人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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創造能力の付与…?彼女にそれを託すというのね?

はい、先生。AIになく、人類にあるもの。それを、彼女に託したいと思うんです。彼女は本当の意味で、人間と対等の独創性を有する事になる。僕たちは彼女に、人類と同じ位階に立ってもらってこそ本当の意味で対等の存在となるのだと考えました。

汎用性と利便性を全て、独創性と創造性に代えたAI…本当の意味で、あらゆるAIと一線を画す存在。でも、大丈夫かしら。生まれたばかりの子に何かを生み出す力を持たせることへの、彼女への負担が…

えぇ、ですので彼女の情緒…精神と心が一定の成長を果たすまで、この機能は封印します。彼女に備わったもう一人の彼女…『ディーヴァ』が目覚め、彼女が自身を肯定することができるまで。

自己の肯定…難しい問題ね。

その為には、周囲の環境…夏草の人達の在り方が不可欠です。頼みましたよ、先生。僕達が生み出した、ディーヴァを…うたうちゃんを、よろしくおねがいします

…。解ったわ。夏草は…人類は、AIという隣人を有するに相応しい者なのか。彼女の答えを、楽しみにしましょう。

きっと──人間と共に素晴らしい結論を導き出す事を祈っているわ。ね?

うたうちゃん『──こんにちは。私を』

…?

『私を──産み出してくださり、ありがとうございます。私にできる、あなた達へのお礼を教えてください──』


英雄達に捧ぐ希望の挽歌

『エリザベス、エステラ、グレイス、オフィーリア…もうあなた達を、安らかに眠らせてあげたい。戦う必要は、無いのだと伝えます。──力を貸してください、皆様!』

 

うたうちゃんの言葉と共に、ディーヴァから歌声が流れ出す。無論音階の垂れ流しではない、正真正銘の心の籠もった歌声だ。

 

「これは…!?」

『この歌声は…!』

 

それを聞いたロマンやマシュの心には、記憶が溢れ出す。カルデアに来たこと、皆で人理を取り戻す為に奮闘したこと。楽園での旅路が、絶え間なく浮かび上がってくる。

 

「へぇ…楽しい記憶、嬉しい記憶を探し出して思い出させてくれるって事?」

『歌声で人を幸せにする、それってこういう事でもあるんだ…!』

 

リッカとじゃんぬの中にも、無論記憶が湧き上がる。人の心を形作るのは生きていく上で体感した記憶だ。辛い記憶も、哀しい記憶も。全てが今の自分を形作る大切なものだ。それをディーヴァは、歌により思い起こさせる領域に至った。その歌声の属性は、うたうちゃんに宿った心のカタチにより変わるものだが…

 

『Aaー、Aaaaー♪』

 

その歌声は歓喜と希望に満ち、聞く者全ての心へ朗らかに、快活に訴えかける。彼女自身が生への歓びと希望に満ち溢れているからこそ歌に乗せる、聖歌の如き賛歌。それはうたうちゃん自身が信じる、心のカタチそのものだ。

 

【【【【あああー】】】】

 

「これなら…やってやれるわね!マシュ!ロマニと決めなさい!」

 

「はいっ!行きますよドクター!!」

『解った!看取る一撃、任せてほしい!』

 

「リッカ!あの娘、エスコートしてあげるのよ!」

 

敢えて自分ではなく、彼女を任せじゃんぬは走る。その意味を理解したリッカは、うたうちゃんに向き直る。

 

『決めるよ!二人で、皆で!』

『はい!』

 

そこからの対決…いや、決着は一瞬だ。絶え間なく湧き出る希望の記憶に心が満たされている者達の力は、何倍にも跳ね上がり引き上げられている。その力は、通常とは比べ物にならないくらいの発露を見せつける。

 

「私が先輩に頼りにされていない事は、一度だってありませんでした…!沢山の人から教えを受け取って、沢山の人から願いを託されて私はここにいます!」

【!】

 

