人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ベリル「おいおい、こんな立派な衣装に武器…貰っていいのかい?」

『狩人の服』『仕込み武器』『隠し武器』

ニャル【カルデアでお前が立ち回る役割りに沿って私が仕立てた武装と服装だ。気にするな、どうせ獣のお古だからな】

ベリル「ありがたいねぇ…これで思い切り働けるって訳だ」

ニャル【その前に、やらなきゃならんケジメがあるんだろう?アーネンエルベに連絡をつけておいた。そこでまず旧友と再会するといい。お前の目当ては、後で声をかけ呼び出す。先に行っていろ】

ベリル「何から何まで、すまないね旦那。…じゃ、行ってくるぜ」

【あぁ。私は味方だからな。……さて】

(後は、必ず彼女がやってくれる。頼んだぞ、リッカちゃん)

【もしもし、リッカちゃん?里帰り中にごめんね。見つけたよ、あぁ、そうだ──マシュちゃんの指を折ったクソ野郎を、アーネンエルベに呼びつけてあるからね──】



リッカ討伐クエスト〜邂逅〜

「おーい、こっちだ。久しぶりだなぁ、Aチームの愛しき野郎共よ!」

 

ベリルの宣っていた『やるべき事』。それを果たすためにニャルが示した場所…そう、不思議な喫茶店アーネンエルベにて人狼は声を上げる。親しげに、気さくに声をかけた先には、彼が見知った…そして最早懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

「やぁベリル!随分と久しぶりじゃないか!長い間音信不通で心配したよ、生きていて良かった!」

 

「まぁ、アンタ程のヤツが寝首を掻かれるヘマはしない事くらい周知の事実だよ。久しぶり、ベリル」

 

「随分と、混ぜ込んだな」

 

朗らかかつ快活に振る舞う元Aチームのリーダー、キリシュタリア。かつての卑屈さ、陰気さが見る影もない精悍な男の顔つきを見せるカドック。ゴッホ手作りのペンダントを首からかけ本質を見抜くデイビッド。それらが全て、見違えるような力と気配を漂わせている事実にベリルは身震いする。『仕事』をする日が来ない事を、祈るばかりに。

 

「いい暮らししてたんだなぁ、お前ら。何はともあれ久しぶりなのは変わらないよな。皆の頼れる兄貴分、ベリル様がようやく帰ってこれたってヤツだぜ!さぁさぁ、オレの奢りだ。好きなモン頼んで昔話に花を咲かせようぜ。ペペロンチーノはどうした?」

 

「女子会だ」

 

「ハッハッハッ、ほんとアイツは自由に生きてんなぁ!」

 

「それでは遠慮なく。ウェイター!ここからここまで全部!あとタッパーをいただきたい!」

 

「家庭的になったなお前!?」

 

そして始まった、男達の和やかな同窓会。フレンチやコーヒーなど、それぞれが好む嗜好品を口にしながら、近況や世間話を行い、昔話にも今の話にも花を咲かせる。

 

「カドック、見違えたぜ…!お前さんがシャッキリ背筋を伸ばして歩けるようになるとはなぁ。やっぱアレか、恋か?」

 

「そう、かもな。とにかく、無様を見せられない相手が出来たのは確かだ。変わったと言えば、デイビッドやキリシュタリアの方が凄いからな?」

 

「見たまえ!このギリシャ彫刻の様な肉体美!!(上着瞬間脱衣)」

 

「ゴッホと共に、一日中絵を描いている。ヒマワリが上手くなったと自負している」

 

「おぉお…カルデアに再招集されてから上手くやってるみたいじゃないの。お兄さん嬉しいぜぇ。オレはちょっと、とある輩に命を狙われて捕まっててな…」

 

「ははは、面白い事を言う。裏方請負人の君を狙える者なんてそれこそオルガマリーかカルデア以外にいるものか。私は君を高く評価しているからね!」

 

(カルデア発の相手なんだよなぁ…キリシュタリアのヤツ、相変わらず面白おかしく真実を口にしやがる)

 

「お前も、何か決意を懐いているように思えるが。その身体に秘めたるもの、並ならぬと見た」

 

「お前も、ホントの事しか言わないのはいつも通りだねぇデイビッド。…まぁ、隠すほどでもないんだがな」

 

ベリルは向き直り、笑みを消し静かに告げる。それは、此度設けた舞台の動機にして、本懐の意義。

 

「噂に聞く、グランドマスター…その中核にいるマシュの現マスター。藤丸立香とかいったか。そいつに、勝負を挑みたい」

 

「「「!」」」

 

一同が強い意志を秘めたそれぞれの目線を送る。激励、正気を疑う眼差し、そして…思慮の目線。

 

「確かお前は、マシュに惚れていた筈だ。…マシュを懸けての、戦いか」

 

「どこまで鋭いんだよ、お前さんは!…まぁ、今更取り戻したいとも、奪いたいとも考えちゃいない。もうオレの入る余地なんて無いのはよく解ってる筈だろ。あんたらはオレより近くでマシュ達を見てきただろうからな」

 

