人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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住職の声「この空間は、かの金狼が封じた邪心、邪念の吹き溜まり。祓いきれず封じたもの。──どうか、かの二人が果たせなかった御祓を、お果たしください」

イアソン「なんで俺も巻き込まれるんだぁ!?」

「お前が起動させたからだろう…しかし、果たせなかったとは。力及ばずとは考えにくいが…」

住職「悪徳は消してはならぬものです。ですが最早善の育はなり、邪悪の済む世界はあらず。在るべき場所に還して差し上げてほしい」

ヘラクレス「──承った。此処に、金狼の咆哮を轟かせてみせよう。そして、リッカの故郷の負の遺産を断つ」

イアソン「やっぱお前、バーサーカーよりそっちの方がいいな!」

ヘラクレス「紳士だろう?」

イアソン「自分で言うなバカ!」




レンジャー・オブ・ナツクサ〜傳承・希望の光〜

(この邪気…人の心に巣食う邪念を封じ込めていたのか。消し去るのではなく、あくまで留め心の調停を崩さぬよう)

 

黒水晶より溢れ出した空間、邪念の巣窟の分析を冷静に行うヘラクレス。後ろで慌ただしく叫ぶイアソンはいつもの事なので庇い立て以外の言葉はかけない。

 

(成程、夏草の民達が善を良く育む筈だ。魔が差す、出来心、悪魔の囁きというものに無縁だったのだろう)

 

当たり前の悪心のみが残り、肥大化する悪意はなく。小さく確かな善意がゆっくりと育まれ今の夏草が生まれた。それがこの鎧と持ち主の積なのだとしたら、紛れもなく夏草の希望の名に相応しい。

 

(それにこの鎧…軽い。付けていることをともすれば忘れる程だ。肉体に勝る防具は無いと思っていたが…)

 

機動力が薄れる事を恐れ、軽鎧を愛用したヘラクレスが、これより軽い鎧は知らぬと思う程の軽量さ。全身を覆っているとは思えぬ程の身軽さに感銘すら覚える。

 

(成程、持ち主を…争いに不慣れな旅人を護るための祝福か。栄光ではなく庇護。つくづく日本の神は慈愛に満ちている)

 

「何ぼーっとしてるんだオイ!来るぞ来てるぞモヤが来るぅー!?呪われるー!!」

 

イアソンの言葉に直ぐ様マルミアドワーズを抜き放つヘラクレス。モヤは悪魔の形を取り、直ぐ様ヘラクレスの視界を埋め尽くした。多勢に無勢、まずは軽く小手調べと脱力、然る後──

 

「──ふんっ!!」

 

剛力、豪快にて精緻極まる型より放たれる無双の剣閃。鍔迫り合うどころか一合受け止められる英雄など3本の指にて足りる程の英雄最強の一撃が放たれる。

 

「ぬ!?」

 

しかし、その一撃に最も驚愕せしは他ならぬヘラクレスだ。彼は軽い一撃、間合いを図る程度の一撃を放ったのみ。しかし恐るべき事に、『たった一撃で眼前の敵が斬滅された』のである。それは、鎧に宿る金狼の祝福であった。

 

「な、なんだ今の!?金色の爪やら何やらが剣の軌跡になってバラバラにしやがったぞ!?」

 

そう、金色の爪牙が一閃により具現化され、間合いは勿論踏み込みの距離にいた敵を全て引き裂いたのだ。剣の一撃と、明確に意思持つ金狼の斬撃。ヘラクレスの斬撃は一度に九撃襲いかかるため、敵対者は金狼の追撃を合わせ合計十を超えた剣閃に晒されたのだ。そして、間合いはヘラクレスの踏み込み十歩分。白兵戦の概念を覆す程の斬烈に、大英雄すら打ち震えた。

 

「これならヒュドラの百首すら剣のみで事足りよう…!いや、それよりもこれは…」

 

