人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
おかあさん――
いかないで、いかないで、いかないで
どうして、どうして?
わたしたちは、ただ
かえりたかった、だけなのに――
「ん・・・ぅ」
ジキル宅、眠りより目覚め、ゆっくりとまぶたを上げる。
――昨日の戦闘にて使用した魔力を効率よく回復するため、『英雄姫』の姿にて睡眠を取った。男ものの寝巻きを纏う格好なため、尺が合わずぶかぶかでちょっと格好が悪いのは、誰も見ていないので目をつむる
「朝、か・・・」
時計を見れば、朝の五時を針が指している。外は薄暗く、霧に満ちてはいるものの。かすかに陽の暖かみを感じる
「っ、くぅ・・・ぅうんっ・・・」
体を大きく伸ばす。身体に異常がないか、しっかりと確かめる
魔力パスは問題なし。現界の為の魔力、滞りなく。使用した魔力、回復。いざというときの魔力備蓄、問題なし
肉体部分の損傷、問題なし。――英雄王ギルガメッシュの存在に支障はない
魔力と体力も充実している。今日の活動も問題は無さそうだ
「・・・ちょっと早く起きすぎたかな」
気配を探知してみれば、皆はまだまだ眠っているようだ。安らかな寝息が聞こえる
――いや、イビキも聞こえる。これは、モードレッドかな
「ふふっ、そういうところも型破りなんだな」
思わず笑ってしまう。本人の前では、怒られるか殺されるかだからできないけど
「――・・・」
・・・昨日の戦闘を思い返す
おかあさん、おかあさんと純粋に母を求めていた、悲しき悪霊
――カルデアで楽しく遊んでいる姿を見ていた影響か、彼女の喪失に、少なからず胸を痛めている自分がいる
ジャック・ザ・リッパー。母に堕胎され、産まれることを許されなかった子供たちの怨霊
恐れられ、畏怖され、その信仰がカタチとなった、反英雄
――自分が見なければならない、人類の負の側面が産み出した、悲しき反英雄
「――――・・・」
・・・自分が胸を痛めるのは筋違いなのだろう。いくら自分が悼んだとしても、彼女らは救われず、けして存在が消えることはない
世界に召しあげられた以上、それは人類史の記号であり、けして失われぬ輝きの一つなのだ
・・・ならば、彼女たちの安息を祈るのは否、なのか?
――違う。それは違うと断言する
意味がないならしないのでは、そこに意思や思いが介入する必要はない
有益を求めるだけならば、そこに心は必要ない
悲しみに胸を痛め、安寧を祈る。喜びに胸を高鳴らせ、感謝を祈る
心の揺らぎにて、あらゆる無益に価値をもたらすのが人間という生き物だ。自分はそう、この旅で学んだ
――だから、この胸の痛みを否定しない。哀しみを否定しない
産まれることを許されなかった者のために、出来ることはきっとあるはずだ
「――・・・よし」
フォウから受け取ったトランクを開ける。
優しい人々から受け取った服装から、一つの衣装を手に取る
「・・・自己満足でもいい。あの子達に、幾ばくかの安らぎが届くなら」
それは『シスター服』。神々に仕える者の纏う神聖な服だ
寝巻きを脱ぎ捨て、それを身に付ける
黄金の長髪、穏やかな顔立ち、すらりとした黄金比の肉体に、黒いシスター服が纏われる
その姿は、皮肉にも。仕える神すら上回る程の美貌を讃える清楚なりしシスターという形で顕れていた
「・・・無益だとしても、自己満足だとしても」
部屋の中央にて跪き、目を閉じ、祈る
――自分はかつて死に至り、こういった形で新たなる生を授かることができた
チャンスが平等にあるならば、無念と哀しみの内に沈んでいった迷える魂にだって、必ずやチャンスはあるはずだ
虚ろなる世界、自分に声をかけたような全能なる者が、もしこの世にまだいるのならば
「――彼女たちに、新たな機会を。その魂と存在に、今度こそ――」
――今度こそ、救いと祝福が与えられますように
自分は忘れない。けして忘れない
