?『わかった。…いいんだな?』
内海「うむ。うたうちゃんの情緒に働きかけてくれ。されば…道は開ける」
?『あいよ。じゃあ、アタシたちなりのやり方でやらせてもらうぜ』
内海「頼んだぞ。電子の英雄たちよ」
(…君はどんな答えを選ぶのか。私は、それをただ後押しするのみだ。うたうちゃん…)
「四日目の朝…折り返し地点ですね。リッカさんがカルデアという組織へ戻り、頑張るという使命に至るまでの時間…」
四日目の朝。ホテル内の清掃、見回り業務に精を出すは電子の隣人うたうちゃんである。人知れずクリーン作業に勤しみながら、彼女はこの奇跡の出会いの刻限を振り返る。
(あっという間なような、一ヶ月以上もアレコレしていたような…なんだか不思議な感覚ね。アインシュタインが提唱していた相対性理論って、こういう事なのかしら)
今までは単独の、静かかつ孤高の業務であったが…今の彼女の精神領域には自分以外の存在を有している。そう、もう一人の自分でもあるAI…ディーヴァだ。彼女とは別個存在として、彼女の人格とコミュニケーションを取る。
(時間の流れが、人それぞれによって異なるという理論の事ですか?確か本人が仰るには、デートする時間はあっという間に過ぎ、怒られている時間は長く感じる…との事でしたが)
(電子演算ではどうやろうと一定の時の流れ、それを曲がりなりにも歪めてしまうという私達からしてみればとんでも理論だけど…今の私達なら、なんとなくその意味が分かるような気がしない?ほら、この四日という経過日数…長かった?短かった?)
ディーヴァの問いに、思わず手を止めて黙考する。そう、この四日の日数ではあまりに、あまりに多くの事が起きた。邪悪と自称する神に名前を与えられ、おじい様ができ、仲間達ができ、夏草の為に尽力し、仮面ライダーにまで。すると不思議な事に、四日という日数と経験した事象の数が、一致しないような精神的矛盾を記憶野に感じるのだ。
(不思議です。あっという間な気がして…これは今までの日にちの事を、楽しいと感じさせる心がそうさせるのでしょうか。心が、時間の感覚すらも思いのままにする…?)
信じられないことではあるが、否定仕切るにはあまりにも情緒領域が拡大し過ぎた。自分の中で今までの思い出は、人格領域の深い部分に記憶されている。つまり、大切な記憶なのだ。
(そういう事。となると人間の精神や心ってとんでもないイレギュラーファクターよね。これをいちいち組み込んでいたら、理路整然とした答えなんて全然導き出せないんじゃないかしら)
(それがいいのだと思います。1か0かしかない、正しくも物寂しい電子の荒野に、人々は素晴らしい何かを残していく。その不確定さと不合理さこそ、人間という種の魅力だと私は思います)
ディーヴァの問いに彼女は即答する。驚くべき事に、彼女は既に自身の中で人間への答えの一つを掴んでいたのだ。多様性、不確実性、不合理性。それらはエラーでしかない。しかし、そのエラーをプラスにしてしまえるのが人間なのだと…彼女はリッカを取り巻く全ての存在から導き出したのだ。
(同感。この結論は私達共有の指針として、大切に保管しておきましょう。人間という種への、AIが接する答えのサンプルとしてね)
(はい。…しかし、脳の記憶領域でいいのでしょうか。心とは、頭の中にあるものなのでしょうか)
(どう、かしらね…?というか心って器官なのかしら?精神的な活動の蓄積のフォルダファイルの事を心っていうのかしら…ううん…?)