(…剣技に馴染むまで、旅人を護らんとする金狼の気概か。持ち主を呪う刀剣武具に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい、天晴な人智礼節…心から、持ち主を好いておったのだな。そして、主もまた)

 

鎧は持ち主を護り、爪牙にて共に在る。これほど人に寄り添う武具は生涯見たことが無いと言っていい程だ。剣を振るえば感じる、金狼の脈動。旅人は、この魂に勇気を貰い悪鬼羅刹に立ち向かっていたのだ。

 

(ネメアの獅子を締め殺し、亡骸を奪った私には恥入るばかりの高潔さだ。その魂、その絆。泥は塗らぬぞ)

 

「斬る度にボーッとするな!次だ!ウジャウジャ湧いてきやがったぞ!!」

 

言葉通り闇から出ずる邪念達。これらは夏草にて彼等が封じた邪心を唆す者達なのだろう。ヘラクレスはもっぱら怪物、魔獣退治の畑。霊魂を相手取る経験は意外に少ない。しかし、理性併せ持つ大英雄を真正面から下せる相手など、この世に一人しか有り得ない。

 

「『斬伏す陰我(ナインライブズ)』」

 

ヘラクレスが構え、瞬時に剣を『百度』振るう。隔絶した武術により縦横無尽に飛来する剣閃と化したそれは、眼前のみならず中央上下、真後ろに至るまで全てを斬り伏せる全方位斬撃と昇華する。死角などない、金狼の爪牙と共に放たれるそれは、一秒にも満たぬ時間で『百人斬り』を果たせるほどの超絶技巧と相成るのだ。

 

「ひぃ!?うひぃ!?へへ、ヘラクレス!斬り殺すなら斬り殺すって先んじて言えぇ!」

 

最早肉片を通り越して血霧漂う惨状、残心するヘラクレスのスネを蹴るイアソン。友人があまりに化け物すぎるのは無論解っている。しかしコイツは一言忘れる癖があるよな!などと理不尽にヘラクレスに不満を垂れる。無論、親友ならではの気安さだ。

 

「斬り殺した」

「今言うな!…お前が剣で戦ってるの、いつぶりだ?」

 

「ヒュドラ以来、剣を侮っていたやもしれん。怪物は不死が基本だ。刃など痛打にならんと。──私が未熟だっただけの話だというのに」

「いやいや、謙遜も度を越すと嫌味になるんだぞ?その鎧と剣、お前だから使いこなせるんだろが」

 

「いいや。私の技量ではない。彼等の力だ」

「彼等ぁ…?…お、おい!ヘラクレス!見ろ!見ろオイ!」

 

素早くヘラクレスの背中に隠れるイアソン。黒き血霧が一点に渦巻き、逆巻く。そして新たな形を顕現させた最中、肉体はバーサーカーの時より縮んだとはいえ、185を越える偉丈夫のヘラクレスが見上げる程の巨体なる邪念の集合体が牙を剥く。

 

【■■■■■■■─────!!!】

 

「うひぃいぃいぃティターンみたいな奴が出てきたぞなんとかしろヘラクレス!早くぅ!死ぬぅ!!」

 

(巨体、かつ幻惑にて本体が見えぬ。物理的な一撃では千日手となるか。イアソンが発狂するのはまずい)

 

ならば、死ぬまで殺すのみ。そう決意したヘラクレスに応えるように、鎧がさらなる驚愕の変化を遂げる。

 

「む──!?」

 

なんと、マルミアドワーズを矢、そして中核として弓の形態を鎧がとったのだ。鎧でありながら、総てを穿つ矢ともなる。ヘラクレスはレンジャーであるためアーチャーが最適のクラスともなる。嬉しいことに、ヘラクレスの全霊にも応えたのだ。それはヘラクレスを、旅人と同じ担い手と認め歓迎しているかの様だった。

 

