リッカ「グドーシ、ここはね。高校生の頃にお世話になった場所なんだ!住職さんに、楽園で学んだ基礎の全部を教えてもらったんだよ!」
グドーシ「そうでござったか。各所から黄金騎士に連なる気配を感じますれば。霊験あらたかな土地なのは明白。」
リッカ「元気にしてるかなぁ〜!楽しみ!」
グドーシ「それでは、積もる話もございましょう。まずはお話をなさるがよろしいかと」
リッカ「え、いいの?」
グドーシ「はい。少ししたら合流なさいます故、!」どうぞごゆるりとなさいませ」
リッカ「そう〜?じゃ、お言葉に甘えて!」
グドーシ「えぇ、いってらっしゃいませ」
(ふふ…あなたを導いた方ならば、またさらなる道を示してくださる筈。どうぞ、思うがままにお話を)
「ふふ…心が浮き立ちますな。リッカ殿の縁の地。ここはカーマ殿らと巡ってみなくてはなりませんな」
「ただいま、住職さん!藤丸リッカ、帰ってまいりましたっ!」
金狼寺、そこはリッカが夏草の休日に過ごしていた際にお世話になっていた場所。グドーシの生き様によりすくわれた外界に向けた精神が外界への顔ならば、ここは大切な存在を喪い深く沈んだ心のやりどころ。彼女はここの優しき住職に、余暇の際に世話になっていたのだ。
「お帰りなさい、リッカ。ヘラクレスさんから話は聞いているよ。困難なれど楽しい道を進んできたんだね?色々話を聞かせておくれ」
「ヘラクレスも来てたんだ!?びっくり…!じゃあいつものお煎餅とお茶、お願いしまーす!」
そんな、家族の様なやり取りを交わしながら二人は再会を噛み締め合う。一般人の枠でやって来たリッカではあるが、楽園の旅路における生き残る術の習熟の速さや飲み込みの速さは非凡な輝きを見せていた。覚えが早いのは勿論だが、それ以上にあらゆる基礎をかの住職に、生き甲斐のきっかけになるようにと手解きを受けていた事に起因する。それは、リッカがここにグドーシの冥福を祈りに何度もやってきていた事が始まりだったのだ。
「話に聞いてはいたが、見違えたよ。かつての寂寥や未知の気配は微塵もない。実りある、良き旅をしてきたんだね。そして…君から雷の様な鋭い気も感じる。牛頭天王、帝釈天…それらに連なるものの極みを宿した。そんなところかな?」
「凄い…!相変わらずなんでもお見通し!?」
「見の目弱く、観の目強く。君の様な鮮烈な宿痾、見逃していては住職など務まらないさ」
リッカの宿すものをたちどころに見抜き、言い当てる。そう、彼もまたリッカを作り上げた夏草の善意の一つであるが故に何よりも彼女の変化を見て取れるのだ。
「懐かしい…あの頃の君はそう、星を見上げる幼子だった。届かぬ高さにある星、その輝きを素晴らしいと思い自身もそんな風に生きたいと懸命に足掻いていた傷だらけの獣。どれほど血を流し、傷ついていてもその星から目を離すことは無かった獣…だがそれ故に、自分の事を省みることをしなかった、自身の生にすら理解を示せなかった未知の獣…あの時の私は、君にそんな印象を受けていた」
茶を飲み、縁側に並んで座りながら当時を振り返る住職。友人や知り合いといる間は快活で人懐こく、懸命に敬虔に死に別れた友人の冥福を祈り終えたあとは日が沈むまで縁側で茫然自失もかくやの呆けぶりを見せおり、住職はその異常性をたちどころに見たという。『彼女は、あまりにも知らなすぎる』と。
「そこまで見抜いて声をかけてくれたんですか!?」
「見抜いた、というものではないよ。ただ君は同年代の子が示す生命の輝きや、気というものがあまりにも深く、恐ろしい程に沈んでいた。まるで泥や底なし沼の様だとも感じた。星を見上げる事に夢中な、寂しき獣とも…そう思ったのだよ。私は声をかけたが、君はどう言ったか覚えているかい?」
『やりたい事は、もうできない』。そうリッカは答えたのだという。その言葉の意味は、想いや心を通わせる事。ちょうどグドーシに、その素晴らしさを学び、またそれの消失の哀しさや、離別の喪失を教わった時分。彼女は他者との繋がりや絆を紡ぎはした。たくさんの相手を助け、救った。だが、離れた親友以上の救いをもたらせる相手は現れなかったのだ。誰が悪いわけでもない。彼女の課せられた業はそれほど深く、大きかったのだ。
「だから私は、君の人生の助けになる様な教えを一通り授けさせてもらったのだ。座学や写経はもちろん、身体を動かす教えはあっという間に体得して…触りしか授けること叶わなかったが、真に担い手と出会いし時、君は化けると密かに確信していたよ」
「組手に稽古、体捌きに武具の握り方…あんまりに色々、次から次に教えてくれたから大変だったよー。その甲斐あって、すっごくおっきい事をやり遂げる事が出来たけど!」
