人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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水上スタジアム会場

リッカ「おっきいねー!変わらないなー!」


承太郎「……妙だな」

「?何が?」

承太郎「ほぼ席が埋まっているのに対し、立ち見席がとんでもねー混みようだ。普通入場制限とかするもんじゃねーか?」

リッカ「…スタッフが対応できてない、ってこと?」

承太郎「スマホを見てみたが、トレンドが夏草シーワールドだぜ。この熱狂、まずいレベルになってるのかもしれねーな」

リッカ「…マリン館長、大丈夫かな。ちょっと様子を…」

承太郎「通路も満員だ、今更出れねーぜ」

リッカ「!…開催、できるとおもう?」

承太郎「さてな…。だが、このままだと…」

(ショーの開催どころじゃぁ、ねーかもな…)




スクランブル・ミッション!ショーを開催せよ!

「失礼します!非常事態ですね!救援に来ました!」

 

開口一番、スタッフルームに殴り込みをかけたエルの姿に、黄色の長髪に橙色の瞳の美女、マリンは瞠目する。スタッフは彼女と、既に配置されているスタッフに…

 

「あなたがうたうちゃんの言っていた救援スタッフ!?どう見ても学生だけど…」

 

「高橋エルです!僭越ながら手を貸しに来ました!状況を教えてもらえますか!?」

 

興味本位や野次馬で侵入してきたとは考えつかぬ程の真面目な剣幕で問うエルに、一瞬の迷いの後に即座にマリンは返答する。24の若さで館長を行う手腕は、まさに傑物。故にシーワールドにとっての最善を選ぶ。

 

「──早朝のショーは乗り切って、昼の水上スタジアムのホログラムスプラッシュショーが控えているの。でもそのお昼から始まるホログラマーと魚達と心を通わすスタッフが今来られないって状況なのよ!」

 

「午後には来れると計算は出ていますが、数十分後の公演には間に合いません。延期やトラブル報告は出来ても、ショー目当てで飽和状態の今、中止宣言はシーワールドの責任問題…これからの運営に多大な損害を出してしまうとデータが出てしまいます。そして誘導員の対応も従来の2倍以上の客足にて全く間に合っておらず…」

 

「状況は分かりました!少なくとも僕がなんとか出来る事は、僕がやってみせます!」

 

素早くエルは動き、うたうちゃんの手を引きパソコン前に座らせ、シーワールド端末と彼女を繋げる。

 

「うたうちゃん!ホログラム運用プログラムを解析しデータを僕に!把握解析し、スタッフの方と遜色ない様に作動させてみせます!」

 

「!」

 

「そ、そんな事が出来るの!?学生よね、君!?」

 

「僕だけでは時間が足りません!しかしここには、夏草の誇る最高の電子の隣人──」

 

そう、エルには勝算があった。解析、分析、それが自分では間に合わなくても。

 

「──エルさん。ディーヴァが解析を果たしてくれました。USBメモリはこちらに」

 

「了解!メインパソコンを借りますよ!マリン館長!」

 

瞬時にオートプログラムを組み立てる。自身のコントロール、運用は出来なくとも『うたうちゃんがスタッフとして見た記録』はこちらにある。ならばうたうちゃんとディーヴァが解析したデータを時間、順序、系列をスタッフが管理整理している様に完全に整理し、オートプログラムに遂行させれば──

 

「修正、修正、修正───!よし!出来ました!一回きりのプログラムですが、これで次の講演は無人で行える筈です!」

 

「嘘…レーザーやライトアップとか、とんでもなく複雑で難解なホログラム管理のオートが出来ちゃったの!?」

 

「僕だけでは不可能でしたとも。ですがここには、シーワールドの皆さんの頑張りを誰よりも見てきたAIがいてくれました。彼女の記憶領域に、皆様の頑張りは刻まれていました!それを元に再現は可能だったのです!」

 

マリンの驚愕と…感謝の目線にうたうちゃんは静かに頷く。彼女はこの為に夏草に寄り添ってきたのだ。人が困った際には、力になれるようにと。

 

「ショーの問題は一つクリア出来ましたが、後は動物達に指示するブリーダーと、集まりすぎてしまった人員の誘導ですね…!マリン館長、ブリーダーとしての技術は如何ほどですか!?」

 

「か、管理職の立場上餌やりや体調管理はしてるけど…流石にぶっつけ本番でショーの芸をやれるかどうかは未知数だよ!本来は何回も何回も稽古して、たった一回の大成功を手繰り寄せるものだから…!」

 

エルは深く頷く。そして感服した。彼女はプロだ。見せるものは完璧なものを。半端な腕前の付け焼き刃を振るうなどとは考えもしないその仕事の姿勢に敬意を評しながら、もたげた問題に唇を噛む。

 

(意思持つ魚介類の皆様にメカやロボットが介入する余地はありません…!万が一にも生兵法で大怪我をさせてしまえば…!)

