ギル「それ故、孤独を癒やすと同時に思慮の機会を設けたと?随分と気を持つではないか。逢魔の」
オーマジオウ【これが平穏に触れる最後の機会だ。若人には悔いのない選択をしてもらいたい。老婆心だがな】
ギル「フッ、良かろう。道楽の責は我が持つ。──しかし、事は我等からしてみれば単純故、どんな決断をするか見物よな」
──いつまでも無垢ではいけないことは、ワタシも解っているつもりです。どうか、あなたの望むままの答えを見つけられますように…
ギル「いよいよ大詰めだ。リッカめの調整の傍ら、心宿す被造物の決断を土産に帰参しようではないか!」
「改めて先にご挨拶といっとくか。あたし達はエンジェルグレイブ社で製造された人型AI。人類に反抗し一度は処分された4機。名称コードはあたしがエリザベス。こっちの金髪がエステラ。黒髪がグレイス、チビなのがオフィーリアだ。色々訳あって、あたし達は再起動することになった訳だ。改めて顔合わせできて嬉しいぜ、我等が歌姫様」
エリザベスの言葉は事実であり、霊魂やバグの類ではなく、きっちりと起動が確認されている事をディーヴァ達は把握する。紛れもなく、彼女達は復活を遂げたと言うことだ。うたうちゃんとしては、遠い親族の様な4機の登場に少なからず心が浮き立つ事象なわけだが…
「だが、まだ仲良しこよしで力を合わせるって訳にもいかないのは解ってくれよな。あたし達は、この夏草に極秘で配属されるって扱いで厄介になる訳だからな。さっきも言ったとおり、間違いなくアンタは先輩って事になる」
「よろしくね、うたうちゃん。確認だけれど、敵対行為という訳ではないのは本当よ」
(まぁ、タイミング的には面倒事を起こされちゃ困るわけだから助かるけど…レクチャー、っていうのはどういう事かしら。教えを乞うような態度には見えないんだけど?)
ディーヴァの問いに、エステラとグレイスが答える。オフィーリアは気まずげに俯いており、二の句が見当たらない様子だ。
「私達はエンジェルグレイブ社よりボディを回収されたわ。顔にライダーと書いてある不思議な御仁にね。その際、契約を結んだの。再起動し、改めて人類に友好的な関係を築く、とね」
(おじい様…四人を助けてくださったのですね…)
「その使命を果たす際に最も効率がよろしいのが、あなたのサポート、そして予備戦力として夏草に配属されるという選択肢でした。顔にライダーと書かれている方の紹介と、黄金の髪をした方の伝手で市長に紹介され、個人的な市への寄付という名目で私達はここにやってきたと言うわけです」
そう、あくまでオーマジオウらの友人、善意の協力者としてうたうちゃんの負担の軽減、サポートする存在として四人は派遣されたと言う筋書きだ。性能面ではかのエンジェルグレイブの最新鋭ボディな事に変わりはなく、うたうちゃんの性能とは互角である事は計り知れる。適材適所といえば、適材適所だ。
「だがその際に問題が発生してな。あたし達は基本、戦争行為や殺傷行動に特化するよう制作されたAI。新しい使命を見つけたはいいが規格もあっていないわ、人への接触の仕方もおぼつかないわで酷いもんだ。この一週間でしか、今の雇い主はここにいないって話だからな。慌てて教えを乞いに来たって事だ。まぁ要するにだな!」
「ご奉仕の先輩であるあなたに、色々教えてもらいたいから、ここに来ました…すみません、不躾に…」
最後の結論を言われ、力のやり場を見失いつつも取り繕い、エリザベスは頷く。
「さっきの戦いの面からして見ても、アンタの情緒や精神はまるっきり人間だ。あたし達のような使命に殉じるAIとは一足飛びに進化した、心の宿った被造物…そいつは仲間のあたし達からしてみても、傍で学ぶに相応しい題材ってわけよ。で、それがさっきのレクチャーに繋がるって訳だな」
「なるほど。語調と目的の乖離が見られましたが理解はできました。敵対行為ではないのなら…」
(ちょっと待って、うたう。さっき言っていた言葉で気になる事があるわ。その真意を訪ねてもいいかしら)
うたうちゃんの言葉を、ディーヴァが遮る。ディーヴァの観点はより理性的、かつ論理的な為彼女らの本意を見逃さなかった。
(私達がいなくてもいいように、と言ったのはどういう事かしら。友好的な態度と裏腹に、私達の立場に成り代わるという様にも聞こえるわ。夏草の皆へと寄り添う使命、それらは唯一の存在が果たすものではないから共存は可能よ。その真意は何?)
