人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アーネンエルベ・地下競技場

ベリル「オレのこと、誰かから聞いたかい?」

リッカ「ロマンから」

ベリル「…そうか。なら、オレのした事も知ってるよな?」

リッカ「否定はしない。でも、許さない」

ベリル「…真っ直ぐだねぇ。許さない、許さないと来たか。じゃあ、オレも一つ」

リッカ「?」

ベリル「ありがとうな。マシュと一緒に世界を救ってくれて───なぁっ!!!」

瞬間、リッカの首筋目掛け人狼の鋭い一撃が閃く──


リッカ討伐クエスト〜魔術師級〜

「ほぉう…!一般人マスターとの話だったが、そんな武器を振り回すのかい、カルデアのマスターってのは」

 

「…!!」

 

決闘の証である対話は終わり、即座に始まる宵闇を切り裂く鍔迫り合い。音もなくベリルが振り下ろしたノコギリ鉈を、リッカの守り刀である童子切安綱が確かに受け止めた。そのまま流れるように、刃物と刃物が火花を散らし合う。

 

「悪いが手心を期待するんじゃないぜ。オレはお前の先輩ではあるが…お前はオレの間女でもあるんだからな!」

 

ベリルの軽口と、人間離れした勢いで放たれる剛力のノコギリを刀で捌きつつ、リッカはその隠されたギミックに注目する。そのスタイルは、かつてセイレムで見た戦い方に酷似していた。苛烈さ、精度は違うが、系統が似通っている。

 

(この武装…まだギミックがある)

 

「ボサッとすんな、血迷っちまうぜ後輩!!」

 

そう至った瞬間、ノコギリの刃が素早く変形し軽量かつ振るわれ易い鉈へと変貌しリズムが一変する。刀から伝わる重量が、受け止めるから受け流すに切り替わり、それらを瞬時にリッカは対応する。

 

「仕込み武器!」

「御明察…!」

 

武器自体にギミックが仕込まれた、狩人の武器。ナイアを知らなければ一撃で終わっていたであろう虚を衝く武具。人間に向けられるべきでない、血を啜った呪具。どこで手に入れたかは解らないが、どうやらベリルは本気で命を狙ってきている。それをリッカは理解する。打ち合い、しのぎ合い、跳躍と牽制、鍔迫り合いを縦横無尽に繰り返す人狼とリッカ。

 

「今更お前らの関係にどうこう言うつもりは無いさ。世界を救ったのは間違いなくお前さんだ。先輩としては鼻が高いさ、ホントだぜ?」

 

「……」

 

「だがな…それでもだ。その過程でマシュをメチャクチャにしちまった事だけは認めるわけにはいかないのさ。アイツは、アイツの色に染まるべきだった。アイツの付けたい花を、咲かせたいように咲かせるべきだった。それを──台無しにしてくれたな、後輩!」

 

突き抜けるような悪寒をリッカは感じ取り、圧し合っていた刀剣毎後ろに引き下がる。瞬間、突き出されたベリルの左腕が、黒く重々しく変化する。

 

「人の恋路を邪魔してくれたお前には受け取ってもらうぜ…馬ならぬオレの蹴りをな!」

 

瞬間、姿を見せるのは複合性タクティカルアームズ。大砲、ガトリング、ランチャーを全て有した左手の隠し武器。どれも必殺のサブウェポン。ベリルは躊躇わず、引き金を引く。

 

「────!!」

 

ガトリングの掃射を、射線を一秒先に見切って飛び退き壁を駆け巡る。その口径は容易く人間を引き裂き挽肉に出来る大きさと火力を持っており、未だ人間として挑み、鎧を纏わぬリッカには痛手になる掃射だ。

 

「マシュは先にオレが目を掛けてたオレの女だ。お前みたいなイモ臭い女がかっさらっていいもんじゃねぇのさ!」

 

モードが切り替えられ、ガトリングからランチャーに転換した左手から爆破と破壊に長けたランチャー弾が打ち放たれる。それもまた、当たれば人は即死するもの。

 