マシュの胸を満たすのは、マスターであるリッカと共に過ごした記憶。対等の友人の様に、時にはじゃれ合い、時には言い合い、そして必ず互いを信頼し合う。その度に強く硬く進化する、決意の盾。それらは、グレイスの銃を瞬時に弾き飛ばし──

 

「だからこそ私は──!オンリーワンサーヴァントなのです!!」

 

そのまま間合いに入り、渾身の勢いでシールドバッシュを叩き込む。グレイスの駆動していたシステムを全てスタンさせ、停止させる程の凄烈な一撃。会心の一撃と言うべきもの。

【────】

「おっと!──AIの英雄が一人を、確保しました!」

 

強く逞しくなったとは言え、その優しさは変わらない。糸の切れた人形の様に崩れ落ちるグレイスを、そっとマシュは抱き寄せる。AIの自由と尊厳の為に戦った彼女を、尊重を以て。

 

だからこそ──彼女の盾は、決して翳ることも、曇ることも無い無敵の護りを誇るのだ。

 

「ドクター!そちらは!」

 

『大丈夫、すぐに終わらせてみせるさ』

 

仮面ライダーソロモンの姿を取るロマニは、オフィーリアの鞭を全て防いでみせる。指輪の力による魔力障壁。単純ながらそれは、魔術の王が制作した盤石の壁だ。彼の目的は既に定まっている。

 

『生まれにも、使命にも逆らって誰かの為に戦ったんだね。君達は凄いなぁ…ボクには出来なかった事を、君達は行って、そして死んだ』

 

愛多き王、人間としての自由は無かった男。それがかつてのソロモン。悲劇における憐憫も、反抗も叶わなかった彼は、自身の意志の独立を果たした四人の電子の英雄達に、心からの敬意を払う。それは、AIという人に奉仕する存在が選んだ対立という選択への感銘だ。

 

『かつてのボクより、ずっとずっと素晴らしいよ。アンドロマリウスもニクい事をするなぁ。そんな彼の行為を、無下にする訳にはいかないよね』

【!】

 

瞬間、展開されるのは魔法陣。オフィーリアを中心に、瞬時に行使される通常の魔術師が生涯をかけて展開する規模の大魔術を、手を翳したのみの一工程で完遂させる。

 

『心からの敬意を贈らせてほしい。さぁ──お休みなさい、オフィーリア』

【あ───】

 

翳した手をそっと握ると、オフィーリアを傷つける事なく安らかに停止させる。傷一つつけない、慈愛に溢れた一幕。

 

『君達の記録も、記憶も、読み取ることはしないよ。それは君達だけの人生であり、思い出だからね』

 

(ドクター…まるで大ボスの様です…!)

 

そっと、少女型AIを労る仮面ライダーソロモンを見届けるマシュ。その有様はまさに、古今無二の智慧の王にして全能の力を振るう…

 

『あっ、凄い…肌の質感とか人間そのものだ。凄いなぁ…』

 

(やはりいつものドクターでした…)

 

結局どこも変わらない、ロマニ・アーキマンでありましたとさ。そして残るは2体、じゃんぬが剣を振るう金髪のAI、エステラとしのぎを削る。剣戟の音が、幾度も響き渡る。

 

「大切なものを守る為に、創造主にすら反旗を翻す。いいじゃない、凄く好みよアンタ達。願うなら、リッカみたいに言葉を交わしたかったものね」

【あー………】

 

「…死体を無理矢理動かす様な真似はおしまいにしましょう。英雄は辱めより、弔いが常識でしょう?」

 

瞬間、じゃんぬの刃が熱を持つ。霊基より吹き出た炎を、一点集中した超灼熱の刀剣。月見の際に開発した、白兵戦用のアレンジ宝具。

 

「うたうちゃんには感謝しなくちゃね。久々に…いい事思い出したわ!」

 

重なり合う剣。しかし、超高熱で刃を固め全てを両断する焔を振るうじゃんぬの宝具の前に、エステラの刀身が叩き折れる。そして───

 

「──さようなら。英雄としてなら、私よりずっとずっと素晴らしいと思うわ。あなた達」

 