基礎体力作り、精神的トレーニングは勿論の事、呼吸の整え方や平常心の維持や各種兵法の基本や心得。リッカの中の未知を癒やすために住職は心身を費やし彼女へと託した。その頃のリッカの、グドーシの導きを目指していた部分とは別…未知の獣の部分はそれらの技術を瞬く間に吸収していったのだ。その尋常ならざる習熟の速さ…未知を喰らい尽くす様な習得ぶりに、彼は何度も肝を冷やしたと感慨深げに口にする。
「今思うと住職なのになんで護身術とか武具の扱い方とかスッゴく知ってたの!?」
「昔取った杵柄というやつだとも。…一通り基礎を教えた直後、君は南極へ行くことを決めたと私に伝えた。…親友の死を知り、その遺志を継いだ君は私にそれを教えてくれたね。正直言って、とても不安ではあったが…」
『親友が示してくれた道だから、その道を進んでみたいんです。彼に恥ずかしくない自分であるために』
そう告げた彼女の目は、揺るぎなく孤高であった。…正直な事を言えばその時、この住職は彼女の遠征が酷く気がかりであったという。あまりにも──彼女が宿した宿痾は危険であると。そう、彼女の中には何かとても恐ろしい何かが、とてもおぞましい何かが眠っている気がしてならなかったからだ。
『そう決めたなら、揺るがずに進みなさい。きっと君を、星が導いてくれる筈だ』
しかし、住職はそれを止めなかった。彼女が宿す宿痾、宿命にはまだ見通しきれない部分…輝きを示す部分があったからだ。それは、彼女が有する紛れもない輝き。なればこそ、彼は彼女を後押ししたのだ。その導きが、その選択が。彼女自身を救う試練であり悟りだと信じて。
「あの時の判断は、間違っていなかったと私は確信した。今ここにいる君を見たことで、だ。容易な宿命では、容易な運命ではなかっただろう。だがよくぞ、よくぞ…」
よくぞ、乗り越えてくれた。思わず言葉と胸がつまる程に輝きに満ちた彼女に万感の想いを示す住職。羅刹の獣となるか、真如に導かれし人となるか。その岐路に立った彼女は、素晴らしき決断を示し自分なりの開悟を得て再びこの地へと戻ってきてくれた。その事実は、彼女の運命に慈悲を示した住職にとって全てが報われる想いだったからだ。
「ま、待って!?なんで泣いてるの!?泣かれるくらいの悪ガキじゃなかったと自負はしてるよ!?」
「ふふっ、申し訳ない。感極まった…というものだよ。見たところ…君の中にもう未知はない。何もかもが鮮烈で、それでいて魅力的である事を知っている。そうかな?リッカ」
それは、彼女の中の未知が滅びた事を意味していた。彼女はもう既に理解している。知っているのだ。
「うんっ!この世界には悪いこと、嫌なこととそれ以上に凄いことや希望あふれる場所だって皆が教えてくれたから!」
この世界は美しく、それでいて魅力と美徳に満ちていること。その為なら、得た教えや想いを正しい方に向けて生きていくことを彼女は住職に示したのだ。それは彼女の取り巻く全てが良縁と奇跡に満ちた、素晴らしいものだと言う事に他ならない事だから。
「話したい事、いっぱいあるんだよ!カルデアっていう組織の事とか、何があったのかとか、何をしてもらったかとか!」
彼女の快活さに満ちた声音に、満足げに頷く。かつては話しかけられなければ話せず、相手の事しか知らなかった、知ろうと知らなかった彼女が自身の事を誇らしげに語る。
「ふふ、それは楽しみだ。さて、一日で終わるかどうか。…あぁ、本当に…」
その事実が彼女を本当の意味で救った者への少しばかりであろうとも、感謝と恩返しに繋がったのならば、これ程嬉しいことはない。
以前とはまさに生まれ変わった様な多様な感受性と、磨き上げた対話の巧みさで話される最高の土産話に、金狼の住職は万感の想いを以て受け止めるのであった。そう──
金狼の住職は万感の想いを以て受け止めるのであった。そう──
「それでね、沢山家族が出来てね!」
──一人の少女の、無二の旅路を。
リッカ「あー、話した話した!すっごく久しぶりに話せて楽しかったよ!」
住職「聞いているこちらも心が踊ったよ。本当に…良かった」
リッカ「えへへ、あなたが教えてくれた全部が今も私の力だよ!ありがとうございました!」
住職「うん。…では、もう一つお願いを頼まれてくれるかな?」
リッカ「え?私にできることなら!」
住職「かつての君のように、今悩んでいる娘がいる。どうか、力になってあげてほしい。生まれたばかりの心と、使命に向き合う娘の」
リッカ「それって…!」
住職「あぁ。──電子の隣人と呼ばれる、新しく我々に寄り添う者の心に、だ」
住職は再び、リッカに道を指し示す。かつての未知を封ずる教えを諭したように。新たなる途へと…
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