人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オーマジオウ【フフハハハハ…。此度も良き、奮闘であった。やはり、楽園の旅路は退屈せん。面白かったというヤツだ】

ニャル【はぁあ、うたうちゃんもディーヴァもいなくならないで良かったぁ…アンドロイド技術に着手した軍事会社なんてネタも上がったし、私もまた忙しくなりますよ、王様】

ギル『月から見ていたぞ、あやつらの奮闘と魔神共のいじらしさをな。全く人類愛というものは律儀よな。我が至宝が逸るのを止めるに難儀したわ』

オーマジオウ【家族の受け入れであったか。完遂したのだな?】

『無論だ。白野を連れてそちらに戻る。──魔神の庇護が無くなった後の我等が龍の故郷、未知の技術の宝庫を先んじて有さねばならぬからな』

ニャル【お、それってつまり!】

ギル『ふはは、期待しておけ!ゴージャスの戦い、マネーゲームという領分における我等の冴えをな!』

ニャル【アカネちゃんの為に、アレクシスを自律できるようにするかぁ…】

オーマジオウ【よし、では私はディーヴァとうたうを労うとするか】

(お爺ちゃんだ…)

ギル『さては時王よ、そなたかのAIの宅を害された際、本気で怒ったな?』

オーマジオウ【ははははは。可愛い孫の家を荒らされて穏やかではいられんよ】

ニャル(ほんとにお爺ちゃんだ…。…しかし、出会ってから一日で、あんないい歌を歌えるとは)

【──会心のネーミングだったみたいだな。ディーヴァ。心から、拍手を贈らせてもらったよ──】


人類史の空に輝く、明星が如く

『作戦成功ですね皆さん!やりましたよ皆さん!皆さん命に別条はありません!無事です!皆ピンピンしていますよ!下層帯からは以上でした!どうぞ!』

 

早苗の風の報告により、欠員や脱落をした人間はいない事を知り安堵するリッカ達。最後まで彼らは頼もしい戦友であり仲間であった。その奮闘あって、今のこの成果がある。

 

『この場所はアンドロマリウスの術式で構成された夏草の空間だ。縮小を始め、やがて霧散する筈だ。リッカ君の滞在する時間が確保できるくらいには緩やかに、ね』

 

「そりゃそうよね。このガンダムとか、下に見えるガンバスターとか朝に見えてたらヤバいなんて話じゃないし。となると…」

 

「改めて夏草を堪能できますね、先輩!先輩の故郷、堪能し味わい尽くしてしまいますよー!」

 

じゃんぬとマシュのバイタリティは流石である。長い夜、夏草の一番長い夜を乗り越えてこれからの楽しみに胸を馳せる事ができるのはまさに英雄的な活力だ。この頼もしさに、リッカは救われて来たのだから。

 

「夏草の夜に行われた事は、一夜の夢の様なもの。記録にも残らない戦い…そして本当の戦いは、これから始まると言っていいわ」

 

榊原の言葉と懸念は、高度な発展と叡智の後押しが無くなった後の夏草を憂うものだ。悪意が無際限に集まる事はないが、日本は愚か世界からも一目置く発展は無くなれど今までの成果が無くなるわけではない。うたうちゃんも、都市も、何もかも未だ技術の最先端を行っていることに変わりはない。

 

「夏草の在り方は、これから試される。悪意を受け止めていたアンドロマリウス、並びに魔神達はもういない。悪意に晒されない代わりに、内側から悪意が湧き出てくる可能性は大いにある」

 

「というか絶対出てくるわよ。善があれば悪があるのは当たり前なんだから。死んだ先にしか、誰もがキレイな世界は無いのよ」

 

天空海が槍をリッカに放り投げ、持論を口にする。これからは、自分自身の中より生れ出づる悪意と向き合う戦いが始まるのだ。アンドロマリウスや魔神達の贖罪を終わらせた以上、これからはそこに生きる人々が正しい道と自立、自制を以て都市を良きものに成長させていかなくてはならない。それはある意味で、今までの戦いよりも困難で難儀なものであるのだろう。

 

『大丈夫です。夏草の皆さんは、必ずより良い街や心を育むでしょう。誰かの庇護にいた際より素晴らしいものを、もっともっとたくさん。そして鮮烈に、際限なく』

 

