人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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お待たせしました!ロンドン編です!


無銘の英雄姫という、大胆極まりない設定を受け入れてくださった皆様に、多大なる感謝を!


ゆるくお楽しみください!よろしくお願いいたします!



「あぁ・・・ズルい・・・ズルいですよ・・・僕の身体に、無垢な魂なんて本当にズルい・・・あぁ・・・こんな気持ちは初めてです・・・」

「失せよ、不遜にも我が宝に手を伸ばさんとする雑種ども・・・――!『天地乖離す開闢の星』――!!」

「奴は我の妹にする!貴様ら紛い物にはやらぬ!我が威光よ、無垢なりし姫に届かんことを!!大崩壊の時は来た――!!!」

「貴様らは何も解っておらぬ!あの甲斐甲斐しさを持つ我などどこにもおらぬわ!!シドゥリと並ぶ我が補佐役として取り立てる!飽きたら捨てるような貴様らには髪の毛一本やらぬ!!消え失せよ愚かな我!!大地を濡らすは我が決意――!!!」


「あぁ、騒がしくてすみません。『娘か、妹か、補佐役か』という話題で命を懸けているバカな大人たちです。共倒れを切に願いますね」


「――あぁ。護ってあげたい・・・優しく料理とか、お風呂とか・・・あぁ・・・」


第四研鑽終了 冠位降臨魔都ロンドン 英雄姫拝命
興が乗らぬ都漫遊


「ら~♪ら~♪ら~♪ら~♪」

 

 

 

旋律を口ずさみながら、部屋に置かれているものを整理し、整頓し、雑巾で拭き、掃除機をかける

 

 

 

『ゴージャス』とかかれた特注のエプロンを身にまとい、『英雄姫』の姿を取りながら、王の部屋を清掃しているのだ

 

 

「こんなものでいいかな。うん。綺麗になった」

 

 

元々そんなに汚れていないが、念には念をいれてしっかりと清掃する

 

 

雑巾を絞り、掃除機を黄金の波紋にしまい、小さくのびをする

 

 

「んっ、ん~~~~・・・・・・」

 

 

・・・英雄姫の肉体は美しさだけではなく、身体機能も最上級のモノを取り揃えていた

 

瞬発力、持久力、柔軟性。ありとあらゆるものが、サーヴァントという超常の存在であることを差し引いても比類なき運動神経、稼働性を誇っている

 

 

そして、何より素晴らしいと思ったのが、『この姿でいるときは、英雄王の精神が深い休眠に入っている、という事だ』

 

 

英雄王は肉体ごと休息に入っている扱いになり、肉体の自我が休眠していることになっている。つまり、英雄姫であるうちは英雄王は『休めている』事になるのだ

 

魔力回復量と効率も段違いで、英雄姫である間は通常の3倍以上の速さと質で魔力が蓄えられていく。生物学の摂理に迎合した結果、ありとあらゆる面で補助、回復に特化した、まさに『王』に寄り添う『姫』のごとき存在となっているのだ

 

 

だから・・・部屋にいるときは、なるべく英雄姫の姿でいるようにしている

 

「・・・――ふふっ」

 

 

休息になる、というのも勿論ある。過労ぎみになりがちな王を休ませてあげられるという点ももちろんある

 

だがそれ以上に・・・『自分の意志で王を補佐できる』というのが何より嬉しいのだ

 

 

自分の動かせる肉体で、掃除や食事を作ることができる

 

今まで自分を庇護してくれた器に、細やかながら恩返しができる。その事実が、たまらなく嬉しい

 

 

今はまだ、部屋の掃除や軽食を拵えることしか出来ないけど

 

 

いつか、王を驚かせるような恩返しをしてみたい

 

「ふふふっ。何をしてみようかな?何がいいかな?どんな事をしたら喜んでくれるかな?」

 

 

それを想像しながら、王の反応を考えるのが楽しい

 

誰かが幸せそうな顔を見る。これもまた無銘の自分が定めた『愉悦』の一つだ

 