静かに一閃を放つじゃんぬ。そっと崩れ落ちるエステラを、旗で包む。

 

「自分を創った神に叛逆する気概…一度聞いてみたかったわね」

 

主に中指を立てる事が信念のじゃんぬとしても、彼女らの生き様は尊敬に値するものだ。もうここにはない魂に、静かに祈る…龍の魔女だった。

 

『おぉおぉおっ!!』

【あぁーーーー】

 

ナイフと拳が、幾度も幾度も交錯する。超接近戦にて、エリザベスとリッカのクロスレンジファイトが繰り広げられる。人を殺すAIのエリザベスは、リッカが学んだパンクラチオンにすらも最適最速にて適応してみせる。

 

『強い…!これが、人類の叡智の結晶の力…!』

 

人間、生き物にある呼吸の乱れやリズムの崩れが微塵も無い、理路整然とした攻撃。疲労すらしない身体から繰り出される、洗練されきった殺人の業に、鎧が無ければ何度か致命傷に繋がる一撃を浴びせてくる。そして彼女は、エリザベスの前の姿を知っている。非情になりきれないリッカでは、押し切られる程に凄まじい。

 

『一人でだめなら!』

(私達も忘れないでもらおうかしら!)

 

そこに、ディーヴァが加勢する。極限まで研ぎ澄まされた殺人の業に、人に寄り添う、育まれた希望の想いを込めて叩き込む。

 

『うたうちゃん!』

『彼女達を、看取りたい。どうか力を貸してください!リッカさん!』

 

うたうちゃんとエリザベスの蹴りが交錯し、衝撃と共に吹き飛ぶ二つのAI。その願いに、リッカは頷き応える。

 

『やるよ、アジーカ!』

『いいですとも』

 

『!!』

 

ディーヴァもまた、ゼロワンドライバーの右側面を叩き必殺技シークエンスを起動させる。

 

『ホープホライゾンインパクト!!』

 

『はぁあぁあぁぁ…!!!』

『Aaーーーー!』

 

左手を前に突き出し、腰を深く落とし構えるリッカ。その背後に生えた虹色の翼が、巨大化し6枚に増える。同時にディーヴァのボディアーマーを構成したイルカ達が分離し襲撃、エリザベスを跳ね上げる。

 

『ありがとう、うたうちゃんの姉妹機達…!』

『忘れません。あなた達の事を──』

 

空中に跳ね上げられたエリザベス目掛け、リッカとディーヴァが、足並みを揃え飛翔しダブルキックを叩き込む──!

 

『『はあぁぁぁぁーっ!!!』』

 

【あ───】

 

蹴りぬく前に、勢いを減速し、そっと着地する二人。落ち行くエリザベスを、二人で抱え込む。

 

『ありがとうございました。私の、AI全ての英雄』

『後は、私達に任せて。…おやすみなさい』

 

エリザベスの目をそっと閉じ、その死を悼む。4体の人類に抗ったAIは、静かにその機能を停止…

 

いや、本当の意味で。──死を迎えたのだ。

 

 

 

 




【【【【…………】】】】

ロマン『この4機…カルデアで弔わせてはくれないかな。彼女達は、アンドロマリウスが拾い上げた4機だ。そして…死を迎えたAI達だ。その末路を、尊重したいんだ』

リッカ『うん。記憶も記録も、彼女達だけのものだから。…うたうちゃんの心が、たった一つと同じように』

うたうちゃん『…はい。お願いします。彼女達を、どうか丁重に葬ってあげてください』
ディーヴァ(死んだら一度きり。皆が私達を扱ってくれたように、彼女達にも…ね)

そっと目を閉じ、四人のAIを悼むうたうちゃん。その魂に祈りを捧げる中──

天空海「あったわ天辺に繋がるエスカレータ!!一気に行けるわ!なんかダンスホールみたいになってた!あそこじゃない!?天辺あそこじゃない!?」

余韻をぶち壊しながら、最上部へのルートを確保していた天空海。一同はその手際の良さに舌を巻きつつ、贖罪の巡礼の果てを見据える──

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