産まれることを許されなかった子供たちを、産まれることを許さなかった世界を忘れない
――そういった哀しみと苦しみを抱え、価値あるものを産み出し続ける世界を、救うために
今を、懸命に生きていこう。――それがきっと
産まれることができなかった生命への、唯一行える報いと信じて
――どうか、安らかに。報われなかった、数多の魂よ
「・・・・・・」
・・・誰に言われるでもなく目を開き、ゆっくりと立ち上がる
「・・・二度寝するのも間抜けだし、掃除でもしていようかな」
たしか今日は、ジキル氏の協力者、ヴィクター・フランケンシュタインの保護に向かう、といっていた
また、霧の中の行軍になるだろう。・・・戦闘にもなる筈だ
「となると・・・そうだ!」
ポン、と手を叩く
「自分にも、出来ることはある・・・!」
そう。器は眠り、賜った『英雄姫』の姿だからこそできる事が、今の自分にはあるのだ。魂だけでは為し得ない、今の自分にならできることが
「よぉし、そうと決まれば・・・!」
早速シスター服から、誰かに仕える本格的な意匠の『メイド服』に着替える
「時間との戦いだ。急がないと・・・!」
同時に、エプロンを纏いゆっくりと部屋を出る
――戦いに旅立つ仲間たちに、精一杯の支援を為すために
「おはよ~」
目を擦りながら部屋に現れるリッカ
「おはようございます、先輩!」
「おはよう、マシュ。元気いい・・・ほわっ!?」
リッカの、いや、全員の鼻をくすぐる、極上の匂い
「起きたか!おせぇぞリッカ!飯だ飯飯!」
ガンガンと机を蹴るモードレッド
「ミートパイにローストビーフだ!こいつはご機嫌だぜ!」
「うそ!?」
「本当です!いつの間にか皆の分が作られてました!『お代わりも大量にある。仲良く食べるがよい』と!」
「ギルが作ったの!?」
「あの英雄王と名乗る男性だね?一口食べてみたけど・・・三ツ星シェフを遥かに上回る出来映えだった。食べた瞬間クラリときちゃったからね」
「オレはさっきつまみ食いしちまったけどな!これがもううめぇのなんのって!あ、父上には内緒な」
「本当に!?あれ、ギルは?」
「二度寝するとの事です。出立する際には起こしてほしいと。ご飯は先に食っておけ、と」
「そうなんだ・・・解った!じゃあ、お言葉に甘えちゃおっか!」
「おうおう!さぁ席につけ!いただこうぜ!」
「だからそこは、僕のソファ・・・」
「かてー事いうなって。その分働いてやっからさ!さ、手を合わせな!せーの!」
「「「「いただきまーす!!」」」」
・・・隣の部屋から、食事と団欒の音が聞こえてくる
腹が減ってはなんとやら。部員ネットでおすすめされた料理を調べ、即興で作ってみたのだ
ローストビーフに、ミートパイ。調べながら作ったので、出来映えは不安だったけど。気に入ってもらえたなら・・・頑張った甲斐はあったとおもう
「・・・皆、頑張って。自分に出来ることは、こんな細やかな事しかないけど・・・」
・・・身体を使わせてくれた英雄王に、限りない感謝を
どうか皆が、無事に笑顔を浮かべられ続ける旅路でありますように
・・・そろそろ、出立の時間だ
『姫』の時間は終わり、『王』の出立が始まる
――さぁ、行こう
「――彼女達を、護るために」
――無銘の魂は、決意を新たにしたのであった
「?」
『ローストビーフとミートパイ』
「どうしたのかしら?ジャック」
「これ・・・」
『仲良く食べるがよい AUO』
「おーさまからだ!わぁい!」
「良かったのだわジャック!優しい王様からの贈り物ね!」
「いっしょにたべよう、ナーサリー。きっと美味しいよ」
「えぇ!とびきりの紅茶を一緒にね!」
「あ、じゃあもうひとり」
「ぼく、も?いいの?」
「うん、アステリオスも」
「皆で皆で!楽しいのだわ!」
「うん!じゃ、じゃあ・・・」
「「「いただきまーす!」」」
――例え、自己満足であったとしても
幼き魂に、溢れんばかりの祝福がありますように――