榊原「そうだね。今日はそろそろ…」
ゆかな(パパは何をしてるかな…)
「──じゃ、教会に皆で行こうか?」
ゆかな「え?───は?」
リッカ「お困りのようですね!」
黒神「リッカ!…私を笑ってくれ。一族皆そうなんだ。こうして動物に嫌われてな…」
リッカ「私が、いや!彼女が!最後の希望です!」
黒神「彼女…?」
アマテラス『ワフ!』
〜
黒神「あぁ…、あぁ!我等が慈母…慈母よ…あぁ!!」
アマテラス『ワフ、クーン、キューン(スリスリ)』
黒神「あぁ…ぬくい、ぬくいぞぉ…!!ありがとうリッカ、ありがとう…!!」
リッカ(やはりあまこー、あまこーこそはすべてをポアっとする…ありがとうね、あまこー!桜餅、いっぱい作ってもらおうね!)
アマテラス『ワフ!』
この後ずっとずっとモフモフした。
「へぇ、アンタ邪神なんだ。生まれて始めて神様を見たよ。随分と小洒落たハンサムさんだ」
【ルックスもイケメンでしょう?まぁ金髪サングラスの狩人神父さんなんてイロモノなあなたに比べたら些末ですよ、些末。ささ、もっかい烏龍茶で乾杯】
ここは、夏草教会。良さげな名前を付けようと考えたが結局思い付かず仮称のまま放置している妙ちきりんな由来の教会であり、ゆかなが自宅としている夏草の観光スポットである。シックでモダンなバー付き、酒棚付きの私室でのんべんだらりとしているのである。ニャルの前で、仕事中なのでボトルでお茶を一気飲みしている金髪とグラサン、傷跡夥しく危険な雰囲気を醸し出す聖職衣装に身を包む神父…この人物が、ニャルと意気投合した人物である。
「まさか神様を見る日が来るとは、真面目に積んだ残りカスが役に立ったのかねぇ。まぁ、あなた様の言う限り邪神みたいなんですけどねー。まぁ引きこもる神様よりいる邪神様ってな。酌み交わせるし」
アダムスキー・レイドライバー。神父たる彼の名称はそれで通っている。流浪の聖職者であったが、彼は神というものに幻滅したと嘯く者であり、ニャルの懺悔に対し、
「大丈夫、神は赦すのがお仕事です。そのような狼藉やとんでもな逸話でも赦さなくてはならないでしょう。そういうものなのです。少なくともこの教会に来たなら私が首根っこ捕まえてでも許させますのでご安心くださいませ。あなたに良き生が待っておりますように、レーメン」
という、真面目にやってるんだかやってないんだか解らない神父態度がニャルに大受けし、こうして意気投合し今に至る。ニャルも長身だが、肌白く190を越える偉丈夫たるアダムには流石に圧倒された。白き肌に琥珀色の瞳、傷だらけの肉体はただならぬ雰囲気を放ってはいたがそれもそのはず、彼は神の名の下神罰を下す『執行者』であり、闇に生きる『狩人』でもあるのだという。そうして神の名の下に生きることに嫌気が差し、自分なりに救いを求めている相手の話を聴く教会を構え悠々自適に過ごしているというのが彼のパーソナリティだ。エキドナは教会に散歩にでかけたため、二人でこうして管を巻いている。
「夜の異変、あなた方が解決してくださったんだねぇ。まぁ無慙くんがスルーしてるから悪い奴等じゃ無いんだって事は解ってたけどさ。邪神名乗る方がこんなにフレンドリーじゃ何信じていいか解らんな!フッハハハハハ!」
アダムは神父であるが、神に殉ずる姿勢はいまいち見えない。かけている神の子の磔十字架も赤錆びている程だ。だがしかし、ニャルは彼を信頼できる根拠がある。
【ゆかなちゃんを育てたの、あなたなんですな。奇しくも私と、真逆のパターンで】
「あぁ。現代はマジモンの聖女がいていい時代じゃないからな。そうしないと、悪性の坩堝で食い潰されるのがオチだった。だからこそ、オレが彼女を囲って聖職者のガワを活用しているワケですよ」
ゴツいブーツを机に投げ出し、タバコ…は業務中なのでチュッパチャップスを咥えアダムはボヤく。彼女と出逢った頃を思い出しながら、キリキリと回るプロペラインテリアを見つめ…
〜
アダムスキー・レイドライバーは敬虔な神の意志の執行者であった。彼は神の意志に従順で、従わぬ異教徒に冷徹であった。
神の教えを、教義を順守しそれに違わぬ者を浄化した。浄化、という名の虐殺である。従うものを洗礼した。洗礼、という名の洗脳である。
『神に従え、従わぬなら死ね』
そのシンプルな教義を体現した、真の聖職者であった。彼は神の剣として、信仰礼讃の対象にすらなった。
しかし彼は、信仰を深める巡礼で世界各地を巡り、ある事実を目の当たりにする。救われない命、争う人間たち。神どころか天使すら、人の愚かさを糺そうと現れない。
『飢えている人間に、教えを問うて満たされよと言うのか』
『争う人間を裁く神威はいつ現れるのか』
『そもそも、何故──人はこうも争うのだ?』
その疑問は、生来の信心深さにより疑問に変わり問い続けた。神は何故こうも荒廃する世界に現れないのか。人の愚かさを何故、導こうとしない?そもそも、人を何故こんな風にデザインしたのか?
