人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
茨木童子「ここらに匂う、匂うのだ!甘露の、至宝の匂いが…!」
カグツチ「イヌヌワン達にたのめば良かったのに」
茨木童子「吾の言うことなど聞くものか!さぁ温羅、気合を入れて探すのだ!」
温羅(ここらは商店街か。老人の方々が多い。懐かしの施設ばかり…夏草、敬老精神もあるとは大したもんだ。だが…)
桃子「…」
(桃子…苦い思い出が出なきゃいいが…)
茨木童子「む!あちらだ!あちらにある!さぁ行くぞ!ついてこい!」
温羅「あ、おい!」
桃子「…二人とも、安らかに…」
カグツチ「桃子。ごー」
桃子「あっ、はい!3人にもお土産買わなきゃ…!」
「うぉおぉお…!極楽!ここは極楽なのか!?かの現代の源氏棟梁たるリッカの故郷、極上の財宝あらぬ筈無しと探索に出れば!これほど、これほどまでとは…!」
歓喜に魂を震わす茨木童子。カグツチ、桃子、そして温羅を連れ商店街エリアを闊歩すれば、見出したるは彼女にとって夢の様な場所。現代では減少傾向にある施設。そう…駄菓子屋である。立ち並ぶ菓子に、茨木童子はたまらぬとばかりに目を光らせ顔を綻ばせている。
「流石は夏草。温故知新も忘れてないか。現代での駄菓子屋はもう確か一万をきってるって話だからな。こういう場所の貴重さも市長様は解ってるのかぁ。文化保護を生業にしていた身として嬉しくなるねぇ!」
「これは…すっぱすぎーる?」
「知らぬのか桃子よ!これは3つあるうちの一つが劇薬という悪魔の菓子だ、酒吞に全て口に叩き込まれた時の衝撃と酸味と言ったら…!うぅ、しかしお得さを捨てるのも躊躇われる罪な菓子だ!後でお供に食わせてやれ!」
「ドーナツ、スナック菓子…ガムもある。ピッグめん?ぺぺろちーの?」
「カグツチよ、それらはまさに金にも勝る駄菓子の王だ!逢魔ヶ時も近い今、吾が汝らに菓子たるもののなんたるかを享受してくれよう!さぁ座れ座れ!好きなものを買えーい!」
喜色満面、破顔一笑のままカゴに駄菓子を放り込んでいく茨木童子と、茨木が楽しそうなら良しなカグツチもポイポイと菓子を放り込んでいく。カグツチと茨木の目付役の二人は危険なしと警戒を引き下げる。
「新しきショッピングモールもあり、古くの駄菓子屋もあり。本当、面白い場所だぜここは。お、ラムネあるじゃんラムネ」
「温羅も駄菓子屋は好きなの?」
「あぁ。桃源郷にもあったんだよ。子供たちが楽しそうに色んな菓子を買っててな。ウチの家族も立ち寄って…母さんや異聞帯のイザナミさんにも買ってやるかなぁ」
そんな思い出話に花を咲かせていると、店の奥から人が現れる。老齢ながら、優しげに笑みを浮かべる人当たりの良さそうなお婆ちゃんだ。
「随分楽しそうな声が聞こえてきたと思ったら…いらっしゃい、駄菓子屋『岩戸』へ。観光客かしら?寂れているけど、ゆっくりしていってね」
「何を言うか老婆よ、ここは吾にとって大江山にも劣らぬ御殿であるぞ!これ程の菓子をよくぞ貯蔵した!人間の蒐集ぶり、侮っていたわ!でかした!」
「うふふ、ありがとう。褒めてもらえて嬉しいわ。ほら、そっちの暖かい娘も飴をどうぞ」
「…あなや、有り難し。お婆ちゃん」
微笑ましいやり取りを行える事から、その人格は耄碌しておらぬ賢人と認識する温羅。歳のとり方が2種類あることを、彼女は知っている。
「そっちの黒髪の美人さんと、立派なお姉さんもどうぞ。うふふ、こんな場所に素敵な人が集まって…嬉しいこともあるもんだねぇ」
「お邪魔しています。…おばあさま」
桃子の情緒が反応を示した事を温羅は見逃さなかった。桃子にとって似ていたのだろう。疑心暗鬼に貶められた、二人の親に。
「おばあさまだなんて、うふふ。あなたは良家のお嬢様かしら?びっくりするくらいの美人さんだけれど…」
「桃子と言います。桃太郎と親しまれている物語の元になっ」
「あーそれは別に言わなくても大丈夫だ!せっかくだ、お婆ちゃんと色々話をしてみろよモモ!」
正直すぎてカミングアウトしかけた桃子を制し、二人のみの時間を作る温羅。茨木とカグツチはカップ麺に夢中だ。
「素敵なお店ですね。こんな沢山のお菓子が…」
「そう言ってもらえると、続けている甲斐があるよ。老い先短い中、若い頃から思い出が詰まっているこのお店…市長さんが理解ある人で、本当に良かったよ」
「昔から?長いのですか?」
