無慙「……………」
市民(無慙さんが御飯を選んでいる!?)
市民(相当危ない事件を解決したのか…?)
市民(ご飯食べたんだあの人…)
無慙(どれも同じにしか見えんな…)
少女「お巡りさん」
市民「「「!」」」
無慙「む、こんにちは。迷子か?」
少女「ううん。コロッケ、美味しいよ」
「……ありがとう。なら、これにする」
(((ほっ…)))
無慙(犯罪減少推移件数全国一位か…足りん。ゼロにならねば意味があるまい)
少女「一緒に買いに行こう?」
無慙「いいだろう」
この後、子から目を離した親を探しながら、少女とモールを徘徊する警官が確認されたという──
「はー買った買った!相変わらずここの品揃えは抜群ね!来るのがめんどくさいデメリットが解消されたらもう無敵よ無敵!ショッピングモールはバイオハザードの拠点に最適だし、もう住めるわよね!住居よ住居!」
それぞれの買い物を一旦終え、テラス食堂に集合した一同。思い思いの戦利品を整理しながら、和洋中、それぞれの御飯を口にしつつ休憩している。天空海はアイドルの体形を維持する器具や化粧用具を買い込みながら、サプリメントをかっくらっている。
「うわ…先輩なんかアイドルに使う鍛錬器具しか持っていないじゃないですか。全部自分用ですか…?」
「そりゃそーよアスカ、というかアイドルの話になると全部マウントになっちゃうの嫌なんだけど、自分を甘やかすとすぐ居場所なくなっちゃうのよねぇ。一応私に憧れてくれる娘だっている訳だし…」
「あ、それはファンレターですか?」
「さっき小さい子に貰ったのよ。…ファンレターだけよ。アイドルになって良かったと思える報酬は…」
大切に大切に読み込み、返事をイラスト付きで書き上げる天空海。こう見えて彼女はファンレターは全部に目を通し、一人一人返事を返している。その為家族や小さい子に絶大なファン支持を受けているのだ、人気が無いのは男性だけである。彼女は同性には姉御肌で面倒見がよく、男性には結婚お断りなくらい我が強いのだ。
「もうアイドルの話はいいわよ!小さい子は裏切れないそれだけ!あんたらは何を買ったの?」
「夏休みも近いのでPGプラモデルを!なんとしてもコンクールで2連覇を狙います!!」
「良さげなカッターと、素材とスケッチブックを。私、怪獣作りはやっぱり辞められなくて。めざせファイブキングフルスクラッチ…!」
「自分の時間を活用できて何より!私はダメ、ものづくりとかイライラするもの。短気なのよねぇ、我慢できない性分は損だっていつも榊原先生に言われてるのになぁ〜…」
爽健美茶を飲みながら、天空海はふと思い至る。自分の時間が無いと言えば、だ。
「そういえばうたうはどこに行ったか知ってる?あの娘もほっとくと誰かの為にたあっちこっち行ってるんだからもうね。たまには休んでるわけ?」
「あー、それはちょっと…」
「いつも通りですよ!えぇ、いつも通りです!」
天空海は立ち上がる。いつも通りと言うことは…
「休めてないって事じゃない!うたう!無理してるのまたぁー!!」
憂慮し、カッ飛んで行く天空海。自分の分身たるうたうちゃんは今、何をしているのかと言えば──
〜夏草に 退屈はない…
「らっしゃいらっしゃい!新鮮な魚介おろしたて!刺し身も何も一切合切お買い得だよ!明太子も美味しいよ!今日のおかずにどうだいいかがだい!イカだけに!イカもお得!」
白い板前衣装に身を包み、魚を手に持ち客引きを行う鮮魚コーナーのうたうちゃん。彼女はモールに来た際、こうして様々なコーナーをヘルプに回っている。声量と声のトーンを聞きやすいように調整し、威勢よく張り上げている。
「うたうちゃん!ありがとうよ!パンコーナーに行ってやってくれ!ここはもう大丈夫だ!」
「了解しました!無理をなさらないで!」
素早く頷き、うたうちゃんは天井のAI専用の通路を開き、目的地へと駆け抜けていく。
「ディーヴァ、お客様の推移は?」
(今日は明太子チーズパンと、焼き立てカレーパンがセールね。客比率は140%。レジ対応で潤滑にさせるわよ!)
