人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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前回までのあらすじ

夏草でゆかなの教会に訪れた一行。懺悔を終えた際にルルは聖女のようなゆかなを見てしまう。

父と談笑する彼女、それが本当の彼女である事を理解できぬほど彼は鈍感では無かった。スザクとの盟約がある中、彼は魔女と信じていたゆかなとのこれからに、一人温泉で思い悩む…


夏草カプセルホテル

ニャル【穴あきチーズか何かか?あの名簿、不備だらけだったぞ。部員の皆様にわざわざ手を煩わせるとは。心筋梗塞と群発頭痛と尿路結石を併発させてやろうか?】

ベリル「すまねぇ、ホントすまねぇ。事務仕事もいずれ出来るようになるから許してくれよ旦那…」

ニャル【〜。まぁ、初仕事だからな。こんなものか。いいだろう。次は不備なくやれ】

ベリル「!ありがとうよ旦那!」

【もう楽園職員だからな。不必要に痛めつけるのは止めにする】

「…必要なら?」

【──────(にっこり)】

「ひぇえ…」

【頑張ったな。そんなお前にご褒美をやろう。うまく使いこなすといい】

『皇帝&歌姫アリーナSチケット』
『迷宮挑戦権』

【楽園における刺激的なスポットだ。オルガマリーちゃんに見せるといい】

ベリル「マジかよ旦那!ありがたくいただくぜ!」

【今お前はいただいたな?きちんと使うんだぞ?】

ベリル「?─────あっ」

【いい休日になるといいな(にこにこ)】

ベリル(──い、嫌な予感しかしねぇ…)




コード・エヴォル〜煩悶のルル〜

夏草観光、教会での懺悔の締めくくりを終え、晩御飯を龍宮城にていただき明日へ備えた自由時間。休んでよし、遊んで良しな安らぎの時間。そんな夏草の穏やかな最中に…富士山と日本海を展望できる温泉の貸し切り空間にて、溜息を大きく吐く悩める男子が一人。

 

「はぁ…。俺はもしかしたら、とんでもない過ちを犯していたのかもしれない…挽回できるかも分からぬほどの大きな過ちを…」

 

御存知、誰もが知っている童帝福山縷々である。明晰な頭脳と女性への免疫の無さを併せ持つ残念なイケメン、スザクじゃない方と謳われるルルが富士山に消え行く青色吐息を吐き出していた。

 

(ゆかな…もしや俺は、お前の事を誤解しまともに理解すらしていなかったのかも知れん。もしやお前は…)

 

悩みの元は、先の教会にて見たゆかなの聖女が如き振る舞い。それらはかの魔性の女たるゆかなの猫の被った姿であったのだろうとずっと思っていたが…その姿は、立ち振舞は魔女めいた言動をするよりずっとずっと自然だったのだ。父を慕い、生きる事に感謝を告げる敬虔な神の使徒。そんな印象すら懐かせた。それはとても素晴らしく、美しい事なのだが…

 

(もしあちらが本当の表情なのだとしたら、俺は常日頃彼女にどれだけの罵詈雑言を吐いていたと言うのだ。見せかけの彼女を全てだと思い、彼女をどれだけ傷付けていたのだ)

 

自分の心のない過去よりの言動。彼女を売女、あばずれ、魔女と好き勝手に糾弾した言葉は数知れず。それらの言葉は彼女を魔女と本気で信じていたが故に、馴染みの気安さ故に告げていた事。そちらが本性であるのだから遠慮はいらぬと無遠慮に告げていたもの。だが、もし彼女が本来は心優しく、あの態度もその性格と天然さを隠すものであったとしたならば。

 

「…リッカは常に、親しき仲にも礼儀ありと言っていた。無礼千万どころの話ではないぞ。謝罪だ、誠心誠意の謝罪しかない…!」

 

無論、それほどまでに傷付けていたとあらば成すべき事は一つだ。今までの無礼で不躾な発言を謝罪し、誠心誠意謝るしかない。そうするべき、なのだが…

 