解らない、解らない。修行が足りない。信仰心が足りない。初心に帰ろうと、彼は自身の所属していた組織へと舞い戻り──。
『───オイ、なんで』
神の教えの定義の下、派閥争いを起こした信徒達の紛争、殺し合いにて滅びた、神の身許を垣間見た。
共に神の教えを護ろうと誓った友が、神の許に至ることを心待ちに生きていた師が。教えを違えた笑い合った隣人達が。血溜まりの中で死んでいる光景を目の当たりにした。
『こんなバカな話があるかよ?彼等は、皆はアンタの為に生きてきたんだぜ?アンタの為に、アンタの教えを大切にって生きてきたんだよ。それが…』
それが、教えの解釈を捉え違えただけでこのザマだ。どちらが本当に神の使者足り得るのかで、夥しい数の血が流れた。彼等の魂は、神の身許へ行ったのだろうか?
『止めなかったのかい?それとも──『どっちも大事だったから』、持っていったってのか?』
自分の為に殺し合う様を、自分をより深く愛しているのはどちらかを高いところから見て、それでいて纏めて総取りしたのか。どちらも神の身許へ。それが慈悲深い事だとでも?
『───これが、あなたの望んだことなのかい。我等が主よ』
…寄り添い、神の良き隣人であろうと笑い合った兄妹が、ナイフで互いを刺殺している様を見て、アダムは理解した。
『それなら──もうアンタの靴は舐められねぇな。クソッタレ』
彼は純白のローブで子供を包み、家族だった者達を埋葬し──一人、表舞台から姿を消した。
〜
「そんで、手あたり次第に神の眷属やら悪魔やらを酒代に狩りまくって、狩りまくって…気が付いたら、夏草のゴミ捨て場にブッ倒れてた訳だ。何年前かの話だな」
【メガテンシリーズのロウ陣営みたいな殉教者だったんですな…】
トンでるよなー、あのゲーム。オレもよくやるわ。そんな茶化しを入れながら、続きを語るアダム。
「酔い潰れて、ゴミ捨て場で星を見上げてたら…ガキだったゆかなが水をくれて。大丈夫ですか、なんて声をかけてくれてな」
そして一目で理解した。彼女の身体についた傷跡やアザ…それは、他者につけられたものだと。酔を覚ましながら、彼は問うた。親はどうしたと。彼女は、保育園にいるような歳だった。
「ごほうしさせて、いただたいています」
「奉仕ぃ…?」
バカな、無償の愛をたっぷり受ける年頃だろうが。そう告げようとしたアダムに、小さかったゆかなは告げたのだ。
「だれかのために、いきていたいんです」
…これは参った、と息を呑んだ。人はまず、自分の為に誰かに尽くす。そうする事で自分を立派な人間と思えるからだ。自分も幸せになれるからだ。だが彼女は、誰かの役に立つ事しか考えておらず、そう生きたいと願っていた。
──紛れもない、聖女の素質だった。だが…だからこそ、今の彼女は痩せこけ、傷だらけだった。
「…運が無いな、君は」
「え?」
生まれる時代を間違えすぎている。信仰篤い時代なら一角の神輿になっただろうに。低俗溢れる今の世では、聖女など食い物にされるだけだ。この娘のように。
「──そうだな。救いが無い世の中なら」
誰かに、救いを求めたのが間違いだと彼は至った。少なくとも、聖女であることが間違いな世界など…
自分の手で、変えなければならないだろう。彼は立ち上がった。
「せめて、救いがある宿くらいにはなってやりたい。そんな気分になったぜ、ありがとうなお嬢ちゃん。名前は?」
「ゆかな。…わたしの、もちものにあったなまえです」
「そうか、ゆかな。それじゃ…このクソッタレな世界の光になろうや」
こうして、ゆかなの身許を引き受け、夏草に彼は教会を立てゆかなの義理の親となった。──自分に降り立った、最後の救いを護るために。
──これが、夏草の神父アダムと彼の立てた教会のルーツ。信仰を見失った彼が信じた光の始まりである。
ニャル【彼女物凄い魔女ムーブしてるんですがそれは…】
アダム「ケッサクだろう?素顔は、そんなお前でも好きになってくれた男にだけみせろと言ってある。彼女は根がとことん素直でな。オレの言いつけと、誰かの悩みを聴くときにはどうしても素が出る。いつもあんなんじゃ悪い虫に食われるからな。処世術と護身術だよ。今じゃ坊主も神父も豪邸に住む時代、清楚は丘で死んだのさ」
ニャル【愛していますか?血の繋がりが無くとも、血縁が無くとも】
アダム「血がなんだってんだ。大事なのは愛するヤツの幸せだ、血や戸籍じゃねぇ。ゆかなの事、愛して愛して愛し抜いてやるさ」
ニャル【──この教会、来てよかったよ。本当にな】
ナイア「神父様!お父さん!リッカさん達が来ます!」
アダム「よし、仕事すっか。それじゃごゆっくり。ナイアちゃん、だっけか」
ナイア「はい!」
アダム「パパの事、好きかい?」
ナイア「はいっ!」
アダム「だとさ。あんたが愛を疑うなよな?」
ニャル【──ふふ…】
ナイア「お父さん…?」
来てよかった。型破りな神父に説かれ、邪神は人知れず貌を綻ばせた──
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