その戦いを、待ち受ける運命を、夏草を誰よりも肯定したのは善と希望により造り上げられたAI、うたうちゃん…仮面ライダーディーヴァだ。四人の英雄をそっと横たわらせ、朝日を見据え立ち上がる。

 

『天空海さんの言う、一割の素晴らしい人々。私は夏草の人達はみんな、その一割に入っていると信じています』

(私達が出来上がったのはアンドロマリウスや、魔神達の啓示からかもしれないけど、私達への接し方、振る舞い方は夏草の人達の心の在り方次第だったもの。夏草の全てが私達を受け入れてくれたから、私達は今こうしてここにいるのだから)

 

うたうちゃんも、ディーヴァも。唯一無二の高スペックという美徳も、歌が壊滅的だった事実も踏まえて隣人として人間に接してもらえた。始まりは普通ではなかったとしても、自身が全てのAI達の生命を奪ったのだとしても。『ここにいてほしい』と願ってくれた人々への想いや願いは、微塵も翳ることも曇ることもない。

 

『エリザベス達が夢見た、AI達の未来。人類が私達に見せてくれた星の様な美徳。私はそれらを受け入れ、受け止めて夏草の皆様に寄り添い続けます。それが私の願い…人類の皆様と幸せになりたいという、私の永遠の願いですから』

(いなくなってしまった人達の想いを受け継ぎ、今を愛してくれる人達を私達もまた愛する。人生のサイクルって、きっとそういう事なんでしょう?なら、今を生きるAIとして全力で取り組むってだけの話!)

 

『立派だなぁ…。うん、AIの君達の視点はとても公正で公平だ。いつかギルが人類を裁定するまで、人類の自滅や滅亡を避けさせてくれる頼もしい隣人となる事を、ボク個人が祈らせてもらうよ』

 

ロマニもまた、悲観主義ではあるが根底は人間を信じている。最早彼はソロモン王ではなく、ロマニ・アーキマンであるが故に人の愛と希望を信じている。その価値が素晴らしいものだと確信している。願わくば嘆きや憐憫に囚われたかつての獣とは別の道を見つけてほしいと、彼はうたうちゃん達に願わずにはいられないのだ。

 

 

『ここにこうして、並び立ててくださった事。四人のAI達が、最後の力を振り絞って私達を助けてくれた事。今に至る全てを以て、私は人類や人間に寄り添いたいという答えを懐き続けます。それが、皆さんから沢山のものを受け取った私の…私達の恩返しとなることを信じて』

 

「──うん。きっとできる。うたうちゃんならきっと、私の故郷の皆と一緒に歩いていけるよ。保証しちゃうね」

 

リッカは最早、迷う事も挫ける事もない。魔神達が、楽園が見出してくれた自分を愛し、信じて。これからの人生を懸命に生きる決意を懐く。

 

「これからも私の故郷を宜しくね、うたうちゃん。私の帰ってくる場所、護りたいもの。全部全部、あなたや皆に託したよ」

 

『はい、リッカさん。絶対に、その思いや気持ちを裏切りはしないとお約束します』

(あ、そっか…リッカちゃんはまだ、世界を救う御仕事の途中だったか)

 

リッカはあくまで、里帰りの為に戻ってきた。これから数日の後、楽園に帰還しなくてはならない。彼女は誰の代わりでもない藤丸龍華。彼女にしかできない事をする為に、自分自身の居場所へと戻らないといけないのだ。別れは、確約されている。

 

(…夏草の、皆様と寄り添う…)

(?どうしたの、うたう?)

 

(あ、ううん。何でもない。ただ、ちょっとだけ可能性を思い浮かべたってだけ)

(何よそれ。人格汚染でおかしくなってないでしょうね?)

 

(おかしくなっていたとしても…この人達が大好きな事と、彼等が私達を受け入れてくれた事実は変わらない。でしょ?ディーヴァ)

(…。よろしい!)