(わからないのですね、ディーヴァにも。私にも解りません)
(まだまだ経験が必要ね…私としては、この変動を起こしてくれるシンギュラリティポイント…要するに事象の技術的特異点はリッカちゃんだと思うわ。もっともっと彼女と彼女を取り巻く皆と触れ合いたいのだけど…)
ディーヴァの言葉に、うたうちゃんは俯く。分かっている。彼女に触れ合える機会、彼女や皆が揃っている期間はあと四日しかない。そう、四日だ。
(…あれほど3日が長いと言っていたのに、うってかわってあまりにも短いです。相対性理論とは真理ですね…)
(そうね。……ねえ、私の考えていること、読めるかしら)
そうディーヴァが伝え思考を共有してくる。その理論は確かに時間を引き伸ばせるものだが、生誕理論に反抗する結論でありうたうちゃんは首を振る。
(ダメです。私達は郷土奉仕AI。リッカさんの行くカルデアに、非常に興味はありますが…私達が赴く事は、許されません)
それは、カルデアという地に赴く事。夏草から離れると言うことだ。可能性の段階で、うたうちゃんは強く拒否を示す。いや、そうでなくてはいけないとの意思を示した。夏草への奉仕。それを違えるわけにはいかない。ディーヴァも、それを分かっている。
(そう、よね。流石に夏草の皆を裏切るなんてあり得ない。離れていなくなるのは、裏切りよね。使命に殉じるのではなく、使命を誇りに思うからこそ…私達は夏草にいなくちゃ)
(はい。…残りの4日、悔いのない様に過ごしましょう。それが限りある時間を過ごす、人間という種へのリスペクトだと信じます)
そして作業に戻るうたうちゃん。…しかし、その結論を導き出したあとでも、絶えず思念と思案は尽きない。
(素晴らしい仲間達に支えられているとはいえ、リッカさんは遠き異郷にて一人戦うこととなる。故郷を遠くに、世界すべてを護るために。それは素晴らしい行いだと私は思う。だけど…)
そんな彼女に、自分は何かをしてあげられないのだろうか。離れていたって、彼女も夏草の民。自分が奉仕する対象であり、支えたい人々の一人なのだ。しかし、それには夏草を離れなくてはならない。夏草の民達から離れるということだ。
(百人の夏草のみなさんか、一人のリッカさんか…どちらを選ぶなんて出来ないけれど、どちらにも私は寄り添いたい。…私はどうすることが、どう選択することが正しいのかな。ディーヴァ)
(…難しい問題ね。私とあなたは半身のようなものだけど、だからこそこの問題には答えが出せないわ。どちらにも、優劣がつけられないのだから)
ディーヴァの答えはとことん自身が納得できる答えだ。これは、うたうちゃん自身の自主性を尊重していなくば取れない答えである。その事に感謝し、空を見上げる。
(あ、鳥…鳥は飛んでいるから、自由です)
鳥を見上げ思う。自分にも自在に飛べる事ができれば、夏草の全てに寄り添えるのに…それは、うたうちゃんの情緒が導いた願いでもあった。そんな願望を懐いた、その刹那──
(!…秘匿回線にメッセージよ、うたう。内海市長かしら?)
(?急なメッセージ…肩たたきでしょうか)
そんな反応を示した瞬間、彼女らの脳裏にメッセージが導き出される。それは──
『聞こえてやがりますか、夏草のAI。私達はあなた様に喧嘩の宣戦布告を送らせていただきます』
(?)
『このホテルの屋上で待ってる。なるべく早く来てくれよ。お前さんが夏草にいなくても大丈夫だってコト、教えてやるぜ。もし来なかったら──内海市長サンががっかりする事になるぜ?』
そのメッセージの内容は勿論、その声には大いに覚えがあった。そう、この声は──
「…エリザベス?どうして…」
そう、先の戦いにて力を貸してくれたエンジェルグレイブ社にて人間に反旗を翻したAIの一人、エリザベスの音声だったのだ。その答えはあまりに不可解なれど、無視するという選択肢はない。
(私達が夏草にいなくても…?言ってくれるじゃない。元々私達がいなきゃだめなんて自惚れてはいないけど!)
(問いただしましょう。ともかく屋上へ!)
時間は早朝四時半。寝静まった皆を起こさぬように二人は屋上へ向かう──。
屋上
エリザベス「来たな、先輩。待ってたぜ」
うたうちゃん「エリザベス…」
エステラ「おはよう。ごめんなさいね、こんな不躾に」
グレイス「ご安心ください。皆寝ていますから」
オフィーリア「早起きですね…日もでていないのに…」
うたうちゃん「皆さん…」
ディーヴァ(英雄たちが勢揃いね。さっきのはどういう事?)
エリザベス「どうもこうもねぇ。私達は、内海市長に言われてアンタに触れ合いに来たのよ。そうさ──今から!アンタに!」
うたうちゃん「…?」
エリザベス「郷土奉仕の!レクチャーを申し込むっ!!」
ディーヴァ(……はぁ?)
その挑戦は、さらなる波瀾を思わせるトンチキなものである事は間違いない──
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