(彼女の本来の姿を見て、急に態度を変えて謝罪するなど下心を出したと捉えられてもおかしくはない。いや、確実に不誠実だ…あまりにも即物的すぎる…)

 

魔女と苛み、疎ましくすら思っていた相手にいきなり謝り頭を下げる。そこに誠意はあるのだろうか。彼女がなんの真似だと問うた時、自分はなんと答えるのだろうか。

 

(お前が実はいい奴だと分かった。改めて仲良くしてもらいたい)

 

──長い間いて、まともに見抜けんとは。男として鈍感に過ぎるな。

 

(俺はお前の聖女の面を見た。一目惚れした!)

 

──都合のいい女が好きなのか?下衆だな。

 

(お前の事を、もっと知りたくなったんだ!)

 

──今まで何を見てきたのだ?節穴め。

 

「どうにもならんっ…!!」

 

バシャン、と湯船に拳を叩きつける。意外と痛く赤くなったが痛みを気にしている暇はない。それほどまでに深刻なのだ。イマジナリゆかなはこちらを端的に断罪してくる。そしてそれは、起こりうる未来だろう。幻滅される、というやつだ。

 

(そもそも俺は何故ヤツ、いや彼女に幻滅されることを恐れているのだ…!何故本性が分かったからと動揺しているのだ…!)

 

その心の機微すら把握できず、彼女へ懐く思いすら解らず悶々とし続ける。男湯にて、チェスで詰みをかけられた時以上にうなりをあげるルル。彼の悩みは、日本の美しき夜空に人知れず溶けていく──。

 

「その悩み!僭越ながらこの僕がお力になりましょう!!」

 

夜闇を切り裂く銀の閃光が如く、高らかに叫ぶ声。ルルはその声を思い至るに容易き程聞き及んでいる。

 

「!…高橋エル!」

 

高橋エル。後輩にして天才児にして変人極まるロボットオタク。魂の色は鋼色だと言って憚らぬメカオタクであり夢は自分だけのオリジナルロボットを作ること。よりにもよって人間相手の悩みに最も不向きな人材が風呂に居合わせたとルルは失礼ながら考えてしまったものだが…

 

「ズバリ!!あなたが今抱えている悩みは恋!!愛しき者に抱える大きすぎる感情を持て余していることによる苦慮でしょう!」

 

「な────何ィ!?」

 

言い当てられた。人間同士の付き合いから発展する悩みをまさかグドーシ君ではなく後輩、しかも重度のロボットオタクに!そんな割と失礼な事を思うルルだが動揺はそれだけではない。

 

「こ、こここ鯉だと!?錦鯉がなんだというのだ!?ここは温泉だ!」

 

恋。自分には無縁だと誓った…思い込んでいたものを突き付けられ狼狽するルル。だが、エルは決して冗談や茶化しをしているわけではない。

 

「その池で口をパクパクしている鯉ではありません。

粘膜が生み出す幻想の亜種にして命を紡ぐもの!そう!アクエリオンエボルの逆!アクエリオンラブなアレの事です!あなたは今、恋で悩んでいるのです!!」

 

「な──何故だ…!まさか、まさか君にわかるのか!?愛が!人の懐くこの、俺ですら体感した事のない感情が!?」

 

まさか、彼は既に相手を見つけて愛を育んでいたのかと驚愕するも、そこは彼ならではの観念。

 

「いえ、あなたが僕がふらりと立ち寄ったプラモデル屋でベストなロボットを見つけた際にする顔と全く同じ顔をしていたので!あっという間に理解できました!」

 

「あぁ…俗に言う『メカの顔』というやつか…」

 

この後輩は美少年であり人当たりもいいのだが、その変人ぶりからアカネ以外の女子からの人気は芳しくない。そんな彼が愛を向けるといえばロボット。ロボットへの愛情を共通として見出したならばとルルは納得する。いつもしていた、そういう顔。

