人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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最上階ホール

リッカ「ここが…」

そこは清らかに光る床と、夏草を一望するガラス張り。ホールとなる空間が、一行を向かえ入れる。

天空海「いよいよ私の出番が来たわけね!パッと踊って、サッと終わらせるわ!」

リッカ「天空海先輩、これを!」

天空海「わっ!?なにこれ矛!?」

リッカ「きっと先輩の舞を助けてくれます!なんたって女神様の矛ですから!」

天空海「女神が如くって事!?」

リッカ「(スルー)二人共…!」

ロマン『大丈夫、かい?』

うたうちゃん『はい。それでは──』
(──ラストライブの、スタートよ!)


釈免の舞踊と最期の讃歌

「しゃあっ!!気合い入れて禊ぎしてやるわよ!アンドロメダなんとか!私達の禊ぎを見なさい!うたうちゃん!続きなさい!!」

 

『はい!』

 

いよいよ最上階へと辿り着いたリッカ達。贖罪の術式、廃棄口アンドロマリウスへの釈免の宣告。夏草の中心、ウラヌスタワーより清めの禊と希望の歌を、クロケルが遺した術式に届かせ、そして霊脈全てに伝え術式の完了…即ち、贖罪の完遂を彼へと告げる。赦しの方程式を完成させるため、もう一人の突然変異の天空海と、AIとして進化と進歩を続ける希望のAI、うたうちゃんが善性を証明し、天空海が土地を禊ぐ。そしてリッカが彼の精神を見つけ出し、彼女自身の口にて告げるのだ。

 

「天空海先輩…綺麗…」

 

その中でも、リッカの貸した天沼矛を神具として振るい堂々と、流麗に、それでいて華麗に優雅に舞を踊る天空海に、リッカは、そこにいる全ては目を奪われる。

 

『あぁ。目線の動かし方、体捌き、そして何より空間の把握と掌握が抜群にうまい。その目線に、指先一つに──神が宿っている。そういうレベルの領域にいるんだ。信じ難い事にね』

 

ロマンの掛け値のない称賛にも、問答無用で納得せざるを得ない程の魅力と荘厳さを兼ね備え、まさに土地を浄める巫女が如き存在感を醸し出す。イザナミの鉾を構え、ホール狭しと舞い踊り、奔放なる御祓を顕現させる天空海が、空間を支配する。

 

「うたうちゃんさんも負けていませんよ!まさにその歌声は、心から希望を思い起こす素晴らしいものです!」

 

マシュの言う通り、完全に自身を肯定したうたうちゃん、ディーヴァの歌声も天空海の舞に彩りを加える。暗黒の夏草に、まさに福音となって降り注いでいく。それは、罪過を許す免罪の調べだ。

 

『夏草が生んだ、二人の善性…アンドロマリウスに、きっと届く!きっと私達の声を、聞いてくれる!』

 

アンドロマリウスの善意の術式、それの終わりを以て人間の悪性、それらを廃棄し際限なく広がっていく悪意の口から漸く魔神達を開放する事が叶う。その時に備え、リッカが決意を固めし時──。

 

「っづぁ!?」

『くっ…!?』

(つっ!)

 

天空海とディーヴァ、そしてうたうちゃんが突如、横殴りにされたかのようにぐらつき、態勢を崩しかける。互いに即座に持ち直すものの、その感情の意味を理解した三人が言葉とする。

 

「あんのクソ親ぁ!!」

 

『これは、この人格領域に叩きつけられるような感情の発露パターンは…』

(───悪意。アンドロマリウスが受け取り、廃棄してきた悪感情の発露が、私達と天空海さんに流れてきている…!)

 

『うそ…!?』

 

そう、アンドロマリウスの術式にて収容され、集積されていた無数の悪意、リッカの魂に溜め込まれた穢れ。夏草に満ち、ルル達が懸命に排除、昇華しているそれが夏草を通して、術式を通して御祓を行う三人に流れ込んでいるのだ。それは、アンドロマリウスが受け止めていたもの。人類の悪性情報。リッカが力とし、受け入れているもの。

 

「天空海先輩!二人共!大丈夫ですか!?」

 

マシュはその情報の恐ろしさを知っている。かつての自尊の怪物を発狂にまで追い込んだ悪性の恐ろしさを。それが今、うたうちゃんやディーヴァ、そして一般人である天空海に直接叩き込まれては、御祓どころか精神や正気の有り様が危ぶまれる。

 

「ドクター!メンタルケアの準備を!このままでは三人の精神が…!」

 

術式を続ければ、それは彼女らの精神に少なくない影響を及ぼすだろう。最悪の場合、精神の崩壊すらも。それらをマシュが危惧し声を上げた時──

 

「──人間が基本ゴミクズなんて百も承知よあほんだらぁああぁ!!!」

「えぇえ!?」

 

天空海、気合裂孔の憤怒にて邪念を打ち払う。そう、彼女は両親という底辺であり、一歩夏草から出たグラビアアイドル活動にて下卑た世界を真正面から見据えているのだ。今更人間が醜いなど釈迦に説法である。

 

「アンドロメダだかマリスだかなんだか知らないけどねぇ!人間なんて基本ゴミカスなのよ!伊達に人間の生々しい欲望見てないのよ!!大体ねぇ、キレイな人間は少ないから価値があるんでしょーが!!」

 

『説得力凄い!?』

 

「だからこそよ!だからこそ!一生懸命生きてる奴等の力になりたいってなるのよ!一割立派なら九割ゴミでもそれで良し!人間なんてそれで十分!以上!!」

 