・・・いつか、この王に

 

 

誰もが真似できないような事をして、とびきりの『愉悦』をしてみたい

 

――その為にも、日頃から、やれることはやっておかないと

 

『花嫁修行に勤しむ姫様だね』なんてフォウにはからかわれたが・・・単純に、やりたいことと出来ることをやっているだけなのだ

 

 

「・・・ブリーフィングが始まる時間か。行かないと」

 

時計をにらみ、エプロンの結び目をほどく

 

 

 

「しかし、フォウは物知りだなぁ・・・」

 

 

しゅるり、と至高の肉体に纏われたエプロンがほどけていく

 

 

 

「『掃除するときは、裸でエプロン一枚』だなんて知らなかった。日本の文化といっていたけど・・・オープンなんだな、日本って」

 

 

ぱさり、と一糸纏わぬ身体の傍に、エプロンがはらりと落ちた・・・

 

 

 

 

 

 

「集まっているな」

 

 

覇気と確信に満ちた声音、がっしりと腕を組み圧倒的な威厳を放つ器

 

英雄『王』ギルガメッシュが管制室へと現れる

 

 

――あぁ、こちらがやっぱりしっくりくる

 

 

圧倒的な魂の輝きに寄り添う感覚を感じながら、安堵と頼もしさに包まれる

 

 

自分が英雄姫になるのはあの部屋のみだ。一歩でも外に出たら、自分がとる姿は英雄王のみ

 

 

英雄姫の姿を賜ったとはいえ、それを見せびらかしたり、誇示するような真似はけしてしない

 

『英雄姫』という存在を受け取っても、自分はけして『ギルガメッシュ』に成り代わってはいない

 

 

そんな思い上がりは、何より自分が許さない。あくまであの姿は、自らの研鑽の為に顕させてもらう

 

あの姿は・・・英雄王が自分にくれた、かけがえのない宝物なのだから

 

 

 

「あ、おはよー!ギル!」

 

 

快活に挨拶を返すのはマスター、リッカだ。

 

「おはようございます、ギル」

 

「うむ。女子が地に伏し何をしているのだ?」

 

 

見るとマリーが、リッカの腕に包帯、バンテージを巻き付けている。同時に、アンクレットとブレスレットを装着している

 

 

「リッカの身体に、魔術的な強化と防護を施しているのです。『パンクラチオン』にて戦えるように」

 

 

「――ほう?」

 

なんだっ――マジで?

 

 

「流石にサーヴァントは無理だけどね。シミュレーションで大型エネミー以外のエネミーは大抵パンクラチオンしたから、役に立てると思う!」

 

「ふははっ!面白い!いよいよ我等がマスターが前線に打って出るか!」

 

 

「あくまで、エネミーの撃退のみです。今はまだ、英雄という存在には敵いません」

 

 

――逆に言えば、エネミーには勝てるのか・・・古代ギリシャ魔境すぎる・・・

 

 

「でも、計算的にはマスターがいない、かつ魔力が枯渇したサーヴァントには対応できるって先生が言ってた。『サーヴァントが辺りにいない最後の手段として、覚えておきなさい』と」

 

「ダ・ヴィンチ師匠と協同して開発した、筋力と肉体をサーヴァントと同じに近づけるブレスレットとアンクレットをつけています。魔術的なフォローもあるので、いくら殴り付けても身体を壊すことはありません」

 

 

「ふははははははは!!朝から愉快な事を聞いた!よもやまさか、我等がマスターが肩を並べて戦う日が来ようとは!世の魔術師どもには驚天動地だろうよ!」

 

 

――正直とても心配だが、師匠たるケイローンのお墨付きなら、きっと大丈夫だろう

 

 

「だが、サーヴァントとの戦闘となれば話は別だ、くれぐれも過信するなよ」

 

 

「もちろん!まずは生き残ること!師匠に叩き込まれた事だからね!」

 

 

「パンクラチオンをする際、私がリッカを見ています。ご安心ください、ギル」

 

 