「ここの商店街はほとんどがそうなんだよ。若い頃から、昔からおじいさんとおばあさんが元気よく建てた建物。それを今まで続けていてね。市長さんの支援と援助で、私達は素敵な老後を過ごさせてもらっているんだ。本当に、あの人が市長で良かったよ。こんな老いぼれを大切にしてくれて…」
「おじいさんとおばあさんを大切にするのは、当たり前です。私はそう思います」
「ありがとう…。でも最近は、若い子らに迷惑をかける年寄が増えてきて、年寄全部が社会のお荷物になってきている気がするんだよ。ただでさえ、私達は働けないで子供らに苦労をかけてるのに…」
おばあさんは目を細め、桃子は目を見開く。イザナミ…は例外の例外として、桃子は老人がお荷物になっているなど考えすらしなかった概念だったからだ。
「昔の事を誇りに思い、それがいつしか若者への度が過ぎた期待と歯がゆさになって昔は良かった、最近の若いもんはと言う大人気ない年寄が、どうしても目立ってしまうでしょう?この歳になったら若い子達の助けが無かったら生きられないのに、情けない話だよ。昔の威光をいつまでも忘れられないんだ。だってそうしないと今の自分が何もできないと感じてしまうから。そんなこと無いのにねぇ」
「はい。良い人生を歩み、年月を重ねたおじいさんとおばあさんはとても暖かいです。私も、そんな方に育てられました」
「そう言ってくれるかい?団塊世代だ、老害だなんて言葉で互いを罵り合うのは悲しい事だ。敬え、だなんていうつもりは無いけれど。若い子には心のどこかで覚えていてほしいんだ。いつかバカにしていたじじい、ばばあになる日が必ず来る。その時にどうか、バカにされる老人にはならないでって…桃子ちゃんは大丈夫そうだ。こんなおばばをこんなに大切にしてくれるんだもの」
「…おじいさんもおばあさんも、もういなくなってしまいました。たくさん、お礼がしたかったのに。たくさんお話をしたかったのに…」
「まぁ…。桃子ちゃん、余計なお節介かもだけれど…その二人が大切なら、下を向いたままじゃあだめよ?」
「え…」
「孫はとっても可愛いものだよ。目に入れても痛くないって言うでしょう?その二人はいなくなっても、ずっと桃子ちゃんを見ているよ。あの世にいようと、ボケようと。だいじな孫娘は絶対に忘れないものなんだ。だから、向こうにいるおじいさんとおばあさんに手を振るくらいの気持ちでいてあげて。きっと喜んでくれるはずだから」
おばあさんの言葉に、桃子は感じ入っていた。その言葉には、イザナミと同じ優しさと柔らかさがあったからだ。
「私もね、孫娘や子供達に笑ってほしくて、亡くなった夫の遺したこの店をやらせてもらってるんだよ。だから桃子ちゃんにも笑顔になってほしいのさ。こんなびっくりするくらいの可愛いお顔、俯かせるなんて勿体ない。お友達も、皆可愛いもの。負けていられないでしょう?」
「おばあさん…」
「じじいとばばあがお荷物になってたら申し訳なくて成仏できないからねぇ。桃子ちゃんにはうんと笑って、うんと元気でいてほしいよ。そうすればきっと、天国の二人も笑ってくれる筈さ。いいかい?桃子ちゃん」
「…はい!おばあさん。この国の今を造ってくれて…本当に、ありがとうございます…!」
「うふふ、どういたしまして。もうちょっとだけこっちにいさせてね。皆の楽しそうな声、あの世のおじいさんにたくさん届けるつもりだからね!」
皺や老いを感じさせない、輝くような笑顔に桃子は深く感じ入る。この夏草には、あの日の二人のような方々がいてくれる。
(おじいさん、おばあさん。心配なさらないで。桃子は…こんなにも元気ですから)
それだけで、今の世界を護るには充分だ。桃子は静かに、サーヴァントとして人理を守護する決意を懐く──
茨木「む?ご老人、何を話していたのか?」
老人「みんな元気で可愛いねっておはなしだよ。お名前は何ていうのかい?」
茨木童子「大江山の首魁、茨木童子!特別に真名を伝えよう、御殿の主よ!」
カグツチ「火之迦具土。カグツチって呼んで」
温羅「おぃい!?あー、ウラです。おばあさまよ、これはあの…」
おばあさま「うっふふっ。これはこれは可愛らしい鬼に神様、桃太郎ですこと!そうだねぇ、女の子だから桃子だものねぇ!うっふふふ!」
桃子(おばあさま、楽しそう…)
「ありがとうね、私の名前は想起 兼(そうきかね)って言うの。仲良くしてね?これからも、いつでもおいでね」
茨木童子「かね、か。忘れぬぞ!さぁ、お会計だ!」
カグツチ「今後とも、よろしく…」
温羅「色々、良かったな」
桃子「うん!」
四人は駄菓子屋で、かねおばあさんと穏やかな時を過ごしたのだった──