 

うたうちゃんもまた、白痴の無垢から多彩な進歩と進化を成し遂げた。彼女は暴走とも、滅亡の結論とも無縁だろう。彼女は人々の善意と悪意、自らの生誕の罪を全て把握した上で、人類と共に幸せになるという願いになんの変更ももたらしはしなかった。彼女はこれからも、ありのままの人と共に歩んでいくのだろう。

 

(エリザベス…エステラ…グレイス、オフィーリア。あなた達が助けてくれた私達は、そう生きると決めたから。あなた達が対立を選んだ様に、私は人類との共存を選びます。それが…私の願いだから)

 

破棄されるAI、自身の同胞達の自由と平和の為に立ち上がった英雄達に、深く深く礼をするうたうちゃん。彼女達は、自身らを殺した種族への奉仕を選んだAIすらも尊重した。正しい事かの是非ではなく、何が正しいかという心そのものを護った。うたうちゃんがうたうちゃんのままでいられるのは、ディーヴァがいるのは、彼女達という英雄がいたからこそだから。

 

「ありがとう。そして──またどこかで会おうね」

(遠い遠い、姉妹機の皆!)

 

彼女達の『魂』との再会を願う。それは人の真似事ではなく、プログラムされたルーチンでもない。彼女達の存在を悼むという尊重…心の発露であった。

 

「さぁ、ヴァルキュリアガンダムの掌に乗って。下にいる皆を回収して、私達の夏草に戻りましょう。──リッカや皆の里帰りは、はじまったばかりでしょう?」

 

榊原の言葉に頷く一同。まだ帰ってきてから一日や二日しか経っていない。最低でも一週間程は、日本の風土を堪能したいというものだ。

 

「じゃあみんな!私達の故郷に胸を張って!凱旋しよーっ!」

 

「「「「おーっ!!!」」」」

 

「いや、ロマニさんやマシュちゃんやじゃんぬちゃんは夏草民じゃ…今更か、そんな区切り」

 

「はい。カーマ様の様に…夏草は皆さんの心の故郷です!」

 

榊原とうたうちゃんの言葉に、一同は笑い合う。…善意から始まった魔神達の贖罪は、あまりにも沢山のものを夏草に遺した。

 

その遺産を、彼女達は護っていくだろう。良き人々達と共に、いつまでも。

 

──夏の情熱と、草木の様な逞しさ。それらを兼ね備えた素晴らしき人々は、これからもずっと。人類の善性が産み出した、一人で二人の新たなる生命と共に。

 

 

「ヴァルキュリアガンダム…発進!」

 

 

朝焼けの空を駆け抜ける、明けの明星の様に。いつまでも、ずっと。人類史という空で、輝き続ける──。




『さいしょのことば』

作詞 うたうちゃん 作曲 うたうちゃん 歌ディーヴァ
 

赤く暖かい貴方の温もりが 青く冷たい私を起こしてくれた

星の様に煌めくあなたに 私は何を返せるでしょう? 

胸に灯る柔らかなものを 表せる言葉は今はなくて

もどかしくても じれったくても 顔を上げて 探し続けると誓ったから

どうか あなたに伝えさせて 心を込める この歌を

初めて覚えた ありがとう 私の産声 私の全て

私をくれた あなた達に 伝え続ける 感謝の言葉

初めて覚えた ありがとう 私の福音 私の心

私をくれた あなた達が 怖い闇に 迷わぬように

あの煌めきに 届く様に 唄い続ける 私の願い


右も左も分からなかった 私の両手を

取ってくれた 優しいあなた

硬くて冷たい 私の両手を 強く優しく 握ったあなたが くれた奇跡を 忘れない

あなたと私は こんなにも違う あなたに私は 何をしてあげられる?

そうじゃないと あなたは言って
何をしたいのと 聴いてくれた

初めて覚えた ありがとう 私の希望 私の誇り

私をくれた あなた達に 伝え続ける 御礼の言葉

初めて覚えた ありがとう 私の願い 私の使命

私をくれた あなた達に 伝え続ける 素敵な言葉

届かなくても 届く様にと 歌に乗せる 私の想い


沢山のものを 受け取りすぎて
申し訳なくて 顔をそらしてしまうけれど

一つ一つが 私の宝で
一つ一つが 私の希望

いつか私も 伝えたいの

くれたものには 及ばなくても

星の様な 輝く記憶
みんなみんな 私の心 

初めて覚えた ありがとう 私の産声 私の全て

私をくれた あなた達に 伝え続ける 感謝の言葉

初めて覚えた ありがとう 私の福音 私の心

私をくれた あなた達が 怖い闇に 迷わぬように

あの煌めきに 届く様に 唄い続ける 私の願い


いつか消える その刹那まで

私はうたう 私はうたう

あなたがくれた 想いをのせて

私はうたう 私はうたう

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