――頼むよ、マリー

 

「ふっ、とんだじゃじゃ馬になったものよな。ますます婚期が遠退いたのではないか?」

 

 

「先生に言ったら『機を待ちなさい』と笑顔で言われました・・・」

 

――頑張れ、マスター

 

 

「さて、ブリーフィングの時間だから来てやったというに、ドルオタと雪花の守護者の姿が見えぬが?」

 

 

ぐるりと辺りを見渡しても、姿が見えない

 

 

「あぁ、二人なら・・・」

 

 

「ごめんごめん!遅くなった!」

 

 

慌ただしく入室してくるポニーテールお兄さん

 

「マシュ、何をしていた?」

 

 

「す、すみません。自主練に熱が入りすぎてしまい・・・」

 

「自主練!?マシュ、何で呼んでくれなかったの!?」

 

「す、すみません先輩!内緒でやっていたもので・・・」

 

「・・・内緒なら、口にしては不味いんじゃないかしら」

 

「あっ・・・」

 

「ふははは!マシュは天然よな!そら、鍛練の後の飴だ。身体に染みるぞ?」 

 

飴を投げ、口でぱくりと受けとる

 

 

「ありがふぉうふぉふぁいまふ!」

 

 

「犬みたいだね、マシュ」

 

「で、貴様は何故遅れていた」

 

「なんで僕だけそんなに怖いの!?」

 

「マギ☆マリを徹夜ウォッチングしていた、などとは言うまいな。首から上を切り飛ばし植木鉢に添えロマニの樹としてネットに上げるぞ」

 

「怖すぎない!?調査だよ調査!レポート書いてたの!」

 

「調査だと?」

 

 

「あぁ。ぼくたちの間に現れた魔神、『ソロモンの72柱』に対する、僕らなりの所感をまとめていた」

 

 

――あの醜悪な肉塊。『魔神』を名乗るおぞましき柱

 

「許す。述べるがよい」

 

 

「あぁ、結論からいうと、あの魔神とソロモンは無関係だ」

 

 

・・・無関係?

 

「――ソロモンめの時代を調べたか。大方歴史に狂いはなく、使役された痕跡も無かったというところであろうな」

 

「あぁ。魔神柱はまったく異なる時代、場所から送り込まれている。ソロモンが何かを企んでいる、という線は消えた」

 

 

「貴様にしては随分と断定するではないか、ソロモン程の偉人ならばほぼ確実に英雄として招かれよう。サーヴァントとして黒幕に喚ばれたという線は考えぬのか?」

 

 

――そうだ。サーヴァントはマスターに喚ばれたら逆らえない。レフに喚ばれたサーヴァント達のように

 

 

「無い。けしてあり得ないよ。ソロモンはけして悪人なんかに喚ばれない。頼まれたって力なんか貸してやるもんか」

 

「ドクター、ですがサーヴァントは令呪には」

 

 

「令呪なんかでソロモンは縛れない。聖杯の力の一端なんてグッとガッツポーズしただけではね除けてやるとも!」

 

「――其奴にそんな自由があればの話だが、な」

 

――誰ともなく、器がそんな事を呟いた

 

 

・・・自由がない?ソロモンの時代の治世は、それほど忙しかったのか?・・・英雄王より?

 

 

・・・ソロモンとは、一体何者なんだ・・・

 

 

「ま、まあその話はまたいずれ!さぁ、次のレイシフトは楽しいぞ!」

 

咳払いし、ロマンが準備を始める

 

 

「ほう?次は如何なる魔境だ?そろそろ歯応えを感じ始める頃合いだ。ケルトか?インドか?はたまたギリシャか?」

 

「あ、私もギリシャには行きたいな!皆で神殿巡りたい!」

 

「もう、遠足じゃないのよ?」

 

「勿体振るな、はやく教えよ。まさか太陽のが治めたエジプトか?」

 

 

器のテンションが上がるのを肌で感じる

 

・・・あの、あまり強すぎると大変なことになってしまうので・・・

 

