伊邪那美命社・物陰
「──よし!!」
(俺は頼もしい友達を持った。皆の助けがなくばあたふたするのみで終わっていただろう。皆の無病息災と、良縁の維持を願わなくてはな)
冠陽神社にやってきたリッカ一行は、やはり思い思いに気になる神の社へと足を運んでいった。何しろ可能な限りの神々を祀っている社なので、一纏めでは回れないのだ。夕方まで時間を取っても絞らなければまともに参拝もできぬ有様だ。故にルルは有名所を選び、ゆかなを連れている。
「日本の神々はたくさんいるんだったな。今日だけは文化の違いも関係なく真摯に祈るとしよう。父もお目溢ししてくださる筈だ。祈りとは所作ではないからな」
「そうだな。祈りが届くよう、真摯に想いを懐く。夏草を見守る神様ならばきっと願いを受け取ってくれる筈さ」
ゆかなの手を引き、ルルが様々な場所を巡る。おみくじを引いたり、手を浄めたり、お土産を巡ったり…先程の波瀾が嘘のような時間が流れて行く。
「木刀とは意外と重いんだな…真剣を振り回すなど想像もつかん…」
「お前は前線に出てきたら大変だぞ、ルル。必死になって護ってあげなくてはならないのだからな。キングはキングらしく後方で悠然と構えているといい」
「否定できん…キングが動かなくては下は付いてこないが持論だが、捨て駒がない夏草の皆には関係のない話だな。頼もしい事だ」
「そうだとも。験担ぎでもしておけ。この私の大吉の様にな」
「くっ、文句なく最高の手を引くとは流石の功徳だなゆかな。だが俺も続くぞ!真!ルルドローッ!!」
『大凶』
「なぁっ───!?」
「……大丈夫?交換する?」
(あまりの悲惨さに皮肉も飛んでこなかっただと…!!くそっ、バランス調整だとでも言うのか!)
『鍛錬不足。運動すべし』
(悔しいがピタリ的中している…御利益、まさに伊達ではないか冠陽神社!なれば適切に対処せねばまずい!)
「高所だ!高所に結ぶぞ!夏草のスピリチュアリズムやオカルティズムは本物だ!大凶などでは死にかねん!」
「わ、分かった。だがこうも考えろルル。大吉と大凶で相殺できると考えれば…」
「!───相殺、そうか…相殺か!そういう事か…!やはり粋だな、夏草よ!」
「???」
妙なテンションのまま突っ走っているルルに困惑しながらも、二人の間に険悪さはない。気心知れている二人の間柄にあるのは気安くも穏やかな触れ合いのみだ。
「すまない、こっちの話だ。ではお祈りに行こう、ゆかな。とびきりの場所を選んだからな。絶対に効くぞ!」
「ま、任せる。宗教圏の違いからしてあんまり詳しくないからな…」
そんな押したり引いたり凹んだり立ち上がったりを繰り返すルルに引っ張られながら、時にはツッコミながら足を踏み入れた場所、そこは──
「伊邪那美命ノ社…創造の女神だな、確か」
そう、イザナミ大社である。イザナギと並び、一際大きな社である片割れのこちらへ、ルルは来ようと決めていた。
「リッカが一押ししていた社の一つだ。なんでも肝心な願いは絶対に叶えてくれると太鼓判を押されている女神らしい」
「まるで会ったような…いや、リッカの事だ。本当に出逢っていても不思議ではないな」
「あぁ。平凡やありきたりだなんて言葉とは最も無縁な娘の言葉だ。魅力的になりすぎた彼女の言葉、信じるには充分だ」
超冷却天然飲料水・黄泉水を購入しながら、二人は参る準備を行う。伊邪那美命と伊邪那岐尊、互いが共にいた御利益を望んでの事だ。
「なぁ、ルル。お前は何を願うんだ?」
「俺か?」
「お前だけじゃない。…姿も見えず、いるかも解らないものに何故人は願うのだろうな。信じ、救われたのならいいが…そうでない人間がいたならば、どうしてやるのが正解なのだろうな」
ゆかなの言葉は、含蓄が含まれていた。彼女は数多の懺悔を聞いてきたシスターでもある。そういった祈りの行く先には、何があるのかを思わない日は無いのかもしれない。
「──俺の所感で言えば、願うことはそれ以上でもそれ以下でもない。神に自らの願いを聞き届けてもらうだけの行為に過ぎないと思う」
ルルはそんなゆかなに答えを返す。祈りとは、願いとは、全てが叶うものではないし叶う事こそが少ないのかもしれない。叶わないのが当たり前なのかもしれない。
「人間は悩みや苦しみをいつまでも抱え込んでいられないんだ。誰かに話したくなる。だけど、人間は皆悩んでいるし苦しんでいる。他人の悩みや苦しみを解決できる人間は、滅多にいるものじゃないからな。…リッカやスザク、皆はその滅多に含まれるが」
