんだよこっちはな!】

 

アンリマユが言うように、アンリマユモードのアジ・ダハーカは対話の機能をオミットした代わりに単純な物理能力を極限まで強化した形態だ。単純な戦闘能力、殲滅力を極めた為に奇跡に等しい現象を起こすプレシャスパワーは使えない。そちらはウォフ・マナフの管轄だ。そしてあちらは戦闘能力は数段劣るため、転身するのは愚策であると認識せざるを得ない。

 

「それじゃあどうするわけぇ!?うたうちゃんはあれよね対人戦向けよね!流石に全員蹴散らすとか無理よね!?」

 

「なんとかしたい気持ちはあるのですが…!」

(やめときなさい、落ちて粉々になるのがオチよ!)

 

「わぁあぁあリッカぁあぁなんとかしてぇえぇえ!?」

 

別にメンタルは超人的でもなんでもない天空海が絶望を喚き散らす。彼女は切り札であるので基本はババであるのだ。目の前に蠢く大量のエネミー、向けられる無機質な排除機構。振られたところで常人ならどうしようもない難題であるが──。

 

「オッケー先輩!なんとかするよ!!」

 

──ここにいる少女は、常人ではなく誰かの代わりでもない、必然と共に選ばれた者。藤丸龍華。迫る困難など、当然の様に踏み潰す者だ。ガッシリと腕を組み、揺るがぬ視線で前を見据え。

 

「アンリ!前進ッ!!」

【オーライ!押し通ってやるぜぇえぇぇ!!!】

 

アンリマユに指示を出し、逃げる事も待ち構えもせず数百メートル先にあるウラヌスタワーへ猛然と突進を行わせる。その指示は吶喊、死地へと突っ込むもの。

 

「何考えてるのこの後輩ぃぃぃぃ!?」

「何か、策が…!?」

 

天空海とうたうちゃんの懸念に、リッカは揺らがぬ不動で応えた。彼女は今確かに行動した。空の色が見えぬ、四方全てが敵であるこの状況へ飛び込む決断を下した。ならば──最早既に全ての手筈は示されている。

 

「私と!私を取り巻く全てを!嘗めないでよね!!」

 

高らかに宣言すると同時に──彼女の言葉と自負の真意は、此処に示される事となる。

 

「『今は遥か理想の城(ロード・キャメロット)』────!!!」

 

リッカの右側に構えていたマシュが高らかに躍り出、円卓最高峰の精神の護りを展開する。真正面から突進してきた敵対者の全てが押し留められ、弾き返され、無力化を果たす。

 

「【吼えたてよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)】!!あとついでに、ピエール・コーションズ!」 

 

【【【【【タスケテー!!!】】】】】

 

理不尽への憤怒、大切な者へ捧ぐ情熱にて強化されきったじゃんぬの宝具が、城の護りで包まれた者達の引火を避け包み込むように燃え盛り、触れた者達を焼き尽くし灰と化していく。それと同時に焔から焼き焦がされたピエール・コーションの形をした火焔が縦横無尽に吐き出され、対空砲火の役割を果たし敵対勢力を燃やし尽くす。宝具が焰である事を最大限活用した、じゃんぬのアレンジ宝具である。私怨でもある。

 

「凄いわ!?変なおっさんが、ウジャウジャいるアイツラと片っ端からぶつかって相殺していく!」

「リッカさん!先の言葉はまさか──!?」

 

「そういう事!私には最強の盾と!最強の焔が付いてるから──こんな程度、ピンチでもなんでも無いって事だよ!!」

 

【拝火教の面目躍如だ!ウルトラ上手に焼き尽くしてやるぜぇ!!ヒャーッハッハッハッハァ!!】

 

全身を業火で、前方を白亜の城にて防護されたアンリマユが気炎を吐きながら翼を羽ばたかせる。数百mの距離を50メートルの巨大ドラゴンが燃え盛りながら突進し走破していく様はまさに圧巻という他なく、見るものが見れば神話を想起させるものですらあろう。焼け落ちて廃棄されていく残骸、中心部、展望台エリアは目と鼻の先──その刹那。

 

「ぎゃあぁあぁなんか魔法陣みたいなの浮き出てきてぇ!そっからギッチギチのぉ!触手ゥウゥウ!?」

 

実況者になれそうな発狂ぶりを撒き散らしながら、仔細を説明する天空海。アンドロマリウスの術式の最終防衛ライン、その証たるアンドロマリウスの魔法陣から何重にも束ねた綱の如き魔神の触手がアンリマユを叩き落とさんと迫り来る。アジ・ダハーカにも引けを取らない、超絶的な巨大さの触手の一振り。マシュの防御なければ即座に撃墜される程の一撃。

 

「リッカさん!進路は──」

「変えない!このまま突っ切る!!」

 

不動──彼女のメインサーヴァントである黄金の王の様に微塵も揺らがず、リッカは真正面を睥睨する。しなりにしなり、アンドロマリウスがマシュの防御に触れるその瞬間をリッカは目を逸らさず、目の前の後輩の背中を見届けている。

 

