人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ホテル

ヘラクレス(夏草観光か…)

イアソン「せっかく都心が近いんだし、行くならまず東京じゃないのか?というわけで俺は東京から攻めるぞ!キャバクラに行って目指せ夜の帝王だ!」

(神社や寺に行ってみたい。己や日本の文化を見つめるいい機会になりそうだ。リッカの故郷、足を運ばない理由はない)

イアソン「シャンパンドンペリジャンジャン開けて美人のねーちゃんを持ち帰り!アフター含めて熱い夜だ!当然お前はボディガードだヘラクレス!街角のぼったくり客引きからオレをきちんと守れよ!」

ヘラクレス「悪いが一人で行け。私はこれから寺や神社を回る」

イアソン「ジジイかお前は!?神社ならヘスティア亜種のイザナミ婆さんの土地があるだろーが!今更行くか!?」

ヘラクレス「そこにしか無いものがあるなら調べる。冒険者とはそういうものだ」

イアソン「あー、スイッチ入りやがった…あーいけいけ!ちゃんと帰ってこいよ!」

ヘラクレス「お前もな。パンイチになったら私を呼べ」

イアソン「そうなってからじゃ手遅れだろーが!」

「…?」

「いつもの事じゃね?みたいな顔をするなー!!」

こうしてヘラクレスは、電車に乗ってとある寺に向かう。とある由来を持つ寺へ──


レンジャー・オブ・ナツクサ〜傳承・金狼の鎧〜

「ここが、件の寺…御仏の化身とされた狼を祀る寺か」

 

街の喧騒から離れ、その為だけに用意された土地たる場所。かつて夏草に至る地を守護し、民に希望をもたらした金色の狼を本尊とし、その縁の信仰者が彼らを手厚く讃え祀ったという由来を持つ【金狼寺】。その開かれた門の前に、大英雄ヘラクレスは立っていた。無論、その伝説が気掛かりなのもあったが…根本的には日本の文化に触れたかったのも心中を多く占めている。

 

(日本は神や仏との距離が近しく思える。多少物知らずの私でも優しく受け入れてもらえる筈だ。日本の神々は恐ろしくない一面は皆優しく寛容だからな。リッカが世話になっている礼を故郷にも還元すべきだろう)

 

ヘラクレスは神にその人生を翻弄されてきた。ゼウスの不義で生まれ、ヘラの嫉妬を受け、神々のもたらした試練を越え、やがて神に至った。波瀾と激動…ヘラクレスにとって神とは正しく厄災そのもの。祝福には深く感謝してはいるが、それはそれとして神の数々の所業にはドン引きしている。しかし、楽園にて日本の神々に懐いた感情は真逆。親しみやすく話の分かる者ばかりであり、ヘラクレスは大層日本文化を気に入っていたのだ。

 

(落ち着いて、弟子の無事や家族の安寧を祈るもたまには良かろう…)

 

神社や寺を回ることにしたヘラクレス、当然一人である。ギリシャ連中は侘び寂びを良く知らぬ輩ばかりであるし、友イアソンは馬鹿騒ぎする事が目に見えている。茶碗ではなく樽ジョッキしか持てない輩に文化の堪能は荷が重いと判断したのだ。というかそもそも、ヘラクレスは神々に見張られ一人であった事がない。

 

(冒険者として、未踏の地は踏破せねばな)

 

楽園で友誼と歓談をもたらしてもらった。ならばそれ以上を求めるは無粋。この機会を無駄にしてはならぬと夏草に足を踏み入れたのである。深々と一礼し、ヘラクレスは一歩足を踏み入れる。

 

「寺では敷居を踏まず、男性は左脚から入るのだったか」

 

山門を作法通りにくぐり脚を踏み入れてみれば、そこには霊験と煌々が同居する、まさに金狼の名に相応しい様相が表されていた。その目映さに、ヘラクレスは目を細める。

 

「物静かな輝きなれど、皆金色が施されている…。金閣寺とやらにも劣らぬ輝きだ…」

 

そう、 本尊を祀る本堂、仏殿。 信者や雲水に説法、法話を行う施設、法堂、講堂。雲水が起居し、坐禅修行を行う僧堂、禅堂、。寺の厨房である庫裏、 御手洗いである東司、浴室まで全てが黄金に輝いている。それはまさに、黄金の国ジパングの具現の光景に相応しい。

 

「ジャパンとは東洋の神秘の島国。よもやこんな形で伝説が形を成していようとは」

 

感嘆も露に、ヘラクレスは入水を行う。浄める意味合いもあり、文化を大切にするのも文明人の習わしであるからだ。ギリシャでは敵対文明は基本破壊と蹂躙と陵辱である。自分の名を歴史に残すためアルテミス神殿に火を付けた愚者もいる。ギリシャの英雄を名乗る者として、異国で恥を晒す訳にはいかぬと彼は己を律している。

 

「左手、右手、口、左手→柄杓…神社と手順は同じなのだな」

 

リッカが特異点に赴く度に、高天ヶ原にて無事を祈願し参拝していたヘラクレスの体験が功を奏し、違和感無く終える事が叶った。彼は常に、愛弟子であり自らの教えを受け継いだ一人の少女を気に掛けている。彼には、護るべきものを狂乱にて殺した苦い思い出がある故に、己の狂気を律するために心を鎮める作法には余念がない。身に宿した理性を、二度と喪わぬ様にと努めているのだ。

 

「写経、座禅の体験もしていると書いていたな。一つ手解きを受けるか」

 

