人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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メッセージや感想は明日行います、すみません!

うたうちゃん「すみません、こちらの方を見ませんでしたか?」



母「娘はうたうちゃんの事が大好きで、夏草にずっといたいと聞きませんでした。でも、夫の仕事でどうしても…」



うたうちゃん「亜麻色の髪の毛の子を見ませんでしたか?7歳くらいの…」



父「随分泣かれました。うたうちゃんから、ここ離れたくないと。…無茶なお願いなのは分かってます。うたうちゃん、どうか…彼女を説得してはくれませんか」



うたうちゃん『迷子のお知らせを致します。藤宮まあやちゃん。お父さんとお母さんがお待ちです──』



父「離れたとしても、何もかもなくなるわけじゃない。うたうちゃんがそんな薄情な方じゃない事を、どうか娘に伝えてほしいんです」
母「私達の娘を、お願いします…」



ディーヴァ(落ち着きなさい。メンタルグラフがぐちゃぐちゃよ。心が乱れきっているわ)

うたうちゃん(ごめんなさい、ディーヴァ。でも…でも…)

エステラ(パフォーマンスが、その場のメンタルで激しく上下する。なんて不安定な要素なのかしら。心というものは)

うたうちゃん「見つけないと…早く、早く見つけてあげないと…!」

エステラ(…でも)

「───検索完了。うたうちゃん。まあやちゃんは地下駐車場のトイレにいるわ」

うたうちゃん「え…?」

エステラ「言ったでしょう?私の頭には常に殺傷の為のデータが流れてる。一人のバイタルや情報くらいあっという間なの」

うたうちゃん「エステラ…」

エステラ「さぁ、行きましょう。場所が場所よ、車の通りも心配だわ。最短ルートを教えるから、ほら!」

うたうちゃん「…はい!ありがとうございます!」

エステラ(殺戮のための機能を、生存確認の為。ふふ…矛盾ばかりね。私も)


離れていたのだとしても

「──見つけました、まあやちゃん。こんなところにいらっしゃったのですね」

 

明るい喧騒から離れ、小さくトイレの片隅でうずくまる少女に、エステラとうたうちゃんは巡り合う。それは、AIならではの探索能力と伝達力の賜物であり、迅速な救助機能の成果である。亜麻色の頭髪の少女は、静かに顔を上げる。

 

「うたうちゃん…迎えに来てくれたの?」

 

「はい。お父さん、お母さんの下へと帰りましょう。とても心配しています。あなたの事を、とても」

 

差し伸べる手を、まあやたる少女は首を振り拒否する。その理由を、彼女はぼそりと呟く。

 

「…離れたくない」

 

「えぇ、そうです。お母さんも、お父さんも同じ想いを…」

 

「違うの…。離れたくないのは…」

 

そう顔を上げ、まあやは真っ直ぐと目を向ける。うたうちゃんの目を、真っ直ぐと見つめ告げる。

 

「うたうちゃんや…夏草の皆と、離れたくないの。行きたくない…この場所が…好きだから」

 

「この場所が…?夏草が好きだから、離れたくない?」

 

エステラは確認する。引っ越しする場所はより都心に近い場所であり、通行の便や生活基準も上昇する事は明白だ。快適さや、新天地に不満を抱く理由は何処にも見受けられないが…

 

「だって、うたうちゃんはここにしかいないから…うたうちゃんは、夏草にいる人にしか一緒にいられないんでしょう…?」

 

「…!」

 

「うたうちゃんは夏草の皆をとっても大事にしてくれるでしょう?引っ越ししたら…私は、お父さんやお母さんはうたうちゃんの大切じゃなくなっちゃう。だから…離れたくないの」

 

それは、奇しくも今懐いている悩みや迷いと似通ったものであり答えのまだ出ない問題であった。うたうちゃんは、まあやの潤んだ瞳を見つめ返す。

 