ディーヴァに情報を任せることが可能になったうたうちゃんはすぐさまパンコーナーのレジへと続く扉を開き、てんてこ舞いの店員をサポートする。
「レジ打ちは私が!荷物入れをお願いします!」
「ありがとううたうちゃん、助かったわ!」
素早くレジを担当し、レジに並んだ行列を捌き掃いていくうたうちゃん。正確さが求められる電子機器を担当し、真心が必要な部分をスタッフに担当してもらう。停滞していたレジを即座に解消した最中、インカムに報告が届く。
『うたうちゃん!すまないが電子機器の在庫確認をお願いできるかい?スタッフがね、お客様対応でバックヤードに行けなくて!』
「ここはもう大丈夫!ごめんね、友達と来てるんでしょう?」
「友達はもちろん大切です。ですが、夏草を支えてくださる皆様も同じくらい大切です。過労で失うわけにはいきません。──夏草の皆様を幸せにしてみせます。私の意志で。それでは!」
素早く一礼し、床の非常扉を開け通路を駆け抜けていくうたうちゃん。
「後で友達の分のパン持っていくんだよー!」
…この様に、モール全域に張り巡らされたAI専用通路を駆使し、彼女はモールのあらゆるフロアを駆け巡っていく。
「スマートフォンとテレビを繋げる、ですか?でしたらAndroidに対応したクロームキャストの方がオススメです。アプリさえあれば大画面でソーシャルゲームが楽しめますよ。設置も簡単です」
電子機器コーナーでは在庫から引っ張ってきた物品を顧客に説明しつつ、重量のある物品を駐車場に運ぶなどを行い…
『私達は、絶対に諦めない!未来と明日は、私達が掴んでみせる!』
ヒーローアトラクションあらば、女性ヒーローのアクターを行う。隔絶した運動性能は、ノンスタントでプロフェッショナルに匹敵するアクションで顧客を見せる。
『今日は夏草に来てくれてありがとう!明日の空は、希望の蒼に染まっている!』
「「「「「ありがとー!うたうちゃーん!」」」」」
『うたうちゃんではないぞ!ないからね!それでは、輝く未来でまた会おう!とうっ!』
空中3回転月面跳躍により、空中のロープに掴まり離脱する。動きが人間離れしていることから誰が入っているかなどバレバレながらも、一同は拍手喝采を惜しみなく送る。
そうしてピークの昼を乗り越えた後、うたうちゃんはAI専用休憩室で休息を取る。
(ピークは過ぎたわね。よくやったわ、これで皆にトラブルがかかる心配はなさそうよ)
「それは良かった。ディーヴァのお陰でバッテリー消費もオーバーヒートもない効率的な業務ヘルプが可能になりました。ありがとう、ディーヴァ」
今までの彼女は変わらず同じ業務を行っていたが、どれもスペックを酷使する荒業であり、何度も無茶を諌められた経験がある。特に情報処理の負担が強く、モールには暫く勤務できなかったがディーヴァの存在がそれをカバーしたため、今は想定していた自分のヘルプレベルを果たせている。その事に、彼女は喜びを感じていた。
(休みなんだからのんびりすればいいのに…誰も文句は言わないはずよ?)
「確かに…休むと言うなら機能回復に努めるべきなのでしょう。ですが、不思議なことに…本当に不思議なことに。私は、夏草の皆様と触れ合っている時が一番、自分を癒せていると感じているのです」
休憩とは、休んで憩う事と書く。羽根を伸ばす、休息を行うと様々だが…彼女にとって休憩とは、夏草の皆を支え、触れ合うことなのだと胸を張って告げる。彼女の使命は、いつの間にか彼女自身の生き甲斐にして心の安息となっていたのだと笑顔を浮かべる。
「……リッカさんは、大丈夫でしょうか」
(?)
「リッカさんは、戻ってしまいます。夏草の皆様と心は一つだと信じています。でも…寂しい気持ちを、覚えたりはしないでしょうか?」
(…長い出張だものね。そうよね、彼女は強い娘だと思ってはいるけれど)
「……探したいですね、ディーヴァ。遠く離れた地で戦う夏草の民を、支えられる方法を」
夏草の民であるならば、それは場所に関係なく大切な人間だ。リッカも例外なく、同じ夏草の民ならば。こうして自分が出来る事もあるのだと彼女は頷く。
(なら今は、観光を素晴らしいものにするよう頑張りなさい。この時間が、一生の思い出になるように)
ディーヴァの指標に頷き、うたうちゃんは立ち上がる。彼女はいつだって、自らを産み出してくれた人間の為に。
「次は公園でしたね。ワープホールの準備をしなくては」
(皆の前に顔を出しなさい?心配かけるでしょ?)
新たに生まれた自身の半身と共に、彼女は再び駆け抜ける。人の営みを支える事を、至上の喜びとして──
天空海「あ、いたいた!うたう、ほらこれ!」
うたうちゃん「天空海様。どうなさいましたか?」
天空海「どうしたもこうしたもないわよ。あなたに渡せって言われたものが沢山よ、ほら」
『感謝と御礼の品』
うたうちゃん「これは、皆様の…」
「助けてくれた御礼だって。パンとかは友達にあげて、だそうよ。それでこれが、あなたへの感謝状」
ディーヴァ(シフトで交代した皆からね。律儀な方達ね、本当に…)
天空海「無茶はしないって事、頭から抜かないこと!周りに心配かけた労働は自己満足って事忘れないようにね!」
うたうちゃん「はい。心配してくださり…ありがとうございます!是非皆様でお食べください!」
天空海「どうせなら公園で食うわよ!ついてきなさい!」
まるで姉妹の様に、肩を組んで歩んでいく天空海とうたうちゃん。それは寄り添う人とAIを表しているかのようであり、見る者に希望を抱かせる夏草の風景
昼を過ぎた夏草の一日はまだまだ続く──
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