 

「更に僭越ながら申し上げますが、その悩みの解決策は疾風!烈風!サイバスターの如くに迅速に行動する事しか無いかと!無理を通して道理を蹴っ飛ばすのですよ、ルル先輩!」

 

そのやけに自信に満ちた物言いに、ルルは圧倒される。そして圧倒したまま、エルは捲し立てる。

 

「いいですか?人の恋愛と店頭に並んだ限定プラモデルは速いもの勝ちなのです!どれだけ先に見つけた、手に取った、頬擦りしていたと言おうと最終的に手に入れた者の所有物となるのです!先着に予約やお手付きはありません!今はいいから後で買おう、いつでも買えるから今じゃなくてもはこのバカ野郎案件なのですよ!それをして、僕がどれだけ涙を濡らしたか…!ブラックサレナを買い逃した苦しみは今でも忘れられません!いいですか、出会いは一期一会!素晴らしい出会いは二度と無いのです!隣町のプラモデル屋に行こうと、ネットサーフィンしようと!『あの日』買い逃したロボットは二度と手に入らないものなのです!ロボットでこれなのですから、人間関係ではますます取り返しがつかないのは自明の理!テッカマンブレードの身体の色の様に明白なのです!理解できますでしょうか!」

 

「あ、あぁ。てっきり君は人間関係など興味ないのかと思っていたが…」

 

「人間に興味が無いのではありません。人間よりロボットのほうが好きなだけです。そしてロボットより大切なもの!それは僕の周りを取り巻く身内にして大切な仲間達です!」

 

はっきりと告げるエル。彼はちゃんと、人を思いやれる少年なのだ。ただそのハードルがとても高いだけで。

 

「あなたが誰を思っているのかは残念ながら解りませんが、想い人がいるなら行動すべきです!一度しかない人生、幸せにするか残念にするかは全て自分次第なのです!あなたは人生を、どうしたいですか!?」

 

「…!」

 

瞬間、ルルの脳裏にスザクの言葉がよぎる。かつて自分達が出来なかった事を、やってほしいと。

 

「……そうだな。君は…間違っていない」

 

そうだとも。少なくとも、彼女は出会った頃から共にいたのだ。そんな面倒見のいい彼女と誤解したまま、すれ違ったままでいい筈がない。それはあまりにも…

 

 

──お前は本当に手間のかかる男だ。私くらいの物好きでなければ一生女日照りだろうな、ふふっ…

 

 

「…寄り添っていた彼女に、不義理というものだな」

 

彼女の本質を見て、また新たに自分なりの付き合いをしていくために。その為の一歩を踏み出してみせると彼は誓うのであった──。




エル「男の顔になりましたね!では大切な先輩に更に更に手助けをさせていただきます!僕のコネクションに、お任せあれ!それではお先に!!」

ルル「あ、おい!?」

グドーシ「おや、今凄まじい勢いで駆け抜けていったのはエル君ではありませぬか?」

ルル「は、はい。俺にも彼が何をする気なのか…」



〜混浴露天風呂

アカネ(バスタオル)「エル君遅いなー…ロボット✕特撮交流会露天風呂編やろうって勇気を出して言ったのに…すっぽかさないでよぉ〜…」

エル(バスタオル)「お待たせしました!!」

アカネ「あ、良かった来た!じゃあ始めよっか、まずはセブンガーの魅力からたっぷりと…」

エル「交流会の前に!我が同士アカネさん!お願いがあります!!」

アカネ「うぇえ!?な、何?私に出来ることでお願いします…」

エル「女性メンバーで女子会を行ってください!主に、恋バナの方面で!!」

アカネ「出来ることでお願いしろっていったでしょぉ!?」

アレクシス(仕切りの上)【『前』のアカネ君とは違って社交的だけど、恋バナはどうだろうねぇ…】

白銀の奇人が今、明後日の方向へ仲間をアシストする──!

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