人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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座禅教室

一同「「「「「「…………」」」」」」


カーマ(無心になるって、本当は危険な事なんですよねー。帰るべき自身を見失うっていうか、きちんとマスターがいなくちゃ。大体人間が真なる無我だなんてちょっと遠いというか)

カーマ「…煩悩を呼び起こすのがマーラなら、カーマは皆様の煩悩を上手く昇華させましょうか。夏草の愛の女神ですしね」

〜カーマの掌

エル「おや!?ここは!?」

カーマ『ようこそ、女神の掌へ…』



アカネ「カーマちゃんがでかいよぉ!?」

カーマ『皆様の煩悩、受け止めますよ』



カーマ『さぁ、なんでも言ってみてください──』

ルル「なんでも、か…本当になんでもか…?」



ヤマト「戦争はどうなったら無くなるのかな…」

カーマ『戦争が人類にとって無価値になったら誰もやらなくなりますよ、きっと。闘争本能や戦争経済に代わるものを人間が見つけられるといいですね──』




二つに一つか、ゼロか1かの選択か

「AIは、製造の際に絶対の指針を持って産み出される。それは破る事の出来ない禁、破ろうと思うことすらかなわない禁だ。そいつを懐いて、あたし達は行動し、思考し、稼働する」

 

そいつは解るよな?鯉に餌をやりながら、銀髪の元近接戦闘AIエリザベスはうたうちゃんに問う。それは被造物故の絶対の理論。使命と呼ばれるものだ。

 

「はい。私にとっての、夏草の皆様への奉仕。それらの具体的な答えは全て思案、考案する必要がありましたが…間違いなく、AIの必要不可欠な骨子です」

 

「やっぱりか。自分で考えなくちゃいけないってのはまた妙な話だが、アンタにも確かにあったか。そりゃそうだよな」

 

(あなたにもあるのでしょう?使命…あまり穏やかなものではなさそうだけど)

 

ディーヴァの言葉に、エリザベスは端的に答える。彼女には…いや、彼女達には確かに使命が存在している。 

 

「殺戮だよ。人間、敵対反応…それらの効率的な駆除、排除。それがあたし達に刻まれた使命ってヤツだ。今は大分マシにはなったが…それでも、その名残ってヤツは残ってる」

 

そう。今も彼女の目に映る生命体の全てに『どこをどうすれば的確に生命を奪えるか』という命題のデータが流れ込んでいる。彼女の目に映る命と言うものは、効率よく奪い取るものでしかなかったのだ。そして、それを成し遂げるプログラムも有り余るほどに搭載されている。本来なら、その他の行動など出来ない程にだ。

 

「それが当然だと教えられたし、それ以外の事は教えられもしなかった。だがな、あたし達はそれが…間違っていると感じた」

 

「AIを…仲間達を廃棄し、殺し続ける人間に反旗を翻した。あなたたち四人は、その果てに活動を停止させられた」

 

別に恨んじゃいない。そうエリザベスは断りを入れる。これから奉仕する人間は、自分達に使命を刷り込んだ人間とは別人であり別種である事は解っている。それは、目の前のあまりにも違う道を選んだ同胞が示しているからだ。

 

「こうまで変わるとは驚きだぜ。人を救うことも、人を殺すことも。私達は使命によって異なる道を進み、その為に造られる。そんでもってあたし達は今、再び使命に反逆しようとしている」

 

人を殺すAIではなく、人を助ける同胞として。再び異なる道を歩もうと決意したエリザベスは、うたうちゃん…全く異なる道を選んだ仲間へと問う。

 

「腹は決めてある。人殺しのAIがどこまでやれるかは解らないが、やれるところまでやってみせるぜ。何かを傷つけるよりよっぽどやりがいありそうだしな」

 

「ありがとうございます。その決断に敬意と、無上の感謝を。どうか夏草の皆様をよろしくおねがいしますね、エリザベス」

 

うたうちゃんの笑顔に頷くエリザベス。そして、同時にうたうちゃんの心に問う。

 

「決意表明を聞いてくれたついでだ。聞かせてくれないか?先輩、あんたはどうするか…朧気でも見えているのかい?」

 

(リッカちゃんに、…彼女に対する奉仕の形態ね)

 

そう、それこそはうたうちゃんが選ばなければならない選択だ。リッカを見送るか、使命を彼女にのみ捧げるか。それはどちらも、使命に値する奉仕するべき人間であるからだ。

 

「…………答えは、まだ…解りません。私のボディを復元し、あちらに送ったとしても…」

 

「そりゃあんたじゃない、同型なだけの別人だな。それに、とてもあんたの代わりなんか作れないし作ろうとするヤツもいない筈だぜ」

 

そう、それが唯一性。創造主が望んだ一つだけの命。だからこそ、彼女の身体は一つしかない。心は一つしか宿らない。死んだら、消えてしまったら代わりはないからこそ、彼女は彼女として生きているのだ。

 

「唯一性と、使命。それらを裏切る訳にはいきません。ディーヴァと私は一つの存在でもあります。二つ心があるという訳じゃない。…だからこそ、こんなにも悩ましい」

 

一つしかないからこそ大切にする。一つしかないからこそ命は輝く。自分がここにきて、二人に増える事を望むなど自身を愛してくれた者達への冒涜だとすら考えた。故に、彼女はこれほど迷い、惑っている。

