人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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内海「しかし、人員不足によるイベントし進行の危惧とは…警護や警備の人員も、もっと見直さなくてはならないだろう。これほどの規模をなんとかするならば…」


?「人手が足りないのか?なら、アタシたちを雇わないか?」

内海「?…君たちは…??」


恵まれた者として

「いやー、いつ来ても全く変わってないわね!あいも変わらず辺鄙で過ごしやすいところだったわ!ホント、苔とか生えてそうなのに癖になるわよねー。このノスタルジックっていうの?こうでなくっちゃねー!」

 

路地裏の猫を追い回し、八百屋に顔を出し、はたまた空を見上げながら歩いて探索して回った二人の珍妙で穏やかな商店街巡りも、夕焼けと沈みゆく太陽が終わりを告げる。そろそろ、この一日も終わりを告げるのだ。推定一週間であろうリッカの里帰りが、半分終わりを告げた事となる。全員へと持っていく果実のお土産をホテルの帰路に持ち運ぶ御満悦の天空海の後ろを、うたうちゃんはヒョコヒョコと付いていく。

 

(商店街のエリアはあんまり足を運ばなかったから、貴重な体験をたくさんできたわね。非常に楽しかったと感じているわ。あなたはどうだった?うたう)

 

(もちろん私も同じです。のんびりとただ歩く事がこんなにも楽しいことだったとは。オーマおじい様の散歩ルートに提案して差し上げなくては。必ず健康になってくれるはずですので)

 

彼女もまた、夏草の二面性に触れ情緒面を大きく成長させることができたようだ。効率的、進化を追求するばかりが正解では決してない。古くから積み重ねられ、磨かれた伝統や文化もあってこその今、より良き未来であると天空海の師事により感じることが叶ったのである。

 

「天空海さん、ありがとうございました。何から何まで、あなたに教えられてしまいました。何か恩返しが出来ればいいのですが…」

 

「んー?別にいいのよ恩返しなんて。あたしがやりたいことをやってあんたを付き合わせて振り回しただけだしね。お礼を言われることなんてしてないしてない!まぁ、どうしてもっていうなら遠慮なく感謝していいのよ?いえやっぱりしなさい!私が偉大な人間だと錯覚させて!ぜひ!」

 

褒められるのにはやはり弱いようで、妙なテンションで賛美を求める天空海。そんな彼女の人間性は大いに参考になるものだった。その生き様は、憧れにするに余りあると彼女は確信する。

 

「…そんな偉大な天空海さんに、最後の質問をよろしいでしょうか?気になる事が、あります」

 

改まって聞き及ぶうたうちゃんに、笑みを潜め聞き及ぶ天空海。彼女は茶化しはすれど蔑ろにしない。その誠実さに感謝しながら、天空海は問を投げる。

 

「天空海さんは満遍なく商店街の皆様と懇意にしていたことを確認しました。それは天空海さんの人格とたゆまぬ交流が招いた信頼関係だと断言できます。決して驕らず、なまけず、自身を磨いてきたあなたの勝ち取ったものだと」

 

「な、何よ急に。褒め殺しするなら言いなさいよね?ムズムズするのよ、褒められるのって」

 

照れくさそうに頭をかく天空海に、うたうちゃんは踏み込む。その疑問の言泉は、彼女がかつて聞き及んでいた、彼女の過去の一言だった。

 

「かつてのお話で、天空海さんは自分の人生をイージーモードと言っていたと記録しています。…差し出がましいでしょうが、私には天空海さんの人生が容易なものであったとは思えないのです」

 

初めから恵まれている者、初めから満たされているもの。そういった存在特有の傲慢さや無礼さが見られず、彼女は言動に勤労や気遣い溢れる振る舞いを示し続けてきた。それは何もかも成功してきたものの生き様ではなく、むしろその逆。謙虚で清廉、誠実さを感じるものですらあったとうたうちゃんは告げる。

 

「私は知りたいです。どうして天空海さんは他人の方にこれ程尽くせるのでしょうか。両親の手ひどい裏切りを受けていながら、こんなにも強く、真っ直ぐに自分を律する事が何故できるのでしょうか。不愉快でなければ、ぜひ知りたいです」

 

その自信と自負、揺るぎない誇りというものはどこから来るのか。彼女自身は、何を指針に生きているのだろうか。人間の人生、心の妙を感じながらうたうちゃんは思い切って天空海に告げる。その揺るがぬ生き様は、どの様に培ったのかを。どんな困難にもくじけず他者に奉仕するその気高さは、一体どこから来ているのかと。うたうちゃんの最後の問いに、天空海はふむ、と思案する。

 

「そういえば言ってたわね。ニコニコ笑ってるだけで人生イージーモードだって。よく覚えてたわね、そんな戯言」

 

