住職「金狼の秘湯を使いたい、ですか?」
タケル「はい。かの金狼の湯船…浸からせたい方がいます」
住職「ほほう。本来なら開放される日にちがあるのですが…」
将門公『伏して願う』
「…解りました。なんだか、あなた方の頼みを聞かねばならない気がしております故に。特別に開放させていただきましょう」
「『恩に着る』」
タケル(さぁ、退路は絶たれたぞ。慈母よ)
アマテラス『ワフ…(や、やらねばなりません…)』
将門公(ふぁいとである。我等が慈母)
金狼の秘湯…それは金狼寺の深部にある金色に輝く文字通り秘密裏の湯であり、絶え間なく金色の輝きを放つ不思議な現象が常に起きている夏草の神秘の一つ。
湯の温度は長湯でき、身体が温まる事ができる適温を保ち、外傷、飲料水として飲めばあらゆる疾患に適応されるという程の効能を持つ。当然の様に美肌効果もあり、磨き抜かれた真珠の様な肌を得ることが出来るという。一説によれば、旅人と黄金の狼が二人で傷を癒やしたとされる事から、動物の利用も可能とされている程の湯である為、金狼寺の住職により大切に管理されている夏草秘密スポットである。本来ならば住職が認めた者しか入れぬのだが…
『慈母、覚悟を召さねばならぬ時刻也』
「そう硬くなるものではない。湯にて解きほぐされよ」
『ワワワワワフッ(べべ、別に固くなってないですよ?出来立ての桜餅のようにふわふわですよこのアマテラスは。将門公にタケル君ってば大袈裟なんですからもー、あはははは…)』
犬の型抜きめいた硬直ぶりを見せるアマテラスを、天照の風呂の面倒を見る資格を持つ両巨頭、日本武尊と平将門公が待ち受ける。湯船から大分遠い位置にて震え声で吠える慈母に、二人は顔を見合わせる。
『常闇ノ皇をも打ち払った慈母が、よもやこれ程湯船を嫌うとは。楽園では素振に気付かずにあり。自省なる』
『ワフ…(ごめんなさい、将門公。元々はこれ程では無かったのですが、海場で乱心した龍神に追い掛けられてからどうしてもこう…)』
「我等が慈母にも苦手なものがあろうとは。フッ、サーヴァントに窶して見るものだ。よいモノを目の当たりに出来た」
『ゥー…(誰だって苦手なものくらいありますよ!グドーシさんは毒茸が苦手だと言いますし、母上だって静かな空間は黄泉を思い出して辛気臭くなると言っていましたから!でもこうして克服する決意を懐けた事はできたら褒めてほしいです、はい)』
アマテラスこと、大神あまこーの弱点。それは水場である。かつて日本を救う際に奔走していた際に相棒に『風呂嫌いのアマ公』と妙なアダ名をつけられた際はそんな事は無かったのだが、海にて乱心し暴れ回る龍神に追い回され飲み込まれかけた事から苦手意識を持ってしまったのだ。それ以来身体の穢れは日照で焼き尽くすという、それ湯船で洗ったほうが早くない?と言われる手段を取っているのだ。
『苦手なものを苦手なままではいつか酷い目にあうやもですよ!アマや、少しずつ苦手を解きほぐすのですよー』
そんなイザナミの心配を無下にする訳にもいかず、ツクヨミとたどり着いたこの秘湯にて決心するあまこーだったが、入り口を行ったり来たりを繰り返していたため助っ人二人が召喚されたのである。ツクヨミは入浴後のグッズを探しに行った。
「そんな慈母の為に応援メッセージを受け取っている。分霊からの熱い言霊だ」
『もし!慈母な私!?よりにもよって麗しき淑女に風呂に入らないだなんて属性を付けさせるおつもりで!?玉藻!風呂に!入らない!?死活問題でございますので早急に克服してくださいまし!?』
『ワゥー…!(別側面の別個体なのですからあなたの評判には関わらないでしょうに…!全く妙なところでマメなのですから!)』
『交感神経の関係上、いきなり湯船にドボンは身体にダイ・ハードであるぞホワなるアタシ。湯船にはややぬるま湯で十分浸かる方が暖まるのである。身体を解してからシャンプーやボディソープした方が身体がキレイになるのである。ファイトだシャインマザー!』
『ワフ!(ご丁寧な挨拶ありがとう、キャット!…何故バーサーカーなのでしょう?猫缶のみが知っている?左様ですか…)』
自身の側面の熱いエールを受け、アマテラスは浮き立つ心を引き締める。そして思い出すは、困難に挑み乗り越えてきた楽園の人々や、あの日に力と祈りをくれた方々。
(そうですとも…あの日私は皆様の力を受け取り常闇すらも祓う事ができました。未曾有の破滅たる世界の危機すらも人は乗り越えた。ならば私も困難に挑み乗り越えずなんとしましょうか!)