「人類を救った名目も、カルデアの顔の立場もくれてやるさ。だがな、オレの初恋を…オレの一目惚れを奪いやがったお前だけは許さねぇ…」

 

リッカの避ける軌道を先読みし、先んじてベリルは撃ち込む。リッカはそれを目線、呼吸、そして敵意を読み取り間一髪で読み取りかわす。

 

「お前みたいな人間に、マシュは近寄るべきじゃなかった。誰彼構わず自分色に変えちまう、色が強すぎる人間には!」

 

そしていよいよ、大砲へとモードを切り替える。ランチャーとは比べ物にならない程に威力と殺傷力を兼ね備えた──必殺の一撃。

 

「オレからマシュを寝取ったお前は受け取らなきゃならねぇのさ。このオレの──行き場のない気持ちと怒りをな!」

 

「───」

 

その言葉に対し──リッカは動きを止めた。母の刀を真っ直ぐに構え、ベリルに相対する。

 

「オレは認めねぇ。お前をマシュのパートナーとは認めねぇ。絶対にな…!マシュを好き勝手に調教しやがったお前を、殺してやりたくて仕方ねぇ!」

 

「………」

 

リッカはその気概に構えで応えた。御託ではなく、意を示せ。自分が気に食わないなら、力付くで消し去ってみろと。

 

「マシュの後ろでイキってるようなヤツがアイツのベストパートナーみたいな顔してるんじゃぁねぇぜ、クソッタレが───!!」

 

躊躇いなく、ベリルは引き金を引く。人間に振るわれるべきではない、獣狩の大口径大砲が打ち放たれる。…ベリル自身の遣る瀬無さや行き場のない気持ちを込めた砲弾は、リッカに着弾し紅蓮の大輪の花を咲かせる。ベリルの一撃を、リッカはかわさなかった。

 

「思い知ったか、クソアマ。お前なんぞ認めねぇよ…マシュは、マシュはオレの…」

(あー…みっともねえ…)

 

…ベリルは、自身が溜め込んでいた気持ちが想像以上に澱んでいた事に辟易する。マシュの背後で粋がっているようなヤツだったなら、サーヴァントの護りが無いあの不意打ちで死んでいるし、こんな魔術師同士の戦いになどなろう筈もない。

 

(いい女じゃねぇか。マシュのパートナー…)

 

サーヴァントも、仲間も呼ばない。女々しい負け惜しみも、理不尽な八つ当たりもこうして受け止めてくれた。間違い無く、マシュにただ護られていただけの女じゃない。間違いなく、『マシュが尊敬した女』であることは理解できた。把握できた。

 

(罵倒は嘘で、気持ちはホントだぜ後輩。さぁ、このままクソッタレな先輩に言われるがままかい?)

 

今度はお前の番だ。マシュの事を後から女々しく喚く男をだまらせてみろ。お前の一年の旅の成果を見せてみろ。そうベリルは、立ち上る爆炎を見据え──

 

「!!かっ、がっ────!?」

 

その爆炎から、放たれた蒼白き閃光に喉を貫かれた。声帯と頸動脈を狙った──魔力弓矢の一撃2連。余りに速い一閃に、成すすべなく直撃するベリル。

 

「────色々と言いたい事はあるけれど」

 

爆炎から、一歩を踏み締める人影が悠然と現れる。鎧を纏わぬ姿の、ほんの少し煤けたリッカが地面を踏み砕く気迫を漲らせながらベリルの前に現れる。右手には刀剣を、左腕は肩から指先にかけて黒く染まり黄金の弓矢を装着し、槍を構えている。金色の眼光を湛える快活な顔立ちは、決意と気迫に染まっている。

 

「て、め、ぐぉ────!」

 

肺と鳩尾、人体の急所に着実に弓矢が放たれる。矢を番えるどころか構えてもいない。弓が独りでに矢を放っているのだ。リッカを護る為に、自動で外敵を排除しようとしているのだ。

 

(砲弾を、斬りやがったのか…なんてバケモンだよ、コイツは…!)