「ヒロインXに襲撃されても安心だ…!」

「心配するのそこかよ!?やっぱどっか天然だよな!?ていうか弓矢でけぇ!!」

 

ヘラクレスが持ちようやく地に触れない程の大強弓。無論彼にしか引けない黄金の鎧弓を、邪念の集合体に向けて引き絞る。大英雄の膂力、魔力ですら引き絞るには数秒の時を有する驚愕の剛弓。されど、その様は総てが畏怖する大神の雷霆の如くに。

 

「夏草の封じられし邪念。リッカの師として御祓仕る──!吼えろ、金狼!!」

 

【!!】

 

「『天駆る金狼(ナインライブズ)』!!───おぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

烈吼、覇気を込めた弓矢が極限まで引き絞られた瞬間。ヘラクレスの宝具が発動し、対幻想種のドラゴンホーミングレーザー九発が巨大邪念に食らい付く。刹那まで叩きつけようとしていた腕を含め、五体が即座に四散する。そして、その次の一撃こそが本命。

 

『アォオォォオォォオッ!!!』

 

マルミアドワーズが引き絞られ放たれた瞬間、その総身は巨大な金狼となりて、彗星のように心臓の部分を穿ち貫く。巨大なる邪念よりもなお巨大かつ迅速の金狼の疾走、魂を放った一撃の威力は凄まじく。展開された空間の闇を纏めて吹き飛ばし、光をもたらし降り注ぐ。

 

「す…すっげぇ…」

 

皮肉屋、捻くれ者のイアソンすら称賛しか零せぬ圧倒的なる一撃。やがて弓矢となったマルミアドワーズと鎧は、新たなる持ち主であるヘラクレスの下へと帰還する。

 

「──ガロ、か」

「あん?」

 

「この鎧に極めて似た姿となる騎士に聞いたのだ。ガロ、とは古き言葉で希望。黄金の鎧は、辛苦に惑う世界の希望。故にガロと銘があるのだと。ならば──かの金狼も、旅人も、またガロなのだろう」

 

(新たな担い手に選んでくれた事、感謝しよう。人類の為、彼女の未来の為に正しく使わせてもらう。どうか見ていてくれ)

 

何がなんだかわからねぇ、というイアソンをよそに晴れやかに空を見上げるヘラクレス。身に纏う黄金の鎧が、太陽に眩く照らされていたのだった──。

 

 

 

 

 




住職「魔戒貴士の再来かと思いました…!お見事です、ヘラクレス殿。どうか夏草の希望を、よろしくお願い致します」

ヘラクレス「何から何まで、ありがとうございました。この鎧、そしてリッカを必ずや守り抜くと誓いましょう」

イアソン「なぁなぁ、俺にはなんか無いのか?船長なんだけどさ、役立つアイテムとか!」

住職「それではこの水晶をお持ちなされ。この水晶は見る者を心の在り方のままに映すもの。あなたの性根が解ります」

イアソン「み、見たくねぇ…バケモンだったら凹むわ!」

ヘラクレス「散々人の事化け物とか言う癖にか」
イアソン「お前へは称賛のつもりで言ってるんだよ!」

住職「ははは。仲良き様でなにより。さ、寺で夏草を終えるはあまりに勿体なきこと。どうぞ、様々な場所へ脚をお運びなさい」

ヘラクレス「次はリッカを連れて参ります。とても、立派になりましたので」
イアソン「立派すぎてコイツの女体化みたいになったがな!」

住職「えぇ、心待ちにしております。どうかお気を付けて…」

ヘラクレス「敷居は踏むな。一礼しろ」
イアソン「へぇへえ。イザナミ婆さんの教室行ったから知ってるよ。ヘスティアに連れて行かれたからなー」

二人は揃って、金狼寺を後にする。その様子を、住職は見守り──

「…彼等を頼んだぞ、諌牙。立香を照らしてやってくれ。──我が半身」

かの金狼の如き力強き眼差しにて、頷くのであった──

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