『見やれ、慈母より決意の後光が溢れ出たる』
(そうですとも!水たまりにチャプンと浸かり首まで入って100まで数えてザバッと出るだけの簡単な儀式!カイポクレースや秘穴を覚えるより遥か容易!私は太陽の大神アマテラス…恐れては、恐れてはなりません…!)
(よほどトラウマ、という奴なのだな、慈母よ。しかし、平和な逡巡だ)
『──ワフ!(いいでしょう!夏草の地に伝わる黄金の狼様の力も借り、今日私はお風呂を克服いたします!見ていなさいイッスン、今より私はお風呂大好きあまこーでございますとも!天道太子の作品のサインの下にそう描いておいてください!)』
瞬間、アマテラスの身体の紋様が更に雄々しく、複雑となる。それはアマテラスの決意により霊基がパワーアップした証、白野威へと近付いた証左である。
『おぉ、その輝きやまさに日輪大日照の具現なれば。我等が支える、飛び込まれよ我等が慈母』
(向き合うことでさらなる力を得る…これが、我等が国の慈母であるか…)
絶妙に突っ込み不在の中、アマテラスが決意の眼差しを向けるは金狼の秘湯。意を決して、彼女は走る決意を固める。
『ワフ!ゥオーン!(行きますよー!お風呂大好きぃー!!)』
『その意気なれば。いざ──、…!?』
その決意を見届けていた…刹那。突如アマテラスがその場に倒れ伏し、動かなくなったのである。その異様に、日本の誇る守護神と武神すら目を見開く。
「如何にした、慈母…!よもやあまりにも心身の乖離が置き神格が分離してしまったか…?」
『あまてらす・しりーずの発足なるや』
『ワッフ…(ち、違うのです…その、あのですね…力を込めていた身体でいきなり激しい動きをしたものですから、脚の、脚の筋肉が…)』
そう。攣ったのである。盛大なる静から動による転成はさすがの天照大神ですら対応が叶わなかった。コテッと倒れ伏したアマテラス。筋肉がピクピクしながらも声を上げないのは流石の一言であるが…
『ワフ!ワフ!(こうなれば実力行使です!タケル君!将門公!私を掴んで湯船に放り込んでください!)』
「『えっ』」
『ワゥー!(一度決めた事から逃げおおせるなど天照大神の名折れ!そう、遠慮なさらず私を放り込むのです!躊躇いは無用ですよ!さぁ!)』
不敬もいいところな提案に流石の両神も顔を見合わせるが、慈母の決意に異を唱えるも無粋である上三貴神の一柱に言われ無下にできるはずも無く。
「よし、新皇よそちらを持て。吾はこちらを持つ。神体に触れる無礼を許せ、母よ」
『介護の要職に良き応報あれ』
『ワフー!ゥー!(あっやっぱり放り込むのは無しでお願いします!優しく、優しくチャプンと!お願いですよ!お願いですからね!うぅ、金狼よ私に力をー!)』
普段は真面目でしっかりものだが、この慌てふためきようとテンパり具合は実にお婆ちゃんの血を継いでいると確信する二柱。いよいよ入水の時──。
「落ち着け、慈母。脚からはいるぞ」
『キャイーン!(一思いによろしくお願い致しまぁぁす!)』
『着水なり。楽しまれよ』
チャプン、と湯船に脚が浸かり、身体が浸かり、そして暖まる為の温度が身体に伝わった時──。
(こ、これは…!芯から温まり、癒やされていくような感覚!疲れや迷いが溶け出ていくような感覚…!そうですか、これがお風呂というもの…)
『……………』
「どうだ、慈母よ」
『加減は如何なるや』
二柱の問いに、かの慈母はただ一言。
『───ワフゥ〜…』
満足げな声音を上げ、気に入った事を示す。その声音に、二人はそっと胸を撫で下ろすのであった…
アマテラス『苦手意識ばかり先行していましたが、体感してみれば存外簡単に乗り越えられるものですねぇ。ぽかぽかですよ…』
タケちゃん(直接脳内に…)
アマテラス『随分と御迷惑をおかけしました。これより先はきっとマシになっていくと思いますので…』
将門公『何よりである。自愛せよ、慈母』
アマテラス『本当にありがとうございました。是非とも、リッカちゃんや母上、皆も堪能してほしいですね…』
タケちゃん「湯船は克服したな、慈母よ。では、次がある」
『えっ?』
「シャンプー、リンス…全身洗いの時間だ。目を閉じるのも苦手であったな。克服するぞ」
『ぁ…そうでした…』
将門公『前途は多難なるが…奮起せよ』
『…はい…』
〜四日目の金狼寺に、絶えず狼の悲壮な声が響き渡ったという…〜
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