「うたうちゃんは、夏草の皆にいつも優しくしてくれたから…こんなに優しくしてくれる人、きっといないから…離れたくないの…」

 

「まあやちゃん…」

 

(これは…郷土奉仕のAIに突き付けられる問題。彼女はいつまでも、全ての夏草の人達に奉仕できるのかという問題)

 

夏草の民が、いつまでもその地にいるとは限らない。奉仕をするべき人間は成長し、いつか、夏草を離れ旅立つ事を選択するのやもしれない。それは、人間の持つ成長性、多様性。一日も同じ停滞を選ぶことない生命の活動。

 

AIは成長せず、変わらない。それはいつか、人間に置いていかれる事を意味している。いつまでも変わらぬからこそ、変わる人間に、置き去りにされていくものだ。

 

(AIは嘘をつけない。偽りを口にすることはできない。うたうちゃん、ディーヴァ。あなたたちはどうやってこの娘に答えを示すの…?)

 

うたうちゃんは沈黙し、まあやの事をただ見つめている。まあやは言葉を待っている。うたうちゃんの…夏草に奉仕するAIの答えを。

 

「──それは違いますよ、まあやちゃん。あなたが夏草を離れたのだとしても、それはあなたが大事でなくなるという事ではないのです。離れ離れになるという事は、きっとないのです」

 

うたうちゃんは瞬間──一瞬であれど、それは永遠に近い思考だったのだろう。それは、今抱える彼女自身の煩悶に繋がるものだったからだ。

 

(うたう、大丈夫?)

(はい、これはきっと──私達のこれからに繋がる事だから)

 

まあやに向け、彼女は答える。何に仕えるのか。何に奉ずるのか。それを、彼女の問いにてきっかけを…その欠片を手にした。

 

「私の使命は、夏草の皆様に奉仕する事。ですが、それは同じ位置にいて、同じ地理にいて、同じ場所にいる事が奉仕という全てではないのです。まあやちゃん。私は…あなたやあなたのお母さんとお父さんをずっと大切に思います。例え、夏草から離れたとしても」

 

「でも…」

 

「仕える事は、寄り添う事。それはきっと、心に添う事だから。ずっと一緒にいる事は、離れていても出来るのです。──スマートフォン、携帯は所持していますでしょうか」

 

頷くまあや。手渡された端末をそっと操作し、カメラモードに切り替える。そして、まあやをそっと抱き寄せ、ボタンを押す。

 

「これを見てください。一瞬ですが、これは確かに永遠です。あなたが私を忘れ、あなたの中で無価値にならない限り。私はこうして、あなたとずっと一緒にいます」

 

「わぁ…!」

 

それは彼女の記憶に、記録に永遠に残るもの。彼女が夏草を離れ、成長していき、新たな人生を歩んで行くのだとしても。

 

「夏草から離れたのだとしても、夏草に戻る事がもう無かったのだとしても。それでも、私はあなたや皆様と一緒です。私もその手段はまだまだ模索中ではありますが、それは私なりの第一歩。また、夏草の大切な人に教えてもらいました。あなたが教えてくれました」

 

だからこそ、決してうたうちゃんは忘れない。離れていく者達…いや、自身の道へと進んでいく者達への奉仕は、決して物理的な距離では無いはずだから。

 

「うん…うん!忘れないよ、うたうちゃん!あなたの事、皆の事!夏草から離れてもずっと一緒…!」

 

「はい。私は絶対に忘れません。約束します、離れていても、きっと…」

 

きっと、心は寄り添っている。それが、夏草より生まれたものへの奉仕するという事だと信じているから。

 

…まあやは無事に保護され、両親の下へと返された。別れ、離れ離れになる未来と結末にも、今の彼女は笑顔だった。

 

「忘れないよ!うたうちゃん!夏草にいなくても、ずっと!ずっと…!」

 

「はい。あなたの幸せを、あなたの健やかな成長を心から御祈りしています。まあやちゃん、ご両親の方々」

 