「違いない」
「だから、人は神に祈るんだろうな。神様というのは不特定多数の誰かの願いを聞いて受け止め、文句一つ言わない存在なんだろう。だから神様は、いるだけで誰かを救っているし、願いを聞いた瞬間に人を救っているんだ。それを人間側が具体的な奇跡や現象を求め出したから、信仰は揺らいだり薄れたりするのだろうと俺は思う」
話を聞いて、無言で受け止めてくれる。肯定も否定もせず。ありのままを受け入れてくれる。それが神であり、それが祈りなのだとルルは告げる。祈りを捧げた瞬間、人は救われているのだ。
「だから、ゆかな。君も、ここにいるイザナミ様もいるだけで誰かを救っているんだ。人は欲望を纏う前は真っ白なものだ。人を救うと言うなら、傍にいてあげるだけでいいんだろう。究極的には」
それが、ルルの神への所感。人の苦悩を慎み深く受け止めてくれる、そんな優しい超常的な存在を神というのだと持論を展開する。シスターであり、懺悔に寄り添ってきたゆかなへの言葉としてもだ。
「いるだけで誰かを…か。なら」
「?」
「ルル。お前の隣に私がいる事は…お前の救いになっているか?」
ゆかなの問いに横顔を見れば、どこか不安が見える。今のルルには理解できる。魔女の仮面から、本心が漏れたのだ。仮面は、外れかかっている。
「──あぁ。俺という童貞の傍に文句一つ言わずいてくれるのは君だけだろう。君がいてくれた分だけ、俺は幸せになれているんだよ」
「──。そう、か…」
二人は、イザナミの御神体の前にて祈る。ただ傍にいるだけで、国を造った原初の神の片割れへと。
(ゆかな、並びに夏草の民たる俺の友人達にありったけの幸せを。俺はそのお溢れで構いません。リッカの守護神として、彼女を御守りください。並びに夏草の民であるゆかなが笑みを忘れることない平和なやさしい世界を…)
(……大人になっても、みんな一緒にいることができますように。ルルが、素敵な女性を見つけられますように…)
無音の中、祈りは告げられる。当然応える者はいない。二人だけの祈りは、ただ聞き届けられるのみ。
──だが。
『──睦まじき若人よ。芦原に流れし清水が如き願い、聞き届けました』
((!?))
彼等は──聴いた。確かに、それを聴いたのだ。その、祈りを捧げし者の声を。
『縷々や。貴方様のその智慧と優しさは素晴らしき徳なれば、その輝きをそちらの方と磨くよう。離してはなりませんよ』
(ぼ…母性だ。母性そのものだ…)
『ゆかなちゃんや。その尊き魂を鎧う仮面、そなたを護るものなれど。彼には深く被る必要はありませぬ。礼節の際には勇気を出して臨みたもうや』
(ぁ…はい。イザナミ様、なのですか?)
『あなや、見守っております。子々孫々なる子らよ。紡ぎたもう、育みたもう。輝く御魂の子らよ、健やかにありたもう──』
声が遠ざかり、静寂が戻る。顔を上げたルルとゆかなは──涙を流していた。
「…聞こえたか、いま…」
「あぁ…。俺達は今、神様の声を聞いたんだ」
…ルルの前半の持論を全部ひっくり返した事を除けば、完璧なる女神の導きが二人に届いたのであった──
ゆかな「す、凄い体験をしてしまいました…」
ルル「あぁ、全くだ…って、ん!?」
ゆかな「ふふ、驚きました?敬語なんて使わなかったから、ね?」
ルル「ゆかな…」
「二人きりの時は、父と女神の言葉に従い素になることにしました。お告げ、ですもの。というわけで…。これからも、どうかよろしくお願い致します。ルル」
ルル「ぁ、ぁあ、うぁ………」
ゆかな「?」
(ぎゃ、ギャップ萌え故の破壊力がッッ!!!)
物陰
イザナミ「……ふはぁ!やりきりました!やりきりましたよ八百万の皆!おばあちゃんシリアス保ちました!見ましたかー!肝心な時には!ばっちり役立ちまあいた!?」
?「うっ…」
イザナミ「す、すみません!おばばテンション上がりすぎて…」
無慙「いえ、こちらこそ…」
イザナミ「ひぃいぃ!?あなや雄々しき面構えたもうー!?た、タケちゃ、タケちゃーん!?」
無慙「落ちついて、お姉様。巡回中の警官です」
イザナミ「あっ…お姉様…あなや…(照)」
腰が抜けたため、迷子の徘徊者として介護されたままアマテラスとツクヨミに引き取られました。
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