立ち上がり、ヘラクレスは金狼寺と日本の寺の文化に礼節を以て触れる。楽園には神社どころか神のおわす土地があるが、寺院というのは意外な事に少ない故その体験は新鮮だった。仏教の本尊そのものの様な存在がいはするが、だ。

 

「スペルを自らの手で書き写す…ケイローン先生もよく仰っていたな。書くことで知り、読むことで把握し、理解する事で血肉となると」

 

力強い書式で、ヘラクレスは写経を経験する。敬い、書き写す事により大願を成す。それは敵を倒す為の鍛錬だけではない、己を鍛えるもう一つの道と理解を彼は示した。大賢者の見識は今にも通ずるものと知り一人感嘆を示していたのは内緒である。

 

「魔…戒、貴…士…写経の中にこの単語をよく見るな」

 

聖杯の知識にて日本語はよく知っているが、その中でも聞き慣れない単語をよく見る。魔を戒める者…楽園にて休暇を過ごしている、黄金の騎士と似ているが、偶然だろうか。そんな事を考えながら、ヘラクレスは立ち上がり写経を納め座禅へと向かう。新緑の自然と、絢爛なる黄金の調和は忘れられないだろう。四季により春の桃、秋の紅葉と姿を変えるのだろうか。

 

「皆と何度でも来たいものだな」

 

本心より呟き、座禅の体験を行うヘラクレス。当日参加ありの無料という、実に初心者に優しい体験会を開いてくれていたため、正しい作法を学びつつ己を見つめ直す刻に耽る。

 

(思えば私の人生は、平穏や安寧とは程遠いものだった…。神々の祝福と呪いに満ち溢れた、不撓不屈の境地が無くば、堪えられなかっただろう)

 

家族を殺し、十二の試練を越え、妻に殺され、神に至り。そんな自分の人生を振り返り、あまりにも今のような静寂とは無縁であった事実を一人想う。

 

(二度目の生にてそれを得るとはなんと皮肉な。しかし、だからこそ…リッカには私の二の轍を踏まぬように教え、諌めていかねば)

 

華々しい英雄の道と、陰惨なる没落の道は同じものだ。アルゴーの船長であった友がそうであったように、ヘラの栄光が堕したように。英雄である以上破滅と没落は避けられない。

 

(強くなるのは良い、誉れを得るのは良い。だがリッカよ、今ある平穏の中にお前の居場所があることだけは忘れるな…)

 

彼女には普通の生活がある。華やかなれど人としての幸福も有している。それを無くし、見失う事の無いように願うヘラクレス。武人の極地である彼の座禅は、それ自体が彫刻の様に美しい。

 

(強さは人を救うが己は救わぬ。己を救うは絆と心だ。強さに囚われてはならんぞ、私の様な末路は迎えてくれるな。願わくば…)

 

願わくば、床にて。愛する者に囲まれ安らかに天に昇る結末であれ。世界を救った褒美が彼女にあるとするならば、まず前提に彼女の生と死に穏やかなるものがあらんことを。そう願い、目を開こうとしたその時…

 

(…そう言えばリッカは死後どこへ向かうのだろうか)

 

魂の行末を案じてしまい、思考が湧き立つヘラクレス。彼女の魂の引取先はあまりにも多い。

 

(アルテミス神の導きで星に?神殿の巫女となるのか?エレシュキガルの冥界という誘いも確かあったな。地獄の獄卒という話も聞いた。やはり高天ヶ原だろうか。しかし彼女程の勇士をワルキューレ達が放って置くだろうか。いやグドーシ殿と共に涅槃に至るのが一番グランドルートみがあって好きだないや私の好みはどうでもよく)

 

澄み切っていた思考が雑念で埋まり、やがて集中は途切れる。大人気だな彼女の魂…でもギリシャだけはあんまりお勧めできないぞ女性の尊厳が塵屑だから…などと考えながら目を開き立ち上がろうとしたその時。

 

「■■■!!?」

 

ヒュドラの毒ばりに痺れを感じ倒れ伏すヘラクレス。毒や痺れの類かと身体を起こさんとするが、事は単純である。

 

「脚が、痺れたか…」

 

日本故、いや雑念ゆえのダメージ。修行が足りんなと一人苦笑し、大英雄は畳に伸びるのであった──。

 

 




ヘラクレス「偉い目にあった…あれほど隙を晒したのはアルゴノーツ以来か。平和な世で良かった」

(さて、次は本尊を拝見しよう。本堂にあるか…?)

住職「もし、異国の御方。少しよろしいですかな?」

ヘラクレス「おや、僧侶殿にあらせられるか。私に何か?」

住職「参拝を拝見致しておりました。実に礼節に満ちた厳かな振る舞い…住職ながら感服致しました。ご間違いでなければ…藤丸立香さんの縁者ですかな?」

ヘラクレス「!…師に、当たります」

「やはり…やはり彼女は今も世のため人のために徳を積んでいるのですな。彼女は金狼寺にてよく禅をしていたのです。その折に、縁が生まれましてございます。時に貴方様は高名な戦士と見受けますが如何に?」

ヘラクレス「武術の心得は、いくらか」

住職「ますます結構。あなたに、お見せしたい物がございます」

ヘラクレス「見せたいもの?」

住職「えぇ。我が寺の本尊、かつての金狼の魂が宿った、御仏の鎧にてございます」

住職はヘラクレスに告げる。その本尊は、再び吼える日を待っていると。その導きを信じ、ヘラクレスは住職の背中を追うのであった──。

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