「あぁぁ──うぉおぉおぉおぉおぁあぁあぁぁ!!!」

 

一年前を知っている者からは想像も出来ない、気高く、雄々しく、覇気に満ちたマシュの咆哮。猛る勇気を力に変えて、まさに神霊クラスの一撃を真正面から受け止めているのだ。その気迫は、普段の自信満々な明るいマシュの態度が虚勢ではない、実力と自負に満ちたものである事を勇壮と共に示している。彼女もまた、リッカに人生の色彩を与えられたもの。その色合いは、何よりも誰よりも鮮烈だ。

 

「今、です!!じゃんぬさんッ!!でやぁあぁあぁぁ!!」

 

マシュの気合が、アンドロマリウスを弾き返す。その一瞬の好機を、彼女の最大のライバルにして戦友は決して見逃さない。手放さなかった。いや──

 

「流石よ。マシュ!やっぱりアンタはリッカの──」

 

──彼女は、マシュが必ず成し遂げる事を。心から信じていたのだ。

 

「最っ高のシールダーね──!!」

 

瞬間、アンドロマリウスの触手に火炎着火し大炎上させしじゃんぬの宝具が、闇夜を紅蓮に染め上げる。ジャンヌ・ダルク・オルタはジャンヌというトップサーヴァントのあり得ざるオルタであり、マシュはデミ・サーヴァントたる少女。真っ当なる英霊とは言えない二人が、今人類最高峰の魔術術式を真っ向から迎え討ってみせた。そして──

 

「ロマニ!トドメは譲るからね!!」

 

『あぁ、任された!決めてみせる!』

 

【OMNIBUS LOADING!

SOLOMON STLASH!!】

 

リッカの後ろに控えていた仮面ライダーソロモン、ロマニがワンダーライドブックを一度閉じてから開き、起動スイッチを2回押すことで発動せし、大いなる黄金の剣、カラドボルグの必殺技を展開する。カラドボルグの動きに連動する巨大な大型のエネルギー体を召喚し、アンドロマリウスの防衛術式目掛けて──

 

『うわぁあぁあぁあぁい───!!』

 

「掛け声カッコ悪ぅう!?」

 

渾身の一刀両断にて、術式を完全破棄し打ち払う。リッカはなんとかすると口にした。それは決して、自分が仲間の価値を無意味にする無双をするといった意味ではない。頼れる仲間達を信じ、任せ、命を託し進むという意味なのだ。

 

「ね?なんとかなったでしょ?」

 

「じゃんぬさん!ハイタッチですハイタッチ!いぇーい!」

「はいはい、いぇーい!」

 

『どうだぁー!仮面ライダーっぽかっただろう!?今のすっごくカッコよかったでしょ!キャスターはハズレクラスなんてもう言わせないぞー!』

 

『掛け声が引くほどダサかったから要練習よ、ロマニ』

 

『そんなぁ、マリー!手厳しいじゃないかー!』

 

『おーいシバにゃんが鼻血出して倒れたぞー。搬送だ搬送ー』

『伝わる人には伝わっているよキミィ。あとそんなおっかない見た目でナヨい動きはやめたまえ、ミスマッチすぎるからね?』

 

『シバー!?』

 

(…凄い、わね。リッカさん、何もする必要も無いくらいの仲間達が周りに集って…)

(うん。でも、リッカさんがそこにいてくれるから…皆さんは限界を超えたパフォーマンスが出来るという事は、解る)

 

彼女は、皆の希望であり中核なのだ。きっと、彼女自身にも全てを解決する力はあった。しかし彼女は敢えて、仲間達に任せた。

 

まるで──紡いだ絆が、自分の一番の自慢だと示す様に。それは、皆に決意と勇気を与える選択だったのだ。

 

「ほら皆!まだ突入前なんだから気合い入れ直す!うたうちゃん、先輩!行くよ!」

 

「さっすが私の後輩ね!クスクス、敵がゴミのようなんですけどー!」

 

「──凄いなぁ…」

 

…夏草で、その名を知らぬものはいない藤丸立香。その輝きを目の当たりにし、うたうちゃんは心からの賛辞を呟くのであった──。

 




ウラヌスタワー外壁

アンリマユ【これ、どっから入るんだ?ぶっ壊すのか?】

リッカ「…大丈夫。多分…」

瞬間、肉塊が開き入り口が現れる。まるで、受け入れるかのように。

オルガマリー『アンドロマリウスは暴走し果てているのではないわ。自身を糺すつもりの相手は、受け入れる様ね』
ロマニ『うん。後は君達の頑張りにかかっている。頼むよ、三人共』

マシュ「エルさんに託されたアンドロイドチームと、小型ロボットギャラハッドがナビを行います!迷いませんよ!」

天空海「行くわよ!ビビり散らしてた分、挽回するわ!」

リッカ「おう!ここからは私も暴れよっかな!」

うたうちゃん「───……」
ディーヴァ(準備、できた?)

「…うん。やってみる。行きましょう、皆さん!」

ウラヌスタワー内部、魔術術式の核を目指し、リッカら善性の象徴は塔に降り立つ──。

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