「とてもインパクトの強い言葉でしたから。記憶野に…思考回路に焼き付いた、といってもいいと思います。だからこそ、これはあなたに訪ねたかった」

 

その問いが茶化しや悪ふざけでは無いことを受け取り、天空海は咳払いし告げる。そもそも彼女にとっては自身の人生は多少の波紋あれ、決して自慢げに注げる英雄譚でも酒の席に語る戯言でもない。れっきとした、浮き沈みが少し激しいだけの人生でしか無いのだと。

 

「今の時代のおばあちゃんやおじいちゃんの中には、敗戦のドン底を生き抜いて未来を切り開いたご老人だっているわけでしょ?この商店街や、リッカ達が乗り越えてきた困難は私が想像できないものなわけ。誰かの、皆の人生はそういった、乗り越えるべき困難ってのがあるわけ。あったわけよ。勿論、あんたにもね。あんただって、祝福や嬉しいことばかりだった…って訳じゃないでしょ?少なくともね」

 

天空海は誰にしろ、困難や試練はあると告げた。そして同時に、自身の人生への向き合い方を総括する。

 

「辛いことや、どうしても乗り越えなきゃいけないものは生きてたら全員にあるものなの。そんな中で、私は望んだ訳ではないにしろ自分の人生をどうにかできる力や才能を貰って生まれたわけ。イージーモードっていうのはそういう事よ。私には最初から、人生の困難に立ち向かえる力があった果報者ってわけ」

 

だが、勿論自分以外の大半はそんなものを有していないものが大半だろう。迷ったり、挫けたりするだろう。それでも人生の困難を乗り越えてきた方を彼女は尊敬し、これから乗り越えようとする者達への応援をしたいと誇りを以て今の仕事…すなわち、アイドルを志し奮闘しているのだ。

 

「私より苦労したのは私の人生の先輩。だからこそ敬ったり労ったりもよろこんでする。私よりこれから苦労するかもしれないのは、私の人生の後輩。だからこそ私は応援したいと考えてアイドルを続けてる。他人の人生を応援したり、激励したりできる。そういう事から私は他人より人生に余裕がある…イージーモードだと感じたんじゃないかしらね。昔の私の考えなんてよく覚えてないから、今の自分なりの解釈だけどね」

 

他人の人生を応援できるくらいには、余裕がある。他人の人生を敬えるくらいには教養がある。他人の人生に訴えかけられるくらいには、才能がある。多少は恵まれなかった部分はあるかもしれない。だがそれを補ってあまりあるほどに自分の人生は恵まれている。そう天空海は感じ、また信じているのだ。

 

「生きているだけでいっぱいいっぱいって訳でもなくて、才能にも恵まれた。ニコニコ笑って誰かを幸せにできる。ほら、誰がどう見たってイージーモードじゃない。少なくとも、不幸だなんて言ったらぶん殴られるわよ、本当にどん詰まりな人達にね。だから私は、自分の人生は他人より恵まれてるって思っている。それだけの話よ」

 

自己肯定もここまで行けば清々しいものである。自己からでも、他者からでも。自分が受け取る全てのものを問答無用で人生の力に変えてきた。そしてその力を、彼女は誰かの力になるよう還元してきた。その力が最初から備わっていたから──彼女は自分の人生を恵まれていると、言い切ったのだ。

 

「あーもう!喋らせすぎだっての!ほら、ホテルに戻るわよ!喉乾いちゃったわマジで!背中流しなさいよね!さっさとする!」

 

無論、天空海にとってそんなものは照れくさい自分語りでしかないので、恥ずかしげに走り出してしまう。だが、うたうちゃん…ディーヴァにはしっかりと伝わっていた。

 

彼女は人間の心の強さを極めた人間。自身らが力とすべき…人間の美徳の側面の、体現者なのだと。




ホテル

天空海「ただいまー!今日はお疲れ様!色々あったわね!ほんっと色々あったわね!!」

スザク「見回りは終わらせておきましたから心配ありませんよ、天空海さん」

天空海「んー、ご苦労様!まーあれくらい私には軽い軽いお茶の子さいさいってやつだから辛くもなんともなかったけどね!」

リッカ「流石先輩!夏草のストロングアイドル!」

エル「人間を通り越して怪物めいたバイタリティ!夏草の両津勘吉のあだ名は伊達ではありませんね!」

天空海「誰が金にがめつい守銭奴よコラァー!!」

榊原「全く、見習いたい底無しの体力ね…」

うたうちゃん「……」

ゆかな「どうかしたか?うたうちゃん。嬉しそうだな?」

うたうちゃん「はい。──私の基となった方を、誇りに思っているところです」

ルル「先輩をか…?」

天空海「逃げんなコラァー!!」

怪訝そうな目を向けるルルと、誇らしげに笑みを浮かべるうたうちゃん。彼女が垣間見たアイドルの実態は

──電子の心をも掴み、ファンへと変えたのであった──

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