エル「これが大和さんの情報処理能力…!!感服いたしました!目の当たりにできて、大変光栄ですっ!!」
大和「ありがとう。ところで、アカネちゃんは…」
アカネ「ひぃ、ひぃ、ひぃ…違うの怪獣の皆、裏切った訳じゃないんだよぉ…ヒーロー堕ちは今回だけだよぅ…」
エル「アカネさん!僕は感動しました!!ヒーローとうたうちゃんというアンドロイドロボットの合体!まさに!まさに!!」
アカネ「はいはい、興奮してるのは分かりきってるからまた後で盛り上がろ…ん?」
『ビームの言い方、いい感じだったじゃん』
「六花…」
『次はアクション、ガンバレ』
「それは多分無理ぃ!」
黄金劇場
ネロ「歌うぞ!」
エリザベート「歌うわ!」
マイクカービィ「ぽよぃ!」
ニャル【オイオイオイ】
アレクシス【死んだねぇ、私達──】
「それでは改めまして!夏草シーワールドにご来訪いただき誠にありがとうございます!私、しあるマリンと龍宮の仲間たち、そして今日だけ特別に空を泳ぐ仲間たちが皆様をうんと楽しませたいと思いますので、どうかお付き合いいただけたなら幸いです!皆、せーの!よろしくおねがいしまーす!」
『『『キュイー!キュー!』』』
マリンの挨拶に応えるように頭を下げる、イルカにアシカ、ペンギン達。調教師の練達の技術を再現はできないが、心が通い合った皆と、阿吽の呼吸により簡単な芸と抜群のコミュニケーションをこなす海の仲間たちが、挨拶を交わす。先のヒーローショーはあくまでもアドリブ。こちらこそが本番であるのだから。
「マリンちゃんはいつも健気で可愛いよなぁ…マリンちゃん目当てで通ってるぜ…」
「下手な事は考えるなよ?両親譲りの軍隊格闘術でボコボコにされるぞ?」
「仕事が忙しい父さんや母さんを支えてシーワールドを若くして懸命に運営する一人娘…ドラマの世界だよなぁ…」
(成程、ただものではないと思っていたがまさか親仕込みの戦闘力を秘めていたか…夏草に住む者なら輝く個性を有するは不思議ではないが今はこちらだ!)
ルルは目を見開く。うっとりと夢見心地なゆかなの極楽を少しでも長く続かせること。仲間達が作ってくれたこの機会を逃してはならないと気合いを入れ直す。
「皆!よろしくね!」
マリンの言葉に、イルカ達やペンギン、アザラシやオットセイ達がなんと『自分たちで考えて』芸を行っていく。玉転がし、輪くぐり、ボールトスにフラフープ。芸自体は単純なれど、自分自身の判断で動くという事実こそが驚愕すべき現象であるのは明白だ。
(生半可の絆ではできない芸当だ…だが負担や自主性の限界を考えて長くは続かないはずだ。ならば主催者として取るアプローチは一つ!)
「それじゃあ皆!この賢く優しい仲間達とうーんと近くで触れ合いたい人、手を上げてー!」
「「「「「「はーい!!はい!はい!はーい!!」」」」」」
来た…!ショー名物、参加権争奪戦。より大きく、より苛烈に、より必死に手を上げたものがあのスタジアムに降りることを許される熾烈なる争いと戦いのバトル。小学生以上の年齢の人間がやると著しき羞恥心の刺激が起こるが、そんなものルルには関係ない。
「はいぃいーっ!!はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい!!!」
ルルは力の限り挙手を連打する。スタンドの素質あればラッシュの掛け声が如き速さの連打だ。アピールの質が高校生ではない。良くも悪くも必死だ。
「あ、お、おい。そんなに必死に…」
だが、ルルは喉が張り裂けようと叫ぶのをやめないだろう。ここは、手を上げるべき局面だからだ。
(ゆかな、俺は知っているぞ。このショーにて、かのイルカやペンギン達ともっともっと近くで触れ合いたいと願っていた君の声無き願いを…!)
自分も触れ合いたい、けれど自分以外の誰かもそう思っているから。今なら解る、人の気持ちが分かりすぎるが故に自分の願いをしまい、それを愚民を嘲笑う魔女の仮面で隠していた彼女の本質を、今なら理解できる。
(自分より他人だけを優先していたら、お前が生きている人生の意味が無いだろう!このシーワールドでくらいは、なんとしても君のワガママを叶えてみせる!それが俺の、俺自身へのギアスだ!ギアスと書いて願いと読む!!)
それ故に、彼に微塵も躊躇いは無い。恥も外聞もかなぐり捨て、挙手を続ける。しかし周りの熱狂も凄まじく、自分のモヤシ的な体力と肺活量ではどうしても埋もれてしまう。
「んー、誰がいいかなー?誰にしようかなー?」
(くうっ…!!頼む!ゆかなに思い出を授けてくれ!神でもなんでもいい!彼女に笑顔の明日を届けるためにも…!!)
しかし、肺活量と呼吸がままならなくなってしまったルルは声が出なくなる。万事休すか…その時であった。
『ドル!』
「!」
突如現れしは、イルカ戦士ドルフィー。スザク扮するマスコットキャラが起き上がり、そっと耳打ちをマリンに行っている。
(スザク…?お前はいったい何を…?)