笑顔で別れ、そして答えのきっかけを掴んだうたうちゃんの顔は晴れやかだった。エステラは、その一連の流れを見て頷く。

 

「記憶媒体に、二人だけのメモリーをセーブして保存する。それは彼女から消し去り、忘れない限り永遠となって残る。彼女に、心というものがある限り。…素敵な手段を考えたのね、うたうちゃん」

 

「考えました。考え、考えて…そして、なんとか見出した答えがこれでした。形や、地理を越えて一緒にいる事。たとえそれが、たった一枚の記録媒体に焼き付いたデータに過ぎないものだとしても」

 

離れてもあなたを決して忘れない。夏草にいないからと忘れたりしない。その想いと願いを、彼女は決死の想いで手段とした。

 

(リッカちゃんへの奉仕の仕方、見つけたんじゃない?とびきりの自撮り、渡しちゃう?)

 

(はい。とびきりの笑顔の練習をしましょう。そして…)

 

うたうちゃんは一呼吸おき、エステラへと向き直る。今回の捜索に一役を買ってくれた彼女に、礼を告げる為だ。

 

「ありがとう、エステラ。あなたに備わった機能は、私を助けてくれた」

 

「たまたま役に立っただけよ。頑張ったのはあなたでしょう?捜索を諦めずに続けたあなたを、私は助けただけ」

 

「私に出来ない事を、あなたはしてくれました。それは、あなたの心が私を助けようとしてくれたから。あなたは無慈悲な殺戮マシンなんかじゃない。私にも、人にも慈しみの心を持つことが出来る心を持った存在である事の証明です」

 

うたうちゃんの何倍も優れた探知能力、識別能力。戦いと殺戮に費やされる筈だったそれを、エステラは人を救うために使った。同胞を助ける為に使った。それは…うたうちゃんが使命を分かつ仲間であるという判断を下すには十分だった。

 

「どうか、使命や心を恐れすぎないでください。あなたに備わった全てはあなたのもの。それが…人の持つ自由というものなのですから」

 

「…。…ありがとう。二人共」

 

(私は何もしていないわ。この娘が勝手に育っただけよ)

 

一礼し、奉仕活動へと戻るうたうちゃん。──エステラは、その後ろ姿を見て閃きを得る。

 

(──あの娘の願いが、それなのだとしたら…私にも、手伝える事はあるかもしれない)

 

「ちょ、ちょっといいかしら!うたうちゃん!」

 

そう判断したエステラは、再びうたうちゃんを呼び止める──




うたうちゃん「オリジナル端末と…アプリ、ですか?」

エステラ「えぇ。その、リッカちゃんという子に奉仕をしたいのでしょう?それを、今日のまあやちゃんに行った答えをより高精度に行うの。つまり、リッカちゃんとあなたをつなげるデバイスを制作して、あなたがそこに宿る為のアプリをインストールするのよ」

ディーヴァ(端末子機になら、回線や手段があれば精神や魂だけを行き来させる事は…できるかもしれないわね)

エステラ「どうかしら、うたうちゃん。少なくとも、夏草と南極を行き来するなら飛行機よりもお手軽だと思うのだけれど…」

うたうちゃん「夏草と、リッカさんに一緒にご奉仕できる…現実性が出てきました…!」

エステラ「取り組む価値はありそうね。ならうたうちゃん。あなたは彼女達から端末を作る伝手を見つけなさい」

ディーヴァ(伝手?それは勿論スマートフォンを作るようなものだからノウハウはいるだろうけど…)

エステラ「アプリは私が、姉妹達と制作してみせるわ。私達に新たな生き方を教えてくれた御礼、是非ともさせてちょうだい」

うたうちゃん「…お願い、してもいいですか?」

エステラ「勿論。これはきっと…」

彼女自身が納得する答えを見つける。その為の試練なのだったと理解したエステラは、彼女なりのやり方で背中を押す。

──AIの為に動く。その理念を、自由として行使するかのように。

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