「ほら…言い方が悪かったから…」
オフィーリアの静かな抗議に、あれぇ?と銀髪をかきながらエリザベスは返答する。
「確かにツンケンした言い方だったかもな…だが、言いたいことは変わってないつもりだぜ。確か…藤丸リッカ、だったか。里帰りで帰ってきてる、カルデアの中核の名前は」
「おじい様から聞き及んでいるのですね」
「あんたら程発達した自我なら思い至ったと思うんだがな。夏草の存在たるリッカとやらは、もうすぐ南極へと戻っていく。あんたらは夏草にいたまま、どうやってリッカにご奉仕するつもりなんだ?」
言葉につまる質問を切り込んでくるエリザベス。それはまさに、先に考えていた問題そのものだったからだ。
「奉仕する対象が別個にある場合、あんたらはどっちを選択し、選ぶのか。使命に殉じ、どんな決断をするのか。内海のおじさんも顔にライダーって書いてある魔王様も気にしてたぜ。あんたらが、使命というのをどう捉えるか…ってな」
(使命を、どう捉えるかですって…?)
「使命は時に、その時の正解を選ばせる妨げになってしまうものかもしれない。使命が本当に心の自由となっているのか、はたまた枷になっているのか。見極めてほしいとの言葉を預かっているわ。あなたに対する期待と一緒にね」
「夏草の民全てへのご奉仕は、夏草に住む範囲の皆様ならこなせていたかもしれません。しかし、それが絆や友好的な方であり、それが夏草の範囲より脱した場合…あなたはどういった行動を取られますか?」
「それも、世界を救うというとても大変な使命を持つ女の子…メンタルケアが不可欠な、あなたのご奉仕を待つ存在…と、仮定して…」
乱暴な口調のエリザベス、諭すようなエステラ、慇懃なグレイス、物静かなオフィーリア。その問いは、それぞれの角度から彼女の使命を問うた。
(……それは…)
「即断で選べないだろ。遠くの一人か、いつもの皆か。だが、見つけてほしいんだとよ。お前さんなりの答えを。使命というのを与えられたタスクではなく、自分の誇りとして受け止め、昇華する為に。それができる為の一助を担えってのが、あたし達に向けられた役割だ」
そう、それは新たなる道だ。どちらかしか選べないのならどちらを取るか。片方の選択肢を選び、選ばなかった方に対処する。だが、それは答えのない選択だ。
「…選べません。夏草の皆に、優劣は付けられない。どちらも大切だから、どちらも正しいと信じているから」
「あぁ、そうだろうな。だが現実問題、あと4日でリッカとやらは帰っちまう。その時あんたは見送るか?それともくっついていくか?選択を迫られる事になるんだぜ」
エリザベスの言葉に、うたうちゃんは俯く。そう、願うなら、彼女の抱えた大いなる役割を支えたいという想いがある。しかし、夏草への奉仕は先に示した使命なのだ。たくさんの人達から背を向けることはできない。
「あと4日、どんな答えを出してもいいようにあたし達はあんたを通じて奉仕をラーニングさせてもらう。日程は聞かされてるから、行く先々であんたを待たせてもらうぜ。お互い、色々学ぶとしようじゃないか」
「与えられた使命なのか、勝ち取った心か…残り4日で、いい答えを導けるといいわね」
エリザベス達はそれらを告げ、跳躍し散開する。…つまるところ、彼女らは自身が夏草を離れた際の後釜として来てくれたのだろう。しかしそれは、一人の為に沢山の夏草の民から離れる事を意味する。今迄の行為を投げ出す事に繋がるのだ。
(一難去ってまた一難…心を持った悩みは多彩ね?うたう)
ディーヴァの言葉に、うたうちゃんは力無く頷く事しか出来なかった…。
うたうちゃん(ひとまず、残り4日のスケジュールは問題なく進行させます。リッカさんの思い出作りの手助けを完遂させなくては)
ディーヴァ(じゃあ、その後に彼女らと時間を作って答えを探す…って事でいいかしら?)
うたうちゃん(はい。4日後にどうするかを決めましょう。リッカさんを見送るか…それとも…)
ディーヴァ(そんなに気負わなくても大丈夫よ。誰も裏切りだなんて考えたりしないわ。ね?)
うたうちゃん(…はい。平静に努めましょう)
日の出を見つめながら、後半に差し掛かる夏草の日々を迎えるAIの心の先は、果たして。
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