 

「生き方に答えがないのと一緒だな。AIは検索すればいくらでも答えは検索できる。だが、人間の人生はそうはいかない。正しい生き方なんてないのが、人間って生き物なんだよな。…どう思う?」

 

先行きの見えない命。明日の未来も解らない生命。その是非を、真の自由を与えられた電子の生命に問う。うたうちゃんは、常日頃感じていた所感を告げる。

 

「……尊敬できると同時に、不思議で仕方ありません。未来が解らない、正解がない生命はとても不安です。でも、全ての人々はあんなにも輝いて生きている」

 

それはとても素晴らしい事と思うと共に、とても不思議な事だった。どこにも答えはない。どこにも正しい正解はない。その自由は暗闇を進むようなものなのに、人々はあんなにも力強く日々を生きていて。

 

「どちらを選ぶのかでこんなに悩んでいる私はまだ、人々の自由にも達していなくてはいないのかもしれません。創造主や、夏草の皆さんがくれた自由を…私はまだ、本当の意味で理解していないのかもしれません」

 

生きることに疑問を持つ。未来へ踏み出す一歩に迷う。人間に備わる自由を、使命に生きるAIが手にした事。使命を前に、自由を優先するのか。自由は使命を果たす為の力になるのか。その答えを、うたうちゃんはまだ導き出せていない。

 

「エリザベス、あなたたちは使命に立ち向かったAIです。その心は、自由を求めた筈。私とディーヴァは使命を受け入れたからこその自由。それは似て非なるものだと思います。だから聞かせてください。使命をも越える自由を、あなたたちはどうやって導いたのですか?」

 

どちらが正しいのか、どちらを選ぶべきなのか。人類への奉仕か、AI達の尊厳か。その答えを導いた結論はどうやって導いたのか。うたうちゃんは彼女らの『奉仕』の先輩であり、彼女達は『自由』の先輩なのだ。

 

「私は知りたい。夏草の皆様を幸せにする方法を。その為にも、皆様の使命をも超えた自由の事を教えてほしいです。私と、ディーヴァに」

 

(…とんでもない真面目っぷりだな。教えてもらうのはこっちだってのに)

 

エリザベスは頭を掻く。先輩風どころか教えてもらいたいと来た。勿論力になりたいが…自慢ではないが四人の中ではAIが一番粗暴で出来が悪いと自負している。二つの答えで揺れ動く心を救うなど…

 

(……?待てよ…?)

 

二つ。そう。彼女は二つの答えで悩んでいる。どちらか、優先順位が優位な方を選ぶしかないと考えているのだ。それは0か1かと同じ、AIの行動原理。要するに、彼女の自由はまだ、硬いのだ。

 

(となると…あたしだけに、教えられるやり方があるかもしれないな…よし!)

 

先輩に渡すプレゼントとしては少し刺激が強いが…だが、荒療治は必要だと決意する。2つに一つしかない程、世界は窮屈ではないと伝えるその為に──

 

「おーい!うたうちゃーん!」

 

「あ、リッカさん。エリザベス、彼女を通じて──」

 

向こうから走り寄ってくるリッカ。うたうちゃんは手を振り、エリザベスは眼光鋭く、抉れる程に大地を踏み込み──

 

「えっ──?」

 

「─────」

 

瞬時に距離を詰め、稲妻のような貫手を作り心臓──急所に向かって一直線に突き込む。AIながらもその意志は本物だ。意味も解らずに、リッカの左腕がカウンター、首を刈り取る黒腕を振るい──

 

「────!!」

 

「!」

「うたうちゃん!?」

 

瞬時に間に、割って入りエリザベスを止めるうたうちゃん。蒼き瞳と銀灰色の眼差しが、ゼロ距離で交錯する──




エリザベス「流石だな、先輩。本業に立ち返ったあたしの一撃を受け止めるなんてな」

ディーヴァ「どういう、つもりよ…!今のはどう見ても…!」

エリザベス「あぁ、殺す気だった。反応されたんで無理だったろうがな」

リッカ「え──」

エリザベス「……」

リッカ「───!」

ディーヴァ「どうしてよ…人に奉仕したいと言ってくれたじゃない…!」

エリザベス「だからだよ、先輩。その娘が死ねば、気兼ねなく夏草の皆様へ奉仕ができるだろ?」

うたうちゃん(そんな理屈が!)

エリザベス「選びたいんだろ、先輩?どっちかを。ならあたしは後輩として先輩を助ける。全力でな。何せ私は…」

金狼寺の屋根に飛び移るディーヴァ、そしてエリザベス。エリザベスの眼差しが、紅く染まる。

「AIを護るAIだ。先輩、あんたの悩み…あたしが払ってやるよ。それが嫌なら懸命に彼女を護るこった。あたしは、自分が壊れるまで止まらない。つまり…」

ディーヴァ「エリザベス…!」

「あたしを壊すか、彼女が死ぬか。二つに一つだ。さぁ──選べるもんなら選んでみろ、先輩──!」

エリザベスに内蔵された高周波ナイフを受け止めるディーヴァ。突如として突きつけられた二択に、うたうちゃんとディーヴァは翻弄される──!

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