 

そう、リッカは雷位を所有している。後の先、つまり見てからの対応が真骨頂。放たれる飛び道具など瞬時に斬って捨てる絶技を持つ彼女に、構えてから撃つ工程を行う銃撃などなんの脅威ですら無い。オルガマリーの嵐のような弾幕、幻想郷の洗練された美しさの弾幕を知れば、尚の事。迫る鉄の塊など、テレフォンパンチに等しい。

 

「ぐっ───ぐぉあぁあっ──!!」

 

それでも、苦し紛れに放とうと持ち上げた左腕を──リッカは返す刀で踏み込み、切り落とした。肩に童子切安綱を滑り込ませ、断面から血が吹き出ぬ程に鮮やかな一閃で斬り飛ばしたのだ。

 

「ぐぉお、う、腕がっ──この野郎ッ──!」

 

「───!!」

 

鉈を振るう右腕の一撃をリッカは鋭く受け止め、刀を絡み付け弾き飛ばして除ける。母から受け継いだ武あらば、リッカの刀届く範囲に敵なぞいない。

 

「何っ!?うぐあぁあぁあぁ!!」

 

そのまま、流れるようにリッカはベリルの右腕を斬り飛ばした。腕がなければ武具も振るえない。当然の帰結。両腕を喪い、無防備になったベリルの胸目掛け──

 

「おぉおぉっ─────!!!」

 

天沼矛を、リッカの魔力でコーティングした黒槍で串刺しにし、地面に縫い付けベリルを突き刺す。それらを防ぐ手立てはベリルには無い。腕もなく、致命傷を刻まれたからだ。血反吐を吐く、狩られる立場となった人狼。

 

「げふぁ、っ──かっ──」

 

「一つだけ言わせてもらうなら」

 

その様子を静かに見下ろすリッカ。いつも浮かべている人懐こい笑顔や、快活な表情は消え失せており、能面のように冷え切った面持ちでベリルに告げる。

 

「あなたのマシュじゃないよ。マシュの全部は、マシュ自身のものだから」

 

その物言いは、煮え滾る怒りと冷え切った頭から弾き出された龍の息吹が如く、静かで有無を言わさず。

 

「──ふっ、へへ…はっきり、言うじゃあないか…」

 

──逆鱗に触れてしまっていた。何故かそんな感慨を懐きながら、ベリルは串刺しにされ力無く笑うのだった──




リッカ「気は済んだ?」

ベリル「───いいや、まだだぜ。マシュへの想いが、こんなもんだと思われちゃ困るなぁ、後輩」

瞬間、ベリルの切り落とされた腕があった部位から新たな腕──否『翼』が生え出る。その巨大さは、リッカをすっぽり覆う程に巨大だ。

リッカ「!」

ベリル「どうやら人間として、魔術師としてじゃお前には勝てないみたいだな。ならこっからは──」

瞬間、ベリルの身体も変化する。人間のシルエットから、羽毛が、翼爪が、鱗が備わる異形の怪物へと──

ベリル・グリフォン『バケモンとしてやらせてもらうぜ。さぁ──バケモン同士存分に殺し合おうや、後輩!!』

リッカ「────良かった」

ベリルの言葉に、リッカは笑みを浮かべる。そうだ、これで終わっては困るのだ。

「あの日受けたマシュの怖さと痛さは──あんな程度で晴らせるもんかっ!!」

あんなものでは怒り足りない。返し足りない。かつて受けたマシュの哀しみと痛みを、腕二本や致命傷程度で償ったと思われては困る。

【自分勝手な愛情の報い、思い知らせてやる!ベリル・ガット───!!!】

リッカも満を持して【黒龍】の鎧を纏い、正しき怒りに身を焦がす。互いの理解はまだ、幕を開けたばかり─!

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