 

先輩であるリッカであれば、意思持つ彼等と仲良くなれるのは容易いだろうが彼女はショーを楽しむ側だ。こちらに付き合わせてしまっては本末転倒となる。しかし、彼女クラスのコミュニケーション能力などそうそう持てるものではない。魚達と意思疎通は、まさに一心同体の領域だ。プロの技は簡単にコピーできるはずが無い。

 

(考えるんです。再現は出来ない、再現は出来ない、再現は…再現…再現…。──再現!)

 

「そうです!!」

 

エルはその時閃いた。再現。そう、再現だ。技術は再現出来なくても、再現できるものが確かに存在している。

 

「マリン館長!どうか僕の言う通りにイベント進行とお客様への説明をお願いできますか!?」

 

「な、何をする気なの!?」

 

「今から僕が『魚達のホログラム』を組み立てます!ホログラム投射装置を使い、縦横無尽の全周囲CGショーを展開するのです!お魚さんたちを、電子の海で泳がせます!」

 

エルの発案はいよいよ以て奇想天外の領域へと至る。再現、安全の両方を考えた結果、架空のホログラムにシーワールドの魚達を再現し、天空と海を泳がせる発案を行ったのだ。

 

「そうかぁ!CGなら技術さえあれば!でも、大丈夫なのエルくん!?ペンギンとかイルカとかアシカとか、凄く沢山いるけれど…!」

 

「やってみなければ分かりませんが、高橋エルは伊達ではありません!うたうちゃん!どうか力を貸してください!あらゆるスーパーコンピューターを凌駕するうたうちゃんの演算機能で、なんとしても間に合わせてみせます!」

 

「──わかりました。マリン館長、彼を信じてください。夏草に生きる皆様は、決して誰かを悲しませたりはしません。あなたも、お客様も、皆様も」

 

うたうちゃんの言葉に、マリンは一瞬の逡巡の後うたうちゃんに託す。館長権限の、アクセスマスターキーを。

 

「──従業員と、助けに来てくれた皆を信じるわ。うたうちゃん、エルくん!お願い!私は誘導を手伝ってくる!」

 

「「はい!」」

 

マリンの信頼に強く頷く二人。なんとしても成功させる。そう頷いた刹那──一難はまた来たる。

 

『こちらスザク!水上スタジアムへ向かう人混みの誘導係が不足し、混乱が起きています!』

 

『天空海だけど!車とかも偉い事になってるわよ館長!コミケみたいになってる!どうしよう!?』

 

「やっぱりキャパオーバー寸前か…!とりあえず館内放送で指示を出さないと!」

 

しかし放送と言えど、誘導できる場所や順序の把握が完遂できる程の効果は期待できない。拡散が拡散を呼び、過去の動員を遥か上回らんとしている今の状況はまさに飽和状態であった。

 

「くっ…!ホログラムさえ完成すればシーワールドのどこにいようとショーが見れるのに!もう少し、もう少し時間があれば…!」

 

エルは歯噛みする。電子系、工学系の限界。それらは人の流動を完全に支配はできないという現実。

 

「こうなったら館長権限として一部お客様にはお帰り願うしかないわ!怪我人やパニックになる前に行動を起こさないと!」

 

「しかし、それではシーワールドの評判や信頼が…!」

 

「信頼や評判はまた積み重ねればいいのよ。大切なのは、お客様の安全や不快な想いを最小限にするのが私達スタッフの使命だもの!」

 

「館長…!」

 

そう、最悪の事態とは誰かが怪我をし、海や魚達に苦手意識を持ってしまう事なのだ。それさえなければ、遠のいた客足はきっと取り戻せるのだから。

 

「……すみません、僕がもっと要領良ければ…!」

 

「ううん。ありがとう。せめて今見られる人の為にも──」

 

そう、館内放送を立ち上げようとした──その時だった。

 

「な、夏草の後輩はエルくんだけじゃない!いるさ!ここにもうひとりな!」

 

「えっ!?」

 

「あなたは…!」

 

「──アカネさん!?」

 

「私に考えがある!任せてください!」

 

勇気を出して追いついたアカネが、起死回生の様子で声をあげる──。




ルル(あまりにも今日は客が多い…それに対し、スタッフがあまりにも少ない。これは、大丈夫なのか…?)

ゆかな「列がまともに動かん。もう5分後には始まるのに…」

ルル(うたうちゃん、もしやこれは非常事態なのではないか…?)

一般人「う、うわぁあ!?」

一般人「怪物だぁ!?」

ルル「何!?」

怪人マスク『動くな!静かに整列しろ!』

怪人マスク『押したり、走ったり、しゃべったりしたら…』

怪人マスク『ショーを楽しむ為に、お前達にはルールを護ってもらう。護れないやつは死んでもらう…!』

ルル「怪人、だと…!?」

モニター放送【シーワールドにお越しいただいた、全てのお客様にお知らせする。今回のショーは我々、星人同盟が乗っ取らせていただいた】

ゆかな「…!?」

ボス怪人(CVアレクシス)【そちらにいる星人達の誘導に従う事をオススメするよ。そう…】

マリン『うぅ…』

魚達『『『キュイー!キュイー!』』』

【みんな大好きな、仲間たちを傷つけたくなければねぇ…】

ルル「なん、だと…!?」

シーワールドを巡るショーの開催は、果たして…。

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