「うんうん、うんうん。…あはは、そういう事は言わないの!え、言わなくちゃだめ?…怒られちゃわないかなぁ…?じゃあ…はい!そこの──」
ドルフィーの言葉を受け、マリンが申し訳無さそうに指を指し、声をあげる。その指は──ルルを、指していた。
「なっ……」
「え、えーと。『あそこの、ガールフレンドに素敵な思い出をプレゼントしてあげたくて必死に手を上げているおっきなお友達を選んであげよう、マリンちゃん』との事なので!黒髪のあなたと緑髪のあなた!どうぞステージへよろしくおねがいしまーす!」
(スザァアァアァアク!!!お前という男はァァァ!!)
顔が真っ赤になるルル、頭が真っ白になりフリーズするゆかな。生暖かい目線が一挙に注がれる中、祝福の拍手が取って代わる。一同、二人の思い出つくり
『僕に出来るのはここまでだ…!君の手でゆかなをエスコートするんだ、任せたよ、ルル!』
(何をやりきった様なオーラ出しとるんだ戦略ひっくり返しマンめ!!突然の事過ぎて俺もゆかなも心の準備が…!)
『『『クァクァ、クァ!』』』
逃げ場を塞ぐように、ペンギン達が迎えに来てしまう。ルートは拓かれ、皆が一歩踏み出すのを待っている。拍手は止まずに巻き起こり、ルルとゆかなは意識を保つが精いっぱいな程に緊張する。
「る、ルル。ペンギンさんが待っている。覚悟を決めるときだぞ。怖いのかこわがりさんめ。当然だ、現役シスターの私にかなうもんか…」
「なななななな何を言っているこの俺がペンギンさんに怖がっているだと?冗談で日本人皆殺しにしろとギアスをかけるくらいに有り得ん展開だ。よし、よしでは行くぞゆかな。ペンギンさんの後ろに続けぇい!」
『海の仲間たちが、君達を待っているよ!』
(やかましい!!何をやりきったような雰囲気を出しとるんだお前は!)
「ルルー!ゆかなー!いっぱい楽しんでねー!」
「羨ましいよー!ふたりともー!」
リッカやロマニにまで勧められたのだ、逃げられるはずがない。覚悟を決め、ルルとゆかなはスタジアムに登壇する。
「ようこそ!さぁ緊張しないで、皆を信じて!──仲間達は、二人を待ってたよ!」
『ドルッ!(男の見せ所だ、ルル!)』
(やかましいわ!ナイスアシストだったのが余計ムカつく!そのイケボでドルッなどと何処需要を狙っているんだお前は!)
「ルル…見ろ…イルカさんやペンギンさんが…こんなに近くに…!」
「ゆかな…」
…その後は、マリンやアシスタントのうたうちゃん、ヒーローポジションであれこれ指示してくるイルカ頭の指示に従いながら、懸命にシーワールドの仲間達と触れ合っていく。
「い、イルカって近くで見ると歯、怖いんだな…」
『キュイー…』
『怖さは伝播するよ。勇気と親愛を以て付き合ってごらん』
(お前の立ち位置がまるで読めんぞ、スザク…だが…)
恐れる事なく魚を掴み、そっとイルカに与えるルル。イルカはとても嬉しそうに、プールを跳ね回る。
『!キュイー!キュー!』
「…見た目や言動は問題ではない。大事なのは…」
「アシカさん、オットセイさん、いくぞ?せーの!」
『『オゥー、オウオウ!』』
「あははっ、とても上手だ!ではペンギンの皆さん、あの輪をきちんとくぐることはできるかな?とつげきー!」
『『『『『クァクァー!』』』』』
緑髪の美女が、海の仲間たちと戯れ心からの笑顔。魔女などではない、自分の本当の顔。
(……素敵な思い出が出来たな、ゆかな。みんなのお陰で…)
「進めー!進めー!」
本当の自分をさらけ出す程に楽しい一時を、彼女は今楽しんでいる。それができる環境と、機会を作ってくれた仲間たちに深い感謝を示しながら…
『さぁ次は、君の番だよルル。僕に魚を与えてくれ!』
「やかましいわ!パトロールに行け!」
なんだかネジが外れている親友に呆れつつ、ゆかなをそっと見守るルルなのであった──
午後一時
マリン「皆のお陰で本当に助かりました!ありがとー!午後からはバトンタッチできるし、君達がいてよかったぁ!」
エル「礼には及びませんよ、マリン館長。これもまた郷土奉仕の形!夏草の地に住むものとして当然です!」
大和「データは残しておきます。ホログラムを使いたい際はご利用ください」
うたうちゃん「それでは、館長。私は夏草奉仕に戻ります。何かあれば、ぜひ」
マリン「うん!じゃあ皆にこれ!」
『シーワールドフリーパス』
「頑張ってくれた御礼に、いつでも来てね!無料で堪能してもらっちゃうから!」
アカネ「破格ぅ!すみません、趣旨破壊みたいな事をやっちゃって…」
マリン「ううん!皆カッコよかった!リッカちゃんにもよろしくね!ばいばーい!また来てねー!」
ルル(波乱の連続だった…。だが…)
ゆかな「〜〜〜♪♪♪」
ぬいぐるみたちに愛おしげに頬擦りするゆかなを見て、それらの苦労は報われた。少なくともルルは、そう確信するのであった──。
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