人間の悪意を、悪性を見せられたとしても微塵も揺らがずブレない天空海。彼女はとっくに、そんなもので人間を見ていない。良いものは良い、悪いものは悪い。そういう結論を揺るぎないレベルで懐いている。とうの昔に自己を確立達観した天空海は、誰の欲望を見ようと誰の悪意を見ようと、今更人間への評価を改めない。

 

等しくゴミカスであり、等しく綺麗。天空海にとって人間はそんなものなのだ。両親という基盤から狂っていた彼女は、ある意味で悟りきっていたのだ。

 

『天空海先輩は大丈夫だよ!私の先輩、そんなやわなわけないから!』

「ちょっとくらいは心配してほしいんですけど!?」

 

『うたうちゃんとディーヴァはそういうわけにはいかない!彼女達の精神と情緒は生まれたばかりなんだ、魔神達が獣になり、リッカ君の意思がなくてはまともに扱えない劇物をまともに受けたら──』

 

『──ディーヴァ!』

(半身だもの、解っているわ!)

 

──ロマンやマシュ、リッカ達の不安を振り切るように、うたうちゃんとディーヴァは歌い続ける。言葉を紡ぎ、希望の歌声を夏草に響き渡らせる。悪意の逆流を受け止めながら、懸命に歌い続けるその姿に、微塵も迷いは無い。

 

(私達はもう挫けない。例え世界が、人が悪意に満ちているのだとしても。私達の願いと想いは変わらない。アンドロマリウスさんが、魔神の皆様が見た景色が、見たものがどんなに哀しく辛いものだったとしても…人間の希望と善性は、決して翳らないのだと証明してみせる!)

(こういう時に私達はいるのよね、きっと。おじいちゃんが目覚めさせてくれた私は、うたうの背負いきれないものを半分だけでも受け持つ為、こうしてここにいる。AIとして…人間と一緒に歩む為に!)

 

それに、うたうちゃんは証明したいと願うのだ。人間の大半が悪意であろうとも、世界に満ちているものが悪意が大半であろうとも。

 

『私達は、人類の皆様に絶望なんて絶対しない…!人間の皆様は、決して滅びるべき生命ではないということを示してみせます…!それが…!』

(それが私達を産み出してくれた人類、夏草の皆を始めとした皆に返せる、恩返しにして意思表示!)

 

『(人類は、とても素晴らしい種族なのだと謳ってみせる!私達の、全てを懸けて──!)』

 

加速度的に悪意の汚染が始まっていても、彼女達は決して歌うことをやめない。天空海の舞い踊る旋律に合わせ、彼女が考え、リアルタイムで生み出す旋律を奏でている。まだ曲調しかない、その歌を懸命に声を上げて。

 

『うたうちゃん…ディーヴァ…!』

 

『くっ、うぅっ───!あ、あぁAaaー…!』

(まだまだぁ…!絶対、歌は止めないわ!)

 

「根性見せなさい、私をモチーフにしたAIなんでしょ!才色兼備で器量十分の私を基にしたなら絶対できる!見てなさいよ、リッカ!先輩の意地ってヤツ!! 」

 

『先輩…!二人共…!』

 

絶え間なく瞳が黒、赤、そして青に明滅するディーヴァ。誰が見ても、その侵食と汚染は深刻極まるものだ。天空海の禊なくば、どちらか一人だったなら、とうに自我崩壊を起こしているだろう。

 

「──リッカ!もう一度、あれを使うの!探すのよ、術式の中心を!魔神の心を!」

『じゃんぬ!』

 

「許しを告げる為に、心に直接!──皆の頑張りを形にできるわ!他でもないあなたなら!」

 

『リッカ君!こうなったら、贖罪を一刻も早く完遂させるしか彼女達の決意に報いる事はできない!』

 

「先輩!どうか…!彼女達の決意を!」

 

『──解った。やるよ…!アジーカ!!』

 

『ラストミッション、開始』

 

アジーカと共に、アンドロマリウス…ウラヌスタワーそのものに宿る術式を解明するため──

 

『(お願いします、リッカさん)』

 

「ちゃんと、やりなさいよ!」

 

リッカの心は、遂に術式の最奥へと飛翔する──!




ルル『禊が始まったようだ!しかし…!』

アカネ【あんぎゃあぁあぁ!?】
アレクシス【トライキングでよく頑張ったねぇ…】

アスカ『なんで私だけエネルギー切れが!?』

サラ『うぉおぉお!?』

エル『縮退炉出力やや低下!まだいけますが、いつまで保つか…!』
黒神『泣き言を言うな!勝つまで負けなければいい!』

ルル『際限なく湧き出る穢れ、戦いは数の過多で決まるもの…無尽蔵に湧く者相手ではまず心が疲弊する…!このままでは…!』

ゆかな「諦めるな、馬鹿!お前を信じる輩を裏切るな!」
スザク「そうだ!まだ、これからだ!」

ルル『…土壇場でモノを言うのは、やはり根性か!ならば──!?』

瞬間、ルルは見上げる。ウラヌスタワー目掛け、夏草の空を駆け抜ける一筋の流星を。

『あれは、まさか──!?』



【人格汚染、35%進行】

うたうちゃん『まだ、まだ──!人類の、ためにも…!』
ディーヴァ(これから生まれる、AIの未来の為にも…!)








『『『『──再起動、開始。行動理念、再定義。非常電源による活動を、開始します──』』』』

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