「その通りだ、ベリル。ならばお前の目的は…」

 

「そんなに難しい話じゃないさ。男として…完全に踏ん切りとケジメを付けるための時間を用意したい、ってだけの話なんだよ、コイツはな」

 

ベリルの言葉に、嘘はなかった。今更、マシュに対するどうこうを行うつもりはないし、今更恨み節をぶつける道理も筋合いもない。理屈が通っているのは、他ならぬ当人の中だけ。そんな戦いを、彼は藤丸立香…即ち、リッカへと挑もうと言うのである。

 

「ふむ…我々の使命を引き継ぎ世界を救うために奮闘した彼女への侮辱や、或いは彼女の功績を阻まんとする言動であるならば、君を始末する事も考えて此処に足を運んでいたのだが…」

 

「そこまでかい。そこまで…あんたは彼女に入れ込んでるのかい」

 

同時にベリルは嬉しく思った。その、魔術師ならではの感性が残っていることに。

 

(相変わらず容赦無いな、キリシュタリア。お前さんはよ…だが変わってないぜ。必要ならいくらでも非情になる。陽気になっても鋭さは失われていない、って事か)

 

「私の記憶が正しければ、君は確かマシュにアプローチをかけてロマンにぶん殴られていた筈だね?その返答を貰うにはマシュは確かに無垢に過ぎた。男として生殺しの状態が続いているのは辛いだろう。それに納得はできる。だが…」

 

「…知っているかどうかは分からないけれど、もうマシュはアンタの知っているマシュじゃないぞ。なんというか、こう…元気になったんだ。もの凄く、元気になったんだ」

 

カドックの言葉に頷くベリル。それらは最早完璧に把握している。リッカとの旅で、マシュは逞しくなった。なりすぎた。もう無垢であり、種であるマシュはもういない。藤丸リッカという存在を受け、彼女は自分だけの大輪の花を咲かせたのだ。

 

「あぁ、解ってる。とどのつまりコイツは負け犬の遠吠えに過ぎないんだよカドック。今のお前には解らない…どうしようも出来なかった、惨めな男のな」

 

そもそもベリルはリッカを恨む理由は無い。マシュが挑まなければならなかった危険な旅路。それを乗り越えさせたのはやはりリッカが運命のマスターだったからだろう。Aチームだけでは、彼女を真っ当な人間として扱っていたかどうか怪しかった。彼女を人間にしてくれたという意味では、ベリルも彼女に感謝している。

 

「だが、ハッキリさせなくてはならないんだろう。恋慕を懐いた男として、お前は惚れた女を奪われた形になる。元々お前のものではないが、感情は理屈ではない。己の納得が最優先だ」

 

デイビッドの言葉通り、これはもう理屈や論理がどうこうではない。これから自身はカルデアで活動を再開する。その際、余計な蟠りや諍いで足並みを崩さないため、土壇場で背中を刺さない為の大切なケジメの儀式なのだ。

 

「相変わらず物言いがキツくてストレートだぜデイビッド。だが大体その通りだ。オレは改めて仲間を名乗る為にも…この気持ちを宙ぶらりんには出来ないのさ」

 

だからこそ、この場を設けた。皆と語り合い、リッカに懐く複雑な胸中を語り、そして自身のケジメをつける。それこそ、ベリルが皆と後腐れなく合流し、これからやっていく為に必要な心の踏ん切り。

 

「改めて、よろしく頼むぜ。コイツに決着をつけちまったらもう後腐れは無しだ。オレはオレにしかやれないやり方で、カルデアに貢献させてもらうからよ」

 

差し出す右手に、三人が代わる代わる握手を行う。騙す理由もなく、そもそも騙して不意打ち出来るほど今の彼等は甘くない。それくらいは、ベリルにも感じ取れた。

 

「元々裏切り者や脱退者の処分担当だったものね。だが、今のカルデアにそんな仕事は無いだろうから…ガーデニングなんてどうかな?」

 

「骨は拾おう。安心して玉砕してこい」

 

「僕から言える事は一つだ。……一般人、だなんて甘い見通しは捨てた方がいい。死ぬ事になるからな」

 

「おいおい、随分と脅かすじゃねぇか」

 

そう言えば、リッカの情報を邪神はほとんど話さなかった。今彼女は──単なる一般参加だった彼女はどんな成長を遂げたのだろうか?ふと、ベリルが思った時…

 

「皆、お待たせ」

 

──静かで落ち着いた声音が、アーネンエルベの内部に響き渡った。

 

 




キリシュタリア「リッカ!来たんだね!」

リッカ「うん。呼ばれたからね」

ベリル(アイツが…藤丸リッカ…)

カドック「…リッカ、やりすぎないでくれよ。ベリルはこれから、仲間としてやっていく相手でもあるから…」

デイビッド「殺しはするな。ただ、納得するまで躊躇うな」

リッカ「うん、カドック。デイビッド。ありがとね」

ベリル「──はじめましてだな、後輩」

リッカ「うん、先輩。リッカです。よろしく」

二人は邂逅し、静かに左手で握手を交わした──

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