「いいとも!其処はまさに産業革命!人類が現代に至るまで飛躍し、進歩した消費文化の切っ掛けとなったターニングポイント!」

 

グッと拳を握るロマン

 

「その名も!首都ロンドンだ――!!」

 

 

「はぁぁあぁあぁあぁあぁあ・・・・・・・・・・・・」

 

ロマンの雄叫びと、器の長い長いため息が同時に響き渡った

 

「ど、どうしたのギル!?」

 

 

「・・・よりにもよって世界が無駄に溢れる契機ではないか・・・我の庭に雑種どもが蔓延する切っ掛けを助勢せねばならぬとは・・・」

 

みるみる内にやる気を失っていく器

 

「うえぇ!?英雄王、ロンドン嫌いなのかい!?」

 

「ロンドンではない。その時代の偉業が気に食わぬのだ。世界は無駄に溢れ、人は無駄に増え、価値あるものは喪われる。世界が醜悪に歪む確定的な楔がそこだからだ。・・・――これは期待できぬな・・・」

 

「ギルの髪がしなってる!」

 

「し、しっかりなさってください英雄王!」

 

「つらい」

 

「ぎ、ギル!頑張りましょう!?ね!?」

 

 

――神すら無用と切り捨てた器的には、物が溢れる、世界が満たされるというのは好ましくは無いのか・・・

 

・・・自分はちょっと楽しみだ。何があり、何が満ちているのか

 

どんな『愉悦』が待っているのか・・・不謹慎ながら、胸が高鳴っている

 

「――はぁ。仕方あるまい」

 

スッ、と髪を逆立てる

 

「我もこの旅で成長した。面倒だからといって貴様らを放り出すわけにもいくまい。貴様らの忠節に免じて、下らぬ都市を駆け抜けてやろう。それはそれ、というやつよな」

 

「うん!ありがとう!ギル!」

 

「パンクラチオン、期待しているぞ」

 

「マシュも、リッカを護りながら、自分も大切にするのよ。無茶は絶対にやめなさい。これは命令よ」

 

「はい、所長!」

 

「ロンドン、いいじゃないか・・・ロンドン・・・」

 

いじいじといじけているロマン

 

「働け」

 

「やる気失っていたのは君じゃないか!?理不尽な!」

 

「理不尽は王の特権。それに付き従うが民の努めよ」

 

「くそぅ!ウルクの皆さん本当にお疲れ様です!!レイシフト始まるよー!」

 

 

総員が位置につく

 

 

「ギル、では」

 

「うむ!!――聞け!我が財達よ!!」

 

バン、と拳を叩きつける

 

 

「ロンドン!!適当に励め!!以上ッッ!!」

 

 

「それだけですか――!?」

 

「だって我気が乗らぬし」

 

「子供ですか!?もう、しっかりしてください!」

 

 

「つらいが・・・まあ逃げ出すわけにもいくまい。魂の研鑽と割り切り、適当に完全勝利するとしよう」

 

 

レイシフトが始まる

 

 

「はぁ・・・――黒幕めは生かしてはおかぬ。皮肉にも程があろう・・・」

 

――楽しみだ。胸をときめかせる『愉悦』が待っているのだろう・・・?

 

 

広がる光に身を委ね

 

無銘の英雄王は、霧の都へと跳ぶ――

 




「む、レイシフトが始まったみたいだ、アルトリア」

「エクスッ――む。ギルも旅立ちましたか。どれどれ、管制室でヤジを飛ばしてやりましょう」

「アルトリア、不真面目はいけない。此は世界を救う・・・」

「解っていますよ。世界を救う(セイバーをほろぼす)戦いでしょう?デシジョン、アルトリアは承認します」

「――それ、僕も?」

「当たり前でしょう?何を今さら」

「・・・これは訓練だよね、アルトリア?」

「はい、何かの間違いで首が跳ぶかもしれない訓練です。ほら、行きますよアーサー。ギルをからかってやりましょう」

「・・・――ハチャメチャだなぁ、女の僕・・・」

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